第6 版 序文
科学の細分化の時代における「教科書の価値」
科学に代表される知的生産の細分化が急速に進む現代,生化学や口腔生化学もその例外ではない.生化学は基礎系学問の1 つとして,あるいは生化学的手法を用いて種々の事象を理解する学問として広がりをもって進展してきたが,その一方では,専門分野を深く探求するモデルが成功体験として認知され,学問の全体像,すなわち学問体系を捉えがたくしている.しかし,現代の科学的課題は,地球環境破壊,生物多様性喪失,生命倫理問題,再興・新興疾患,超高齢社会などに代表されるものであり,いずれも専門性を突き詰めるだけでは解決できず,専門性を越えた幅広い「知」を基盤とした解決策が求められている.近年,さまざまな分野でビッグデータの取得が競い合うように急速に進んでいるが,それを有効に活用する未来は,高品位で,かつ幅広い知的活動の上にこそ保障されるものであろう.
本書は口腔における生命現象(口腔生物学 Oral Biology)を生化学の面から明らかにすることを目的として,原著者の早川太郎(当時愛知学院大学歯学部),須田立雄(当時昭和大学歯学部)両教授により『口腔生化学 Oral Biochemistry』として1987 年に上梓された.その「ねらい」は次の通りであった,
●口腔生化学は生化学的研究方法によって歯科臨床における諸課題と直結するテーマを扱う学問である.学問的に解明されてきたこと,研究途上のことなど,現況を把握する.
●口腔組織は小さいにもかかわらず,よく分化した組織であるので,口腔生化学を学ぶに際して,常に口腔組織学と関連づけるように心がけることが大切である.
●さらに,口腔生化学は他の歯科基礎医学との間にも相互に関連がある.特に,生理学,細菌学,病理学などと密接に関連していることを理解し,種々の学問の複合的な努力により臨床上の課題に光が当てられていることを知っておく.
奇しくも,臨床的課題の解決法としての口腔生化学の役割,他の学問分野との関連性の重要性はもちろんのこと,さらに学問として歴史や未完成の内容についてもできる限り触れることの重要性が説かれており,本書が30 年余を経て第6 版を迎えた意義を改めて問いている.
この30 年,生化学は長足の進歩を遂げた.
本書はその進歩を貪欲に取り込むために,常に,新たな内容を体系的に記述できる著者を加えてきた.第3 版からは木崎治俊(当時東京歯科大学)が,第4 版からは,畑 隆一郎(当時神奈川歯科大学),髙橋信博(東北大学大学院歯学研究科),宇田川信之(松本歯科大学)が執筆に加わり,分子生物学,細胞生物学の進歩を取り入れるとともに,疾患との関連についてより詳細な記述がなされた.さらに第5 版では,東 俊文(東京歯科大学),上條竜太郎(昭和大学歯学部),石崎 明(岩手医科大学),加藤靖正(奥羽大学歯学部)が加わり,章の組み替えと大幅な書き直しを行った.特に,最近の分子細胞生物学の進歩の理解を助けるために序章を設け,近年,歯科臨床で注目されている歯周組織の再生について詳述した.
そして迎えた第6 版,新たな執筆者として,田村正人(北海道大学大学院歯学研究院),山越康雄(鶴見大学歯学部)が加わり,口腔生化学の新たな体系化を目指すこととなった.序章は第1 章とし,幹細胞やオートファジーなどの最新の知見を加えて分子細胞生物学を俯瞰できるようにし,さらにこれまで第12 章にあった「がんはどうしてできるか」を第2 章に移し,分子生物学に立脚してがんを理解できるように考慮した.第3 章以降は従来通りの配置となっているが,各章には最新の知見を盛り込み「一歩先の口腔生化学」として体系化を試みている.一方,「本章のねらい」と「チェックポイント」は各章の冒頭1 ページに収め,学習者が各章の全体を把握しやすいよう配慮した.各章は分担執筆の形式をとっているが,すべての内容を執筆者全員が繰り返し吟味した執筆者全員の総意の産物である.
最後に,本書のもう1 つの重要な特徴を述べたい.それは本書の読者は学部学生だけではなく,これから研究を始めようとする大学院学生をも想定しているということである.これは初版から連綿と続く本書のDNAでもある.これは,学問を学部向き,大学院向きと分けることなく,学ぶ者の興味に応じて本書を活用して欲しいという著者全員の熱い思いである.本書が,歯学・口腔科学の次世代を担う若い学生たち,他分野・他領域の人々,および臨床を目指す,あるいは臨床にすでに携わっている人々にとって,微力ながら役立つことができればと,切に願うところである.
本書の出版にあたり,文献や資料を快く引用させてくださった先生方,また,的確な助言と編集を行ってくださった医歯薬出版編集部の皆様に,心より感謝の意を表します.
2018 年9 月
髙橋信博
宇田川信之
東 俊文
上條竜太郎
石崎 明
加藤靖正
田村正人
山越康雄
第1 版 序文
「歯学生に口腔生化学として何を教えるべきか」という問題は歯学部および歯科大学で口腔生化学を担当する教官の共通した悩みである.ちなみに,全国29 の国公私立大学歯学部および歯科大学を対象として,歯科基礎医学会生化学談話会が行った調査結果によって明らかにされているように,回答のあった24校の昭和57年度に行われた口腔生化学の講義時間は,年間わずか4 時間という大学から61 時間という大学まで実にまちまちである*.このように大学間での講義時間がバラバラになった理由には色々な事情が考えられるが,何といっても口腔生化学という学問がまだ若い学問であり,十分に学問としての体系をなしていないことが最大の原因と考えられる.後述するように昭和42 年から「歯学教授要綱」の中に口腔生化学が加えられ,14 項目からなる教授項目が設定されたが,それらの項目に対する具体的な内容の裏づけは乏しいものが多く,それらの内容を実際に具体化した適切な参考書がみられないのが現状である.
ここで歯学教育の指針である教授要綱に関して,少々歴史的な経緯をみてみると,昭和22 年7 月,わが国にはじめて「歯科教授要綱」が制定され,戦後の歯科教育の指針となってきた.その後,歯科大学が全国各地に新設されるに伴い,現状に即応した教授要綱の設定が強く要望され,昭和42 年に「歯学教授要綱」として改訂された.本改訂では,口腔解剖学ほか13 科目よりなる従来の教授要綱に「口腔生化学**」と「小児歯科学」が新しく加えられた.昭和48 年にはさらに補訂が加えられた.近年,歯科医学の進歩・発展に伴い,再度,時代と社会の要請に対応できる歯学教授要綱の改訂の必要性が認識され,歯学教授要綱改訂委員会で審議され,昭和59 年に新しい「歯学教授要綱***」が制定された.この新しい教授要綱では,口腔生化学(狭義)の講義の教授項目が従来の14 項目から下記の8 項目にしぼられた点が大きな特徴である.
1)結合組織に関する生化学
2)骨と軟骨に関する生化学
3)歯に関する生化学
4)歯周組織に関する生化学
5)唾液に関する生化学
6)歯面への堆積物に関する生化学
7)う蝕に関する生化学
8)歯周疾患に関する生化学
今後は,これら8 項目を中心にして口腔生化学の講義が進められることが推奨されている.
一方,口腔生化学の参考書に関してみてみると,わが国では昭和41 年に,当時日本大学歯学部教授であった押鐘 篤先生が監修された「歯学生化学」が出版された.この本は,監修者自身その「まえがき」の中でその世界最大の規模と最高の権威を自画自賛しておられるが,20 年前に出版されたことを考え合わせると自画自賛に十分に値する内容であり,現在でも部分的には依然として歯学生化学書としての価値をもっている.その後改訂が行われなかったのが残念であり,また,当時英語版が出版されていたら大変な反響を呼んだであろうと想像される.
一方,海外では従来口腔生物学oralbiologyという総合的な学問体系が存在し,その一部として生化学的知識が組み込まれてきている.しかし,前述の「歯学生化学」が出版されて10 年後にようやくDental Biochemistry(Lazzari,E.P.編,1976),Biochemistry and Oral Biology(Cole,A.S.,Eastoe,J.E.1977),The Physiology and Biochemistry of The Mouth(Jenkins,G.N.1978),Basic and Applied Dental Biochemistry(Williams,R.A.D.,Eliott,J.C.1979)のように口腔(歯科)生化学を意識したような参考書が出版されるようになってきた.しかし,いずれも前述した歯学教授要綱を全体的に満足させるものとはいえない.このような状況下にあるとき,たまたま医歯薬出版から新しい歯学教授要綱に基づいた教科書,口腔生化学の執筆の奨めがあり,ここに浅学菲才を顧みずに本書の執筆を引き受けることになった.
本書の内容として,前述した新教授要綱の8 項目に「歯髄とその病態」という項目を加えた.歯髄は象牙質の維持に重要な役割を果たしている特有な結合組織であり,特に,最近,歯髄の保存的療法の重要性が認識されつつあり,歯髄組織の生化学面を理解することは重要であると考えたからである.さらに,「免疫と炎症」および「がんはどうしてできるか」の2項目を加えた.これら2 項目の内容はいずれも口腔生化学そのものではないが,齲蝕や歯周疾患をはじめ歯科における諸疾患を理解するうえで不可欠な基礎知識であると考えたので取り上げることにした.
このようなわけで,第1 回の編集会議を昭和58 年8 月に開き,分担を決め,ただちに執筆に取りかかったのであるが,自分たちの専門外の分野や生化学的研究が進んでいない分野の執筆はとどこおりがちで,当初の予定を大幅に上まわり3 年以上の年月を要してしまった.事前に予想できたことではあるが,特に,「歯髄」と「歯周組織」に関する生化学的データは,まだ明解かつ論理的な教科書レベルの記述をするには質的にもまた量的にも十分でない.これら不十分なデータの中から「歯髄」や「歯周組織」の機能に直結して重要と思われるものをできるだけ重点的に拾い上げてはみたが,全体的にはまだ系統づけられた内容とはなっていない.この点は今後の研究に期待するとともに,改訂の機会あるごとに書き改めていく必要があると考えている.
とにかく,このような経緯で何とか出来上がったものを通読してみると,歯学部の学生には詳しすぎると考えられるところも見受けられる.それは覚えるための知識ではなく,むしろ理解を助けるためのものだと解釈していただけたらと思う.また,10 章の「歯の表面にみられる付着物」,11章の「齲蝕と砂糖」および12 章の「免疫と炎症」などは微生物学や病理学のような他の教科と重複する可能性がある.そのような場合には,教えられる立場にある先生方には実際の場に合うように自由に取捨選択していただきたい.また,各章のはじめには,その章の内容を大まかに把握できるように「本章のねらい」を,また,章末には,その章で学んだ知識を整理する目的で「チェックポイント」を設けた.これらが学習上の手助けになれば幸と考えている.
エナメル質を除いた主たる口腔組織である象牙質,セメント質,歯槽骨,歯髄,歯根膜はいずれも結合組織に属する.したがって,個々の口腔組織の生化学に進む前に「結合組織の生化学」について述べることにした.いわばこの3 章はすでに学んだ「生化学」とこれから学ぶ「口腔生化学」の間の橋渡し的内容である.なお,欧文専門用語のカタカナ表記は日本生化学会の決定に基づきローマ字読みとした(例:ハイドロキシアパタイト→ヒドロキシアパタイト,リセプター→レセプター,アメロジェニン→アメロゲニン).
最後に,本書のために貴重な資料を心よく御提供いただき,かつ内容に関しても有益な御助言や御批判をいただいた次の諸先生方に心より感謝の意を表する.池田 正(日本大学松戸歯学部),一條 尚(東京医科歯科大学歯学部),J.E.Eastoe(Newcastle upon Tyne大学歯学部),岡田 宏(大阪大学歯学部),小澤英浩(新潟大学歯学部),久保木芳徳(北海道大学歯学部),黒木登志夫(東京大学医科学研究所教授),後藤仁敏(鶴見大学歯学部),佐々木哲(東京医科歯科大学歯学部),真田一男(日本歯科大学新潟歯学部),清水正春(鶴見大学歯学部),須賀昭一(日本歯科大学),杉中秀壽(広島大学歯学部),高橋和人(神奈川歯科大学),武田泰典(岩手医科大学歯学部),星野 洸(名古屋大学医学部),矢嶋俊彦(東日本学園大学歯学部),山田 正(東北大学歯学部)
(五十音順,敬称略).
また,ともすれば筆がとどこおりがちになる私たちを,終始,叱咤激励し,何とかここまで引っぱってきてくれた医歯薬出版の編集部の皆さんには深い感謝の意を表したい.この他にも参考文献として引用させていただいた多くの著書や総説論文などの編者や著者の先生方には,それらの文献を利用させていただいたことに心より謝意を表したい.それらの優れた文献なしでは本書を書き上げることはとうてい不可能であった.
1987 年6 月20 日
早川 太郎,須田 立雄
* 斉藤 滋,滝口 久:「生化学・口腔生化学および同実習の授業内容」について調査報告.1983.
** 広義の口腔生化学で,生化学および狭義の口腔生化学を含む.
*** 歯科大学学長会議 歯学教授要綱改訂委員会:歯学教授要綱 昭和59 年改訂,医歯薬出版,東京,1985.
科学の細分化の時代における「教科書の価値」
科学に代表される知的生産の細分化が急速に進む現代,生化学や口腔生化学もその例外ではない.生化学は基礎系学問の1 つとして,あるいは生化学的手法を用いて種々の事象を理解する学問として広がりをもって進展してきたが,その一方では,専門分野を深く探求するモデルが成功体験として認知され,学問の全体像,すなわち学問体系を捉えがたくしている.しかし,現代の科学的課題は,地球環境破壊,生物多様性喪失,生命倫理問題,再興・新興疾患,超高齢社会などに代表されるものであり,いずれも専門性を突き詰めるだけでは解決できず,専門性を越えた幅広い「知」を基盤とした解決策が求められている.近年,さまざまな分野でビッグデータの取得が競い合うように急速に進んでいるが,それを有効に活用する未来は,高品位で,かつ幅広い知的活動の上にこそ保障されるものであろう.
本書は口腔における生命現象(口腔生物学 Oral Biology)を生化学の面から明らかにすることを目的として,原著者の早川太郎(当時愛知学院大学歯学部),須田立雄(当時昭和大学歯学部)両教授により『口腔生化学 Oral Biochemistry』として1987 年に上梓された.その「ねらい」は次の通りであった,
●口腔生化学は生化学的研究方法によって歯科臨床における諸課題と直結するテーマを扱う学問である.学問的に解明されてきたこと,研究途上のことなど,現況を把握する.
●口腔組織は小さいにもかかわらず,よく分化した組織であるので,口腔生化学を学ぶに際して,常に口腔組織学と関連づけるように心がけることが大切である.
●さらに,口腔生化学は他の歯科基礎医学との間にも相互に関連がある.特に,生理学,細菌学,病理学などと密接に関連していることを理解し,種々の学問の複合的な努力により臨床上の課題に光が当てられていることを知っておく.
奇しくも,臨床的課題の解決法としての口腔生化学の役割,他の学問分野との関連性の重要性はもちろんのこと,さらに学問として歴史や未完成の内容についてもできる限り触れることの重要性が説かれており,本書が30 年余を経て第6 版を迎えた意義を改めて問いている.
この30 年,生化学は長足の進歩を遂げた.
本書はその進歩を貪欲に取り込むために,常に,新たな内容を体系的に記述できる著者を加えてきた.第3 版からは木崎治俊(当時東京歯科大学)が,第4 版からは,畑 隆一郎(当時神奈川歯科大学),髙橋信博(東北大学大学院歯学研究科),宇田川信之(松本歯科大学)が執筆に加わり,分子生物学,細胞生物学の進歩を取り入れるとともに,疾患との関連についてより詳細な記述がなされた.さらに第5 版では,東 俊文(東京歯科大学),上條竜太郎(昭和大学歯学部),石崎 明(岩手医科大学),加藤靖正(奥羽大学歯学部)が加わり,章の組み替えと大幅な書き直しを行った.特に,最近の分子細胞生物学の進歩の理解を助けるために序章を設け,近年,歯科臨床で注目されている歯周組織の再生について詳述した.
そして迎えた第6 版,新たな執筆者として,田村正人(北海道大学大学院歯学研究院),山越康雄(鶴見大学歯学部)が加わり,口腔生化学の新たな体系化を目指すこととなった.序章は第1 章とし,幹細胞やオートファジーなどの最新の知見を加えて分子細胞生物学を俯瞰できるようにし,さらにこれまで第12 章にあった「がんはどうしてできるか」を第2 章に移し,分子生物学に立脚してがんを理解できるように考慮した.第3 章以降は従来通りの配置となっているが,各章には最新の知見を盛り込み「一歩先の口腔生化学」として体系化を試みている.一方,「本章のねらい」と「チェックポイント」は各章の冒頭1 ページに収め,学習者が各章の全体を把握しやすいよう配慮した.各章は分担執筆の形式をとっているが,すべての内容を執筆者全員が繰り返し吟味した執筆者全員の総意の産物である.
最後に,本書のもう1 つの重要な特徴を述べたい.それは本書の読者は学部学生だけではなく,これから研究を始めようとする大学院学生をも想定しているということである.これは初版から連綿と続く本書のDNAでもある.これは,学問を学部向き,大学院向きと分けることなく,学ぶ者の興味に応じて本書を活用して欲しいという著者全員の熱い思いである.本書が,歯学・口腔科学の次世代を担う若い学生たち,他分野・他領域の人々,および臨床を目指す,あるいは臨床にすでに携わっている人々にとって,微力ながら役立つことができればと,切に願うところである.
本書の出版にあたり,文献や資料を快く引用させてくださった先生方,また,的確な助言と編集を行ってくださった医歯薬出版編集部の皆様に,心より感謝の意を表します.
2018 年9 月
髙橋信博
宇田川信之
東 俊文
上條竜太郎
石崎 明
加藤靖正
田村正人
山越康雄
第1 版 序文
「歯学生に口腔生化学として何を教えるべきか」という問題は歯学部および歯科大学で口腔生化学を担当する教官の共通した悩みである.ちなみに,全国29 の国公私立大学歯学部および歯科大学を対象として,歯科基礎医学会生化学談話会が行った調査結果によって明らかにされているように,回答のあった24校の昭和57年度に行われた口腔生化学の講義時間は,年間わずか4 時間という大学から61 時間という大学まで実にまちまちである*.このように大学間での講義時間がバラバラになった理由には色々な事情が考えられるが,何といっても口腔生化学という学問がまだ若い学問であり,十分に学問としての体系をなしていないことが最大の原因と考えられる.後述するように昭和42 年から「歯学教授要綱」の中に口腔生化学が加えられ,14 項目からなる教授項目が設定されたが,それらの項目に対する具体的な内容の裏づけは乏しいものが多く,それらの内容を実際に具体化した適切な参考書がみられないのが現状である.
ここで歯学教育の指針である教授要綱に関して,少々歴史的な経緯をみてみると,昭和22 年7 月,わが国にはじめて「歯科教授要綱」が制定され,戦後の歯科教育の指針となってきた.その後,歯科大学が全国各地に新設されるに伴い,現状に即応した教授要綱の設定が強く要望され,昭和42 年に「歯学教授要綱」として改訂された.本改訂では,口腔解剖学ほか13 科目よりなる従来の教授要綱に「口腔生化学**」と「小児歯科学」が新しく加えられた.昭和48 年にはさらに補訂が加えられた.近年,歯科医学の進歩・発展に伴い,再度,時代と社会の要請に対応できる歯学教授要綱の改訂の必要性が認識され,歯学教授要綱改訂委員会で審議され,昭和59 年に新しい「歯学教授要綱***」が制定された.この新しい教授要綱では,口腔生化学(狭義)の講義の教授項目が従来の14 項目から下記の8 項目にしぼられた点が大きな特徴である.
1)結合組織に関する生化学
2)骨と軟骨に関する生化学
3)歯に関する生化学
4)歯周組織に関する生化学
5)唾液に関する生化学
6)歯面への堆積物に関する生化学
7)う蝕に関する生化学
8)歯周疾患に関する生化学
今後は,これら8 項目を中心にして口腔生化学の講義が進められることが推奨されている.
一方,口腔生化学の参考書に関してみてみると,わが国では昭和41 年に,当時日本大学歯学部教授であった押鐘 篤先生が監修された「歯学生化学」が出版された.この本は,監修者自身その「まえがき」の中でその世界最大の規模と最高の権威を自画自賛しておられるが,20 年前に出版されたことを考え合わせると自画自賛に十分に値する内容であり,現在でも部分的には依然として歯学生化学書としての価値をもっている.その後改訂が行われなかったのが残念であり,また,当時英語版が出版されていたら大変な反響を呼んだであろうと想像される.
一方,海外では従来口腔生物学oralbiologyという総合的な学問体系が存在し,その一部として生化学的知識が組み込まれてきている.しかし,前述の「歯学生化学」が出版されて10 年後にようやくDental Biochemistry(Lazzari,E.P.編,1976),Biochemistry and Oral Biology(Cole,A.S.,Eastoe,J.E.1977),The Physiology and Biochemistry of The Mouth(Jenkins,G.N.1978),Basic and Applied Dental Biochemistry(Williams,R.A.D.,Eliott,J.C.1979)のように口腔(歯科)生化学を意識したような参考書が出版されるようになってきた.しかし,いずれも前述した歯学教授要綱を全体的に満足させるものとはいえない.このような状況下にあるとき,たまたま医歯薬出版から新しい歯学教授要綱に基づいた教科書,口腔生化学の執筆の奨めがあり,ここに浅学菲才を顧みずに本書の執筆を引き受けることになった.
本書の内容として,前述した新教授要綱の8 項目に「歯髄とその病態」という項目を加えた.歯髄は象牙質の維持に重要な役割を果たしている特有な結合組織であり,特に,最近,歯髄の保存的療法の重要性が認識されつつあり,歯髄組織の生化学面を理解することは重要であると考えたからである.さらに,「免疫と炎症」および「がんはどうしてできるか」の2項目を加えた.これら2 項目の内容はいずれも口腔生化学そのものではないが,齲蝕や歯周疾患をはじめ歯科における諸疾患を理解するうえで不可欠な基礎知識であると考えたので取り上げることにした.
このようなわけで,第1 回の編集会議を昭和58 年8 月に開き,分担を決め,ただちに執筆に取りかかったのであるが,自分たちの専門外の分野や生化学的研究が進んでいない分野の執筆はとどこおりがちで,当初の予定を大幅に上まわり3 年以上の年月を要してしまった.事前に予想できたことではあるが,特に,「歯髄」と「歯周組織」に関する生化学的データは,まだ明解かつ論理的な教科書レベルの記述をするには質的にもまた量的にも十分でない.これら不十分なデータの中から「歯髄」や「歯周組織」の機能に直結して重要と思われるものをできるだけ重点的に拾い上げてはみたが,全体的にはまだ系統づけられた内容とはなっていない.この点は今後の研究に期待するとともに,改訂の機会あるごとに書き改めていく必要があると考えている.
とにかく,このような経緯で何とか出来上がったものを通読してみると,歯学部の学生には詳しすぎると考えられるところも見受けられる.それは覚えるための知識ではなく,むしろ理解を助けるためのものだと解釈していただけたらと思う.また,10 章の「歯の表面にみられる付着物」,11章の「齲蝕と砂糖」および12 章の「免疫と炎症」などは微生物学や病理学のような他の教科と重複する可能性がある.そのような場合には,教えられる立場にある先生方には実際の場に合うように自由に取捨選択していただきたい.また,各章のはじめには,その章の内容を大まかに把握できるように「本章のねらい」を,また,章末には,その章で学んだ知識を整理する目的で「チェックポイント」を設けた.これらが学習上の手助けになれば幸と考えている.
エナメル質を除いた主たる口腔組織である象牙質,セメント質,歯槽骨,歯髄,歯根膜はいずれも結合組織に属する.したがって,個々の口腔組織の生化学に進む前に「結合組織の生化学」について述べることにした.いわばこの3 章はすでに学んだ「生化学」とこれから学ぶ「口腔生化学」の間の橋渡し的内容である.なお,欧文専門用語のカタカナ表記は日本生化学会の決定に基づきローマ字読みとした(例:ハイドロキシアパタイト→ヒドロキシアパタイト,リセプター→レセプター,アメロジェニン→アメロゲニン).
最後に,本書のために貴重な資料を心よく御提供いただき,かつ内容に関しても有益な御助言や御批判をいただいた次の諸先生方に心より感謝の意を表する.池田 正(日本大学松戸歯学部),一條 尚(東京医科歯科大学歯学部),J.E.Eastoe(Newcastle upon Tyne大学歯学部),岡田 宏(大阪大学歯学部),小澤英浩(新潟大学歯学部),久保木芳徳(北海道大学歯学部),黒木登志夫(東京大学医科学研究所教授),後藤仁敏(鶴見大学歯学部),佐々木哲(東京医科歯科大学歯学部),真田一男(日本歯科大学新潟歯学部),清水正春(鶴見大学歯学部),須賀昭一(日本歯科大学),杉中秀壽(広島大学歯学部),高橋和人(神奈川歯科大学),武田泰典(岩手医科大学歯学部),星野 洸(名古屋大学医学部),矢嶋俊彦(東日本学園大学歯学部),山田 正(東北大学歯学部)
(五十音順,敬称略).
また,ともすれば筆がとどこおりがちになる私たちを,終始,叱咤激励し,何とかここまで引っぱってきてくれた医歯薬出版の編集部の皆さんには深い感謝の意を表したい.この他にも参考文献として引用させていただいた多くの著書や総説論文などの編者や著者の先生方には,それらの文献を利用させていただいたことに心より謝意を表したい.それらの優れた文献なしでは本書を書き上げることはとうてい不可能であった.
1987 年6 月20 日
早川 太郎,須田 立雄
* 斉藤 滋,滝口 久:「生化学・口腔生化学および同実習の授業内容」について調査報告.1983.
** 広義の口腔生化学で,生化学および狭義の口腔生化学を含む.
*** 歯科大学学長会議 歯学教授要綱改訂委員会:歯学教授要綱 昭和59 年改訂,医歯薬出版,東京,1985.
第1章 口腔生化学の分子・細胞生物学的理解のために
(石崎 明)
I 細胞の機能を制御するしくみ
II 染色体の構造と遺伝子発現のしくみ
1 染色体の構造
2 遺伝子の構造と機能ならびにその異常について
III アポトーシス誘導の分子メカニズム
1 アポトーシスとはなにか
2 アポトーシスが起きるしくみ
3 アポトーシスの異常による自己免疫疾患
IV オートファジーによる細胞内恒常性維持機構
1 オートファジーとはなにか
2 オートファジーによる炎症反応抑制機構
V 遺伝子工学の手法
1 PCR法とRT-PCR法
2 遺伝子クローニング
3 DNAマイクロアレイ
4 次世代シーケンサー
5 RNA干渉とそれを利用した遺伝子ノックダウン
6 トランスジェニックマウス
7 遺伝子ノックアウトマウス
VI 幹細胞を利用した医療技術開発
1 幹細胞とはなにか
2 幹細胞による組織再生医療について
第2章 がんはどうしてできるか
(加藤靖正)
I がん細胞の成立
1 細胞増殖の調節機構
2 遺伝子変異と修復の破綻
3 がん遺伝子とがん抑制遺伝子
4 老化の回避
5 アポトーシスの回避能
II がん細胞の悪性形質
1 血管新生・リンパ管新生
2 がん細胞の浸潤と転移
3 上皮間葉系移行
4 がん幹細胞
5 エピジェネティクス調節
6 がん細胞の代謝産物による宿主への影響
III 化学療法剤
1 これまでの治療薬の種類と作用点
2 分子標的治療薬
第3章 骨と歯の進化と形づくりの分子メカニズム
(宇田川信之)
I 骨の起源
1 骨芽細胞の由来
2 骨芽細胞の分化を決定するRunx2遺伝子の発見
3 骨の系統発生
II 無脊椎動物から脊椎動物へ
1 硬組織の成分が炭酸カルシウムからリン酸カルシウムへ変化した要因
2 脊椎動物の内骨格として発達した骨組織
3 脊椎動物におけるリン酸の重要性
III 脊椎動物における骨組織の進化―外骨格から内骨格へ
1 現存する最も原始的な脊椎動物である円口類
2 石灰化した軟骨をもつ板鰓類
3 骨組織をもつ硬骨魚類
4 両生類から爬虫類への進化における骨組織の重要性
IV 骨と軟骨の系統発生的進化
1 最古の脊椎動物である異甲類甲羅におけるアスピディン結節の発見
2 陸上生活における内骨格形成の重要性
V 歯の系統発生的進化
1 アスピディン結節と象牙質の構造
2 捕食器官としての歯から咀嚼器官としての歯への進化
VI 四肢の原基(肢芽)の構造と3つの体軸(基部先端部軸,前後軸,背腹軸)の決定
1 脊椎動物の四肢の形態形成
2 3つの体軸(基部先端部軸,前後軸,背腹軸)の決定
VII 骨(軟骨)の形を決めるホメオボックス遺伝子(Hox遺伝子)
1 四肢のパターン形成に関連するホメオボックス遺伝子の発見
2 体軸形成を決定するホメオボックス遺伝子と位置情報シグナル伝達システム
VIII 歯の形成とホメオボックス遺伝子
1 歯の形づくりにとって重要な上皮-間葉相互作用
2 切歯と臼歯の形態と位置の決定に深く関連しているホメオボックス遺伝子
IX 歯と骨の再生
1 歯の再生
2 骨の再生
第4章 結合組織と上皮組織の生化学
(田村正人)
I コラーゲン
1 コラーゲンとは
2 線維形成コラーゲン
3 基底膜を形成するコラーゲン
4 ファシットコラーゲン
5 その他のコラーゲン
6 コラーゲン遺伝子の異常による疾患
II エラスチン
1 エラスチンの構造と機能
2 トロポエラスチン
3 エラスチン線維
4 エラスチン結合性ミクロフィブリル
III プロテオグリカンとグリコサミノグリカン
1 プロテオグリカンとグリコサミノグリカンの構造
2 グリコサミノグリカンの種類
3 プロテオグリカンの局在と種類
4 プロテオグリカンの生理的機能
IV 細胞接着タンパク質
1 ラミニン
2 フィブロネクチン
3 テネイシン
4 ビトロネクチン
5 トロンボスポンジン
V 細胞外マトリックス成分の受容体
1 インテグリン
2 ジスコイジンドメイン受容体
3 CD44
VI 細胞外マトリックス成分の分解
1 メタロプロテアーゼによるECMタンパク質の分解
2 メタロプロテアーゼによるECMタンパク質分解の調節
3 セリンプロテアーゼによるECMタンパク質の分解
4 グリコサミノグリカンの分解
VII 上皮とケラチン
1 ケラチン
2 ケラチンファミリー
3 角化とケラチン
第5章 骨,歯と歯周組織の有機成分とその代謝
(山越康雄)
I 骨,象牙質およびセメント質に共通な有機成分
II 骨,象牙質に特徴的な非コラーゲン性タンパク質
1 オステオカルシン(骨Glaタンパク質)
2 骨シアロタンパク質
3 象牙質マトリックスタンパク質1
4 Matrix extracellular phosphoglycoprotein( MEPE)
5 象牙質シアロリンタンパク質
III 結合組織にも共通に存在する骨および象牙質非コラーゲン性タンパク質
1 マトリックスGlaタンパク質
2 オステオネクチン
3 オステオポンチン
4 その他のRGD含有タンパク質
5 硬組織プロテオグリカンの機能
IV エナメル質の有機成分
1 アメロゲニン
2 エナメリン
3 アメロブラスチン
4 成熟エナメル質のタンパク質
5 エナメルプロテアーゼ
6 硬組織タンパク質の遺伝子座
7 硬組織中の増殖因子
V 歯周組織の構造と組成
1 セメント質
2 歯根膜
3 歯槽骨
4 歯 肉
第6章 骨と歯の無機成分と石灰化機構
(宇田川信之)
I リン酸カルシウムとアパタイト前駆体
II ヒドロキシアパタイトの結晶学
1 単位胞
2 CaとPの比
III アパタイトの特異な性質
1 水和層
2 イオン交換
IV エナメル質アパタイトの特徴
1 エナメル質結晶の成長
2 エナメル質アパタイトの結晶
V エナメル質の無機成分の特徴
1 ナトリウム
2 マグネシウム
3 塩 素
4 炭 酸
5 フッ素
VI 血清中のカルシウムとリン酸の活動度積(溶解度積)
1 血清中におけるカルシウムやリン酸イオンの実効濃度
2 血清中のカルシウムとリン酸の活動度の計算
VII 骨の石灰化
1 Robisonのアルカリホスファターゼ説
2 体液と骨ミネラルの溶解度積
3 Neumanのエピタキシー説
4 基質小胞説
5 ピロホスファターゼの石灰化における重要性(新アルカリホスファターゼ説)
VIII エナメル質と象牙質の石灰化機構
1 エナメル質の石灰化
2 象牙質の石灰化
第7章 硬組織の形成と吸収のしくみ
(宇田川信之)
I 軟骨細胞,骨芽細胞および骨細胞の分化と機能発現の調節
1 軟骨と骨を形成する細胞の起源
2 膜内骨化と軟骨内骨化
3 軟骨細胞の特徴と機能発現の調節
4 骨芽細胞の分化と機能発現の調節
5 骨細胞の特徴と機能
II 破骨細胞の分化と機能発現の調節
1 破骨細胞の特徴
2 破骨細胞の起源とその特異形質
3 破骨細胞の分化を調節する骨芽細胞の役割
4 破骨細胞形成抑制因子(OPG)の発見
5 破骨細胞分化因子(RANKL)の同定
6 RANKLの骨芽細胞におけるシグナル伝達
7 破骨細胞の分化を調節する破骨細胞ニッチ(破骨細胞が骨組織においてのみ分化できる
環境要因)
III 骨組織のリモデリング(改造)
1 骨のモデリングとリモデリング
2 リモデリングの調節因子
3 骨吸収と骨形成のカップリング
第8章 血清カルシウムの恒常性とその調節機構
(宇田川信之)
I 生体内におけるカルシウムの動き
II 血清カルシウムの恒常性
III 副甲状腺(上皮小体)ホルモンとその役割
1 副甲状腺ホルモンの化学
2 副甲状腺ホルモン分子の構造活性相関
3 副甲状腺ホルモンの合成・分泌機構
4 副甲状腺ホルモンの生理作用
5 副甲状腺ホルモン関連タンパク質(PTHrP)
6 PTH/PTHrP受容体の分布とシグナル伝達系
IV カルシトニンとその作用
1 カルシトニンの発見
2 カルシトニンの化学
3 カルシトニンの分泌調節
4 カルシトニンの生理作用
5 カルシトニン受容体
6 カルシトニン遺伝子関連ペプチド
V 活性型ビタミンDとその役割
1 ビタミンDの化学
2 活性型ビタミンDの生成経路
3 活性型ビタミンDの代謝調節機構
4 ビタミンDの活性化を負に調節するFGF-23
5 活性型ビタミンDの作用メカニズム
第9章 唾液の生化学
(髙橋信博)
I 唾液腺の構造と神経支配
II 唾液分泌のメカニズム
1 タンパク質・糖タンパク質・免疫グロブリンなどの合成と分泌
2 水・電解質の分泌
3 安静唾液と刺激唾液
III 唾液腺と唾液組成
IV 唾液の有機組成
1 タンパク質
2 低分子有機物質
3 ホルモン
4 サイトカイン
V 唾液の無機成分
1 カルシウムとリン酸
2 ナトリウムとカリウム
3 ハロゲン元素
4 ロダン
5 重炭酸イオンと唾液のpH
第10章 プラークの生化学
(髙橋信博)
I ペリクルとプラークの形成
1 有機質被膜としてのペリクルの形成
2 バイオフィルム,微小生態系としてのプラーク
II 歯肉縁上プラーク
1 歯肉縁上プラークの環境
2 歯肉縁上プラークの組成
3 歯肉縁上プラークの代謝活性―齲蝕病原性とのかかわり
III 歯肉縁下プラーク
1 歯肉縁下プラークの環境
2 歯肉縁下プラークの組成
3 歯肉縁下プラークの代謝活性―歯周病原性とのかかわり
IV 舌 苔
1 舌苔の環境と組成
2 代謝活性と口臭
3 口臭とほかの疾患
V 歯 石
1 組 成
2 形成機構
第11章 齲蝕の生化学
(髙橋信博)
I 齲蝕発生の基礎
1 エナメル質の脱灰
2 象牙質齲蝕
II 多因子疾患としての齲蝕発症のしくみ
1 糖質因子
2 細菌因子
3 宿主因子
4 時間因子
III 生活習慣病としての齲蝕
IV 初期齲蝕とエナメル質再石灰化
V 齲蝕の予防
1 フッ素
2 砂糖と非齲蝕性甘味料
3 齲蝕免疫
4 プロバイオティクスおよびプレバイオティクス
5 タンパク質分解酵素阻害剤
第12章 炎症と免疫
(東 俊文)
I 生体防御機構の構築
II 免疫システムの概要
1 リンパ球系細胞の発生・分化
2 リンパ組織
III 免疫のしくみ
1 自然免疫
2 パターン認識受容体(PRR)
3 PRRによる獲得免疫(適応免疫)の活性化
4 T細胞(Tリンパ球)の働き
5 NK細胞
6 体液性免疫応答―B細胞(Bリンパ球)と抗体産生
7 免疫グロブリン
8 補 体
IV 炎症の経過
1 マクロファージの殺菌物質
2 好中球の殺菌物質
V 炎症とケミカルメディエーター
1 ケミカルメディエーター
VI 粘膜免疫と免疫寛容
1 生体最大の免疫機構―粘膜組織
2 経口免疫寛容
第13章 歯周疾患の成り立ちと歯周組織の再生
(上條竜太郎)
I 歯周組織の破壊
1 歯周病の進行過程
2 歯周組織の破壊にかかわる因子
3 歯肉組織破壊のメカニズム
4 歯槽骨吸収のメカニズム
II 歯周組織の再生
1 歯周組織再生誘導法(GTR法)
2 エナメルマトリックスタンパク質
3 骨補填材
4 骨再生誘導法(GBR法)
5 サイトカイン療法
6 培養骨膜シート
III 口腔インプラントに対する周囲組織の反応
1 口腔インプラント
2 口腔インプラントと骨との接触性
3 チタンインプラントと周囲粘膜
索引
(石崎 明)
I 細胞の機能を制御するしくみ
II 染色体の構造と遺伝子発現のしくみ
1 染色体の構造
2 遺伝子の構造と機能ならびにその異常について
III アポトーシス誘導の分子メカニズム
1 アポトーシスとはなにか
2 アポトーシスが起きるしくみ
3 アポトーシスの異常による自己免疫疾患
IV オートファジーによる細胞内恒常性維持機構
1 オートファジーとはなにか
2 オートファジーによる炎症反応抑制機構
V 遺伝子工学の手法
1 PCR法とRT-PCR法
2 遺伝子クローニング
3 DNAマイクロアレイ
4 次世代シーケンサー
5 RNA干渉とそれを利用した遺伝子ノックダウン
6 トランスジェニックマウス
7 遺伝子ノックアウトマウス
VI 幹細胞を利用した医療技術開発
1 幹細胞とはなにか
2 幹細胞による組織再生医療について
第2章 がんはどうしてできるか
(加藤靖正)
I がん細胞の成立
1 細胞増殖の調節機構
2 遺伝子変異と修復の破綻
3 がん遺伝子とがん抑制遺伝子
4 老化の回避
5 アポトーシスの回避能
II がん細胞の悪性形質
1 血管新生・リンパ管新生
2 がん細胞の浸潤と転移
3 上皮間葉系移行
4 がん幹細胞
5 エピジェネティクス調節
6 がん細胞の代謝産物による宿主への影響
III 化学療法剤
1 これまでの治療薬の種類と作用点
2 分子標的治療薬
第3章 骨と歯の進化と形づくりの分子メカニズム
(宇田川信之)
I 骨の起源
1 骨芽細胞の由来
2 骨芽細胞の分化を決定するRunx2遺伝子の発見
3 骨の系統発生
II 無脊椎動物から脊椎動物へ
1 硬組織の成分が炭酸カルシウムからリン酸カルシウムへ変化した要因
2 脊椎動物の内骨格として発達した骨組織
3 脊椎動物におけるリン酸の重要性
III 脊椎動物における骨組織の進化―外骨格から内骨格へ
1 現存する最も原始的な脊椎動物である円口類
2 石灰化した軟骨をもつ板鰓類
3 骨組織をもつ硬骨魚類
4 両生類から爬虫類への進化における骨組織の重要性
IV 骨と軟骨の系統発生的進化
1 最古の脊椎動物である異甲類甲羅におけるアスピディン結節の発見
2 陸上生活における内骨格形成の重要性
V 歯の系統発生的進化
1 アスピディン結節と象牙質の構造
2 捕食器官としての歯から咀嚼器官としての歯への進化
VI 四肢の原基(肢芽)の構造と3つの体軸(基部先端部軸,前後軸,背腹軸)の決定
1 脊椎動物の四肢の形態形成
2 3つの体軸(基部先端部軸,前後軸,背腹軸)の決定
VII 骨(軟骨)の形を決めるホメオボックス遺伝子(Hox遺伝子)
1 四肢のパターン形成に関連するホメオボックス遺伝子の発見
2 体軸形成を決定するホメオボックス遺伝子と位置情報シグナル伝達システム
VIII 歯の形成とホメオボックス遺伝子
1 歯の形づくりにとって重要な上皮-間葉相互作用
2 切歯と臼歯の形態と位置の決定に深く関連しているホメオボックス遺伝子
IX 歯と骨の再生
1 歯の再生
2 骨の再生
第4章 結合組織と上皮組織の生化学
(田村正人)
I コラーゲン
1 コラーゲンとは
2 線維形成コラーゲン
3 基底膜を形成するコラーゲン
4 ファシットコラーゲン
5 その他のコラーゲン
6 コラーゲン遺伝子の異常による疾患
II エラスチン
1 エラスチンの構造と機能
2 トロポエラスチン
3 エラスチン線維
4 エラスチン結合性ミクロフィブリル
III プロテオグリカンとグリコサミノグリカン
1 プロテオグリカンとグリコサミノグリカンの構造
2 グリコサミノグリカンの種類
3 プロテオグリカンの局在と種類
4 プロテオグリカンの生理的機能
IV 細胞接着タンパク質
1 ラミニン
2 フィブロネクチン
3 テネイシン
4 ビトロネクチン
5 トロンボスポンジン
V 細胞外マトリックス成分の受容体
1 インテグリン
2 ジスコイジンドメイン受容体
3 CD44
VI 細胞外マトリックス成分の分解
1 メタロプロテアーゼによるECMタンパク質の分解
2 メタロプロテアーゼによるECMタンパク質分解の調節
3 セリンプロテアーゼによるECMタンパク質の分解
4 グリコサミノグリカンの分解
VII 上皮とケラチン
1 ケラチン
2 ケラチンファミリー
3 角化とケラチン
第5章 骨,歯と歯周組織の有機成分とその代謝
(山越康雄)
I 骨,象牙質およびセメント質に共通な有機成分
II 骨,象牙質に特徴的な非コラーゲン性タンパク質
1 オステオカルシン(骨Glaタンパク質)
2 骨シアロタンパク質
3 象牙質マトリックスタンパク質1
4 Matrix extracellular phosphoglycoprotein( MEPE)
5 象牙質シアロリンタンパク質
III 結合組織にも共通に存在する骨および象牙質非コラーゲン性タンパク質
1 マトリックスGlaタンパク質
2 オステオネクチン
3 オステオポンチン
4 その他のRGD含有タンパク質
5 硬組織プロテオグリカンの機能
IV エナメル質の有機成分
1 アメロゲニン
2 エナメリン
3 アメロブラスチン
4 成熟エナメル質のタンパク質
5 エナメルプロテアーゼ
6 硬組織タンパク質の遺伝子座
7 硬組織中の増殖因子
V 歯周組織の構造と組成
1 セメント質
2 歯根膜
3 歯槽骨
4 歯 肉
第6章 骨と歯の無機成分と石灰化機構
(宇田川信之)
I リン酸カルシウムとアパタイト前駆体
II ヒドロキシアパタイトの結晶学
1 単位胞
2 CaとPの比
III アパタイトの特異な性質
1 水和層
2 イオン交換
IV エナメル質アパタイトの特徴
1 エナメル質結晶の成長
2 エナメル質アパタイトの結晶
V エナメル質の無機成分の特徴
1 ナトリウム
2 マグネシウム
3 塩 素
4 炭 酸
5 フッ素
VI 血清中のカルシウムとリン酸の活動度積(溶解度積)
1 血清中におけるカルシウムやリン酸イオンの実効濃度
2 血清中のカルシウムとリン酸の活動度の計算
VII 骨の石灰化
1 Robisonのアルカリホスファターゼ説
2 体液と骨ミネラルの溶解度積
3 Neumanのエピタキシー説
4 基質小胞説
5 ピロホスファターゼの石灰化における重要性(新アルカリホスファターゼ説)
VIII エナメル質と象牙質の石灰化機構
1 エナメル質の石灰化
2 象牙質の石灰化
第7章 硬組織の形成と吸収のしくみ
(宇田川信之)
I 軟骨細胞,骨芽細胞および骨細胞の分化と機能発現の調節
1 軟骨と骨を形成する細胞の起源
2 膜内骨化と軟骨内骨化
3 軟骨細胞の特徴と機能発現の調節
4 骨芽細胞の分化と機能発現の調節
5 骨細胞の特徴と機能
II 破骨細胞の分化と機能発現の調節
1 破骨細胞の特徴
2 破骨細胞の起源とその特異形質
3 破骨細胞の分化を調節する骨芽細胞の役割
4 破骨細胞形成抑制因子(OPG)の発見
5 破骨細胞分化因子(RANKL)の同定
6 RANKLの骨芽細胞におけるシグナル伝達
7 破骨細胞の分化を調節する破骨細胞ニッチ(破骨細胞が骨組織においてのみ分化できる
環境要因)
III 骨組織のリモデリング(改造)
1 骨のモデリングとリモデリング
2 リモデリングの調節因子
3 骨吸収と骨形成のカップリング
第8章 血清カルシウムの恒常性とその調節機構
(宇田川信之)
I 生体内におけるカルシウムの動き
II 血清カルシウムの恒常性
III 副甲状腺(上皮小体)ホルモンとその役割
1 副甲状腺ホルモンの化学
2 副甲状腺ホルモン分子の構造活性相関
3 副甲状腺ホルモンの合成・分泌機構
4 副甲状腺ホルモンの生理作用
5 副甲状腺ホルモン関連タンパク質(PTHrP)
6 PTH/PTHrP受容体の分布とシグナル伝達系
IV カルシトニンとその作用
1 カルシトニンの発見
2 カルシトニンの化学
3 カルシトニンの分泌調節
4 カルシトニンの生理作用
5 カルシトニン受容体
6 カルシトニン遺伝子関連ペプチド
V 活性型ビタミンDとその役割
1 ビタミンDの化学
2 活性型ビタミンDの生成経路
3 活性型ビタミンDの代謝調節機構
4 ビタミンDの活性化を負に調節するFGF-23
5 活性型ビタミンDの作用メカニズム
第9章 唾液の生化学
(髙橋信博)
I 唾液腺の構造と神経支配
II 唾液分泌のメカニズム
1 タンパク質・糖タンパク質・免疫グロブリンなどの合成と分泌
2 水・電解質の分泌
3 安静唾液と刺激唾液
III 唾液腺と唾液組成
IV 唾液の有機組成
1 タンパク質
2 低分子有機物質
3 ホルモン
4 サイトカイン
V 唾液の無機成分
1 カルシウムとリン酸
2 ナトリウムとカリウム
3 ハロゲン元素
4 ロダン
5 重炭酸イオンと唾液のpH
第10章 プラークの生化学
(髙橋信博)
I ペリクルとプラークの形成
1 有機質被膜としてのペリクルの形成
2 バイオフィルム,微小生態系としてのプラーク
II 歯肉縁上プラーク
1 歯肉縁上プラークの環境
2 歯肉縁上プラークの組成
3 歯肉縁上プラークの代謝活性―齲蝕病原性とのかかわり
III 歯肉縁下プラーク
1 歯肉縁下プラークの環境
2 歯肉縁下プラークの組成
3 歯肉縁下プラークの代謝活性―歯周病原性とのかかわり
IV 舌 苔
1 舌苔の環境と組成
2 代謝活性と口臭
3 口臭とほかの疾患
V 歯 石
1 組 成
2 形成機構
第11章 齲蝕の生化学
(髙橋信博)
I 齲蝕発生の基礎
1 エナメル質の脱灰
2 象牙質齲蝕
II 多因子疾患としての齲蝕発症のしくみ
1 糖質因子
2 細菌因子
3 宿主因子
4 時間因子
III 生活習慣病としての齲蝕
IV 初期齲蝕とエナメル質再石灰化
V 齲蝕の予防
1 フッ素
2 砂糖と非齲蝕性甘味料
3 齲蝕免疫
4 プロバイオティクスおよびプレバイオティクス
5 タンパク質分解酵素阻害剤
第12章 炎症と免疫
(東 俊文)
I 生体防御機構の構築
II 免疫システムの概要
1 リンパ球系細胞の発生・分化
2 リンパ組織
III 免疫のしくみ
1 自然免疫
2 パターン認識受容体(PRR)
3 PRRによる獲得免疫(適応免疫)の活性化
4 T細胞(Tリンパ球)の働き
5 NK細胞
6 体液性免疫応答―B細胞(Bリンパ球)と抗体産生
7 免疫グロブリン
8 補 体
IV 炎症の経過
1 マクロファージの殺菌物質
2 好中球の殺菌物質
V 炎症とケミカルメディエーター
1 ケミカルメディエーター
VI 粘膜免疫と免疫寛容
1 生体最大の免疫機構―粘膜組織
2 経口免疫寛容
第13章 歯周疾患の成り立ちと歯周組織の再生
(上條竜太郎)
I 歯周組織の破壊
1 歯周病の進行過程
2 歯周組織の破壊にかかわる因子
3 歯肉組織破壊のメカニズム
4 歯槽骨吸収のメカニズム
II 歯周組織の再生
1 歯周組織再生誘導法(GTR法)
2 エナメルマトリックスタンパク質
3 骨補填材
4 骨再生誘導法(GBR法)
5 サイトカイン療法
6 培養骨膜シート
III 口腔インプラントに対する周囲組織の反応
1 口腔インプラント
2 口腔インプラントと骨との接触性
3 チタンインプラントと周囲粘膜
索引

















