やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

第2版の序
 歯周病は,口腔内の細菌感染による炎症・免疫反応の結果,慢性的に歯周組織が破壊されていく疾患です.歯周組織という局所の疾患でありながら全身への影響もあり,糖尿病や心筋梗塞などとの関連も明らかとなり,生活習慣病の一つとして位置づけられるようになりました.国民の約7割は歯周病に罹患しており,歯周治療の必要性が増してきています.歯科医師をめざす学生さんにとって,また,より充実した歯周治療を求める歯科医師にとって,歯周病学・歯周治療学を学ぶことは,社会的要望であるといえます.
 このような特性を有する歯周病に関する教科書として『臨床歯周病学』初版を世に送り出したのが,6年前の平成19年3月でした.教科書でありながら,本書は,「序編 歯周病と歯周治療体系」,「スタンダード編 基本的な歯周治療」,「ベーシック編 基礎知識」,「アドバンス編 専門的な歯周治療」の4部構成となっていました.今回の第2版では,初版を基盤にさらに,新しい観点でまとめ上げました.「読者にとって読みやすいこと」,「学術的背景と臨床実技の関連」,「臨床現場を意識した症例提示」などがその特徴です.
 各章において,簡潔かつわかりやすい文章,余分な線をなくし整理された表,大きな図や臨床写真を掲載しています.また一つの見出しに対しての説明はほぼ10行以内としてあり,どの章もレイアウトを工夫しながら6~10頁程度の見開きにまとめ,コンパクトにしてあります.さらに臨床診断,治療計画に欠かせないフローチャートも追加し,より多く掲載しました.また,初めての読者のために索引を充実させ,メインの説明頁がわかるように太字で示してあります.用語も日本歯周病学会用語集に基づき,統一を図りました.
 「ベーシック編 基礎知識」では,近年の歯周病学のめざましい進歩に併せて,分子生物学的病因論,細菌・免疫・遺伝学的診断,全身疾患との関連性(ペリオドンタルメディシン),再生医学などの分野の最新所見も追加しました.特にペリオドンタルメディシンにおいては,社会的観点からも重要な疾患であるメタボリックシンドローム・糖尿病・動脈硬化・早産・誤嚥性肺炎・骨粗鬆症・慢性腎臓病を取り上げ,丁寧な解説をして充実を図りました.
 「アドバンス編 専門的な歯周治療」においては,各種の再生治療法が豊富な臨床症例と共に取り上げられています.特にごく近年注目されているサイトカイン・細胞治療,レーザー治療の章では,さらなる新所見と症例を紹介しています.歯内治療,矯正治療,補綴治療,インプラント治療さらにそれらを統合した包括的歯周治療も取り上げ,より充実した口腔全体の治療症例も提示しました.
 教科書の根幹は,グローバルな観点から日本国内において地域差なくコンセンサスが得られバランスの取れた内容と記述であることから,執筆者は全国29歯科大学・大学歯学部すべての先生からなる,まさしくオールジャパンを意識した構成メンバーとなっております.最後になりますが,ご多忙中にもかかわらず執筆ならびに編集に協力していただきました先生方に,心より感謝の意を表します.また,本書第2版の発刊までのすべての過程において,ご尽力いただきました医歯薬出版の編集部諸氏に御礼申し上げます.
 平成25年1月
 吉江弘正 伊藤公一
 村上伸也 申 基喆

初版の序
 歯周病は,齲蝕と並んで歯科の二大疾患であり,歯を失う最も大きな原因とされています.また,近年では糖尿病や誤嚥性肺炎などの全身疾患との関連も明らかになってきており,生活習慣病の一つとして対応するようにもなりました.国民の約7割は歯周病に罹っているとされており,そのことから歯周病は「国民病」とよばれることもあります.それだけに歯周病学の発展や歯周病に関する確かな知識や技術をもった歯科医師が増えることは,人々の健康に大きく貢献することになるわけです.したがって,本書を手にした皆さんには,歯周病学を学ぶにあたって,歯周病学を修めることで人々の健康に大きく貢献することが可能であり,また社会からもそうした期待を寄せられているのだということを念頭においていただきたいと思います.
 近年,歯周病学はめざましい進歩を遂げており,分子生物学的原因論,細菌・免疫・遺伝学的診断,全身疾患との関連(ペリオドンタルメディシン),ティッシュエンジニアリング(組織工学)などについても学ぶ必要が生じており,このことは歯周病学の学問としての拡がりと深まりを意味しています.実際に,数十年前では夢物語でしかなかった遺伝子診断や失われた歯周組織をもと通りに再生する方法が実現可能な治療方法として活発に研究されており,本書でもその一端を紹介しています.
 本書では,上述したような歯周病の臨床の社会的意義や学問的な興味を感じてもらえるような編集を心がけました.通常,教科書というものは冒頭から読み進めていくような構成となっていますが,本書は「序編 歯周病と歯周治療体系」,「スタンダード編 基本的な歯周治療」,「ベーシック編 基礎知識」,「アドバンス編 専門的周治療」の4部構成とし,章ごとに内容がある程度完結するような構成になっています.歯周病学を初めて学ぶ方には,まずは序編を読んで,歯周病学の輪郭を頭で整理したうえで興味のある章を読んでいくことをすすめたいと思います.基礎的なことがわかっている方は,関連性の強いいくつかの章を読んで理解を深めていただきたいと思います.
 各章には「到達目標」,「チェック項目」,「推薦図書・論文」を設けました.まずは,章の本文を読み始めるまえに「到達目標」を一読し,その章で学ぶことを意識して本文を読み,そののちに「チェック項目」でみずからの理解度を確認してもらいたいと思います.また,その分野についての興味が生じたならば,「推薦図書・論文」にあたって,ぜひともその興味を育んでほしいと思います.
 歯周病学は今後も大きな進歩が期待できる領域です.歯科医学を専門に学ぶ皆さんのなかから,本書を契機に歯周病学について関心を深め,職業的な喜びを感じながら歯周病の研究や治療に携わっていくような歯科医師が現れてくれれば,本書を編集した者にとって,これに勝る喜びはありません.
 最後になりますが,ご多忙中にもかかわらず充実したお原稿のご執筆ならびに度重なる編集にご協力いただきました全国29大学の先生方には,心から感謝の意を表したいと存じます.また,本書の発案から発刊までのすべての過程で,ご尽力いただきました医歯薬出版の編集部諸氏に御礼申し上げます.
 平成19年3月
 吉江弘正 伊藤公一
 村上伸也 申 基喆
序編 歯周病と歯周治療体系
 (吉江弘正)
  A 歯周病の種類と症状
  B 歯肉炎・歯周炎の原因とリスクファクター
  C 歯周病の特性
  D 歯周治療の進め方
  E 歯周病の検査・診断,治療計画の立案
  F 各治療期における処置内容
  G 先進的な歯周検査・治療
第1編 スタンダード編─基本的な歯周治療─
 第1章 歯周病の原因と症状(前田勝正,濵地貴文)
  A 歯周病の原因
  B 歯周病の症状
 第2章 医療面接と基本的な歯周検査(安部達也,原 宜興)
  A 医療面接
  B 基本的な歯周検査
 第3章 歯周病の診断と治療計画(鴨井久一,飯野賀子,沼部幸博)
  A 歯周病の診断
  B 歯周病の治療計画
  C 治療計画の立案と治療体系
  D 再評価
 第4章 プラークコントロール(五味一博,新井 髙)
  A プラークコントロールとは
  B 機械的プラークコントロール
  C 化学的プラークコントロール
  D モチベーション
 第5章 薬物療法(五味一博)
  A 薬物療法とは
  B 薬物療法に用いる薬剤
  C 臨床応用
  D ペリオドンタルメディシンと薬物療法
  E 薬物動態学と薬力学
 第6章 スケーリング・ルートプレーニング(出口眞二)
  A スケーリング・ルートプレーニングの定義と意義
  B スケーラーの種類
  C スケーリング・ルートプレーニングの方法
  D スケーラーの研磨
  E 臨床効果
 第7章 咬合治療(川浪雅光)
  A 咬合性外傷の臨床的診断
  B 歯周治療における咬合治療
  C 咬合性外傷に対する咬合調整法
  D 咬合治療の臨床効果
 第8章 歯周外科治療(伊藤公一)
  A 歯周外科治療とは
  B 歯周外科治療の種類
  C 前準備・使用器具
  D 縫合・止血
  E フラップ手術
  F フラップ手術の臨床効果
  G その他の手術
 第9章 根分岐部病変の治療(八重柏 隆,村井 治)
  A 根分岐部病変の分類と根分岐部病変の原因
  B 根分岐部病変の検査・診断のポイント
  C 根分岐部病変の治療法
  D 臨床効果
 第10章 固定,修復・補綴治療
  A 暫間固定(佐藤 聡,沼部幸博)
  B 永久固定(佐藤 聡)
  C 歯冠修復・補綴(小方賴昌)
  D 欠損補綴(小方賴昌)
 第11章 メインテナンス・SPT(佐藤 聡,富井信之)
  A メインテナンスとは
  B メインテナンスの流れ
  C 臨床効果
 第12章 応急処置・疼痛への対応(梅田 誠,田口洋一郎)
  A 急性疼痛
  B 歯肉膿瘍・歯周膿瘍
  C 処置後の異常出血
  D 象牙質知覚過敏
  序編・第1編 推薦図書・推薦論文
第2編 ベーシック編─基礎知識─
 第13章 歯周組織の病理変化(山崎和久,中島貴子)
  A 歯周組織の構造
  B 炎症歯周組織の病態
  C 歯肉炎・歯周炎の病理組織
 第14章 歯周病の分類(野口和行,松山孝司)
  A 歯周病の分類の変遷
  B 歯肉炎
  C 歯周炎
  D 歯肉疾患および歯周炎以外の分類
  E 臨床分類の課題
 第15章 歯周病の疫学(島内英俊)
  A 疫学研究の方法論
  B 歯周病の疫学研究に用いる指数
  C 歯周病の疫学
  D 歯周病の予防
 第16章 プラーク(古市保志,長澤敏行)
  A プラークとバイオフィルム
  B 歯周病原細菌
  C 細菌性病原因子
  D 歯石
 第17章 炎症反応・免疫反応(島袋善夫,山下元三)
  A 免疫担当細胞
  B 細胞間相互作用
  C 炎症性メディエーター
  D 骨吸収のメカニズム
 第18章 遺伝的素因(小林哲夫)
  A 遺伝因子と環境因子
  B 遺伝子多型と遺伝子診断
  C 遺伝子多型と歯周炎
 第19章 歯周病のリスクファクター(武藤昭紀,吉成伸夫)
  A リスクファクターの概念
  B 歯周病のリスクファクター
 第20章 ペリオドンタルメディシン(曽我賢彦,西村英紀)
  A メタボリックシンドロームと歯周病
  B 糖尿病と歯周病
  C 動脈硬化・虚血性心疾患などの血管疾患と歯周病
  D 低体重児出産・早産と歯周病
  E 誤嚥性肺炎と歯周病歯周病
  F 骨粗鬆症と歯周病
  G 慢性腎臓病と歯周病
 第21章 咬合性外傷(坂上竜資)
  A 外傷性咬合と咬合性外傷
  B 咬合性外傷と組織破壊
  C 咬合性外傷の病理的変化
  D ブラキシズム
 第22章 創傷治癒(小方賴昌)
  A 創傷治癒の機序
  B 歯周組織の治癒形態
  C 歯周外科治療後の治癒形態
 第23章 先進的な歯周検査(髙柴正悟,大森一弘)
  A 歯周病活動性と歯周病感受性
  B 細菌検査
  C 生体反応に対する検査
  D これからの歯周検査に求められる課題
 第24章 ティッシュエンジニアリング(村上伸也)
  A 再生医療
  B ティッシュエンジニアリング
  C ティッシュエンジニアリングによる歯周組織の再生
  第2編 推薦図書・推薦論文
第3編 アドバンス編─専門的な歯周治療─
 第25章 骨移植術(秋月達也,白方良典,和泉雄一)
  A 骨移植術とは
  B 骨移植術の種類と特性
  C 適応症
  D 臨床手技の要点
 第26章 GTR法(齋藤 淳,杉戸博記)
  A GTR法の概念
  B GTR膜の所要条件・種類
  C 適応症・禁忌症
  D GTR法に使用する器具
  E 臨床手技の要点
  F 臨床効果
 第27章 エナメルマトリックスタンパク質を用いた歯周組織再生療法(野口俊英,三谷章雄)
  A エナメルマトリックスタンパク質とは
  B 適応症・禁忌症
  C 臨床手技の要点
  D 臨床効果
 第28章 歯周形成手術(申 基喆)
  A 歯周形成手術(歯肉歯槽粘膜形成術)の目的
  B 歯周形成手術の種類と適応症
  C 付着歯肉増大のための術式
  D 口腔前庭拡張のための術式
  E 小帯切除のための術式
 第29章 サイトカイン・細胞治療(河口浩之,栗原英見)
  A サイトカインと組織再生
  B 幹細胞と組織再生
 第30章 レーザー治療(青木 章,水谷幸嗣,和泉雄一)
  A レーザーと医療
  B レーザーの種類
  C 歯周治療へのレーザーの応用
  D 今後の展望
 第31章 歯内-歯周病変の治療(澁谷俊昭)
  A 歯内-歯周病変とは
  B 検査と診断
  C 歯内-歯周病変に類似した病変
 第32章 歯周-矯正治療(伊藤公一)
  A 歯周-矯正治療の意義と目的
  B 歯周-矯正治療の開始時期
  C 適応症・禁忌症
  D 歯周-矯正治療に使用する装置
  E 保定・固定・メインテナンス・SPT
 第33章 歯周補綴(高橋慶壮)
  A 歯周補綴とは
  B 歯周補綴の種類
  C 適応症・禁忌症
  D 歯周補綴の問題点とその対応
  E 歯周補綴を成功に導くためのポイント
 第34章 インプラント治療(申 基喆,林 丈一朗)
  A インプラント治療とは
  B 適応症・禁忌症
  C インプラント治療の流れ
  D インプラント周囲炎とメインテナンス
 第35章 口臭と口呼吸の治療(中島啓介,笠井宏記)
  A 口臭
  B 口臭の治療法
  C 口呼吸
  D 口呼吸の治療法
 第36章 高齢者と有病者の治療(山本松男,須田玲子)
  A 社会の高齢化と歯周治療
  B 高齢者の歯周治療
  C 有病者の歯周治療
  D 在宅者の歯周治療
 第37章 特殊な歯周病の治療(永田俊彦)
  A 薬物性歯肉増殖症
  B 慢性剥離性歯肉炎
  C 壊死性潰瘍性歯肉炎・歯周炎
  D 遺伝子関連疾患に現れる歯周組織病変
 第38章 包括的歯周治療(申 基喆,辰巳順一)
  A 包括的歯周治療とは
  B 症例1 侵襲性歯周炎
  C 症例2 咬合崩壊を伴う重度慢性歯周炎
  第3編 推薦図書・推薦論文

 索引