序
予防歯科臨床教育協議会が編集した『実践予防歯科』がはじめて出版されたのは1999年であった.それから早くも5年が過ぎ去った.『実践予防歯科』出版直後から,より実践に徹したハンドブックを出版しようとの企画がスタートしたが,ずいぶんと遅れてしまった.主に大学予防歯科をめぐる大きな変化が原因である.予防歯科学は戦後のある時期まで医学部に倣って基礎に属する口腔衛生学の一分野と考えられてきた.その後のう蝕大流行の時代に即応して,う蝕予防対策を考え,学生に教育する場として,予防歯科学への転換がはかられた.う蝕大流行期には,国立大学をはじめ,多くの私立大学で予防歯科学は臨床講座として自らを規定してきた.
しかしここ十数年来,う蝕は減少期に入り,しかも歯科医師過剰時代を迎えて,歯科大学や歯学部の存在理由が問われるようになると,病院経営の治療中心主義への回帰による旧来路線への後退や,非採算部門の縮小方針によって臨床としての大学病院予防歯科は存亡の危機に立たされているのである.一方で国民の間では,予防を求める声が大きく拡がり,歯科における予防の重要性はわれわれが声を大にして叫ぶまでもないほどに高まっている.その国民の声は,大学よりも国民と密接に接する歯科医療の最前線である開業歯科医院の経営方針に鋭く反映せざるを得ず,開業歯科医院の多くが「予防」を提唱するに至った.
このように臨床としての予防歯科学を教育せんと志すわれわれをとりまく状況は,複雑さを増している.しかし,臨床教育の場としての「予防歯科」をもっている大学と,もっていない大学との二極化現象が顕著になるにつれて,その結果が明確に示される日も遠くないものと思う.その結果をよいものとするか,悪いものとするか,われわれに荷せられた責務はきわめて重いといわざるを得ない.予防を求める国民の声にどう答えるか,われわれはこの声を背に困難ななか,自らのなすべきことを粛々と実践していく必要に迫られているのである.
本書の編集にあたっては次の二点に留意した.一つはより実践に徹することである.もう一つは疾病構造の変化にぴたりと対応すべきことである.予防の実践とは本来医療における考え方であり,まなざしである.しかし,考え方は間違っていないからといって主義・主張を声高に叫ぶだけでは国民に受け入れられない.予防が考え方であればあるほど,われわれはむしろツールやスキルにこだわりをもって一つ一つ実践していく必要があるだろう.
次に疾病構造の変化について十分把握し対応することが大切である.疾病構造の変化とは認識の変化でもある.たとえばう蝕についてみてみよう.DMFのロジックで糊塗されているが,本当に治療が必要な歯は国民一人あたりすでに1.2本である.あとは治療よりも予防のカテゴリーに属する歯が多数を占めている.歯科医療,歯学教育が今後予防を中心に構築される必要性を如実に示しているではないか.われわれは確信をもって予防歯科の道を進んでいこう.
平成16年9月
編集責任者
竹原直道
予防歯科臨床教育協議会が編集した『実践予防歯科』がはじめて出版されたのは1999年であった.それから早くも5年が過ぎ去った.『実践予防歯科』出版直後から,より実践に徹したハンドブックを出版しようとの企画がスタートしたが,ずいぶんと遅れてしまった.主に大学予防歯科をめぐる大きな変化が原因である.予防歯科学は戦後のある時期まで医学部に倣って基礎に属する口腔衛生学の一分野と考えられてきた.その後のう蝕大流行の時代に即応して,う蝕予防対策を考え,学生に教育する場として,予防歯科学への転換がはかられた.う蝕大流行期には,国立大学をはじめ,多くの私立大学で予防歯科学は臨床講座として自らを規定してきた.
しかしここ十数年来,う蝕は減少期に入り,しかも歯科医師過剰時代を迎えて,歯科大学や歯学部の存在理由が問われるようになると,病院経営の治療中心主義への回帰による旧来路線への後退や,非採算部門の縮小方針によって臨床としての大学病院予防歯科は存亡の危機に立たされているのである.一方で国民の間では,予防を求める声が大きく拡がり,歯科における予防の重要性はわれわれが声を大にして叫ぶまでもないほどに高まっている.その国民の声は,大学よりも国民と密接に接する歯科医療の最前線である開業歯科医院の経営方針に鋭く反映せざるを得ず,開業歯科医院の多くが「予防」を提唱するに至った.
このように臨床としての予防歯科学を教育せんと志すわれわれをとりまく状況は,複雑さを増している.しかし,臨床教育の場としての「予防歯科」をもっている大学と,もっていない大学との二極化現象が顕著になるにつれて,その結果が明確に示される日も遠くないものと思う.その結果をよいものとするか,悪いものとするか,われわれに荷せられた責務はきわめて重いといわざるを得ない.予防を求める国民の声にどう答えるか,われわれはこの声を背に困難ななか,自らのなすべきことを粛々と実践していく必要に迫られているのである.
本書の編集にあたっては次の二点に留意した.一つはより実践に徹することである.もう一つは疾病構造の変化にぴたりと対応すべきことである.予防の実践とは本来医療における考え方であり,まなざしである.しかし,考え方は間違っていないからといって主義・主張を声高に叫ぶだけでは国民に受け入れられない.予防が考え方であればあるほど,われわれはむしろツールやスキルにこだわりをもって一つ一つ実践していく必要があるだろう.
次に疾病構造の変化について十分把握し対応することが大切である.疾病構造の変化とは認識の変化でもある.たとえばう蝕についてみてみよう.DMFのロジックで糊塗されているが,本当に治療が必要な歯は国民一人あたりすでに1.2本である.あとは治療よりも予防のカテゴリーに属する歯が多数を占めている.歯科医療,歯学教育が今後予防を中心に構築される必要性を如実に示しているではないか.われわれは確信をもって予防歯科の道を進んでいこう.
平成16年9月
編集責任者
竹原直道
予防歯科実践ハンドブック 目次
序
■section 1 診察編
1 医療面接
2 患者の悩みを聞く
3 乳幼児の診察の仕方
4 高齢者の診察の仕方
5 知的障害者の診察の仕方
6 舌のみかた
7 生活習慣の問診法
8 習癖・嗜好・食生活の診査の仕方
9 診療録(カルテ)の書きかた
10 電話相談の仕方
■section 2 検査編
1 カリエスリスク検査
2 初期う蝕の機器検査
3 う蝕のエックス線検査
4 歯周病のリスク検査
5 口臭の検査
6 唾液機能検査
7 口腔乾燥症の検査
8 味覚機能検査
9 血液検査の読みかた
10 金属アレルギー検査
11 心身医学的検査
■section 3 診断編
1 う蝕の診断
2 歯周病の診断
3 口臭の診断
4 口腔粘膜疾患の診断
5 口腔乾燥症の診断
6 顎関節症の診断
7 歯列・咬合の診断
8 摂食・嚥下障害の診断
9 成人・高齢者の摂食・嚥下障害の診断
■section 4 セルフケアサポート編
1 手用ブラッシング法
2 電動・音波・超音波ブラッシング法
3 補助的清掃用具の使用法
4 歯垢染色剤の使用法
5 歯磨剤・洗口剤の使用法
6 舌のセルフケア法
7 食生活指導法
8 禁煙サポート法
■section 5 治療の中の予防歯科編
1 Professional toothbrushing(術者ブラッシング)
2 Professional mechanical tooth cleaning(PMTC)
3 インプラントの清掃法
4 フッ化物歯面塗布
5 フッ化物洗口
6 歯面に対する薬物の応用
7 シーラントの方法:小窩裂溝予防填塞法
8 初期う蝕(エナメル質う蝕)に対する治療法
9 根面う蝕に対する治療法
10 レーザーによるう蝕の処置
11 カリソルブを応用したART
12 スケーリング・ルートプレーニングの方法
13 超音波・エアスケーラーの使用法
14 歯周疾患に対する薬剤の応用法
15 レーザーによる歯周疾患の治療法
16 知覚過敏に対する治療法
17 口臭の治療法
18 口腔乾燥症の治療法
19 マウスガードの製作法
20 摂食・嚥下障害のリハビリテーション
21 成人・高齢者の摂食・嚥下リハビリテーション
22 感染症予防対策
■section 6 メンテナンス編
1 リコールシステムの構築法
2 乳幼児期の口腔ケア
3 学齢期の口腔ケア
4 高齢者・有病者の口腔ケア
5 知的障害者の口腔ケア
6 矯正患者のメンテナンス
7 歯周病のメンテナンス
8 口臭患者のメンテナンス
9 口腔乾燥症のメンテナンス
10 口腔内の不定愁訴をもつ患者のメンテナンス
■section 7 地域での活動マニュアル編
1 問題発見の手法とニーズ把握
2 住民調査に基づく事業計画とその評価
3 地域でのコンセンサスの形成
4 幼児歯科健診の進め方
5 学校における健康診断とその事後措置
6 成人歯科健診とその事後報告
7 パソコンを用いたデータ分析と結果の表示
8 教育媒体(パンフレットその他)の作成
9 行動変容につなげる健康教育I:母親教室・妊婦教室の進め方
10 行動変容につなげる健康教育II:保育園・小学校の予防教室
11 行動変容につなげる健康教育III:中学校・高校・成人の動機付け
12 要介護者の歯科保健指導I:保健指導と口腔清掃の実施
13 要介護者の歯科保健指導II:介護保険と医療保険の効果的な活用
■section 8 予防を中心とした診療室編
1 予防を中心とした診療室の立ち上げ方
2 診療室スタッフの意識改革
3 患者さんとのコミュニケーションを通して行う健康教育
4 歯科で使用する情報通信媒体
5 会員制の定期健診システムをつくるには
6 診療室での位相差顕微鏡の使い方
7 パソコンを使った患者情報の整理
8 EBM:文献検索とその応用
9 予防を中心とした診療室 実例1
10 予防を中心とした診療室 実例2
11 歯周病の継続管理を中心とした診療室 実例3
12 予防を中心とした診療室 実例4
索引
序
■section 1 診察編
1 医療面接
2 患者の悩みを聞く
3 乳幼児の診察の仕方
4 高齢者の診察の仕方
5 知的障害者の診察の仕方
6 舌のみかた
7 生活習慣の問診法
8 習癖・嗜好・食生活の診査の仕方
9 診療録(カルテ)の書きかた
10 電話相談の仕方
■section 2 検査編
1 カリエスリスク検査
2 初期う蝕の機器検査
3 う蝕のエックス線検査
4 歯周病のリスク検査
5 口臭の検査
6 唾液機能検査
7 口腔乾燥症の検査
8 味覚機能検査
9 血液検査の読みかた
10 金属アレルギー検査
11 心身医学的検査
■section 3 診断編
1 う蝕の診断
2 歯周病の診断
3 口臭の診断
4 口腔粘膜疾患の診断
5 口腔乾燥症の診断
6 顎関節症の診断
7 歯列・咬合の診断
8 摂食・嚥下障害の診断
9 成人・高齢者の摂食・嚥下障害の診断
■section 4 セルフケアサポート編
1 手用ブラッシング法
2 電動・音波・超音波ブラッシング法
3 補助的清掃用具の使用法
4 歯垢染色剤の使用法
5 歯磨剤・洗口剤の使用法
6 舌のセルフケア法
7 食生活指導法
8 禁煙サポート法
■section 5 治療の中の予防歯科編
1 Professional toothbrushing(術者ブラッシング)
2 Professional mechanical tooth cleaning(PMTC)
3 インプラントの清掃法
4 フッ化物歯面塗布
5 フッ化物洗口
6 歯面に対する薬物の応用
7 シーラントの方法:小窩裂溝予防填塞法
8 初期う蝕(エナメル質う蝕)に対する治療法
9 根面う蝕に対する治療法
10 レーザーによるう蝕の処置
11 カリソルブを応用したART
12 スケーリング・ルートプレーニングの方法
13 超音波・エアスケーラーの使用法
14 歯周疾患に対する薬剤の応用法
15 レーザーによる歯周疾患の治療法
16 知覚過敏に対する治療法
17 口臭の治療法
18 口腔乾燥症の治療法
19 マウスガードの製作法
20 摂食・嚥下障害のリハビリテーション
21 成人・高齢者の摂食・嚥下リハビリテーション
22 感染症予防対策
■section 6 メンテナンス編
1 リコールシステムの構築法
2 乳幼児期の口腔ケア
3 学齢期の口腔ケア
4 高齢者・有病者の口腔ケア
5 知的障害者の口腔ケア
6 矯正患者のメンテナンス
7 歯周病のメンテナンス
8 口臭患者のメンテナンス
9 口腔乾燥症のメンテナンス
10 口腔内の不定愁訴をもつ患者のメンテナンス
■section 7 地域での活動マニュアル編
1 問題発見の手法とニーズ把握
2 住民調査に基づく事業計画とその評価
3 地域でのコンセンサスの形成
4 幼児歯科健診の進め方
5 学校における健康診断とその事後措置
6 成人歯科健診とその事後報告
7 パソコンを用いたデータ分析と結果の表示
8 教育媒体(パンフレットその他)の作成
9 行動変容につなげる健康教育I:母親教室・妊婦教室の進め方
10 行動変容につなげる健康教育II:保育園・小学校の予防教室
11 行動変容につなげる健康教育III:中学校・高校・成人の動機付け
12 要介護者の歯科保健指導I:保健指導と口腔清掃の実施
13 要介護者の歯科保健指導II:介護保険と医療保険の効果的な活用
■section 8 予防を中心とした診療室編
1 予防を中心とした診療室の立ち上げ方
2 診療室スタッフの意識改革
3 患者さんとのコミュニケーションを通して行う健康教育
4 歯科で使用する情報通信媒体
5 会員制の定期健診システムをつくるには
6 診療室での位相差顕微鏡の使い方
7 パソコンを使った患者情報の整理
8 EBM:文献検索とその応用
9 予防を中心とした診療室 実例1
10 予防を中心とした診療室 実例2
11 歯周病の継続管理を中心とした診療室 実例3
12 予防を中心とした診療室 実例4
索引








