序文
いつから歯科医師を志したのか定かでないのですが,少なくとも,いい医療者になろうなどという崇高な意志がはたらいたわけではありません.むしろ,歯医者は儲かる,贅沢ができるといった不純な動機が大勢を占めていたように思います.
小生は,家業が歯科医院ではないので大学の病院実習まで「臨床の現場」を知ることもなく呑気に過ごしていました.いざ,現場に足を踏み入れると理想と現実のギャップに悩まされ,この仕事の「やりがい」はどこにあるのかを問い続け,何度も退き際を考えました.結局,他の道を選択する勇気もなく歯科医師になったのですが,「開業」という一大イベントに1年以上の月日を要したのは,十分な準備をするためではなく,もう引き返すことができなくなることへの不安を払拭できなかったからでしょう.
一生の仕事と思い,切磋琢磨していくようになる背景には数々の出会いがありました.卒直後から勤務先の宮地建夫先生や,金子一芳先生をはじめとする火曜会の先生方から,消化しきれないほどの知識・技術を教授していただき,つくづく恵まれた環境の中にいることを実感していました.しかし,「やりがい」という捜し物は,決して与えられるものではなく,自分自身で見つけるものです.「続けられる・・・」という思いは,多くの患者さんたちとの出会いに支えられていました.
この仕事の性格上,人と人との関わり合いを避けては通れません.どこまで関わるかは術者個々で異なるでしょうし,誰にも決められないことです.歯科医にとっては「1本の歯に起こったこと」が,患者さんにとっては「個人に起こったできごと」であり,共通の価値観を模索してゆかなければ,長い付き合いなど成り立ちません.昨今,誌上をにぎわすEBMやインフォームドコンセントといった言葉も,医療者としては必須の知識でしょうが,諸先輩の20年~30年経過症例を語り尽くせるのでしょうか?
あらためて「その患者さんをどう治したかではなく,どう関わったか」,右も左もわからぬころに教えられたフレーズがクローズアップされてくるようになり,「個人」という大きな障壁の前で右往左往することに,それなりのやりがいを感じ取っていったように思えます.
この先,自分自身にすらどんな日記が綴られてゆくのか知る由もないのですが,少なくとも患者さんとの心地よい距離感を保ちながら過ごしてゆければと期待して止みません.
最後に,卒直後から現在に至るまでご指導いただき,臨床の基礎をつくっていただいた千代田区開業の宮地建夫先生,患者との関わり方を中心に歯科医としてのやりがいをご教授していただいている中央区開業の金子一芳先生,ぬるま湯につかりそうな小生に開業医としての基本の大切さを厳しく指導していただいている千葉県我孫子市開業の千葉英史先生に感謝の意を表します.またスタディグループ「火曜会」の諸先輩・後輩の先生方,このような機会を与えていただいた医歯薬出版の方々,そして人手不足・資金不足の荒波のなかで未熟な開業医を支えてくれる当医院スタッフ,多くの患者さんに紙面を借りて心より感謝申し上げます.
2000年2月 鷹岡竜一
(本書第1編は『補綴臨床』30巻1号(1997年)~31巻4号(1998年)に連載したものである)
いつから歯科医師を志したのか定かでないのですが,少なくとも,いい医療者になろうなどという崇高な意志がはたらいたわけではありません.むしろ,歯医者は儲かる,贅沢ができるといった不純な動機が大勢を占めていたように思います.
小生は,家業が歯科医院ではないので大学の病院実習まで「臨床の現場」を知ることもなく呑気に過ごしていました.いざ,現場に足を踏み入れると理想と現実のギャップに悩まされ,この仕事の「やりがい」はどこにあるのかを問い続け,何度も退き際を考えました.結局,他の道を選択する勇気もなく歯科医師になったのですが,「開業」という一大イベントに1年以上の月日を要したのは,十分な準備をするためではなく,もう引き返すことができなくなることへの不安を払拭できなかったからでしょう.
一生の仕事と思い,切磋琢磨していくようになる背景には数々の出会いがありました.卒直後から勤務先の宮地建夫先生や,金子一芳先生をはじめとする火曜会の先生方から,消化しきれないほどの知識・技術を教授していただき,つくづく恵まれた環境の中にいることを実感していました.しかし,「やりがい」という捜し物は,決して与えられるものではなく,自分自身で見つけるものです.「続けられる・・・」という思いは,多くの患者さんたちとの出会いに支えられていました.
この仕事の性格上,人と人との関わり合いを避けては通れません.どこまで関わるかは術者個々で異なるでしょうし,誰にも決められないことです.歯科医にとっては「1本の歯に起こったこと」が,患者さんにとっては「個人に起こったできごと」であり,共通の価値観を模索してゆかなければ,長い付き合いなど成り立ちません.昨今,誌上をにぎわすEBMやインフォームドコンセントといった言葉も,医療者としては必須の知識でしょうが,諸先輩の20年~30年経過症例を語り尽くせるのでしょうか?
あらためて「その患者さんをどう治したかではなく,どう関わったか」,右も左もわからぬころに教えられたフレーズがクローズアップされてくるようになり,「個人」という大きな障壁の前で右往左往することに,それなりのやりがいを感じ取っていったように思えます.
この先,自分自身にすらどんな日記が綴られてゆくのか知る由もないのですが,少なくとも患者さんとの心地よい距離感を保ちながら過ごしてゆければと期待して止みません.
最後に,卒直後から現在に至るまでご指導いただき,臨床の基礎をつくっていただいた千代田区開業の宮地建夫先生,患者との関わり方を中心に歯科医としてのやりがいをご教授していただいている中央区開業の金子一芳先生,ぬるま湯につかりそうな小生に開業医としての基本の大切さを厳しく指導していただいている千葉県我孫子市開業の千葉英史先生に感謝の意を表します.またスタディグループ「火曜会」の諸先輩・後輩の先生方,このような機会を与えていただいた医歯薬出版の方々,そして人手不足・資金不足の荒波のなかで未熟な開業医を支えてくれる当医院スタッフ,多くの患者さんに紙面を借りて心より感謝申し上げます.
2000年2月 鷹岡竜一
(本書第1編は『補綴臨床』30巻1号(1997年)~31巻4号(1998年)に連載したものである)
第1編 ぼくの開業日記~開業編~
第1章 開業前夜~足跡をたどれ!……2
・プロローグ
・卒業すれば
・自由奔放
・スタディグループの存在
第2章 五里霧中~パラダイスを探せ!……8
・故郷に錦を飾らず? 飾れず?
・安心保証書
・東京
・住宅地へ
第3章 優柔不断~妥協も大切な選択肢!……16
・ターゲットを絞れ!
・テナント心得
・テナント探検隊
第4章 悪戦苦闘~金のなる木はどこに?……26
・分不相応じゃないですか?
・ゴールは見えますか?
・何が必要なんですか?
・金利ですか? 返済期間ですか?
・公的金融機関ってなんですか?
第5章 深謀遠慮~わが城なり!……36
・ストーリーを知ろう!
・医院創りのコンセプト―その1―
・医院創りのコンセプト―その2―
・医院創りのコンセプト―その3―
第6章 飲河満腹~無駄づかいはほどほどに!……46
・夢の後
・贅沢は予算か!
・君は全部買う機械?
・そんなにやすくは内装だ!
・アーティストとデンティスト
第7章 量才録用~All of them……56
・使う立場へ
・あなたはどのタイプ?
・システムへの道
・外注ラボ
第8章 二人三脚~無理は禁物!……62
・税理士のアドバイスを求める
・医院開業の時期
・いつから税理士と相談するか
・開業当初の支出・収入の目安は
・若い先生へのアドバイス
第9章 大願成就~夢のあとさき……70
・あと一息
・システムへの第一歩
・いつまで働くの?
第10章 東奔西走~孤独な開業医……78
・青息吐息
・一陽来復
・発人深省
・エピローグ
第2編 ぼくの開業日記~臨床編~
・再起動……86
・危険人物……87
・出会い……90
・第一印象……90
・現症……90
・術者のもくろみ……91
・病気を診てみよう!……91
・下顎の処置方針決定……97
・問題は上顎だ!……97
・もくろみの揺らぎ……98
・前歯への介入……99
・連結固定への不安……99
・犬歯のイメージ……102
・身の丈にあった選択……102
・スタート地点……103
・チェックリスト……106
・不測の事態……107
・再会……110
・5年目の考察……110
・効果? 不効果?……113
付・記録のアイテム……117
付編1 設計バリエーション……121
付編2 事業計画書への招待……129
第1章 開業前夜~足跡をたどれ!……2
・プロローグ
・卒業すれば
・自由奔放
・スタディグループの存在
第2章 五里霧中~パラダイスを探せ!……8
・故郷に錦を飾らず? 飾れず?
・安心保証書
・東京
・住宅地へ
第3章 優柔不断~妥協も大切な選択肢!……16
・ターゲットを絞れ!
・テナント心得
・テナント探検隊
第4章 悪戦苦闘~金のなる木はどこに?……26
・分不相応じゃないですか?
・ゴールは見えますか?
・何が必要なんですか?
・金利ですか? 返済期間ですか?
・公的金融機関ってなんですか?
第5章 深謀遠慮~わが城なり!……36
・ストーリーを知ろう!
・医院創りのコンセプト―その1―
・医院創りのコンセプト―その2―
・医院創りのコンセプト―その3―
第6章 飲河満腹~無駄づかいはほどほどに!……46
・夢の後
・贅沢は予算か!
・君は全部買う機械?
・そんなにやすくは内装だ!
・アーティストとデンティスト
第7章 量才録用~All of them……56
・使う立場へ
・あなたはどのタイプ?
・システムへの道
・外注ラボ
第8章 二人三脚~無理は禁物!……62
・税理士のアドバイスを求める
・医院開業の時期
・いつから税理士と相談するか
・開業当初の支出・収入の目安は
・若い先生へのアドバイス
第9章 大願成就~夢のあとさき……70
・あと一息
・システムへの第一歩
・いつまで働くの?
第10章 東奔西走~孤独な開業医……78
・青息吐息
・一陽来復
・発人深省
・エピローグ
第2編 ぼくの開業日記~臨床編~
・再起動……86
・危険人物……87
・出会い……90
・第一印象……90
・現症……90
・術者のもくろみ……91
・病気を診てみよう!……91
・下顎の処置方針決定……97
・問題は上顎だ!……97
・もくろみの揺らぎ……98
・前歯への介入……99
・連結固定への不安……99
・犬歯のイメージ……102
・身の丈にあった選択……102
・スタート地点……103
・チェックリスト……106
・不測の事態……107
・再会……110
・5年目の考察……110
・効果? 不効果?……113
付・記録のアイテム……117
付編1 設計バリエーション……121
付編2 事業計画書への招待……129
