※Miller PD:Regenerative and reconstructive periodontal plastic surgery.Dent Clin North Am,32:287~306,1988.
まえがき
歯周形成外科(Periodontal Plastic Surgery;PPS)という言葉を初めて目にしたときの不思議な興奮を今も忘れることができない. それは,1993年に発行されたPeriodontal Regenerationについて特集した『Periodontology 2000』のVol.1に記載されていた. その中で,Preston D.Millerが,従来ならばいわゆるmucogingival surgeryに含まれていた一連の歯周外科手術をもう少し広い視野で捉え,そのコンセプトを明確にしたPeriodontal Plastic Surgeryについて言及していたのである.
不勉強をさらけ出すようで不本意ではあるが,この用語については朦朧とした意識下で一応の理解はしていたものの,言葉として明確に記述されたものを読んだのは,実はこのときが初めてであった. 慌てて文献を漁ってみると,すでに遡ること5年ほど前の1988年に,やはりMillerによってこの用語が提案されていたのであった※.
さて,その“不思議な興奮”とは,医科診療領域で「形成外科」が診療科として認知され,独立していった経緯を瞬間なぞったからであった. 周知のように,形成外科は実に長い間「美容整形外科」と混乱,混淆してみられてきた. そして,その誤解は,美容(Cosmetic)と審美(Estetic)の違いさえも十分な議論がされていなかった時代に,技術や多少の商売の巧みさで悪名を馳せた美容整形と同等に見られることさえあったのである.
しかし,多くの先達の努力の結果,形成外科がしっかりしたエビデンスをもった診療科として認知され,さらに,より強いステータスが加わっていった経緯を顧みるとき,歯周外科が,単に感染性の炎症によって破壊された組織を“取り除いて“しまう「切除至上主義」から,初めて患者のQOLに視点を定め,高いエビデンスをも含んだPeriodontal Plastic Surgeryという概念に行き着いた経緯に“不思議な興奮”を覚えたのである.
したがって,本著で提案するPPSは単なる技術書ではなく,病態の発症から外科処置による治癒形態の理論,さらに適応,あるいは予知性をも含めた視点からPPSを捉えているところに特徴がある. あえてそのようなエビデンスを本著で強調したのは,本著によってさらに上のステージを提案したいからにほかならない. それは「ガム ・マネジメント」という考え方である.
ガム(歯肉) ・マネジメントは,歯科領域における高度な専門性を牽引してきた歯周病専門医たちの共通したコンセプトである. この概念には,プラーク由来の感染性の炎症のコントロールはもちろん,リスクファクターをもった患者の歯周病のコントロールも含まれるが,むしろ補綴やインプラント治療,あるいはQOLを意識した審美性という要請のなかで,どう歯周病専門医が歯周組織を扱ったらよいのか,という視点にスタンスがある. たとえば,付着歯肉を創る,歯間乳頭を再建する,天然歯に合致した歯肉色を付与するなど,具体的な適応は実に幅が広い.
そのような観点に立って,本著では,PPSを一つのキーワードに,将来,歯周治療領域の主体をなすガム ・マネジメントをもう一つのキーワードとして,その考え方を提案した.
しかし,もちろんエビデンスにだけこだわったものではなく,症例に対する分類,適応,術式の選択,さらに具体的かつ詳細な技術論までを丁寧に記述したつもりである. それらが読者の方々の歯周治療に対する考え方,あるいは臨床面での幅が拡がれば,著者の一人として大変幸甚である.
1998年(平成10年)6月 宮田 隆(共著者を代表して)
まえがき
歯周形成外科(Periodontal Plastic Surgery;PPS)という言葉を初めて目にしたときの不思議な興奮を今も忘れることができない. それは,1993年に発行されたPeriodontal Regenerationについて特集した『Periodontology 2000』のVol.1に記載されていた. その中で,Preston D.Millerが,従来ならばいわゆるmucogingival surgeryに含まれていた一連の歯周外科手術をもう少し広い視野で捉え,そのコンセプトを明確にしたPeriodontal Plastic Surgeryについて言及していたのである.
不勉強をさらけ出すようで不本意ではあるが,この用語については朦朧とした意識下で一応の理解はしていたものの,言葉として明確に記述されたものを読んだのは,実はこのときが初めてであった. 慌てて文献を漁ってみると,すでに遡ること5年ほど前の1988年に,やはりMillerによってこの用語が提案されていたのであった※.
さて,その“不思議な興奮”とは,医科診療領域で「形成外科」が診療科として認知され,独立していった経緯を瞬間なぞったからであった. 周知のように,形成外科は実に長い間「美容整形外科」と混乱,混淆してみられてきた. そして,その誤解は,美容(Cosmetic)と審美(Estetic)の違いさえも十分な議論がされていなかった時代に,技術や多少の商売の巧みさで悪名を馳せた美容整形と同等に見られることさえあったのである.
しかし,多くの先達の努力の結果,形成外科がしっかりしたエビデンスをもった診療科として認知され,さらに,より強いステータスが加わっていった経緯を顧みるとき,歯周外科が,単に感染性の炎症によって破壊された組織を“取り除いて“しまう「切除至上主義」から,初めて患者のQOLに視点を定め,高いエビデンスをも含んだPeriodontal Plastic Surgeryという概念に行き着いた経緯に“不思議な興奮”を覚えたのである.
したがって,本著で提案するPPSは単なる技術書ではなく,病態の発症から外科処置による治癒形態の理論,さらに適応,あるいは予知性をも含めた視点からPPSを捉えているところに特徴がある. あえてそのようなエビデンスを本著で強調したのは,本著によってさらに上のステージを提案したいからにほかならない. それは「ガム ・マネジメント」という考え方である.
ガム(歯肉) ・マネジメントは,歯科領域における高度な専門性を牽引してきた歯周病専門医たちの共通したコンセプトである. この概念には,プラーク由来の感染性の炎症のコントロールはもちろん,リスクファクターをもった患者の歯周病のコントロールも含まれるが,むしろ補綴やインプラント治療,あるいはQOLを意識した審美性という要請のなかで,どう歯周病専門医が歯周組織を扱ったらよいのか,という視点にスタンスがある. たとえば,付着歯肉を創る,歯間乳頭を再建する,天然歯に合致した歯肉色を付与するなど,具体的な適応は実に幅が広い.
そのような観点に立って,本著では,PPSを一つのキーワードに,将来,歯周治療領域の主体をなすガム ・マネジメントをもう一つのキーワードとして,その考え方を提案した.
しかし,もちろんエビデンスにだけこだわったものではなく,症例に対する分類,適応,術式の選択,さらに具体的かつ詳細な技術論までを丁寧に記述したつもりである. それらが読者の方々の歯周治療に対する考え方,あるいは臨床面での幅が拡がれば,著者の一人として大変幸甚である.
1998年(平成10年)6月 宮田 隆(共著者を代表して)
まえがき iii
第1章 歯周形成外科(PPS)とは…1
はじめに…2
1 歯周治療におけるQOLとは…3
2 歯周治療のQOLとPPSの果たす役割…4
PPSの概念と定義…5
1 従来の歯周外科との相違点…5
2 PPSの適応症と術式の再検討…7
PPSの治癒像…8
1 治癒像からみたPPSの分類…8
1. 歯周外科の一般的な創傷治癒…8
2. 歯周組織の創傷治癒がもたらすもの…8
2 PPSの期待する創傷治癒とは…11
PPSの分類と定義…23
1 PPSの分類…23
1. 審美性の回復,改善を主目的としたPPS…23
2. 解剖学的形態異常を修正するためのPPS…23
3. 補綴物と調和のとれた歯周環境を獲得するためのPPS…24
2 PPSの定義…24
第2章 歯周形成外科(PPS)の診査と適応…27
PPSのための診査…28
1 PPSのための歯周組織の解剖…29
1. 歯肉と歯槽粘膜…29
2. 口腔前庭と小帯…30
3. 口蓋部組織…30
2 歯肉歯槽粘膜の異常に対する診査とその評価…32
1. 付着歯肉の喪失…32
2. 歯肉退縮…32
3. 歯肉の過度の露出…35
4. 欠損部歯槽堤の形態異常…38
5. インプラント周囲軟組織の問題…40
PPSへのアプローチと術式の選択…42
1 PPSを行う時期…42
1. 初期治療前にPPSを行う場合…42
2. 初期治療後にPPSを行う場合…44
3. 歯周炎に対する外科処置後にPPSを行う場合…44
2 治療目標によるPPSの分類とその選択…45
チャート:1 審美性を考慮したPPS
1 歯肉退縮の防止を考慮した術式…46
2 露出歯根面の被覆…48
3 辺縁歯肉形態と位置を修正するための術式…49
チャート:2 解剖学的形態異常を修正するためのPPS
1 小帯の付着異常を修正するための術式…51
2 歯槽堤の形態修正のための術式…52
チャート:3 補綴物と調和のとれた環境を獲得するためのPPS
1 深部う蝕の顕在化と臨床的歯冠長の延長…54
2 付着歯肉域の増加および獲得…56
第3章 歯周形成外科(PPS)のテクニック…61
PPSの実際―何を目標に行うか―…62
1 審美性を考慮したPPS…62
歯肉退縮の防止…62
間乳頭保存型フラップ[チャート1―1]…63
露出歯根面の被覆…67
1 半月状歯肉弁歯冠側移動術[チャート1―2]…67
2 遊離歯肉移植術[チャート1―2]…71
3 遊離結合組織移植術[チャート1―2]…71
エンベロップテクニックを用いた遊離結合組織移植術…79
4 組織誘導再生法[チャート1―2]…82
辺縁歯肉形態と位置の修正…93
1 歯肉切除術[チャート1―3]…93
2 骨切除を伴った歯肉弁根尖側移動術[チャート1―3]…95
2 解剖学的形態異常を修正するためのPPS…99
小帯の付着異常の修正…99
小帯切除術[チャート2―1]…99
歯槽堤の形態修正…101
1 欠損部歯槽堤の保存[チャート2―2]…101
2 歯槽堤増大形成術[チャート2―2]…104
2―1 歯槽堤の嚢状窩形成法(pouch形成法)…104
2―2 遊離結合組織と人工骨併用移植による歯槽堤増大法…107
2―3 遊離結合組織移植術による歯槽堤増大法…110
2―4 ロールテクニックを用いた歯槽堤増大法…116
3 補綴物と調和のとれた歯周環境を確保するためのPPS…121
深部う蝕の顕在化と臨床的歯冠長の延長…121
1 骨切除を伴った歯肉弁根尖側移動術[チャート3―1]…121
2 歯の再植による外科的挺出[チャート3―1]…126
付着歯肉域の増加および獲得…130
1 歯肉弁根尖側移動術[チャート3―2]…130
2 インプラント周囲の角化組織の獲得に応用した歯肉弁根尖側移動術[チャート3―1]…133
3 遊離歯肉移植術[チャート3―2]…135
4 ランガー ・ランガーテクニックを応用した遊離結合組織移植術[チャート3―2]…139
PPSの術後管理とメインテナンス…146
1 手術直後から抜糸までの期間の管理…146
2 抜糸から上皮化までの期間の管理…147
3 メインテナンス…147
1. メインテナンスの目的…147
2. メインテナンスの実際…147
手術用器具と材料…150
1 PPSの基本セット…150
2 縫合と歯周包帯用セット…157
歯周外科一覧…ix
手術用器具と材料一覧…162
和文索引…163
欧文索引…165
第1章 歯周形成外科(PPS)とは…1
はじめに…2
1 歯周治療におけるQOLとは…3
2 歯周治療のQOLとPPSの果たす役割…4
PPSの概念と定義…5
1 従来の歯周外科との相違点…5
2 PPSの適応症と術式の再検討…7
PPSの治癒像…8
1 治癒像からみたPPSの分類…8
1. 歯周外科の一般的な創傷治癒…8
2. 歯周組織の創傷治癒がもたらすもの…8
2 PPSの期待する創傷治癒とは…11
PPSの分類と定義…23
1 PPSの分類…23
1. 審美性の回復,改善を主目的としたPPS…23
2. 解剖学的形態異常を修正するためのPPS…23
3. 補綴物と調和のとれた歯周環境を獲得するためのPPS…24
2 PPSの定義…24
第2章 歯周形成外科(PPS)の診査と適応…27
PPSのための診査…28
1 PPSのための歯周組織の解剖…29
1. 歯肉と歯槽粘膜…29
2. 口腔前庭と小帯…30
3. 口蓋部組織…30
2 歯肉歯槽粘膜の異常に対する診査とその評価…32
1. 付着歯肉の喪失…32
2. 歯肉退縮…32
3. 歯肉の過度の露出…35
4. 欠損部歯槽堤の形態異常…38
5. インプラント周囲軟組織の問題…40
PPSへのアプローチと術式の選択…42
1 PPSを行う時期…42
1. 初期治療前にPPSを行う場合…42
2. 初期治療後にPPSを行う場合…44
3. 歯周炎に対する外科処置後にPPSを行う場合…44
2 治療目標によるPPSの分類とその選択…45
チャート:1 審美性を考慮したPPS
1 歯肉退縮の防止を考慮した術式…46
2 露出歯根面の被覆…48
3 辺縁歯肉形態と位置を修正するための術式…49
チャート:2 解剖学的形態異常を修正するためのPPS
1 小帯の付着異常を修正するための術式…51
2 歯槽堤の形態修正のための術式…52
チャート:3 補綴物と調和のとれた環境を獲得するためのPPS
1 深部う蝕の顕在化と臨床的歯冠長の延長…54
2 付着歯肉域の増加および獲得…56
第3章 歯周形成外科(PPS)のテクニック…61
PPSの実際―何を目標に行うか―…62
1 審美性を考慮したPPS…62
歯肉退縮の防止…62
間乳頭保存型フラップ[チャート1―1]…63
露出歯根面の被覆…67
1 半月状歯肉弁歯冠側移動術[チャート1―2]…67
2 遊離歯肉移植術[チャート1―2]…71
3 遊離結合組織移植術[チャート1―2]…71
エンベロップテクニックを用いた遊離結合組織移植術…79
4 組織誘導再生法[チャート1―2]…82
辺縁歯肉形態と位置の修正…93
1 歯肉切除術[チャート1―3]…93
2 骨切除を伴った歯肉弁根尖側移動術[チャート1―3]…95
2 解剖学的形態異常を修正するためのPPS…99
小帯の付着異常の修正…99
小帯切除術[チャート2―1]…99
歯槽堤の形態修正…101
1 欠損部歯槽堤の保存[チャート2―2]…101
2 歯槽堤増大形成術[チャート2―2]…104
2―1 歯槽堤の嚢状窩形成法(pouch形成法)…104
2―2 遊離結合組織と人工骨併用移植による歯槽堤増大法…107
2―3 遊離結合組織移植術による歯槽堤増大法…110
2―4 ロールテクニックを用いた歯槽堤増大法…116
3 補綴物と調和のとれた歯周環境を確保するためのPPS…121
深部う蝕の顕在化と臨床的歯冠長の延長…121
1 骨切除を伴った歯肉弁根尖側移動術[チャート3―1]…121
2 歯の再植による外科的挺出[チャート3―1]…126
付着歯肉域の増加および獲得…130
1 歯肉弁根尖側移動術[チャート3―2]…130
2 インプラント周囲の角化組織の獲得に応用した歯肉弁根尖側移動術[チャート3―1]…133
3 遊離歯肉移植術[チャート3―2]…135
4 ランガー ・ランガーテクニックを応用した遊離結合組織移植術[チャート3―2]…139
PPSの術後管理とメインテナンス…146
1 手術直後から抜糸までの期間の管理…146
2 抜糸から上皮化までの期間の管理…147
3 メインテナンス…147
1. メインテナンスの目的…147
2. メインテナンスの実際…147
手術用器具と材料…150
1 PPSの基本セット…150
2 縫合と歯周包帯用セット…157
歯周外科一覧…ix
手術用器具と材料一覧…162
和文索引…163
欧文索引…165