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アライナー矯正治療の未来を拓く,すべてのコデンタルスタッフへ
アライナー矯正治療をもっと身近に,もっと確実に
 2026年4月末現在,日本全国には約65,000軒もの歯科医院が存在し,その約1/3が矯正歯科を標榜しています.
 私が歯科衛生士として臨床の道に踏み出した2004年当時と比較すると,アライナー矯正治療を取り巻く環境は劇的な変化を遂げました.かつては特殊な治療法の1つでしたが,今や歯科治療における「標準的な選択肢」と捉えられています.
 この変化は,私たちコデンタルスタッフ(歯科衛生士,歯科助手,コーディネーターなど)に何をもたらしたでしょうか.
 それは,「求められる知識と役割の拡大」です.患者さんに最も近い距離にいる私たちには,今や20年前とは比較にならないほどの高度な専門知識と,複雑なニーズをくみ取るコミュニケーション技術が求められています.口腔内スキャナーの操作からアライナーの適合チェック,治療計画ソフトを用いた患者さんへの説明まで,求められる業務範囲は年々広がり続けています.
 しかし,アライナー矯正治療を学ぶ環境はどうでしょうか.学校教育における矯正歯科学の授業は依然として基礎的な講義が中心で,アライナー矯正治療に関する教育を受ける機会は,臨床実習での見学程度に限られているのが実情です.体系的にまとめられた教材も少なく,多くのスタッフは先輩の背中を見て手探りで知識を積み重ねています.そういった背景から,現場のスタッフの「もっと正しく学びたい」「自信を持って患者さんに接したい」という切実な声に応えるべく,本書は誕生しました.
 執筆に携わったのは,職種や環境は違えど,アライナー矯正治療の最前線で走り続ける9名のコデンタルスタッフです.日々の臨床で患者さんと向き合い,歯科医師の意図をくみ取り,それをわかりやすく伝えるために工夫を重ねてきた「生きた知恵」を,この1冊に凝縮しました.都市部の矯正専門クリニックから地域に根ざした一般歯科医院まで,それぞれ異なる現場で培われた知見だからこそ,明日からの臨床にそのまま活かせるヒントが詰まっています.
 本書は,アライナー矯正治療の基礎知識から,症例に応じた対応,患者さんとのコミュニケーションの工夫まで,臨床の一連の流れに沿って体系的に整理した,私たちの共通言語となる1冊です.初めてアライナー矯正治療に携わる方はもちろん,すでに経験を積んでいる方の復習や,後輩を育てる際の指針として,幅広く活用していただける内容となっています.各章は独立して読めるよう構成してあるので,必要な項目だけをその都度参照することもできます.
 最後にお願いがあります.本書を一度読んで棚に並べるだけで終わらせないでください.ぜひ,ユニットの傍らに置いてください.疑問が湧いた瞬間にページをめくり,気づいたことをどんどん書き込んでください.付箋が増え,カバーが擦り切れ,あなただけの「色」に染まった時,本書はただの書籍を超え,プロフェッショナルとしての自信を支える最強のパートナーになっているはずです.
 アライナー矯正治療の深い学びの世界へ,ともに一歩踏み出しましょう.
 2026年9月
 執筆者代表 穴沢有沙
 アライナー矯正治療の未来を拓く,すべてのコデンタルスタッフへ アライナー矯正治療をもっと身近に,もっと確実に(穴沢有沙)
1 アライナー矯正治療におけるスタッフの役割―なぜ,あなたの関わりが治療結果を左右するのか
 (穴沢有沙)
 アライナー矯正は「スタッフの関わり」が大きい治療
 アライナー矯正治療に関わる職種と役割
 スタッフに求められる3つの視点
 治療成功を左右するスタッフの「関与ポイント」
 患者さんを支える「チーム」の一員として
2 アライナー矯正治療の全体像を知ろう―スタッフが治療の流れを理解すると何が変わるのか
 (穴沢有沙)
 アライナー矯正治療の流れとスタッフの役割
 アライナー装着時間の重要性と患者さんへの伝え方
 ワイヤー矯正とアライナー矯正の違い
  1)ワイヤー矯正の通院間隔と来院時に行うこと
  2)アライナー矯正の通院間隔と来院時に行うこと
3 スタッフが知っておきたい不正咬合の基本
 (竹内桃加)
 矯正治療の目的
 不正咬合の種類
  1)主な不正咬合
  2)歯列弓形態の異常
  3)個々の歯の位置異常
  4)数歯にわたる位置異常
 不正咬合の分類
  1)Angleの分類
  2)骨格的な評価
 不正咬合の原因
  1)歯数の異常
  2)歯の形態異常
  3)口腔軟組織の形態異常
  4)萌出時期の異常
  5)口腔習癖
 アライナー矯正治療における配慮
  1)歯の形態による動きやすさ・動きにくさ
  2)患者説明での心がけ
4 歯の基本構造と歯が動くメカニズム
 (齋木夏子)
 歯の基本構造
  1)歯に関する用語
  2)歯の構造と歯を支えるしくみ
 歯はなぜ動くのか
  1)矯正治療で利用する代表的な「力」
  2)歯が動くメカニズム
  3)歯の動きの種類
  4)歯を動かす矯正力
  5)望まない歯の移動を抑える固定(アンカレッジ)
 矯正治療に伴うリスク
 Column 「ゴムかけってそんなに大事だったんですか!?」(白濱緋奈乃)
5 アライナー矯正治療を理解しよう
 (穴沢有沙)
 アライナー矯正治療において理解しておきたいこと
 アライナー矯正装置,アライナーチューイー
 アタッチメント
 IPR(歯間削合)
 エラスティックゴム
  1)エラスティックゴムの役割
  2)エラスティックゴムと固定(アンカレッジ)
  3)顎間固定
  4)臨床における注意事項
 アライナー矯正治療中のホームケア
 デジタルスキャンとデジタル治療設計
6 成長発育と1期治療・2期治療の基礎
 (清水南美・有本博英)
 1期治療・2期治療とは
 成長に伴う変化
  1)歯の生え替わり
  2)顎骨の成長
 1期治療の目的と適応
  1)1期治療の目的
  2)1期治療を検討すべき主な症例
 1期治療・2期治療をアライナーで行う場合の工夫
  1)アライナー矯正治療特有の注意点
  2)保護者の協力が必須
7 OCCの役割―患者さんと治療をつなぐ仕事
 (吉田美由希)
 OCCの役割
  1)OCCとは
  2)OCCの立ち位置
 初診矯正カウンセリングにおける関わり
  1)初診時の対応
  2)患者さんが迷う理由とその対応
  3)セカンドオピニオンの患者さんへの対応
 治療開始後の関わり
  1)治療中の支援
  2)治療の中断を防ぐ
  3)よくある失敗と改善点
  4)患者さんの不満・クレーム・相談への対応とトラブル予防
8 チーム医療におけるOCCの役割
 (岡村美佐子)
 情報共有の必要性と方法(SOAP)
  1)情報共有の必要性
  2)情報を同じ形で伝えるためのSOAPの基本
  3)アライナー矯正治療でのSOAPの活用
 院内での情報共有法
  1)申し送り
  2)チームミーティングの活用
 チーム医療を支える心理的安全性
 Column 「アライナーで口が閉じにくくなりませんか?」(奥川有莉香)
9 医療倫理と医療安全―信頼されるアライナー矯正治療の基礎
 (今西麻里江)
 医療倫理の基本原則(Why:なぜ必要か)
  1)医療倫理の4原則
  2)歯科医師法・歯科衛生士法における倫理的責務
  3)患者中心の医療(Patient-Centered Care)
 患者の権利とインフォームドコンセント(What:何を守るか)
  1)インフォームドコンセントの本質
  2)説明義務と患者の自己決定権
  3)チームで支えるインフォームドコンセント
 守秘義務と情報管理(Trust:信頼の担保)
  1)個人情報保護と診療情報の取り扱い
  2)無意識の漏洩の例
 医療安全とスタンダードプリコーション(Safety:事故を防ぐ)
  1)スタンダードプリコーション(標準予防策)
  2)感染リスクを低減するための対策
  3)歯科特有の感染リスクへの対策
 アライナー矯正治療に特有のリスク管理(Specialty)
  1)患者参加型装置の特性
  2)誤装着・装着時間不足による治療遅延
  3)アタッチメント関連リスク
 ヒューマンエラーとチーム医療(How:どう防ぐか)
  1)ヒューマンエラーの分類
  2)ダブルチェック,声かけ,仕組み化
  3)チームで高める医療安全
 トラブル発生時の対応(Action)
  1)インシデントとアクシデント
  2)アクシデント発生時の初期対応
  3)患者対応と信頼回復
10 スタッフが学び続ける意味とは
 (穴沢有沙・齋木夏子)
 学びを深める小さな積み重ね
 学び続けることで得られるもの
座談会 アライナー矯正治療とスタッフの役割
 (有本博英・賀久浩生・穴沢有沙)
 アライナー矯正治療を支えるスタッフの力
 アライナー矯正治療におけるチーム医療のあり方
 治療の成功につながるスタッフの関与ポイント
 矯正医が求めるスタッフ像
 この本を手にしたあなたへ

 索引
 執筆者一覧