やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
 顎関節症という病名が広く国民にも知れわたるようになり,「顎(あご)が痛い」,「顎から音がする」,「口が開かない」,という訴えで患者さんが歯科に来院するようになっています.歯科の大学の付属病院や大きな病院の口腔外科などでは,対応もスムーズに行われるようになりましたが,一般の開業医の先生方のところでは,なかなか対応に苦慮することも多く,本院の外来には開業医の先生から紹介状を持参する患者さんが多く来院しています.開業医の先生方にお話を聞くと,顎関節症は難しいといいます.それというのも,まずは顎関節症の症候,病態の発現様相が複雑で,明確な原因がわかりにくいことが挙げられます.また時代によって顎関節症の考え方や治療法が変遷しており 1),咬合の時代(1920~1950年頃),筋の時代(1950~1970年頃),筋の時代から関節の時代へ(1970~1980年頃),関節の時代から症型分類の時代へ(1980~1990年頃)などと,その時代に学んだ内容での対応が,現代ではエビデンスに沿っていない状況であることも混乱に拍車をかけていると思います.さらに顎関節症の疼痛症状の部分は口腔顔面痛という領域の一部と重なり,鑑別診断が難しい稀な事例も多いという声をよく聞きます.
 日本顎関節学会では,この状況を改善するために顎関節症の国際標準の検査,診断基準であるDiagnostic Criteria for Temporomandibular Disorders(DC/TMD) 2)をベースにした顎関節症の診断基準(2019)を策定し,それに沿った治療方針なども,学術大会や講演会で説明してきました.さらに,最近ではその内容をよりわかりやすくした「顎関節症診療を行うための手引き,簡易型質問票,診察・検査用紙,簡易診断・治療マニュアル」をホームページに掲載し,公開しています 3,4).
 食事や会話,趣味や仕事に深く関係する,顎関節の機能を障害する顎関節症は,私たち歯科医師がまずは患者さんの口腔内,口腔周辺の症状や徴候を確認する必要があります.すなわち,患者さんがまず来院するのは自宅近くの歯科医院です.そこで本書では,開業医の先生方向けに,なるべく平易な用語や図を多用し,わかりやすく理解しやすい本を提供したいと考えました.
 本書が,顎関節症の治療に携わる歯科医師,ならびに歯科衛生士の方々,そして関連する医療関係者の皆様のお役にたてば,大変うれしく思います.
 2026年6月
 小見山 道

 文献
 1)矢谷博文:補綴歯科領域における顎関節症治療法の歴史的変遷.日補綴会誌,4:229-245,2012.
 2)Ohrbach R編,矢谷博文,有馬太郎,石垣尚一,築山能大訳:顎関節症の診断基準(DC/TMD):評価インストゥルメント(日本語版).日本顎関節学会,2016.
 3)日本顎関節学会:顎関節症の診断基準(2019).(https://kokuhoken.net/jstmj/medical/file/recently/tmd_diag_criteria_2019.pdf)
 4)日本顎関節学会:顎関節症診療を行うための手引き,簡易型質問票,診察・検査用紙,簡易診断・治療マニュアル.2026.(https://kokuhoken.net/jstmj/medical/manual.html)
Prologue
 01 はじめに
  1 顎が痛い,顎から音がする,口が開かない,という患者さんが来院したら
 02 顎関節症の原因
  1 原因は,ハッキリしないことが多い
  2 報告されているリスク因子
診察・検査・診断編
 01 顎関節症とは
  1 顎関節症の患者の主訴とは
  2 初診時の評価について
 02 「顎が痛いです」「口が開きません」と来院した場合
  1 顎関節の確認
  2 顎関節痛障害
  3 咀嚼筋痛障害
 03 「顎がカクカクします」「口が開きません」と来院した場合
  1 顎関節円板障害
 04 「顎がミシミシします」と来院した場合
  1 変形性顎関節症
 05 顎関節症の臨床検査
  1 検査の方法
  2 痛みの場所の確認
  3 顎関節の触診
  4 咀嚼筋の触診
  5 開口路の観察
  6 開口距離の計測
  7 顎関節雑音の検査(開閉口運動時,側方運動時,前方運動時)
  8 口腔内の診察(咬合,上下歯列の接触状態)
  9 顎関節症の画像検査
   パノラマエックス線写真
   パノラマ顎関節撮影法(4分割)
   CT,MRI
  10 まとめ
 06 顎関節症と同じ症状を訴える疾患と鑑別することの重要性
  1 はじめに
  2 顎関節や咀嚼筋の痛みと同じ部位に痛みを発現するのは?
  3 開口障害を発現するのは?
  4 心理社会的検査
治療編
 01 はじめに
  1 基本治療の注意点
  2 原因療法と対症療法
 02 各病態に共通の対応
  1 顎関節症の病態説明
  2 疫学的説明
  3 治療計画と予後の説明
 03 顎関節症の原因療法
  1 リスク因子の説明とセルフケア指導
  2 生活指導(顎関節症の症状発現を疑う因子に対して)
  3 悪習癖の是正
  4 咬合に関する治療
 04 顎関節症の対症療法
  1 顎関節痛障害
   運動療法
   薬物療法
   顎関節可動域訓練(術者あるいは患者によるモビライゼーション)
   アプライアンス療法(スタビリゼーションアプライアンス)
  2 咀嚼筋痛障害
   咀嚼筋マッサージ
   咀嚼筋の開口ストレッチ
   薬物療法
   アプライアンス療法(スタビリゼーションアプライアンス)
   咀嚼筋の電気刺激療法
  3 顎関節円板障害
   顎関節の雑音
  4 復位性顎関節円板障害
   顎関節可動域訓練(モビライゼーション)
   関節円板の整位
  5 非復位性顎関節円板障害
   徒手的顎関節授動術(マニピュレーション)
   顎関節可動域訓練(モビライゼーション)
   アプライアンス療法(スタビリゼーション型,前方整位型)
   その他
  6 変形性顎関節症の対応
 05 専門治療と咬合治療
  1 顎関節症の専門治療
   咀嚼筋痛障害,顎関節痛障害が慢性疼痛化している場合の対応
   ブラキシズムへの対応
   関節円板の整復を目的とした保存的療法
   外科的療法
   心身医学・精神医学的な対応
  2 補綴歯科治療や矯正歯科治療(咬合治療)

 文献
 付録
 索引