やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 智歯抜歯は,口腔外科医が入局したての序盤に習得する手術手技で,外科の基本である切開,剥離,縫合から始まり骨削除,歯牙分割,抜去などの手技が詰まった手術である.また口腔外科処置の中でも,一般開業歯科クリニックで行う頻度が高く,比較的患者への侵襲の高い処置である.そのため術後の腫れや痛み,神経麻痺,出血,内出血によるあざなどさまざまな術後合併症によって,クリニックの評判にも影響を与えやすい処置だと思われる.
 医療法人社団横浜駅西口歯科では年間1万本以上の智歯抜歯を行っており,グループ医院の1つは智歯抜歯を専門に診療をしている.大学病院や総合病院の口腔外科ではない一般開業歯科クリニックである当院で行っている智歯抜歯の経験を生かして,本書では,クリニックで智歯抜歯を行う際に必要な知識と技術をコンパクトにまとめた.口腔外科が専門ではない初学者向けの基礎的な内容から解説し,特に臨床で苦慮する場面が多いであろう抜歯の手技や画像診断についてビジュアルに示すことを心がけた.どのような抜歯が困難な,いわゆる“はまりやすい智歯”なのか,トラブルにならないための注意点など,臨床に役立つポイントも盛り込んだ一冊となっている.
 本書の内容が,少しでも読者の臨床に役立てば幸甚である.
 2025年9月 大橋 豪・神部芳則
 はじめに
I章 医療面接・インフォームドコンセント
 (鈴木亮広)
 1 医療面接・インフォームドコンセントとは
 2 智歯抜歯の説明とインフォームドコンセント
 3 抜歯後の注意事項
II章 使用器具・器材の消毒と滅菌
 (山本麗子)
 1 標準予防策(スタンダードプリコーション)
 2 スポルディングの分類
 3 器具の処理エリア:ゾーニング
 4 洗浄
 5 滅菌
 6 保管
III章 智歯抜歯のための画像診断
 (米山洋太朗)
 1 下顎智歯の読影(1)智歯の傾斜(Winter分類)
 2 (2)智歯の歯根形態
 3 (3)垂直的深さ(Pell and Gregory分類)
 4 (4)前後的深さ(Pell and Gregory分類)
 5 (5)下顎管との位置関係
 6 (6)近心隣在歯の傾斜
 7 (7)歯根の鮮明さ
 8 上顎智歯の読影(1)智歯の傾斜
 9 (2)智歯の歯根形態
 10 (3)垂直的深さ
 11 (4)上顎洞との位置関係
 12 (5)近心隣在歯の位置・傾斜
 13 (6)歯根の鮮明さ
 14 画像による難易度評価
IV章 局所麻酔
 (井坂日名子)
 1 局所麻酔の種類
 2 局所麻酔薬の選び方
 3 麻酔が効きやすい人・効きにくい人
 4 麻酔のテクニック
 5 局所麻酔の合併症
V章 鎮静法
 (井坂日名子)
 1 全身麻酔と鎮静の違い
 2 鎮静法の種類
 3 鎮静法の適応
 4 鎮静法の禁忌
 5 当院での静脈内鎮静法の流れ
VI章 下顎埋伏智歯の抜歯
 (鈴木亮広)
 1 使用器具
 2 切開・剥離の基本手技
 3 切開線の設定
 4 歯冠抜去
 5 歯根抜去
 6 縫合
 7 通常萌出または軽度傾斜の半埋伏智歯
VII章 上顎埋伏智歯の抜歯
 (高原楠旻)
 1 埋伏歯の読影のポイント
 2 埋伏歯抜歯の手順(1)手術野の確保・ポジション
 3 (2)切開・剥離
 4 (3)骨削除・抜去・縫合
 5 口蓋側に埋伏した智歯
VIII章 術後合併症と偶発症
 (錦織晴恵)
 1 術後合併症,偶発症とは
 2 術後合併症と対応
IX章 注意が必要な全身疾患
 (井坂日名子)
 1 高血圧症
 2 糖尿病
 3 抗血栓療法患者
 4 心臓疾患
 5 感染性心内膜炎
 6 脳疾患
 7 呼吸器疾患
 8 腎臓疾患
 9 肝臓疾患
 10 婦人科疾患
 11 甲状腺疾患
 12 精神疾患
 13 薬剤関連顎骨壊死
 14 関節リウマチ
X章 アシスタントの役割
 (作山愛里)
 1 初診時
 2 術前
 3 術中
 4 術後
 5 安全な抜歯を行うために

 補論1 抜歯を行う前にもう一度確認しよう! 外科の基本操作(大橋 豪)
 補論2 下顎智歯に対するコロネクトミーの有用性―下歯槽神経損傷回避の観点から―(高原楠旻)
 補論3 智歯抜歯後の偶発症に関する文献的考察―画像所見と下歯槽神経損傷の関係―(神部芳則)

 索引
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