はじめに
医療の長足の進歩により,従来多くの人々の命を奪った疾患や事故からの救命率の向上は目覚ましいものがあります.しかしながら,その一方では,救命後に生じた障害のために,社会参加できない人々は増加の一途となっています.このような社会参加を阻害する原因の一つとして,音声言語機能と摂食嚥下機能の二つの口腔機能の障害があります.
日本では,身体運動機能の障害への対応の必要性については社会全体として理解があるものの,口腔機能の障害については,口腔疾患に付随する障害としての認識に留まり,口腔機能障害に直接対応することについてはほとんど顧みられていないのが現状です.身体運動機能のリハビリテーションには,装具や装置によって効果を支援することも広く知られていますが,口腔機能の障害に装具や装置を用いたリハビリテーションはほとんど行われていません.
一方,スピーチエイド,軟口蓋挙上装置,舌接触補助装置,CM床等の多種多様な口腔内装置が口腔機能障害に用い得るとされています.しかし,これらの装置の一部は保険医療の対象とされているにもかかわらず,口腔機能のリハビリテーションに広く用いられているとは思えません.この理由は,一般的にこれらの装置の作製後の完成形が紹介されているに過ぎず,装置を用いたリハビリテーションに必要な生理学に基づいた合理的な作製方法,適応症,プログラムの構成方法等が体系化されていないこと,関連する理論が構築されていないことにあるのではないかと思います.その結果,歯学教育の現場においてさえも教育されていないという奇妙なことになっており,必然的にリハビリテーション職との間で連携がほとんどみられてはいません.
既に日本では,歯科疾患を治療するだけで患者さんの社会参加を支援できた時代ではなくなっています.つまり,口腔機能の障害で社会参加が阻害されている人々を支援する時代に突入しており,口腔内装置による口腔機能障害への対応は歯科から行うことが可能な社会参加支援の一つであるといえるのです.
本書では,口腔機能のリハビリテーションの効果を増強できる口腔内装置の作製方法,リハビリテーションプログラムの構成方法について,関連する解剖学・生理学に基づいて解説し,多職種連携を担う歯科医師の養成に資するよう著しています.なお,顎顔面欠損に対する顎補綴装置については,既刊書が利用できるため割愛します.
本書が口腔機能障害と向き合う多くの歯科医師の一助となり,そして本書が一人でも多くの患者さんの社会参加を助することにつながれば幸いです.
2025年8月
舘村 卓
医療の長足の進歩により,従来多くの人々の命を奪った疾患や事故からの救命率の向上は目覚ましいものがあります.しかしながら,その一方では,救命後に生じた障害のために,社会参加できない人々は増加の一途となっています.このような社会参加を阻害する原因の一つとして,音声言語機能と摂食嚥下機能の二つの口腔機能の障害があります.
日本では,身体運動機能の障害への対応の必要性については社会全体として理解があるものの,口腔機能の障害については,口腔疾患に付随する障害としての認識に留まり,口腔機能障害に直接対応することについてはほとんど顧みられていないのが現状です.身体運動機能のリハビリテーションには,装具や装置によって効果を支援することも広く知られていますが,口腔機能の障害に装具や装置を用いたリハビリテーションはほとんど行われていません.
一方,スピーチエイド,軟口蓋挙上装置,舌接触補助装置,CM床等の多種多様な口腔内装置が口腔機能障害に用い得るとされています.しかし,これらの装置の一部は保険医療の対象とされているにもかかわらず,口腔機能のリハビリテーションに広く用いられているとは思えません.この理由は,一般的にこれらの装置の作製後の完成形が紹介されているに過ぎず,装置を用いたリハビリテーションに必要な生理学に基づいた合理的な作製方法,適応症,プログラムの構成方法等が体系化されていないこと,関連する理論が構築されていないことにあるのではないかと思います.その結果,歯学教育の現場においてさえも教育されていないという奇妙なことになっており,必然的にリハビリテーション職との間で連携がほとんどみられてはいません.
既に日本では,歯科疾患を治療するだけで患者さんの社会参加を支援できた時代ではなくなっています.つまり,口腔機能の障害で社会参加が阻害されている人々を支援する時代に突入しており,口腔内装置による口腔機能障害への対応は歯科から行うことが可能な社会参加支援の一つであるといえるのです.
本書では,口腔機能のリハビリテーションの効果を増強できる口腔内装置の作製方法,リハビリテーションプログラムの構成方法について,関連する解剖学・生理学に基づいて解説し,多職種連携を担う歯科医師の養成に資するよう著しています.なお,顎顔面欠損に対する顎補綴装置については,既刊書が利用できるため割愛します.
本書が口腔機能障害と向き合う多くの歯科医師の一助となり,そして本書が一人でも多くの患者さんの社会参加を助することにつながれば幸いです.
2025年8月
舘村 卓
本書掲載装置のキーポイント
I 舌接触補助装置(PAP:palatal augmentation plate)(PRP:palatal reshaping plate)
1.はじめに
2.舌と口蓋が接触できない原因
1)器質的原因
a)舌に原因がある場合
b)口蓋に原因がある場合
2)機能的原因
3.解剖学と生理学から考える合理的な作製法
1)関連する解剖学と生理学
2)作製手順
4.リハビリテーション
5.こんなPAPは効果がない
MEMO-(1) 口蓋帆張筋と上顎総義歯後縁の位置
MEMO-(2) 舌の運動療法
II CM床(Castillo-Morales装置)
1.はじめに
2.関連する生理学
3.作製手順
1)印象採得,口蓋床作製
2)設計
a)ワイヤビーズ型
b)コーン型
c)コーン型変法
3)ワイヤビーズ型CM床作製法
4.完成後の観察点と調整
5.こんなCM床は効果がない
III 口蓋帆咽頭(いわゆる鼻咽腔)閉鎖不全症(VPI)に対する装置(PLP:palatal lift prosthesis,スピーチバルブ等)
1.口蓋帆咽頭(いわゆる鼻咽腔)閉鎖機能(VPF)とは
1)マクロにみたVPF運動
2)VPFを担う筋群
3)軟口蓋に分布する筋における筋紡錘の局在性
2.VPIの原因
1)VPFを担う筋群の機能を障害する器質的,機能的原因
2)軟口蓋運動を制限する関連筋以外の問題
3)運動調節様相の誤学習
4)筋疲労(Stress-VPI)
3.VPIに対する装置(1) 軟口蓋挙上装置(PLP)
1)適応
2)解剖学と生理学から考える合理的なPLP作製法
a)事前検査
b)印象採得
c)クラスプ
d)口蓋床の設計
e)口蓋床の試適と慣熟装着
f)挙上子の形態
g)挙上子の段階的延長
h)挙上子延長後の検査
i)装置によるVPF賦活のためのプログラム
j)こんなPLPは効果がない
4.VPIに対する装置(2) スピーチバルブ
1)適応
2)解剖学と生理学から考える合理的なバルブ型装置の作製法
a)器質欠損がないものの軟口蓋が短小化している場合のバルブ装置
b)軟口蓋に器質欠損がある場合のバルブの形状
3)完成後の介入―バルブ削除のためのプログラム
4)こんなバルブ装置は効果がない
a)Under and Up型
b)Movable型
c)Meatus型
d)口蓋平面がバルブを横切らない装置
e)バルブが軟口蓋を上方から押さえ付ける形状の場合
MEMO-(3) ALSでのVPIに用いるPLP
MEMO-(4) 軟口蓋挙上レベルについての考察
MEMO-(5) High pressure sentenceとlow pressure sentence
MEMO-(6) Under and Up型装置
MEMO-(7) 軽度,中等度,重度の閉鎖不全という分類はあるのか
IV 口唇プレート(Lip bumper)
1.はじめに
2.関連する生理学
3.適応
4.口唇プレートの種類と口唇機能賦活療法
1)バー付きプレート
2)マウスピース型装置
5.こんなlip bumperは効果がない~ボタンプルエクセサイズは効果があるのか
MEMO-(8) 口唇閉鎖訓練時間
文献
インフォメーション―TOUCHのご案内―
索引
I 舌接触補助装置(PAP:palatal augmentation plate)(PRP:palatal reshaping plate)
1.はじめに
2.舌と口蓋が接触できない原因
1)器質的原因
a)舌に原因がある場合
b)口蓋に原因がある場合
2)機能的原因
3.解剖学と生理学から考える合理的な作製法
1)関連する解剖学と生理学
2)作製手順
4.リハビリテーション
5.こんなPAPは効果がない
MEMO-(1) 口蓋帆張筋と上顎総義歯後縁の位置
MEMO-(2) 舌の運動療法
II CM床(Castillo-Morales装置)
1.はじめに
2.関連する生理学
3.作製手順
1)印象採得,口蓋床作製
2)設計
a)ワイヤビーズ型
b)コーン型
c)コーン型変法
3)ワイヤビーズ型CM床作製法
4.完成後の観察点と調整
5.こんなCM床は効果がない
III 口蓋帆咽頭(いわゆる鼻咽腔)閉鎖不全症(VPI)に対する装置(PLP:palatal lift prosthesis,スピーチバルブ等)
1.口蓋帆咽頭(いわゆる鼻咽腔)閉鎖機能(VPF)とは
1)マクロにみたVPF運動
2)VPFを担う筋群
3)軟口蓋に分布する筋における筋紡錘の局在性
2.VPIの原因
1)VPFを担う筋群の機能を障害する器質的,機能的原因
2)軟口蓋運動を制限する関連筋以外の問題
3)運動調節様相の誤学習
4)筋疲労(Stress-VPI)
3.VPIに対する装置(1) 軟口蓋挙上装置(PLP)
1)適応
2)解剖学と生理学から考える合理的なPLP作製法
a)事前検査
b)印象採得
c)クラスプ
d)口蓋床の設計
e)口蓋床の試適と慣熟装着
f)挙上子の形態
g)挙上子の段階的延長
h)挙上子延長後の検査
i)装置によるVPF賦活のためのプログラム
j)こんなPLPは効果がない
4.VPIに対する装置(2) スピーチバルブ
1)適応
2)解剖学と生理学から考える合理的なバルブ型装置の作製法
a)器質欠損がないものの軟口蓋が短小化している場合のバルブ装置
b)軟口蓋に器質欠損がある場合のバルブの形状
3)完成後の介入―バルブ削除のためのプログラム
4)こんなバルブ装置は効果がない
a)Under and Up型
b)Movable型
c)Meatus型
d)口蓋平面がバルブを横切らない装置
e)バルブが軟口蓋を上方から押さえ付ける形状の場合
MEMO-(3) ALSでのVPIに用いるPLP
MEMO-(4) 軟口蓋挙上レベルについての考察
MEMO-(5) High pressure sentenceとlow pressure sentence
MEMO-(6) Under and Up型装置
MEMO-(7) 軽度,中等度,重度の閉鎖不全という分類はあるのか
IV 口唇プレート(Lip bumper)
1.はじめに
2.関連する生理学
3.適応
4.口唇プレートの種類と口唇機能賦活療法
1)バー付きプレート
2)マウスピース型装置
5.こんなlip bumperは効果がない~ボタンプルエクセサイズは効果があるのか
MEMO-(8) 口唇閉鎖訓練時間
文献
インフォメーション―TOUCHのご案内―
索引














