やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

推薦のことば
 急速な医学の進歩で,専門性に特化した専門医療を提供する医療機関が増えてきました.その結果,異なる専門分野へ患者を紹介することが多くなり,他診療科との情報共有が重要になってまいりました.しかしいざ紹介状を書こうとすると,専門外の診療科の専門用語がわからない,うまくニュアンスが伝わらないといった場面に,日常臨床ではしばしば直面します.特に医師は歯科医師に診療情報をどのように提供すればよいかを熟知しておらず,歯科医師は医師からの診療情報提供書の理解に困ることもあるでしょう.老年医学の観点から申し上げますと,一人の患者が複数の疾患を抱え,ポリファーマシーの問題からも,患者の状況理解をより困難にしていると思われます.
 近年重要視されている医療安全の観点からも,質の高い診療情報の共有・診療情報提供書が必須ですが,いざ本屋を見てみても,ネットを見てみても診療情報提供書の書き方を教える書籍は少なく,ましてや医師─歯科医師間における診療情報提供書の指南書という書籍はこの書籍以外見たことがありません.その理由の一つは,おそらく医師側と歯科医師側の両者を理解できる人が少ないからでしょう.その意味では,歯科医師であり総合診療科の医師である栗橋健夫氏が,両者の立場に立った視点から,このようなきめの細かい指南書を執筆されたことは,時宜を得た仕事と思われます.この書籍が多くの歯科医師に利用され,医師─歯科医師間における患者の医療情報に対する理解が深まることを確信しております.ぜひ皆様の診察室に一冊置いていただき,こちらの本をお読みになりながら診療情報提供書を書いていただければと思います.
 東京医科大学 高齢総合医学分野 主任教授
 清水聰一郎


推薦のことば
 医療現場において,適切な問診と情報のやり取りは,診断と治療の成否を大きく左右します.本書『かしこい問診の仕方,照会状の書き方・読み方』は,医科領域の情報を歯科医師向けにわかりやすく示した実践的な指南書として好評を博し,このたび改訂版となりました.
 問診は,患者の状態を正確に把握するための第一歩であり,照会状のやり取りは,医療者間のスムーズな連携を支える重要な役割を担っています.これらは,医科歯科連携治療の礎となる重要なプロセスです.本書では,患者の真意を引き出すための質問の組み立て方や信頼関係を築くコツ,さらに,医師に的確な情報を伝える照会状の書き方,また相手の意図を正確に読み取るポイントを,歯科医師の視点を交えながら解説しています.内科医としてだけでなく,歯科医師にとって何が重要なのかを具体的に語りかけており,現場ですぐに役立つ実践的な知識が満載です.
 また,感染症に関する章では,コロナ禍において神奈川歯科大学附属横浜クリニックで感染症対策の陣頭指揮を執ってきた著者ならではの視点から,これからの歯科診療における新たな感染症対策の指針を示しています.
 問診や照会状の作成に悩むすべての歯科医師にとって必携の一冊です.日々の歯科診療をよりスムーズに,より効果的にするために,ぜひ本書を手に取ってみてください.歯科医療に携わるすべての方に,自信をもってお薦めします.
 神奈川歯科大学付属横浜クリニック・横浜研修センター 院長
 神奈川歯科大学 歯科補綴学講座 クラウンブリッジ補綴学分野 主任教授
 木本克彦


第2版 はじめに
 照会状(診療情報提供書)の書き方というスタイルで,内科全体の教科書を歯科医師のためにわかりやすくコンパクトに執筆した初版は,たくさんの皆様に読んでいただき好評を得ました.体系的に内科学や外科学を歯学部時代に学んでいても,病態生理の解明やゲノム解析などにより疾患概念は急速に変化し,5~6年もするとその知識が役に立たなくることが多々あるとご理解いただけたことと思います.
 2019年に入ってから,新型コロナウイルス感染症COVID-19の世界的大流行が起きて,歯科界を含むすべての医療機関や福祉施設,社会生活まで一変してしまいました.歯科医師の先生方や医療スタッフに,感染症対策について免疫学の基礎からわかりやすく解説する必要があることを強く感じ,本書を改訂する運びとなりました.地球規模では新興感染症や再興感染症は5~6年のサイクルでアウトブレイクしています.ある意味で感染の侵入門戸としての口腔衛生管理が再認識され,皆様の感染症対策のグレードアップが地域医療全体での感染防止につながると確信しています.今回,「感染症」の節では,視点を変えて東京科学大学の赤石 雄先生にお願いし,一部をわかりやすくご解説いただきました.皆様の,日常臨床で大きな武器になるに違いありません.
 初版でお話しさせていただいたように,内科医は症状を伴う急患以外の患者さんには,高血圧,不整脈,糖尿病など生命に直結する疾患であっても,病状が安定していれば2~3カ月ごとの投薬のために年に4~6回ぐらいしかお会いしません.1口腔単位で,治療を開始して毎週患者さんとお会いする歯科医師の方が,患者さんの微妙な変化に気がつきやすいのです.未治療の高血圧,糖尿病などの患者さんを見つけるだけではなく,歯科疾患の症状と思っていた兆候が消化器疾患や悪性疾患がその原因であることに気がつけば,救える命があることを本改訂にて具体的に追加してみました.歯科医師だからこそ,プライマリ・ケア医として活躍できるチャンスが多々あります.逆に,何よりもその病気の疾患概念すら知らなければ,疑うことすらできません.歯学部時代の恩師の言葉「知識は良心」という言葉を毎日,噛みしめています.
 さらに,超高齢社会で散見するPTPシート誤嚥時の対処法や針刺し事故の対応について,実践的な説明を加えました.

 本書が,歯科医療を支えているすべての医療人の礎になることを願ってやみません.また,コロナ禍以降の混乱と,内科全科を網羅する本書において各分野のガイドラインが常に変わっていくという現実に当惑しながらも,辛抱強くお付き合いいただきました医歯薬出版の関係各位に御礼申し上げます.

 2026年1月吉日
 神奈川歯科大学附属横浜クリニック 内科 診療科教授
 東京医科大学病院 総合診療科
 医師・歯科医師 歯学博士 栗橋健夫


はじめに(初版)
Wake Up Dentist! 歯科医師は,プライマリ・ケア医たれ!
 筆者が医学部卒業後,医師として初めて他科からいただいた診療情報提供書は,歯科医師からの照会状でした.照会状を持参してきた糖尿病と高血圧で治療中の患者さんについて,「抜歯をするにあたり,可否と注意点をお知らせください」ということだけが書かれた,たった2行の照会状でした.自分はたまたま歯科医師でもありますから,その場で患者さんに抜歯の部位や抜歯が必要になった経緯を尋ねて,担当医の希望に沿った返信を作成したことを覚えています.
 実際,一般の医師で歯を抜くところを見たことのある人は皆無に近いのが現実です.したがって,医科の現場では抜歯やインプラント治療,歯周外科処置でどの程度出血するのか想像もつかないのが現実です.そのような状況で歯科から送られてくる,目的の明確でない漠然とした内容の照会状や診療情報提供書にどうやって返書をするか悩ましく思っている医師が多いのです.
 では,何故そんなことが起きてしまうのでしょうか.大まかにいうと,
 (1)高血圧,糖尿病,脂質異常症などの全身疾患の治療のため内服薬を4~6剤以上飲んでいる人が多く,現状が複雑(ポリファーマシーの問題)
 (2)3~5年ぐらいのスパンで内科領域の疾患概念や治療法が激変することも多くなり,次々と内服薬が変更されるケースも多い
 (3)一般医師に歯科治療の知識がほとんどないの3点に尽きると思います.
 つまり,実は医学という体系が歯科医学に比べて未完成で,疾患概念や標準治療が3年から5年ごとに変化しているので,歯科医師が過去に得た医学の知識がすでに古いものとなり現状に合わなくなってきているため,医師と歯科医師のやりとりに齟齬が生じていると考えられるのです.
 そこで,本書籍ではいくつかの診療情報提供書と返書の実例を示して,さらに代表的な内科疾患の標準治療の概要をわかりやすく解説し,「結局歯科医師は何を知っていればいいのか」一刀両断にまとめています.筆者が,歯科医師としての立場で内科主治医へ照会状を書き,同じ患者さんの返書を内科医としての立場で書き,さらに救急時の対処法や紹介法まで実例をもとに解説しました.
 筆者の記憶では,歯科医院での初診時の問診票や,もらった紹介状の読み方を解説している書籍は皆無です.そして,この本では返書を通して,読み方を解説し,気が付けば標準内科治療の肝キモを会得できることがねらいです.

 歯科医師を理解している内科医として思うことは,「歯科医師こそが,プライマリ・ケア医を担うべき! Wake UP Dentist!」ということです.「ヒッカムの格言」という臨床診断の原則があります(Hickam's dictum:50歳以上では1つの疾患だけにかかっているとは限らないと肝に銘じること.本書105ページ参照).
 とある歯科医師から,下顎の痛みを主訴に受診した78歳の男性について該当歯が見当たらないということで内科疾患を疑い,筆者のクリニックに紹介していただきました.その患者について問診などを進めると,痛みにピークはなく持続しているとのことで,心電図をとると急性心筋梗塞でした.すぐに救急車でCCU(循環器疾患に対するICU)のある病院へ搬送し,前下行枝から回旋枝にも梗塞が拡大する寸前にカテーテルインターベンションで救命することができました.「ヒッカムの格言」がいうように,高齢の患者では一つの症状(この場合は歯痛)の裏に複数の原因が隠れているかもしれないことを疑い,適切な対応に至ったものといえます.ちなみに,患者を紹介してきた歯科医師は,筆者のセミナーの受講者でした ※.
 超高齢化に伴い,総合内科医は不足しています.患者さんに薬を処方するのは最短でも30日,長ければ90日の処方となり,この場合,年に4回しか患者さんは医師に会いません.一方で,歯科において一口腔単位で治療を開始すると,毎週患者さんと会っていたとしても,全ての治療が終了するのに3年程度かかることもあります.つまり,歯科医師こそが,未治療の高血圧や糖尿病などの疾患を見つける,プライマリ・ケア医としての役割を果たすチャンスが多いのです.しかし,何よりも疾患自体を知らなければ,疑うことすらできなという厳しい現実もあります.「知識は良心」という歯科大時代の恩師の言葉を噛みしめる毎日です.
 本書は筆者にとって初めての試みですので,至らない点も多々あることと存じます.皆様からの積極的なご批判やご意見をいただければ幸いです.

 神奈川歯科大学附属横浜クリニック 内科診療科長 特任教授
 東京医科大学病院 総合診療科
 医師・歯科医師 歯学博士 栗橋健夫

 ※神奈川歯科大学附属横浜クリニック:「歯科医師のための内科学」セミナー
 http://www.hama.kdu.ac.jp/medical_relation/seminar/open_seminar/internal_schedule.html
 推薦のことば(清水聰一郎)
 推薦のことば(木本克彦)
 第2版 はじめに
 はじめに(初版)
1章 問診票と診療情報提供書(照会状・紹介状)の意義と目的
 (1)問診票の意義と目的
 (2)診療情報提供書(照会状・紹介状)の意義と目的
 (3)問診票を読み,診療情報提供書を書くために必要な知識とは?
2章 知っておきたい医科疾患の疾患概念と標準治療
 1.高血圧症
 2.循環器疾患
 3.内分泌・代謝疾患(糖尿病・甲状腺疾患)
 4.神経疾患
 5.呼吸器疾患
 6.腎泌尿器疾患
 7.消化器疾患
 8.血液疾患
 9.感染症
 10.周産期と婦人科疾患
 11.膠原病
 12.精神疾患
3章 かしこい照会状の書き方・診療情報提供書の読み方
 (1)照会状のポイント
 (2)照会状・診療情報提供書の実例
4章 歯科医院での救急対応の実際と診療情報提供書
 (1)どこからが救急なのか?…日頃から意識するポイント
 (2)バイタルサイン…バイタルの逆転とは?
 (3)失神と意識障害,てんかん
 (4)初期対応の基礎…備えあれば憂いなし
 (5)歯科医院からの診療情報提供書の実例
5章 検査データの読み方と用語・略語解説,抗菌薬の略語
 (1)検査値の読み方
 (2)頻繁に用いられる用語・略語集
 (3)抗菌薬の略語

 文献一覧

 コラム:歯科医師こそがプライマリ・ケア医!!~オッカムか,ヒッカムか?~