やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
 口腔習癖についての講演をすると,聴講者の皆さんからの感想や質問として,「口腔習癖の診断が難しい」「口腔習癖,口腔機能の理論が理解しにくい」「実際の機能訓練の進め方がよくわからない」「機能訓練で改善しない,効果がわかりにくい」など多くの悩みを聞きます.口腔習癖が原因となる開咬の改善は,実際に取り組もうとしてもとっつきにくく,機能訓練の選択も難解で,なかなか成果が出ないことも多いです.実際に当院でもすべての症例が治っているわけではなく,簡単に治る症例などほとんどないため,日々の治療成果を上げるために毎日悪戦苦闘しています.そこで,本書では口腔習癖に携わる皆さんがスムーズに取り組めるように,可能な限りわかりやすく,そしてより実践的に説明していきたいと思います.
 前半の診断のパートでは,口腔機能の理論と,開咬の原因となる口腔習癖の診断を丁寧に解きほぐしていきます.さまざまな口腔習癖が絡み合った結果として歯列が織りなされていくので,歯列や周囲の口腔機能を観察することで,口腔習癖が診断できるようにしていきましょう.
 口腔習癖が診断できたら,機能訓練を進めていくことになります.機能訓練を進めるとき,マニュアルの機能訓練をただこなすだけになっていませんか? 教科書などから機能訓練を適当に選んで,マニュアルのままそれと同じようにこなすのではなく,なぜその機能訓練を行うのかを考えて,選択する必要があります.また,開咬という状態は同じでも,その子によって必要な対応も異なってきます.達成すべき目標を理解し,一人ひとりに合わせてカスタマイズしていきましょう.実際に訓練を始めても,子どもたちの反応も本当にさまざまですし,術者側にも個性があります.教科書的な訓練の手法はどこにでも書いてあるかと思いますが,多くの子どもたちの心に実際にアクセスするためには,ときには具体的な経験談である「機能訓練あるある話」が役に立ちます.そこで,当院で機能訓練に関わっている歯科衛生士たちから生の声を集め,本書でお届けしようと思いました.機能訓練の理論や目標をある程度理解したうえで,実際の現場の「すったもんだ」を公開して共有することで,子どもたちに伝わる機能訓練を届ける一助になるのではないかと期待しています.
 後半の機能訓練のパートでは,機能訓練ごとに当院の歯科衛生士たちが何を考え,何に気をつけて訓練を行っているのか,具体例や勘所を余すことなく書いたつもりです.参考にしていただきながら,その子に合った訓練をみつけてあげてください.ツボは意外なところにあるのかもしれません.
 当院内でもまだまだ試行錯誤中ですが,「結果が出せる機能訓練」を目標に,機能訓練未経験の医院でも的確な機能訓練ができるように,本書が読者の方々の「道標」となることを願っています.
 令和8年3月 河井 聡
 序文
1章 はじめに~開咬へのアプローチ
 歯列形態を決める要素
 口腔機能が歯列へ及ぼす影響
 開咬とは
 開咬のメカニズム
 開咬への対応は?
 口腔習癖を改善する機能訓練
 子どもの年齢と関わり方
 乳歯列期の問題は,何も対応しなければ永久歯列に引き継がれる
 口腔内の問題をアイコンで見える化して,臨床に活用する
2章 開咬の診断と対応
 診断のためのフローチャート
 Step1 上下の歯の間に何を挟んでいるか?
  Step1-1 指,爪,タオルなどを挟んでいる
   1)指しゃぶり
   2)咬爪癖
   3)おしゃぶり
   4)タオル,ぬいぐるみなど
  Step1-2 口唇を挟んでいる
  Step1-3 舌を挟んでいる
 Step2 舌位は?
  Step2-1 低位舌を伴わない舌突出癖
   1)主に歯列形態の問題が先行することで生じる舌突出癖
    (1)指しゃぶりによる開咬から移行して生じた舌突出癖
    (2)乳歯の早期脱落,永久歯の萌出遅延部への舌突出癖
    (3)歯の問題部位を気にして触るような舌突出癖
   2)弄舌癖
  Step2-2 低位舌
 Step3 低位舌の原因は?
  Step3-1 呼吸診断
   1)鼻が通るか?
    (1)鼻がまったく通らない場合
    (2-1)鼻の通りには抵抗があり,口呼吸である場合
    (2-2)鼻はある程度通るが,口呼吸である場合
   2)口唇閉鎖ができているか?
  Step3-2 嚥下診断
   1)舌がスポットポジションに届くか?
    (1)舌小帯強直症~舌小帯が張っていて,舌がスポットポジションに届かない
    (2)舌の動きが悪い~舌をスポットポジションに動かせない
   2)ポッピングポジションで舌の筋力が弱いかどうか?
    (1)舌の筋力が弱い
    (2)舌後方部の筋力が弱い
   3)水飲みテストで唾液が漏れるかどうか?
    (1)異常嚥下癖~正常嚥下ができない
    (2)異常嚥下癖~意識をすれば正常嚥下ができるが,定着していない
  Step3-3 構音障害
 Step4 舌癖に併発する口腔習癖は?
   1)口唇閉鎖不全
   2)咬合力が弱い
 診断まとめ
 Column
  ライナスの毛布
  「舌癖」「口腔習癖」とは?~ことばの話
  「低位舌」とは?~ことばの話
  舌下免疫療法のすすめ
  日本小児歯科学会の舌小帯切除に関するポジションステートメント
  側方開咬
  ことばの問題への対応は難しい
3章 開咬に対する機能訓練
 機能訓練を始める前に……機能訓練を行う際の術者の心得は?
 親の協力,子どもとの信頼関係の構築が大事!
 3章の見方
 (1)スポットトレーニング
 (2)前合わせ・正中合わせトレーニング
 (3)フルフルスポット&リップトレーサー
 (4)ガーグルストップ
 (5)鼻唄
 (6)鼻呼吸テープ
 (7)風船膨らまし
 (8)りっぷるとれーなー
 (9)割り箸くわえ
 (10)ポッピング
 (11)ガムトレ口蓋
 (12)ペコぱんだ
 (13)ミッドアンドスティック
 (14)ポスチャー
 (15)ドラッグバック
 (16)ゼリートレーニング
 (17)ガムトレーニング
 乳幼児期でもできる機能訓練
  ブクブクうがい
  ガラガラうがい
  鼻唄
  ポッピング
  風船膨らまし
  吹き戻し
  ストローブクブク
  シャボン玉
  にらめっこ(変顔)
  早口ことば
  あいうべ体操
  風船ガム
 歯科衛生士の実感~機能訓練の悩み
  子どもの性格や家庭環境による対応の違い
  時期的な問題
  機能訓練の悩み
 Column
  低位舌と二重あご~二重あご改善をモチベーションの源に
  機能訓練をどのように評価するか?
  口蓋扁桃肥大とアデノイド肥大
  Amazonで最近みつけた,子ども用のかわいい鼻呼吸テープ
  口輪筋トレーニングの補足の機能訓練~ブクブクうがい
  舌の姿勢と身体の姿勢
  気付きのためのシール
  最近ガムは不人気ですが……最強機能訓練「ガムトレ口蓋」
  口腔習癖は全部治せるのか?
  口腔機能発達不全症と口腔機能低下症
  ミューイング界隈
  モチベーションを保つために~記録を残す
  MFTと機能訓練
  チームで挑む
  幼児期の食物による窒息事故
  保険診療における,口腔機能発達不全症としての開咬に対する対応
 若手DHの実感 口腔機能訓練に関わってみて
 若手DHの実感 興味ゼロからの挑戦
4章 実際の症例
 Case1 前歯部交換期に異常嚥下癖が悪化した症例
 Case2 側方開咬が最後まで残った症例
 Case3 一度開咬が改善したが,側方歯群交換期に開咬が再発した症例
 Case4 乳前歯の早期脱落によって,異常嚥下癖が生じた症例
 Case5 叢生の問題もあり,拡大床を併用した症例
 Column
  必ずしも治せない子もいる
  コロナ禍の口腔機能に対する影響
 経過が悪い症例
  来院が途絶えた間に異常嚥下癖が再発し,開咬が悪化した症例(1)
  本人の機能訓練に対するモチベーションが上がらない症例
  開咬がきちんと治りきっていない症例~一部でも口腔習癖が改善していれば,それをきちんと評価する
  来院が途絶えた間に異常嚥下癖が再発し,開咬が悪化した症例(2)
附章
 青年期における対応
   症例1 成人になってから,小臼歯抜歯してブラケットで対応した症例
   症例2 最も開咬量が大きかった症例
 成人における対応
  1)成人における開咬の影響~将来のリスク症例を見分ける
   症例1,症例2 咬合力が弱い症例
   症例3 咬合力が強く,前後的グラインディングがある症例
   症例4 強い側方グラインディングがある症例
   症例5 前後的グラインディングがあり,生活歯破折に至った症例(1)
   症例6 前後的グラインディングがあり,生活歯破折に至った症例(2)
  2)難症例への対応
   症例7 補綴処置により対応した症例
   症例8 矯正治療により対応した症例
   症例9 咬合下制により対応した症例
   症例10 開咬と重度の歯周病に対し,歯牙移植と矯正治療で総合的に対応した難症例

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