やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに 長寿時代に歯科衛生士ができること
 “人生100年時代“という言葉をどこでも目にするようになり,私たちの人生は長くなりました.現在,厚生労働省が推進する「健康日本21(第三次)」では,歯と口腔の健康を目標に“歯周病を有する者の減少”が掲げられています.その目標に近づくために“歯科衛生士ができること”が,本書の根底にあります.
 歯科衛生士は患者さんの歯の喪失を予防し,食事をする楽しみやコミュニケーションの喜びを支える専門職です.そして,歯科診療所には多様な世代が通院しています.患者さんの口腔機能は一般的に,“乳幼児期,学齢期,成人期,高齢期”の4つのライフステージに分けられ,歯と口腔の健康を保つには,それぞれに応じた支援が必要です.
 患者さんの状況によって,ペリオドンタルメディシンや歯科領域にとどまらない多職種連携などが不可欠となりますが,歯科衛生士は歯科医師と連携しながら患者さんの生涯に関わり,現在の口腔の健康を未来へと繋げる役割を担います.歯科診療所で患者さんの健康の維持増進に携わることは,先に述べた“歯周病を有する者の減少”に貢献しているのです.
 また,筆者は歯周治療に取り組む高齢の患者さんたちから,繰り返される毎日の尊さを学びました.加齢に伴いできないことが増えても,その変化を受け入れて積み重ねた日々は新しい日常となり,QOL(生活の質)の維持と向上に結びつきます.
 患者さんへの“寄り添い”とは,それぞれの生活背景を知り,専門的な技量をもって対応することにあると思います.
 今回,歯科衛生士の立場から長寿時代の歯周治療を考えるにあたり,一般論を知る大切さ,手技の熟達に欠かせない基本の見直し,臨床経験から学び,伝えたいことに焦点を当てました.本書の
 第I編の基本編は,高齢者をとりまく現実と知識
 第II編の実践編は,歯周治療の要 プラークコントロールとSRP
 第III編の体験編は,長期症例から見えるアプローチの実際
 について,筆者の考えとともにまとめています.
 必ずしも最初から全部を読む必要はありません.興味がある項目から読み始めて,途中で確認したい各章を振り返り,I編からIII編までを行きつ戻りつ,読み進めていただいてかまいません.
 歯科衛生士は,患者さんの特別ではない,いつもどおりのあたりまえな日常を支える橋渡し役として,口腔の健康を担うプロフェッションです.本書が長寿時代の“現在“と“未来”を繋ぎ,少しでも皆様の一助になれば幸いです.
 2026年5月
 佐藤昌美
I編 基本編:高齢者に向き合うためのおさらい
 1.長寿時代の歯科衛生士
  1 エイジング(加齢)
  2 「高齢者=介護,寝たきり」と思っていませんか?
  3 歯科衛生士は自立した高齢者の生活をも支援できる!
 2.歯周病が全身に及ぼす影響を理解しましょう
 3.高齢者に関係する用語のおさらい
  1 高齢者とは
  2 平均寿命と健康寿命
  3 健康の概念
  4 生活の質(QOL)
  5 日常生活動作(ADL)
  6 フレイルとオーラルフレイル
  7 サルコペニア
 4.65歳以上の高齢者の割合は約30%!
  症例 通院期間38年6カ月(1937年生)
II編 実践編:高齢者(の暮らし)を支える歯周治療
 1.はじめに
 2.歯周病と歯周治療のおさらい
 3.歯周基本治療について
  1 高齢者の歯周治療と留意点
  2 プラークコントロールとSRP
 4.高齢者に対するプラークコントロールとSRPのポイント
  1 プラークコントロール
  2 口腔衛生指導
  3 義歯の管理
 5.評価について
  1 評価の指標と項目
  2 目にみえる変化を評価する~観察と記録
 6.SRP
  1 感染予防対策:スタンダードプリコーション(標準予防策)
  2 SRPの前に行うこと
  3 安全にSRPをするための配慮
  4 SRPと各種インスツルメント
  5 器具の管理(お手入れと交換時期)
 7.高齢者に対する心配り~歯科衛生士に求められるコミュニケーション~
III編 体験編:高齢者の歯周治療を体験しよう
 1.歯科診療所での接し方
  1 待合室にて
  2 待合室からチェアへの誘導
  3 診療室にて
  4 待合室へ誘導
  5 受付にて
 2.症例
  症例1 通院期間6年8カ月(1923年生)
  症例2 通院期間24年6カ月(1923年生)
  症例3 通院期間28年9カ月(1940年生)
  症例4 通院期間36年(1929年生)
付録
 筆者が患者さんに渡した手作りの媒体
 Barthel Index
 IADL Scale
 改訂BDR指標(口腔清掃自立度)

 豆知識
  歯周病は治る?
  セルフケアとプロフェッショナルケア
  健康観とは
  セルフケアの大切さ
  テクニック指導は「急がば回れ」
  物忘れ:ヒトの記憶について
  立位
  SRPを行う際の注意事項
  歯周デブライドメント
  安全性を踏まえたインスツルメントの選択
  根分岐部病変に対応するダイヤモンドスケーラーファーケーション用
  口腔内でインスツルメントが破損したら・・・

 動画
  (1)毛先磨き
  (2)ウォーキングストローク
  (3)探索
  (4)GA5の使い方(下顎前歯部)
  (5)H7の使い方(下顎前歯部)
  (6)ダイヤモンドスケーラーファーケーション用の使い方(6 頬側)
  (7)グレーシータイプキュレットのシャープニング