第3版 監修のことば
「口から食べること」は,人として生きることの根幹をなす営みです.それは,生命を維持するための栄養摂取という機能にとどまらず,食の楽しみや人との関わりを通じた心の充足など,人生の質に深くかかわる行為です.口腔は食べる・話す・呼吸するなど多彩な機能を担い,その健康と機能の維持は,個々の尊厳を支えるうえでも欠かせません.
しかしながら,傷病,障害,加齢などさまざまな要因により口腔機能が低下したとき,食べる喜びが失われ,生活の質が著しく損なわれることがあります.とりわけ高齢化が進む現代においては,誤嚥性肺炎,低栄養,フレイルといったリスクが顕在化しており,それらを予防・改善するための「摂食嚥下リハビリテーション」の重要性は年々高まっています.
歯科衛生士は,これまでう蝕や歯周病予防といった口腔衛生管理にかかわる専門職として大きな役割を果たしてきましたが,近年はさらに,機能的側面からのケア,すなわち「食べる」ことを支える専門職としての役割が求められるようになってきました.医科・看護・リハビリ専門職などとの連携のもと,対象者の栄養状態,生活背景,全身状態を包括的に把握したうえで,計画的に支援を展開する力が不可欠とされています.
加えて,近年は薬剤師から「嚥下障害のある方への服薬支援のあり方において,歯科衛生士との連携を深めたい」との声が多数寄せられるようになりました.とくに高齢者や障害をもつ方々においては,薬剤の剤型や服薬方法が誤嚥リスクに直結することもあり,歯科衛生士においても,薬剤の基礎知識や服薬支援にかかわる知見を備えることが望まれる時代となっています.
歯科衛生士の活躍の場は診療所の中にとどまらず,病院,介護施設,在宅,そして地域全体へと拡がりをみせています.口腔機能発達不全症への支援を要する小児,生活習慣病を抱える働き盛り世代,多様な疾患や障害をもつ高齢者など,あらゆるライフステージの人々に寄り添い,それぞれの生活の質向上に資する支援が必要とされています.
本書「歯科衛生士のための摂食嚥下リハビリテーション」は,こうした背景のもと2011年に初版を刊行し,2019年の第2版では多職種連携や地域包括ケアの観点を取り入れ,大きな反響をいただきました.そして初版刊行から10余年を経て,このたびの第3版では,制度改正,最新のエビデンス,現場からの要望に応えるかたちで,内容をさらに深化・再構成いたしました.
構成面では,基礎編・臨床編の2部構成とし,養成機関で学ぶ学生はもちろん,臨床の第一線で活躍する歯科衛生士や他職種連携を担う専門職に向けて,必要な知識と実践知をわかりやすく整理しています.病態別対応,栄養管理,薬剤知識の活用などの分野を強化し,専門職連携の視点から理解を深める内容を追加いたしました.歯科衛生過程の視点に基づく計画的支援の重要性についても明確化しています.また,初学者にも理解しやすいよう,図表や症例を豊富に盛り込み,教育現場での活用にも配慮しました.
本書が,歯科衛生学教育における基盤となるとともに,現場で働く歯科衛生士の皆様にとって日々の実践の支えとなり,「食べることを支える医療」のさらなる質向上に寄与することを心より願っております.
最後に,本改訂にあたり,編集委員長としてご尽力いただいた植田耕一郎先生をはじめ,多くのご執筆・ご協力をいただいた先生方に深く感謝申し上げます.
2025年6月 公益社団法人日本歯科衛生士会
会長 武藤智美
顧問 吉田直美
第3版 序文
~歯科は口から食べられない人をみることで生死にかかわる医療となりました~
歯科における摂食嚥下リハビリテーションのパイオニアは,本書第1版の編集代表をなさった金子芳洋氏,本書第2版の編集および執筆をいただいた向井美惠氏等です.
発達期における脳性麻痺の摂食嚥下(摂食機能)障害のみならず,その後,口腔がんの術後や脳卒中といった成人期における中途障害の摂食機能障害も問題視されていきます.さらに超高齢社会となって,認知症の増加とともに,咀嚼や嚥下(咀嚼期,咽頭期)以前の先行期(認知期)の摂食機能障害の需要が拡大しました.
最近では,疾患の多様化・複雑化に呼応して,精神科疾患(過食症や拒食症とは別の類型)における摂食機能障害が顕在化しています.今のご時世,いかに軽度から重度の振り幅の広い中で精神科疾患の多いことか.
このように対象とする患者は新生児から幼児,小児,成人,高齢者まで年齢を問いません.そして疾患は仮に治癒しても障害は残るということがあるために,どの疾患も行き着くところは摂食嚥下障害になります.
歯科は,「口から食べられない」といった領域に踏み入れたことで,生死にかかわる医療となりました.読者の皆様は,まさかひとの死を看取る立場になろうとは想像もせずに,歯科衛生士学校に入学されたことでしょう.
う蝕治療ならば「完治」がゴールになりますが,全身疾患の治癒が見込めない場合には,何をゴールにしたらよいのでしょうか.
生涯通して車椅子利用の人は,二度と健康になれないのでしょうか.
そもそも健康とは何なのでしょうか.
これらについて,本書を通じて,読者の皆様と考えていきましょう.
本書は,摂食嚥下機能の基礎的な知識から摂食嚥下リハビリテーションの実践的な手技まで体系立てられています.普段の学習のとき,または臨床の場面で壁にあたったときに,明日から新しい一歩を踏み出す羅針盤の役割を果たしてくれることでしょう.
2025年6月 植田耕一郎
第2版 監修にあたって
口から食べることは,人が生きるための力の「みなもと」であり,そしてまた「喜び」です.さらに口腔には,食べる機能をはじめ味覚,呼吸,構音など,まさに人が人として生きるために必要な多くの機能があり,傷病や障害,あるいは加齢による口腔機能の低下を予防することは極めて重要です.そうした観点から,口腔機能のリハビリテーションの重要性が高まっております.2008年には,「安心と希望の医療確保ビジョン」が示され,これからの医療について「治す医療」から「治し支える医療」への方向性が提言されました.ビジョンの中で摂食嚥下機能等に関わる歯科医療は,人々の生活の基本を支える「生活の医療」と位置づけられ,歯科医師・歯科衛生士と医師・看護師等との連携によるチーム医療の必要性が強調されました.そこで,歯科衛生士においてもチーム医療の一員として摂食嚥下リハビリテーションに関わる専門性を一層高めることが必要であるとの認識から,基礎となる教育・研修が重要であり,そこで活用するための体系化された教本・テキスト「歯科衛生士のための摂食嚥下リハビリテーション」を2011年に発刊いたしました.
その後,歯科衛生士を取り巻く環境はさらに変化し,またその役割は深化してきております.歯科衛生士の90%以上は,歯科診療所に勤務しておりますが,その来院患者の45%以上が65歳以上の高齢者であり(2017年患者調査),全身管理,医科歯科連携への対応が必要となってきています.さらに,地域包括ケアシステムの構築が急がれる中,「歯科医院完結型」から「地域完結型」へ大きくシフトしています.診療所の歯科衛生士も,地域に出向き多職種と連携しながら,その専門性を発揮することが求められています.今後ますます,在宅療養者や要介護高齢者の口から食べる機能を維持して,低栄養や誤嚥性肺炎を予防するなど,口腔衛生・口腔機能管理を担う役割に期待が高まっております.
このような歯科衛生士を取り巻く環境や背景の変化に対応して,この度7年ぶりに「歯科衛生士のための摂食嚥下リハビリテーション-第2版」としてリニューアルいたしました.本書では,地域包括ケアシステムの中での多職種連携や地域連携,フレイルへの対応,2018年に保険収載された小児の口腔機能発達不全症や,高齢者の口腔機能低下症について追加しました.また,病態別への対応や栄養管理についても強化いたしました.今後,歯科衛生士には,口腔領域の疾病対応のみならず,予防や健康増進,口腔機能の維持回復,ひいてはQOLの向上にも寄与できるような業務展開が期待されています.また,多職種との連携・協働においては,歯科衛生士の専門性を活かした問題解決能力が求められています.今後,社会や多職種からの要請に応えるためにも本書を活用いただけますことを願っております.
本書の企画に際し,植田耕一郎先生に編集委員長としてご指導を仰ぎ,また,第一線で活躍されている諸先生方に編集の労をおとりいただき,さらに,ご専門の多くの先生方にご執筆を賜ったことは,誠に感謝の念に堪えないところです.本書が,歯科衛生士教育において,また,診療所・病院,介護施設や在宅医療の場で活動する歯科衛生士の人材育成に活用され,摂食嚥下障害の改善・回復に寄与することができれば望外の喜びです.
2019年8月 公益社団法人日本歯科衛生士会 会長 武井典子
第2版 はじめに
「歯科衛生士は歯科医師の指示のもと摂食機能療法を実施する」1994年に摂食機能療法が医科と歯科で同時に保険診療に導入された時に記された文です.保険医療導入に至ったのは,本書第1版の編集代表をなさった金子芳洋氏,本書第2版の編集および執筆をいただいた向井美惠氏等の功績によるものです.摂食機能療法において歯科衛生士は,診療補助のみならず,診療実施者になったのです.
対象とする患者は新生児から幼児,小児,成人,高齢者まで年齢を問いません.脳性麻痺,脳卒中やパーキンソン病などの疾患から派生する不都合や後遺症が「障害」です.疾患は治癒しても障害は残るということがあるために,どの疾患も行き着くところは摂食嚥下障害になります.
摂食機能療法のトレーニング技術の習得が大事であることは述べるまでもありません.しかし技術論に傾聴する中で,何時も忘れてならないのは「理念」です.摂食機能障害を引き起こす疾患が同じ病名であろうと,10名と対峙すれば対応は10通りです.なぜなら患者ごとに今日に至るまでの生活過程や置かれている環境が異なるからです.対応が多岐だからこそ,その時必要とされるのは,揺るぎのない理念であろうかと思います.
そこでリハビリテーションの理念が摂食機能障害への対応を体系立て,整理してくれます.近代西洋医学は臓器単位で発展していますが,リハビリテーションは“生活単位”で人を見ます.排泄,入浴,移動,食事などの日常生活活動を少しでも自立すべく務めていきます.例えば食事行為を自立するために,麻痺した上肢の機能訓練をし,麻痺の治癒が見込めない時には利き手交換の訓練をし,さらに人的・物的な環境を整えることで自立の支援をしていきます.
う蝕治療ならば「完治」がゴールになりますが,治癒が見込めない場合には,何をゴールにしたら良いのでしょうか? 治癒のない障害を持った者は二度と健康になれないのでしょうか?そもそも健康とは何なのでしょうか?
本書は,摂食嚥下機能の基礎的な知識から摂食嚥下リハビリテーションの実践的な手技まで体系立てられています.普段の学習の時,または臨床の場面で混乱や壁にあたった時に,明日から新しい一歩を踏み出す羅針盤の役割を果たしてくれることでしょう.
2019年8月 編集代表 植田耕一郎
第1版 監修にあたって
口から食べることは,生きる力のみなもとであり喜びである.しかし,何らかの原因で口から食べる機能が失われたときの健康障害やQOL(Quolity of Life,生命の質,生活の質,人生の質)の低下ははかり知れないものがある.そのため,口腔は生命維持にとって重要な働きを持つ器官であり,また,人間としての尊厳を保ち,質の高い生活を送るうえでも重要な器官である.
一方,口腔は,温度,湿度,栄養等において微生物が繁殖しやすい環境にあり,う蝕や歯周病等,歯科疾患の発症や進行の原因となるばかりでなく,誤嚥性肺炎等,口腔に起因する感染症をはじめ,糖尿病や心臓病等の全身の健康状態を悪化させる要因ともなることが報告されている.
また,口腔には,食べる機能をはじめ味覚,呼吸,構音など,多くの機能があり,傷病や障害,あるいは加齢による口腔機能の低下を予防するうえで,口腔機能のリハビリテーションの重要性が高まっている.歯科衛生士はこれまで,口腔衛生の管理に関わる分野を中心として,う蝕や歯周病等,歯科疾患の予防やプライマリーケア等,器質的ケアにおいて大きな役割を果たしてきたが,機能的ケアへの対応は十分とはいえない状況にある.
医療法第1条の2に定める医療提供の理念には「医療は(略)単に治療のみならず,疾病の予防のための措置及びリハビリテーションを含む良質かつ適正なものでなければならない」とある.また「安心と希望の医療確保ビジョン」(厚生労働省,平成20年6月)では,これからの医療について「治す医療」から「治し支える医療」への方向性を提言し,その中で,摂食・嚥下機能等に関わる歯科医療を,人々の生活の基本を支える「生活の医療」と位置づけ,歯科医師・歯科衛生士と医師・看護師等との連携によるチーム医療の必要性を強調している.
これらのことから,摂食・嚥下リハビリテーションは,多職種協働によるチームアプローチにより,各職種の専門性に基づく質の高い業務を実践することが求められている.歯科衛生士においても,チーム医療の一員として目的と情報を共有するとともに,摂食・嚥下リハビリテーションにおける歯科衛生士の専門性を高めることが必要である.また,歯科医療の専門職として口腔内に直接関与できるという特性を活かし,歯科衛生士の役割を十分に発揮することが期待されている.そのためには,基礎となる教育研修が重要であり,体系化された教本・テキストの発行を急ぐこととなった.本書の企画にあたり,この分野における歯科衛生士の最初の教本・テキストであることを考慮し,学校教育や卒後研修における基礎編として編集することとした.
本書は,歯科衛生士と摂食・嚥下の関わりについて認識し,リハビリテーション及び摂食・嚥下リハビリテーションの概念やメカニズム,さらには発達,障害の状態を正しく理解したうえで,小児期,成人期,高齢期の摂食・嚥下障害の特徴や変化,歯科衛生士の実践についての考え方や方法及び訓練法の実際,チームアプローチや連携に必要な関係職種の理解など,摂食・嚥下リハビリテーションに関する基礎的知識・技術の修得に必要な学習過程を考慮した構成となっている.
歯科衛生士の実践については,摂食・嚥下障害のある対象者に対して,歯科衛生上の問題点を明確にし,最も望ましい支援とはどのようなことかを歯科衛生士の立場で考え,計画的,科学的に実践するための方法として,歯科衛生過程(歯科衛生ケアプロセス)の流れに沿って解説されている.
歯科衛生士の役割は,口腔領域の疾病対応のみならず,予防や健康増進,口腔機能の維持回復,ひいてはQOLの向上にも寄与できるよう,対象となる人のニーズに対して適切な支援を提供することであり,多職種との連携・協働においては,歯科衛生士の専門性を活かした問題解決能力が求められる.そのため,対象となる人のアセスメント(情報の収集・分析),問題の明確化,計画立案(目標の設定及び方法の決定),実施計画の立案,実施(介入),評価などのプロセスにより展開することが重要である.また,実施記録をシステム化することでスタッフ間の情報の共有が可能となる.このような考え方は,歯科衛生士の臨床では既に経験的に導入されており,また,教育・研修においても,専門職としての姿勢や態度を育成し,質の高い,根拠に基づいたケアを提供するための具体的なツールとして検討・試行されている.摂食・嚥下リハビリテーションが学際的チームアプローチとして実践されることを考慮し,歯科衛生過程による展開方法を取り入れ,紹介することとした.
本書の企画に際し,この分野の先駆者である金子芳洋先生に編集委員長としてご指導を仰ぎ,また,第一線で活躍されている先生方に編集の労をおとりいただき,さらに,ご専門の多くの先生方にご執筆を賜ったことは,誠に感謝の念に堪えないところである.
本書が,歯科衛生士教育において,また,診療所・病院,介護施設や在宅医療の場で活動する歯科衛生士の人材育成に活用され,摂食・嚥下障害の改善・回復に寄与することができれば望外の喜びである.
平成23年3月 社団法人日本歯科衛生士会 会長 金澤紀子
第1版 序
“ひと”は,食物と水分を取りこむことにとって生命活動を維持している.この食物や水分を摂り込み胃に送り込むための一連の経過が摂食・嚥下であり,そのために働く機能が摂食・嚥下機能と呼ばれる.
“ひと”を含め哺乳動物は皆摂食・嚥下機能を有しているが,その解剖生理は全てが同じではない.もっとも特徴的なことは,喉頭の位置である.ひとの新生児と他の哺乳動物では喉頭の位置は咽頭の高い位置にある.しかし成人では,喉頭は咽頭のかなり低い位置にある.そうすると咽頭部における呼吸の通路と食物の通路が同じ場所を占める長さが長くなる.こうなると成人では元もと嚥下障害を起こすリスクが高くなる.
摂食・嚥下障害(Dysphagia)は次のように定義されている.「dysphagiaとは,嚥下の複数に段階の一つあるいは複数の段階に何らかの障害がある状態である.その障害は,口腔への食物の摂り込みに始まって,口腔内での食物を巧妙に処理する能力,食塊のコントロール,嚥下反応(反射)の発現,咽頭の収縮(蠕動運動),輪状咽頭筋の弛緩によるとそれによる食塊の食道への送り込みに至る広い範囲において発生するものである(M.E.Groher,1992).またアメリカの言語聴覚士協会(American Speech and Hearing Associasion:ASHA,)では次ぎのように定義している.「dysphagiaとは,嚥下するために必要な口腔内での食物処理がうまくいかないとか,食物を口腔から胃へ移送させることがうまくいかないというというような嚥下機能の障害のことである.この定義には,口腔内に食物を摂り込んだり,嚥下に先立って口腔内で食物を処理したりという機能に問題がある場合を含んでいるものであり,その機能には吸啜や吸引,咀嚼も含まれている.」
嚥下は食物を口から胃へ送るために顎や咽頭,食道の筋が高度に協調して行われる一連の複雑な運動経過であり,嚥下第1相,第2相,第三相から成り立っている.Leopoldら(1983)は,これら人の食べる過程である摂食・嚥下を5段階に分けている.すなわち先行期,口腔期,嚥下口腔期,咽頭期,食道期,の5段階である.前述した定義中の複数の段階とはこの5段階を指している.
近年,摂食・嚥下機能にプロセスモデルという新しいモデルが提唱されるようになってきた.このモデルでは摂食・嚥下をoral phase,pharyngeal phase,esophageal phaseの3つの相に分けられている(詳細は後章で詳述).
わが国では人口の高齢化が急速に進み,高齢に関係する疾患の多発に対する医学的処理や管理が重要な課題となってきている.この中でとくにリハビリテーションは21世紀の医療と呼ばれるほど需要が増しており,摂食・嚥下障害に対するリハビリテーションもその中の重要な位置を占めるようになってきている.このような状況を踏まえ,平成6年4月には国も社会保険診療に“摂食機能療法”を取り入れている.この摂食・嚥下リハビリテーションには歯科医師,歯科衛生士も携わることができる.しかし従来,歯科医師,歯科衛生士の教育には摂食嚥下・リハビリテーションは含まれておらず,その対応が著しく遅れている.近年,歯科衛生に教育は3年制,4年制に変わりつつあり,その中で摂食嚥下・リハビリテーションの卒然教育が一部で始まっている.
摂食・嚥下リハビリテーションのおおきな特徴は,その学際的な面である,この領域には医師,歯科医師,言語聴覚士,理学療法士,作業療法士,栄養士,看護師,歯科衛生士,保健婦など多くの専門分野の関与が是非必要である.しかもその各職種が別々に関与するにではなく,いわゆる“学際的なチームアプローチ”が必要である.
摂食・嚥下障害は摂食・嚥下機能に関係する神経系その他の関係する構造に傷害が生じたときにその合併症状として発生するものであり,これを引き起こす疾患や傷害は非常に多種多様である.大きく分けるといわゆる子ども(障害児)に起こる発達障害的なものと,成人以降に起こる中途傷害がある.そのためにこの領域の摂食・嚥下リハビリテーションを成功に導くためには,広く深い知識とリハビリテーション手技についての熟練が必要である.これは,卒前教育だけでは習得することが不可能である.そこで本著の内容は主に基本的な基礎的な知識の習得のために必要な事項だけに止め,さらに必要の部分は本著に引き続いて出版される卒後の教育,勉強用の書物に記載することとした.
摂食障害を抱えている人びとの口腔内は健常者(児)の口腔内とは比較にならないほど衛生状態が不良であり,衛生状態を管理するにはどうしても歯科衛生士が直接関与するか,あるは行き届いた指導をすることが不可欠である.また口腔内の不衛生度と摂食・嚥下障害の重症度はほぼ並行していると考えられる.従って歯科衛生士は摂食・嚥下リハビりテーションと口腔ケアが同時にできる専門家として貴重な存在であり,この面での活躍が期待されている職業である.
平成23年3月 金子芳洋
「口から食べること」は,人として生きることの根幹をなす営みです.それは,生命を維持するための栄養摂取という機能にとどまらず,食の楽しみや人との関わりを通じた心の充足など,人生の質に深くかかわる行為です.口腔は食べる・話す・呼吸するなど多彩な機能を担い,その健康と機能の維持は,個々の尊厳を支えるうえでも欠かせません.
しかしながら,傷病,障害,加齢などさまざまな要因により口腔機能が低下したとき,食べる喜びが失われ,生活の質が著しく損なわれることがあります.とりわけ高齢化が進む現代においては,誤嚥性肺炎,低栄養,フレイルといったリスクが顕在化しており,それらを予防・改善するための「摂食嚥下リハビリテーション」の重要性は年々高まっています.
歯科衛生士は,これまでう蝕や歯周病予防といった口腔衛生管理にかかわる専門職として大きな役割を果たしてきましたが,近年はさらに,機能的側面からのケア,すなわち「食べる」ことを支える専門職としての役割が求められるようになってきました.医科・看護・リハビリ専門職などとの連携のもと,対象者の栄養状態,生活背景,全身状態を包括的に把握したうえで,計画的に支援を展開する力が不可欠とされています.
加えて,近年は薬剤師から「嚥下障害のある方への服薬支援のあり方において,歯科衛生士との連携を深めたい」との声が多数寄せられるようになりました.とくに高齢者や障害をもつ方々においては,薬剤の剤型や服薬方法が誤嚥リスクに直結することもあり,歯科衛生士においても,薬剤の基礎知識や服薬支援にかかわる知見を備えることが望まれる時代となっています.
歯科衛生士の活躍の場は診療所の中にとどまらず,病院,介護施設,在宅,そして地域全体へと拡がりをみせています.口腔機能発達不全症への支援を要する小児,生活習慣病を抱える働き盛り世代,多様な疾患や障害をもつ高齢者など,あらゆるライフステージの人々に寄り添い,それぞれの生活の質向上に資する支援が必要とされています.
本書「歯科衛生士のための摂食嚥下リハビリテーション」は,こうした背景のもと2011年に初版を刊行し,2019年の第2版では多職種連携や地域包括ケアの観点を取り入れ,大きな反響をいただきました.そして初版刊行から10余年を経て,このたびの第3版では,制度改正,最新のエビデンス,現場からの要望に応えるかたちで,内容をさらに深化・再構成いたしました.
構成面では,基礎編・臨床編の2部構成とし,養成機関で学ぶ学生はもちろん,臨床の第一線で活躍する歯科衛生士や他職種連携を担う専門職に向けて,必要な知識と実践知をわかりやすく整理しています.病態別対応,栄養管理,薬剤知識の活用などの分野を強化し,専門職連携の視点から理解を深める内容を追加いたしました.歯科衛生過程の視点に基づく計画的支援の重要性についても明確化しています.また,初学者にも理解しやすいよう,図表や症例を豊富に盛り込み,教育現場での活用にも配慮しました.
本書が,歯科衛生学教育における基盤となるとともに,現場で働く歯科衛生士の皆様にとって日々の実践の支えとなり,「食べることを支える医療」のさらなる質向上に寄与することを心より願っております.
最後に,本改訂にあたり,編集委員長としてご尽力いただいた植田耕一郎先生をはじめ,多くのご執筆・ご協力をいただいた先生方に深く感謝申し上げます.
2025年6月 公益社団法人日本歯科衛生士会
会長 武藤智美
顧問 吉田直美
第3版 序文
~歯科は口から食べられない人をみることで生死にかかわる医療となりました~
歯科における摂食嚥下リハビリテーションのパイオニアは,本書第1版の編集代表をなさった金子芳洋氏,本書第2版の編集および執筆をいただいた向井美惠氏等です.
発達期における脳性麻痺の摂食嚥下(摂食機能)障害のみならず,その後,口腔がんの術後や脳卒中といった成人期における中途障害の摂食機能障害も問題視されていきます.さらに超高齢社会となって,認知症の増加とともに,咀嚼や嚥下(咀嚼期,咽頭期)以前の先行期(認知期)の摂食機能障害の需要が拡大しました.
最近では,疾患の多様化・複雑化に呼応して,精神科疾患(過食症や拒食症とは別の類型)における摂食機能障害が顕在化しています.今のご時世,いかに軽度から重度の振り幅の広い中で精神科疾患の多いことか.
このように対象とする患者は新生児から幼児,小児,成人,高齢者まで年齢を問いません.そして疾患は仮に治癒しても障害は残るということがあるために,どの疾患も行き着くところは摂食嚥下障害になります.
歯科は,「口から食べられない」といった領域に踏み入れたことで,生死にかかわる医療となりました.読者の皆様は,まさかひとの死を看取る立場になろうとは想像もせずに,歯科衛生士学校に入学されたことでしょう.
う蝕治療ならば「完治」がゴールになりますが,全身疾患の治癒が見込めない場合には,何をゴールにしたらよいのでしょうか.
生涯通して車椅子利用の人は,二度と健康になれないのでしょうか.
そもそも健康とは何なのでしょうか.
これらについて,本書を通じて,読者の皆様と考えていきましょう.
本書は,摂食嚥下機能の基礎的な知識から摂食嚥下リハビリテーションの実践的な手技まで体系立てられています.普段の学習のとき,または臨床の場面で壁にあたったときに,明日から新しい一歩を踏み出す羅針盤の役割を果たしてくれることでしょう.
2025年6月 植田耕一郎
第2版 監修にあたって
口から食べることは,人が生きるための力の「みなもと」であり,そしてまた「喜び」です.さらに口腔には,食べる機能をはじめ味覚,呼吸,構音など,まさに人が人として生きるために必要な多くの機能があり,傷病や障害,あるいは加齢による口腔機能の低下を予防することは極めて重要です.そうした観点から,口腔機能のリハビリテーションの重要性が高まっております.2008年には,「安心と希望の医療確保ビジョン」が示され,これからの医療について「治す医療」から「治し支える医療」への方向性が提言されました.ビジョンの中で摂食嚥下機能等に関わる歯科医療は,人々の生活の基本を支える「生活の医療」と位置づけられ,歯科医師・歯科衛生士と医師・看護師等との連携によるチーム医療の必要性が強調されました.そこで,歯科衛生士においてもチーム医療の一員として摂食嚥下リハビリテーションに関わる専門性を一層高めることが必要であるとの認識から,基礎となる教育・研修が重要であり,そこで活用するための体系化された教本・テキスト「歯科衛生士のための摂食嚥下リハビリテーション」を2011年に発刊いたしました.
その後,歯科衛生士を取り巻く環境はさらに変化し,またその役割は深化してきております.歯科衛生士の90%以上は,歯科診療所に勤務しておりますが,その来院患者の45%以上が65歳以上の高齢者であり(2017年患者調査),全身管理,医科歯科連携への対応が必要となってきています.さらに,地域包括ケアシステムの構築が急がれる中,「歯科医院完結型」から「地域完結型」へ大きくシフトしています.診療所の歯科衛生士も,地域に出向き多職種と連携しながら,その専門性を発揮することが求められています.今後ますます,在宅療養者や要介護高齢者の口から食べる機能を維持して,低栄養や誤嚥性肺炎を予防するなど,口腔衛生・口腔機能管理を担う役割に期待が高まっております.
このような歯科衛生士を取り巻く環境や背景の変化に対応して,この度7年ぶりに「歯科衛生士のための摂食嚥下リハビリテーション-第2版」としてリニューアルいたしました.本書では,地域包括ケアシステムの中での多職種連携や地域連携,フレイルへの対応,2018年に保険収載された小児の口腔機能発達不全症や,高齢者の口腔機能低下症について追加しました.また,病態別への対応や栄養管理についても強化いたしました.今後,歯科衛生士には,口腔領域の疾病対応のみならず,予防や健康増進,口腔機能の維持回復,ひいてはQOLの向上にも寄与できるような業務展開が期待されています.また,多職種との連携・協働においては,歯科衛生士の専門性を活かした問題解決能力が求められています.今後,社会や多職種からの要請に応えるためにも本書を活用いただけますことを願っております.
本書の企画に際し,植田耕一郎先生に編集委員長としてご指導を仰ぎ,また,第一線で活躍されている諸先生方に編集の労をおとりいただき,さらに,ご専門の多くの先生方にご執筆を賜ったことは,誠に感謝の念に堪えないところです.本書が,歯科衛生士教育において,また,診療所・病院,介護施設や在宅医療の場で活動する歯科衛生士の人材育成に活用され,摂食嚥下障害の改善・回復に寄与することができれば望外の喜びです.
2019年8月 公益社団法人日本歯科衛生士会 会長 武井典子
第2版 はじめに
「歯科衛生士は歯科医師の指示のもと摂食機能療法を実施する」1994年に摂食機能療法が医科と歯科で同時に保険診療に導入された時に記された文です.保険医療導入に至ったのは,本書第1版の編集代表をなさった金子芳洋氏,本書第2版の編集および執筆をいただいた向井美惠氏等の功績によるものです.摂食機能療法において歯科衛生士は,診療補助のみならず,診療実施者になったのです.
対象とする患者は新生児から幼児,小児,成人,高齢者まで年齢を問いません.脳性麻痺,脳卒中やパーキンソン病などの疾患から派生する不都合や後遺症が「障害」です.疾患は治癒しても障害は残るということがあるために,どの疾患も行き着くところは摂食嚥下障害になります.
摂食機能療法のトレーニング技術の習得が大事であることは述べるまでもありません.しかし技術論に傾聴する中で,何時も忘れてならないのは「理念」です.摂食機能障害を引き起こす疾患が同じ病名であろうと,10名と対峙すれば対応は10通りです.なぜなら患者ごとに今日に至るまでの生活過程や置かれている環境が異なるからです.対応が多岐だからこそ,その時必要とされるのは,揺るぎのない理念であろうかと思います.
そこでリハビリテーションの理念が摂食機能障害への対応を体系立て,整理してくれます.近代西洋医学は臓器単位で発展していますが,リハビリテーションは“生活単位”で人を見ます.排泄,入浴,移動,食事などの日常生活活動を少しでも自立すべく務めていきます.例えば食事行為を自立するために,麻痺した上肢の機能訓練をし,麻痺の治癒が見込めない時には利き手交換の訓練をし,さらに人的・物的な環境を整えることで自立の支援をしていきます.
う蝕治療ならば「完治」がゴールになりますが,治癒が見込めない場合には,何をゴールにしたら良いのでしょうか? 治癒のない障害を持った者は二度と健康になれないのでしょうか?そもそも健康とは何なのでしょうか?
本書は,摂食嚥下機能の基礎的な知識から摂食嚥下リハビリテーションの実践的な手技まで体系立てられています.普段の学習の時,または臨床の場面で混乱や壁にあたった時に,明日から新しい一歩を踏み出す羅針盤の役割を果たしてくれることでしょう.
2019年8月 編集代表 植田耕一郎
第1版 監修にあたって
口から食べることは,生きる力のみなもとであり喜びである.しかし,何らかの原因で口から食べる機能が失われたときの健康障害やQOL(Quolity of Life,生命の質,生活の質,人生の質)の低下ははかり知れないものがある.そのため,口腔は生命維持にとって重要な働きを持つ器官であり,また,人間としての尊厳を保ち,質の高い生活を送るうえでも重要な器官である.
一方,口腔は,温度,湿度,栄養等において微生物が繁殖しやすい環境にあり,う蝕や歯周病等,歯科疾患の発症や進行の原因となるばかりでなく,誤嚥性肺炎等,口腔に起因する感染症をはじめ,糖尿病や心臓病等の全身の健康状態を悪化させる要因ともなることが報告されている.
また,口腔には,食べる機能をはじめ味覚,呼吸,構音など,多くの機能があり,傷病や障害,あるいは加齢による口腔機能の低下を予防するうえで,口腔機能のリハビリテーションの重要性が高まっている.歯科衛生士はこれまで,口腔衛生の管理に関わる分野を中心として,う蝕や歯周病等,歯科疾患の予防やプライマリーケア等,器質的ケアにおいて大きな役割を果たしてきたが,機能的ケアへの対応は十分とはいえない状況にある.
医療法第1条の2に定める医療提供の理念には「医療は(略)単に治療のみならず,疾病の予防のための措置及びリハビリテーションを含む良質かつ適正なものでなければならない」とある.また「安心と希望の医療確保ビジョン」(厚生労働省,平成20年6月)では,これからの医療について「治す医療」から「治し支える医療」への方向性を提言し,その中で,摂食・嚥下機能等に関わる歯科医療を,人々の生活の基本を支える「生活の医療」と位置づけ,歯科医師・歯科衛生士と医師・看護師等との連携によるチーム医療の必要性を強調している.
これらのことから,摂食・嚥下リハビリテーションは,多職種協働によるチームアプローチにより,各職種の専門性に基づく質の高い業務を実践することが求められている.歯科衛生士においても,チーム医療の一員として目的と情報を共有するとともに,摂食・嚥下リハビリテーションにおける歯科衛生士の専門性を高めることが必要である.また,歯科医療の専門職として口腔内に直接関与できるという特性を活かし,歯科衛生士の役割を十分に発揮することが期待されている.そのためには,基礎となる教育研修が重要であり,体系化された教本・テキストの発行を急ぐこととなった.本書の企画にあたり,この分野における歯科衛生士の最初の教本・テキストであることを考慮し,学校教育や卒後研修における基礎編として編集することとした.
本書は,歯科衛生士と摂食・嚥下の関わりについて認識し,リハビリテーション及び摂食・嚥下リハビリテーションの概念やメカニズム,さらには発達,障害の状態を正しく理解したうえで,小児期,成人期,高齢期の摂食・嚥下障害の特徴や変化,歯科衛生士の実践についての考え方や方法及び訓練法の実際,チームアプローチや連携に必要な関係職種の理解など,摂食・嚥下リハビリテーションに関する基礎的知識・技術の修得に必要な学習過程を考慮した構成となっている.
歯科衛生士の実践については,摂食・嚥下障害のある対象者に対して,歯科衛生上の問題点を明確にし,最も望ましい支援とはどのようなことかを歯科衛生士の立場で考え,計画的,科学的に実践するための方法として,歯科衛生過程(歯科衛生ケアプロセス)の流れに沿って解説されている.
歯科衛生士の役割は,口腔領域の疾病対応のみならず,予防や健康増進,口腔機能の維持回復,ひいてはQOLの向上にも寄与できるよう,対象となる人のニーズに対して適切な支援を提供することであり,多職種との連携・協働においては,歯科衛生士の専門性を活かした問題解決能力が求められる.そのため,対象となる人のアセスメント(情報の収集・分析),問題の明確化,計画立案(目標の設定及び方法の決定),実施計画の立案,実施(介入),評価などのプロセスにより展開することが重要である.また,実施記録をシステム化することでスタッフ間の情報の共有が可能となる.このような考え方は,歯科衛生士の臨床では既に経験的に導入されており,また,教育・研修においても,専門職としての姿勢や態度を育成し,質の高い,根拠に基づいたケアを提供するための具体的なツールとして検討・試行されている.摂食・嚥下リハビリテーションが学際的チームアプローチとして実践されることを考慮し,歯科衛生過程による展開方法を取り入れ,紹介することとした.
本書の企画に際し,この分野の先駆者である金子芳洋先生に編集委員長としてご指導を仰ぎ,また,第一線で活躍されている先生方に編集の労をおとりいただき,さらに,ご専門の多くの先生方にご執筆を賜ったことは,誠に感謝の念に堪えないところである.
本書が,歯科衛生士教育において,また,診療所・病院,介護施設や在宅医療の場で活動する歯科衛生士の人材育成に活用され,摂食・嚥下障害の改善・回復に寄与することができれば望外の喜びである.
平成23年3月 社団法人日本歯科衛生士会 会長 金澤紀子
第1版 序
“ひと”は,食物と水分を取りこむことにとって生命活動を維持している.この食物や水分を摂り込み胃に送り込むための一連の経過が摂食・嚥下であり,そのために働く機能が摂食・嚥下機能と呼ばれる.
“ひと”を含め哺乳動物は皆摂食・嚥下機能を有しているが,その解剖生理は全てが同じではない.もっとも特徴的なことは,喉頭の位置である.ひとの新生児と他の哺乳動物では喉頭の位置は咽頭の高い位置にある.しかし成人では,喉頭は咽頭のかなり低い位置にある.そうすると咽頭部における呼吸の通路と食物の通路が同じ場所を占める長さが長くなる.こうなると成人では元もと嚥下障害を起こすリスクが高くなる.
摂食・嚥下障害(Dysphagia)は次のように定義されている.「dysphagiaとは,嚥下の複数に段階の一つあるいは複数の段階に何らかの障害がある状態である.その障害は,口腔への食物の摂り込みに始まって,口腔内での食物を巧妙に処理する能力,食塊のコントロール,嚥下反応(反射)の発現,咽頭の収縮(蠕動運動),輪状咽頭筋の弛緩によるとそれによる食塊の食道への送り込みに至る広い範囲において発生するものである(M.E.Groher,1992).またアメリカの言語聴覚士協会(American Speech and Hearing Associasion:ASHA,)では次ぎのように定義している.「dysphagiaとは,嚥下するために必要な口腔内での食物処理がうまくいかないとか,食物を口腔から胃へ移送させることがうまくいかないというというような嚥下機能の障害のことである.この定義には,口腔内に食物を摂り込んだり,嚥下に先立って口腔内で食物を処理したりという機能に問題がある場合を含んでいるものであり,その機能には吸啜や吸引,咀嚼も含まれている.」
嚥下は食物を口から胃へ送るために顎や咽頭,食道の筋が高度に協調して行われる一連の複雑な運動経過であり,嚥下第1相,第2相,第三相から成り立っている.Leopoldら(1983)は,これら人の食べる過程である摂食・嚥下を5段階に分けている.すなわち先行期,口腔期,嚥下口腔期,咽頭期,食道期,の5段階である.前述した定義中の複数の段階とはこの5段階を指している.
近年,摂食・嚥下機能にプロセスモデルという新しいモデルが提唱されるようになってきた.このモデルでは摂食・嚥下をoral phase,pharyngeal phase,esophageal phaseの3つの相に分けられている(詳細は後章で詳述).
わが国では人口の高齢化が急速に進み,高齢に関係する疾患の多発に対する医学的処理や管理が重要な課題となってきている.この中でとくにリハビリテーションは21世紀の医療と呼ばれるほど需要が増しており,摂食・嚥下障害に対するリハビリテーションもその中の重要な位置を占めるようになってきている.このような状況を踏まえ,平成6年4月には国も社会保険診療に“摂食機能療法”を取り入れている.この摂食・嚥下リハビリテーションには歯科医師,歯科衛生士も携わることができる.しかし従来,歯科医師,歯科衛生士の教育には摂食嚥下・リハビリテーションは含まれておらず,その対応が著しく遅れている.近年,歯科衛生に教育は3年制,4年制に変わりつつあり,その中で摂食嚥下・リハビリテーションの卒然教育が一部で始まっている.
摂食・嚥下リハビリテーションのおおきな特徴は,その学際的な面である,この領域には医師,歯科医師,言語聴覚士,理学療法士,作業療法士,栄養士,看護師,歯科衛生士,保健婦など多くの専門分野の関与が是非必要である.しかもその各職種が別々に関与するにではなく,いわゆる“学際的なチームアプローチ”が必要である.
摂食・嚥下障害は摂食・嚥下機能に関係する神経系その他の関係する構造に傷害が生じたときにその合併症状として発生するものであり,これを引き起こす疾患や傷害は非常に多種多様である.大きく分けるといわゆる子ども(障害児)に起こる発達障害的なものと,成人以降に起こる中途傷害がある.そのためにこの領域の摂食・嚥下リハビリテーションを成功に導くためには,広く深い知識とリハビリテーション手技についての熟練が必要である.これは,卒前教育だけでは習得することが不可能である.そこで本著の内容は主に基本的な基礎的な知識の習得のために必要な事項だけに止め,さらに必要の部分は本著に引き続いて出版される卒後の教育,勉強用の書物に記載することとした.
摂食障害を抱えている人びとの口腔内は健常者(児)の口腔内とは比較にならないほど衛生状態が不良であり,衛生状態を管理するにはどうしても歯科衛生士が直接関与するか,あるは行き届いた指導をすることが不可欠である.また口腔内の不衛生度と摂食・嚥下障害の重症度はほぼ並行していると考えられる.従って歯科衛生士は摂食・嚥下リハビりテーションと口腔ケアが同時にできる専門家として貴重な存在であり,この面での活躍が期待されている職業である.
平成23年3月 金子芳洋
第3版 監修のことば
第3版 序文
I 基礎編
CHAPTER 1 歯科衛生士と摂食嚥下リハビリテーション
(植田耕一郎)
I 歯科衛生士は摂食機能療法を実施する
II 生活をみる
III 第三の医学
CHAPTER 2 リハビリテーションと摂食嚥下リハビリテーション
I リハビリテーション医学・医療総論(藤谷順子・村松倫)
1 リハビリテーション医学とは
2 運動学とは
3 障害の分類
4 リハビリテーション治療のプランニング
II 摂食嚥下リハビリテーション総論(向井美惠)
1 摂食嚥下と摂食嚥下障害
2 摂食嚥下の過程と食物の流れ
3 摂食嚥下障害の特徴に基づいた対応領域
4 摂食嚥下障害の原因
5 摂食嚥下障害の重症度分類
6 摂食嚥下リハビリテーションの進め方
7 摂食嚥下リハビリテーションへの取り組みと課題
CHAPTER 3 高齢社会の制度の理解と口腔健康管理
I 口腔健康管理とは(吉田直美)
1 口腔ケアと口腔健康管理の用語
1 口腔ケア
2 口腔健康管理
2 歯科衛生士の果たすべき役割
1 衛生の用語の意味と歯科衛生士の役割
2 口腔健康管理と歯科衛生士との関係
COFFEE BREAK 「衛生」は生を衛り,健康を守る
3 歯科保健医療の体制と今後の方向性
1 歯科医療提供体制と医療計画
2 歯科口腔保健の推進に関する法律(歯科口腔保健法)と基本的事項
II 高齢社会における制度と口腔健康管理
1 地域包括ケアシステム(水越新人・菊谷 武)
2 地域連携
1 在宅医療
2 地域包括支援センター
3 地域ケア会議
3 チーム医療(多職種連携)
1 チームアプローチの種類
2 地域医療における多職種連携
4 施設における口腔衛生管理の取り組み(久保山裕子・菊谷 武)
1 口腔衛生管理の体制整備
2 口腔衛生管理加算
CHAPTER 4 摂食嚥下機能のメカニズム
I 摂食嚥下にかかわる構造(解剖)(山本将仁・阿部伸一)
1 口腔の構造
1 口腔粘膜
2 口唇
3 口蓋
4 口峡
5 頬
6 舌
7 歯
8 唾液腺
2 咽頭の構造
3 喉頭の構造
4 鼻腔の構造
5 摂食嚥下に関する筋
1 口裂周囲の表情筋群
2 咀嚼筋群
3 舌骨上筋群・舌骨下筋群
4 舌筋群
5 軟口蓋の筋群
6 咽頭の筋群
7 喉頭の筋群
II 摂食嚥下にかかわる機能(生理)(井上 誠)
1 摂食運動
1 本能行動としての摂食運動
2 摂食嚥下の5期
2 咀嚼から嚥下への過程
1「期」と「相」
2 プロセスモデル
3 摂食嚥下運動の過程
1 咀嚼と嚥下の神経制御
2 嚥下誘発
3 嚥下運動
4 嚥下運動の誘発メカニズム
5 嚥下運動と呼吸のかかわり
1 呼吸の役割
2 呼吸と嚥下の協調
3 加齢がもたらす嚥下と呼吸の協調の変化
6 嚥下運動に関連する器官における種々の反射
1 咽頭絞扼反射と咳反射
2 嘔吐反射((異常)絞扼反射)
III 発達期の摂食嚥下機能(向井美惠)
1 発育期の口腔形態の成長と口腔機能の定型発達
2 乳児期における形態成長と機能発達
1 経口摂取準備期
3 離乳期から幼児期における機能発達
1 嚥下機能の発達
2 捕食機能の発達
3 押しつぶし機能の発達
4 すりつぶし機能の発達
5 水分摂取機能の獲得
6 自食準備期
7 手づかみ食べ機能の発達
8 食具(スプーン・フォーク)食べ機能の発達
4 幼児期における機能発達
CHAPTER 5 咬合および咀嚼機能の管理と評価
I 咬合と咀嚼機能(古屋純一)
1 下顎運動と咬合様式
1 下顎運動
2 咬合様式
2 歯の欠損による口腔の変化と口腔機能の低下
1 歯の欠損による短期的変化
2 歯の欠損による長期的変化
3 欠損様式の分類
3 摂食嚥下と義歯,咬合の役割
1 歯の欠損と摂食嚥下
2 義歯と摂食嚥下
3 義歯とPAP,PLP
II 咀嚼の評価と管理
1 咀嚼機能の評価法(歯科補綴学的な咀嚼の評価法)(小野高裕・白水雅子)
1 摂食嚥下における咀嚼の位置づけ
2 臨床における咀嚼の評価法
2 嚥下からみた咀嚼の評価(田頭いとゑ・戸原玄)
1 摂食嚥下障害患者における咀嚼機能評価の重要性
2 嚥下造影検査(VF)を用いた咀嚼機能評価
3 嚥下内視鏡検査(VE)を用いた咀嚼機能評価
4 食品を用いた簡便な咀嚼機能評価
3 咀嚼の管理に必要な口腔機能の評価と管理(日髙玲奈・古屋純一)
1 歯,咬合
2 義歯
3 口腔衛生
4 唾液
5 舌
6 口唇,頬
7 軟口蓋
8 疼痛
III 咬合・咀嚼と全身
1 咀嚼と栄養(鈴木啓之・古屋純一)
2 咀嚼と全身(鈴木啓之・金久弥生・古屋純一)
1 咀嚼と全身機能
2 咀嚼と認知機能
3 オーラルフレイルとフレイル(白部麻樹・渡邊裕)
1 オーラルフレイルとは
2 オーラルフレイルからみたフレイル予防
4 口腔機能低下症(日髙玲奈・古屋純一)
CHAPTER 6 栄養管理
(小城明子)
I 栄養スクリーニングと栄養アセスメント
1 栄養スクリーニング
1 成人・老年期における栄養スクリーニング
2 発達期における栄養スクリーニング
2 栄養アセスメント
II 栄養ケア
1 栄養必要量
1 エネルギー(成人期・老年期,発達期)
2 たんぱく質,アミノ酸
3 水分(成人期・老年期,発達期)
2 栄養補給方法
1 栄養補給方法の種類と特徴
2 栄養補給方法の選択/食形態(嚥下調整食を含む)
III 栄養サポートチーム(NST)の概念
CHAPTER 7 病態別摂食嚥下障害
I 発達期の摂食嚥下障害と原因疾患
1 小児の摂食嚥下障害の原因(田村文誉・水上美樹)
1 母体側の要因
2 小児側の要因
2 口腔機能発達不全症(木本茂成)
1 口腔機能発達不全症の特徴
2 診断基準
3 口腔機能発達不全症の評価
4 指導訓練の概要
II 成人期・老年期の疾患に伴い多くみられる摂食嚥下障害
1 脳卒中(吉田光由・西村瑠美)
1 球麻痺と偽性球麻痺
2 高次脳機能障害
3 脳卒中に伴う二次的障害
2 神経筋疾患
1 パーキンソン病ならびにパーキンソン症候群(パーキンソニズム)
2 筋萎縮性側索硬化症
3 神経筋疾患への対応
3 サルコペニア(波多野朱里・菊谷 武)
4 認知症
1 認知症にみられる摂食困難
2 その他,認知症にみられる摂食嚥下障害
3 認知症患者に対する食環境の調整
5 頭頸部がん(口腔がん含む)(伊原良明)
1 頭頸部がん治療による摂食嚥下障害の特徴
2 頭頸部がん治療による摂食嚥下障害に対しての対応
III 終末期における対応と知識(富田浩子・菊谷 武)
II 臨床編
CHAPTER 1 リスクマネジメント
I 全身状態の把握と対応(藤谷順子・藤本雅史)
1 バイタルサイン
1 意識
2 血圧
3 脈拍
4 呼吸
5 体温
2 バイタルサインのチェック,モニタリング,アセスメント
II 緊急時の対応
1 誤嚥
2 窒息
III 吸引
1 喀痰吸引(三鬼達人)
2 吸引の適応条件
3 禁忌と注意を要する状態
4 吸引時の注意点
5 吸引手順(渡邉理沙)
IV 気管切開(藤本雅史・藤谷順子)
1 適応
2 解剖
3 気管カニューレの構造と種類
1 基本構造
2 種類
COLUMN 永久気管孔
4 気管切開と摂食嚥下リハビリテーション
1 目的
2 内容
3 気管切開患者にリハビリテーションを実施する際の注意点
CHAPTER 2 摂食嚥下リハビリテーションの実際
I スクリーニングテストと観察評価
1 発達期の摂食嚥下機能の評価(水上美樹・田村文誉)
1 医療情報の聴取
2 摂食嚥下機能のスクリーニングと食事時の外部観察における摂食嚥下機能の評価基準
3 発達期における精密検査
2 成人期(中途障害者)および老年期(高齢期)に対する評価(角田由美・赤塚澄子・佐藤光保・福井沙矢香)
1 フィジカルアセスメント
2 スクリーニング検査
3 成人期・老年期における精密検査
II 摂食嚥下障害に対する計画立案(木村有子)
1 発達期における摂食嚥下障害に対する訓練の考え方と計画立案
2 成人期・老年期における摂食嚥下障害に対する訓練の考え方と計画立案
III 各病態に対する訓練法とその選択
1 摂食嚥下障害に対する訓練(水上美樹)
COLUMN 非侵襲的刺激による訓練
2 基礎訓練(間接訓練)の選択と実施(水上美樹・尾形祐己)
1 嚥下体操
2 触覚過敏除去(脱感作)
3 ガムラビング(歯肉マッサージ)
4 筋刺激訓練法(バンゲード方式I)
5 冷圧刺激
6 喉のアイスマッサージ
7 氷なめ訓練
8 ハフィング
9 息こらえ嚥下法(声門閉鎖嚥下法,声門越え嚥下法)
10 強い息こらえ嚥下法(咽頭閉鎖嚥下法)
11 頭部挙上訓練(シャキアエクササイズ)
12 声帯内転運動(プッシング・プリング訓練)
13 メンデルソン手技
14 前舌保持嚥下訓練
15 バルーン拡張法
3 摂食訓練(直接訓練)の選択と実施(小田奈央・柴田由美)
1 目的と意義
2 適切な評価とリスク管理
3 訓練の選択
4 摂食訓練(直接訓練)に必要な因子
5 摂食訓練(直接訓練)の実際
IV 摂食嚥下障害に対する食事指導
1 発達期障害児に対する食事指導(柴田由美・小城明子)
1 食環境の調整
2 知っておくべき食形態の分類
3 調理方法の工夫
2 成人(中途障害),老年期に対する食事指導(柴田由美・小城明子)
1 食環境の調整
2 食事前・食事中・食後の注意
3 知っておくべき食形態の分類
4 調理方法の工夫
3 ミールラウンドの実際(戸原雄)
1 事前カンファレンスの重要性
2 ミールラウンド
3 事後カンファレンス
CHAPTER 3 口腔衛生管理
I 小児における口腔衛生管理と実際(吉原圭子)
1 小児における口腔衛生管理
2 口腔衛生管理の順応と口腔清掃の習慣化について
3 小児における口腔衛生管理の実際
1 口腔清掃用具の選択
2 情報収集
3 ポジショニング
4 口腔衛生管理の方法
5 無歯顎期の口腔衛生管理方法
II 成人期・老年期における口腔衛生管理と実際
1 口腔衛生管理実施前の評価(渡邉理沙)
1 口腔以外の評価
2 口腔内の評価
2 姿勢調整
1 座位がとれる場合
2 座位が困難な場合
3 麻痺がある場合
4 実施者の立ち位置
3 口腔衛生管理の方法
4 口腔衛生管理のリスク管理
1 開口保持困難な場合
5 難症例の口腔衛生管理(口腔がん患者の場合)(菅野亜紀)
1 手術療法における口腔健康管理
2 化学療法・放射線療法における口腔健康管理
CHAPTER 4 薬剤と嚥下障害
(富田 隆・小瀧由莉)
I 医薬品の基礎
1 錠剤の基礎
2 カプセル剤の基礎
3 散剤・顆粒剤の基礎
II 基本的な内用薬の服薬方法
1 内服に必要な水分量
2 薬物の用法と食事の関係
1 起床時
2 食前
3 食直前
4 食直後
5 食後
6 食間
7 就寝前
8 頓服・頓用
III 高齢患者における服薬管理
IV 嚥下機能に影響を及ぼす可能性がある薬物
V 誤嚥を改善する可能性がある薬物
VI 服薬時の工夫と対策
1 内用薬を内服する際の姿勢
2 内服困難者への対応
1 処方される薬剤数の低減
2 剤型の至適化
3 内服方法の見直し
CHAPTER 5 摂食嚥下障害者への症例展開
(佐藤陽子・田中祐子)
症例1
症例2
症例3
文献
索引
第3版 序文
I 基礎編
CHAPTER 1 歯科衛生士と摂食嚥下リハビリテーション
(植田耕一郎)
I 歯科衛生士は摂食機能療法を実施する
II 生活をみる
III 第三の医学
CHAPTER 2 リハビリテーションと摂食嚥下リハビリテーション
I リハビリテーション医学・医療総論(藤谷順子・村松倫)
1 リハビリテーション医学とは
2 運動学とは
3 障害の分類
4 リハビリテーション治療のプランニング
II 摂食嚥下リハビリテーション総論(向井美惠)
1 摂食嚥下と摂食嚥下障害
2 摂食嚥下の過程と食物の流れ
3 摂食嚥下障害の特徴に基づいた対応領域
4 摂食嚥下障害の原因
5 摂食嚥下障害の重症度分類
6 摂食嚥下リハビリテーションの進め方
7 摂食嚥下リハビリテーションへの取り組みと課題
CHAPTER 3 高齢社会の制度の理解と口腔健康管理
I 口腔健康管理とは(吉田直美)
1 口腔ケアと口腔健康管理の用語
1 口腔ケア
2 口腔健康管理
2 歯科衛生士の果たすべき役割
1 衛生の用語の意味と歯科衛生士の役割
2 口腔健康管理と歯科衛生士との関係
COFFEE BREAK 「衛生」は生を衛り,健康を守る
3 歯科保健医療の体制と今後の方向性
1 歯科医療提供体制と医療計画
2 歯科口腔保健の推進に関する法律(歯科口腔保健法)と基本的事項
II 高齢社会における制度と口腔健康管理
1 地域包括ケアシステム(水越新人・菊谷 武)
2 地域連携
1 在宅医療
2 地域包括支援センター
3 地域ケア会議
3 チーム医療(多職種連携)
1 チームアプローチの種類
2 地域医療における多職種連携
4 施設における口腔衛生管理の取り組み(久保山裕子・菊谷 武)
1 口腔衛生管理の体制整備
2 口腔衛生管理加算
CHAPTER 4 摂食嚥下機能のメカニズム
I 摂食嚥下にかかわる構造(解剖)(山本将仁・阿部伸一)
1 口腔の構造
1 口腔粘膜
2 口唇
3 口蓋
4 口峡
5 頬
6 舌
7 歯
8 唾液腺
2 咽頭の構造
3 喉頭の構造
4 鼻腔の構造
5 摂食嚥下に関する筋
1 口裂周囲の表情筋群
2 咀嚼筋群
3 舌骨上筋群・舌骨下筋群
4 舌筋群
5 軟口蓋の筋群
6 咽頭の筋群
7 喉頭の筋群
II 摂食嚥下にかかわる機能(生理)(井上 誠)
1 摂食運動
1 本能行動としての摂食運動
2 摂食嚥下の5期
2 咀嚼から嚥下への過程
1「期」と「相」
2 プロセスモデル
3 摂食嚥下運動の過程
1 咀嚼と嚥下の神経制御
2 嚥下誘発
3 嚥下運動
4 嚥下運動の誘発メカニズム
5 嚥下運動と呼吸のかかわり
1 呼吸の役割
2 呼吸と嚥下の協調
3 加齢がもたらす嚥下と呼吸の協調の変化
6 嚥下運動に関連する器官における種々の反射
1 咽頭絞扼反射と咳反射
2 嘔吐反射((異常)絞扼反射)
III 発達期の摂食嚥下機能(向井美惠)
1 発育期の口腔形態の成長と口腔機能の定型発達
2 乳児期における形態成長と機能発達
1 経口摂取準備期
3 離乳期から幼児期における機能発達
1 嚥下機能の発達
2 捕食機能の発達
3 押しつぶし機能の発達
4 すりつぶし機能の発達
5 水分摂取機能の獲得
6 自食準備期
7 手づかみ食べ機能の発達
8 食具(スプーン・フォーク)食べ機能の発達
4 幼児期における機能発達
CHAPTER 5 咬合および咀嚼機能の管理と評価
I 咬合と咀嚼機能(古屋純一)
1 下顎運動と咬合様式
1 下顎運動
2 咬合様式
2 歯の欠損による口腔の変化と口腔機能の低下
1 歯の欠損による短期的変化
2 歯の欠損による長期的変化
3 欠損様式の分類
3 摂食嚥下と義歯,咬合の役割
1 歯の欠損と摂食嚥下
2 義歯と摂食嚥下
3 義歯とPAP,PLP
II 咀嚼の評価と管理
1 咀嚼機能の評価法(歯科補綴学的な咀嚼の評価法)(小野高裕・白水雅子)
1 摂食嚥下における咀嚼の位置づけ
2 臨床における咀嚼の評価法
2 嚥下からみた咀嚼の評価(田頭いとゑ・戸原玄)
1 摂食嚥下障害患者における咀嚼機能評価の重要性
2 嚥下造影検査(VF)を用いた咀嚼機能評価
3 嚥下内視鏡検査(VE)を用いた咀嚼機能評価
4 食品を用いた簡便な咀嚼機能評価
3 咀嚼の管理に必要な口腔機能の評価と管理(日髙玲奈・古屋純一)
1 歯,咬合
2 義歯
3 口腔衛生
4 唾液
5 舌
6 口唇,頬
7 軟口蓋
8 疼痛
III 咬合・咀嚼と全身
1 咀嚼と栄養(鈴木啓之・古屋純一)
2 咀嚼と全身(鈴木啓之・金久弥生・古屋純一)
1 咀嚼と全身機能
2 咀嚼と認知機能
3 オーラルフレイルとフレイル(白部麻樹・渡邊裕)
1 オーラルフレイルとは
2 オーラルフレイルからみたフレイル予防
4 口腔機能低下症(日髙玲奈・古屋純一)
CHAPTER 6 栄養管理
(小城明子)
I 栄養スクリーニングと栄養アセスメント
1 栄養スクリーニング
1 成人・老年期における栄養スクリーニング
2 発達期における栄養スクリーニング
2 栄養アセスメント
II 栄養ケア
1 栄養必要量
1 エネルギー(成人期・老年期,発達期)
2 たんぱく質,アミノ酸
3 水分(成人期・老年期,発達期)
2 栄養補給方法
1 栄養補給方法の種類と特徴
2 栄養補給方法の選択/食形態(嚥下調整食を含む)
III 栄養サポートチーム(NST)の概念
CHAPTER 7 病態別摂食嚥下障害
I 発達期の摂食嚥下障害と原因疾患
1 小児の摂食嚥下障害の原因(田村文誉・水上美樹)
1 母体側の要因
2 小児側の要因
2 口腔機能発達不全症(木本茂成)
1 口腔機能発達不全症の特徴
2 診断基準
3 口腔機能発達不全症の評価
4 指導訓練の概要
II 成人期・老年期の疾患に伴い多くみられる摂食嚥下障害
1 脳卒中(吉田光由・西村瑠美)
1 球麻痺と偽性球麻痺
2 高次脳機能障害
3 脳卒中に伴う二次的障害
2 神経筋疾患
1 パーキンソン病ならびにパーキンソン症候群(パーキンソニズム)
2 筋萎縮性側索硬化症
3 神経筋疾患への対応
3 サルコペニア(波多野朱里・菊谷 武)
4 認知症
1 認知症にみられる摂食困難
2 その他,認知症にみられる摂食嚥下障害
3 認知症患者に対する食環境の調整
5 頭頸部がん(口腔がん含む)(伊原良明)
1 頭頸部がん治療による摂食嚥下障害の特徴
2 頭頸部がん治療による摂食嚥下障害に対しての対応
III 終末期における対応と知識(富田浩子・菊谷 武)
II 臨床編
CHAPTER 1 リスクマネジメント
I 全身状態の把握と対応(藤谷順子・藤本雅史)
1 バイタルサイン
1 意識
2 血圧
3 脈拍
4 呼吸
5 体温
2 バイタルサインのチェック,モニタリング,アセスメント
II 緊急時の対応
1 誤嚥
2 窒息
III 吸引
1 喀痰吸引(三鬼達人)
2 吸引の適応条件
3 禁忌と注意を要する状態
4 吸引時の注意点
5 吸引手順(渡邉理沙)
IV 気管切開(藤本雅史・藤谷順子)
1 適応
2 解剖
3 気管カニューレの構造と種類
1 基本構造
2 種類
COLUMN 永久気管孔
4 気管切開と摂食嚥下リハビリテーション
1 目的
2 内容
3 気管切開患者にリハビリテーションを実施する際の注意点
CHAPTER 2 摂食嚥下リハビリテーションの実際
I スクリーニングテストと観察評価
1 発達期の摂食嚥下機能の評価(水上美樹・田村文誉)
1 医療情報の聴取
2 摂食嚥下機能のスクリーニングと食事時の外部観察における摂食嚥下機能の評価基準
3 発達期における精密検査
2 成人期(中途障害者)および老年期(高齢期)に対する評価(角田由美・赤塚澄子・佐藤光保・福井沙矢香)
1 フィジカルアセスメント
2 スクリーニング検査
3 成人期・老年期における精密検査
II 摂食嚥下障害に対する計画立案(木村有子)
1 発達期における摂食嚥下障害に対する訓練の考え方と計画立案
2 成人期・老年期における摂食嚥下障害に対する訓練の考え方と計画立案
III 各病態に対する訓練法とその選択
1 摂食嚥下障害に対する訓練(水上美樹)
COLUMN 非侵襲的刺激による訓練
2 基礎訓練(間接訓練)の選択と実施(水上美樹・尾形祐己)
1 嚥下体操
2 触覚過敏除去(脱感作)
3 ガムラビング(歯肉マッサージ)
4 筋刺激訓練法(バンゲード方式I)
5 冷圧刺激
6 喉のアイスマッサージ
7 氷なめ訓練
8 ハフィング
9 息こらえ嚥下法(声門閉鎖嚥下法,声門越え嚥下法)
10 強い息こらえ嚥下法(咽頭閉鎖嚥下法)
11 頭部挙上訓練(シャキアエクササイズ)
12 声帯内転運動(プッシング・プリング訓練)
13 メンデルソン手技
14 前舌保持嚥下訓練
15 バルーン拡張法
3 摂食訓練(直接訓練)の選択と実施(小田奈央・柴田由美)
1 目的と意義
2 適切な評価とリスク管理
3 訓練の選択
4 摂食訓練(直接訓練)に必要な因子
5 摂食訓練(直接訓練)の実際
IV 摂食嚥下障害に対する食事指導
1 発達期障害児に対する食事指導(柴田由美・小城明子)
1 食環境の調整
2 知っておくべき食形態の分類
3 調理方法の工夫
2 成人(中途障害),老年期に対する食事指導(柴田由美・小城明子)
1 食環境の調整
2 食事前・食事中・食後の注意
3 知っておくべき食形態の分類
4 調理方法の工夫
3 ミールラウンドの実際(戸原雄)
1 事前カンファレンスの重要性
2 ミールラウンド
3 事後カンファレンス
CHAPTER 3 口腔衛生管理
I 小児における口腔衛生管理と実際(吉原圭子)
1 小児における口腔衛生管理
2 口腔衛生管理の順応と口腔清掃の習慣化について
3 小児における口腔衛生管理の実際
1 口腔清掃用具の選択
2 情報収集
3 ポジショニング
4 口腔衛生管理の方法
5 無歯顎期の口腔衛生管理方法
II 成人期・老年期における口腔衛生管理と実際
1 口腔衛生管理実施前の評価(渡邉理沙)
1 口腔以外の評価
2 口腔内の評価
2 姿勢調整
1 座位がとれる場合
2 座位が困難な場合
3 麻痺がある場合
4 実施者の立ち位置
3 口腔衛生管理の方法
4 口腔衛生管理のリスク管理
1 開口保持困難な場合
5 難症例の口腔衛生管理(口腔がん患者の場合)(菅野亜紀)
1 手術療法における口腔健康管理
2 化学療法・放射線療法における口腔健康管理
CHAPTER 4 薬剤と嚥下障害
(富田 隆・小瀧由莉)
I 医薬品の基礎
1 錠剤の基礎
2 カプセル剤の基礎
3 散剤・顆粒剤の基礎
II 基本的な内用薬の服薬方法
1 内服に必要な水分量
2 薬物の用法と食事の関係
1 起床時
2 食前
3 食直前
4 食直後
5 食後
6 食間
7 就寝前
8 頓服・頓用
III 高齢患者における服薬管理
IV 嚥下機能に影響を及ぼす可能性がある薬物
V 誤嚥を改善する可能性がある薬物
VI 服薬時の工夫と対策
1 内用薬を内服する際の姿勢
2 内服困難者への対応
1 処方される薬剤数の低減
2 剤型の至適化
3 内服方法の見直し
CHAPTER 5 摂食嚥下障害者への症例展開
(佐藤陽子・田中祐子)
症例1
症例2
症例3
文献
索引














