やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
~超音波デブライドメントを「お掃除」から「医療」へ
 歯科衛生士の臨床において,超音波スケーラーはもはや不可欠な器材です.しかし,日々の多忙な診療のなかで,皆さん歯科衛生士が行う超音波デブライドメントが,単なる「効率的なお掃除」になってはいないでしょうか.
 かつての私もそうでした.超音波スケーラーは,全顎的にザーッとプラークを取るための道具.歯肉縁下に対しては,手用スケーラーで根面が滑沢になるまでSRPを行い,治癒が悪ければ「まだ根面に何かが残っているのではないか」と,疑心暗鬼になりながら何度もSRPを繰り返す.そこには,歯周治療を単なる「お口の清掃」の延長と捉える自分がいました.
 そんな私の臨床を根底から覆したのは,スウェーデン・イエテボリ大学での大学院1年目の経験でした.歯周病専門クリニックで働く歯科衛生士から超音波デブライドメントの手ほどきを受けた際,私は自身の固定観念が大きな誤りであったことに気づかされました.彼女たちは超音波スケーラーの基礎知識に精通し,理論に基づいて手用スケーラーと使い分け,精密に歯周治療を実践していました.そして,何より口腔衛生指導(OHI)を含む歯周基本治療そのものがもつ,計りしれない可能性に気づかされたのです.
 また,イエテボリ大学歯周病科から発表されていた数々の論文は,私に新しい視点を与えてくれました.過度な切削による「滑沢な根面」の追求ではなく,バイオフィルムを効率的に破壊し,生体が許容できる環境を整える「デブライドメント」の有効性.そして,超音波スケーラーの特性がいかにこの考え方と相性がよく,超音波スケーラーによるデブライドメント=「超音波デブライドメント」こそが歯周基本治療の最前線に位置する手技であるという理解につながったのです.
 本別冊は,こうした理論的背景と,明日からの臨床を支える具体的な手技をつなぐ一冊として企画されました.メーカー主導の情報や経験則にとどまらない,確かな根拠に基づいた情報を網羅しています.これまでなんとなく行ってきた操作の一つひとつに,明確な「根拠」と「目的」が備わったとき,皆さんが行う超音波デブライドメントは,単なる「お掃除」から,バイオフィルムを制御し治癒へと導く「医療」へと進化するはずです.
 すべては,あなたを信頼してチェアに座る患者さんの健康を守り,一生涯をご自身の歯で過ごしていただくために.本別冊が皆様の臨床を変える一助となることを願ってやみません.
 2026年3月 加藤雄大
 はじめに~超音波デブライドメントを「お掃除」から「医療」へ
Chapter 1 まずはここから! 超音波デブライドメントの「知識」編
 (1)超音波デブライドメントの「根拠」を知ろう
  はじめに
  歯周病の病因論の変化と歯周基本治療の理論上のゴール
  根面処置の考え方の変遷~「感染除去」から「生体が許容できる根面」へ
  “超音波デブライドメント”とは何か
  なぜ“超音波デブライドメント”なのか
  “超音波デブライドメント”が注目されている背景とその優位性
  手用スケーラーとの使い分けと有用な使用法
  臨床的な使い分けのフロー
  超音波デブライドメント後の再評価について
  根面はツルツル(滑沢)にするべきか?
  エアアブレージョンの有用性と,根面処置への応用の可能性
  おわりに
  COLUMN
   どうやって選ぶ? 超音波スケーラー
 (2)これだけは知っておきたい 注意が必要な解剖学的形態
  解剖学的形態を把握することの重要性
  上顎側切歯
  上顎第一小臼歯
  上顎第一大臼歯
  上顎第二大臼歯
  下顎側切歯
  下顎第一大臼歯
  下顎第二大臼歯
Chapter 2 完璧にマスターしたい! 超音波デブライドメントの「手技」編
 (1)超音波デブライドメントの基本
  超音波デブライドメントを行う前に
  器材の種類と特徴
  超音波スケーラーのしくみとはたらき
  チップの種類と症例ごとの選択
  把持とレスト
  パワー(出力)と注水量の調整
  チップの接触角度と圧
  チップの動かし方
  注意点と禁忌~安全な施術を行うために
  器具の扱いとメインテナンス
  COLUMN
   超音波スケーラーによるオーバーインスツルメンテーションを防ぐために~臨床で意識したいこと
   チップの摩耗と交換~摩耗は“感覚”ではなく“インジケーター”で測る!
   「ピエゾは直線,マグネットは楕円」は本当か?~振動様式と歯面への影響
   超音波スケーラーを使用する際の患者さんへの配慮
 (2)症例に応じた,歯周基本治療での超音波スケーラーの応用
  超音波スケーラーを応用するにあたって大切なこと
  超音波デブライドメントの流れ
  マスターしたい 部位別・症例別の応用のポイント
   広範囲に付着した強固な歯石
   幅が狭く深いポケット
   叢生・舌側転位
   動揺歯
   根分岐部病変
   解剖学的に難しい部位
   インプラント部
   補綴装置が多く装着された口腔内
  COLUMN
   私のお勧め器材~世界標準のパートナー・キャビトロン(マグネット型)を選ぶ理由
   超音波スケーラーの手技の練習方法
 (3)メインテナンスでの超音波スケーラーの応用
  はじめに
  メインテナンスにおける超音波スケーラーの応用~「定期的なお掃除」からの脱却と本来のプロフェッショナルケア
  メインテナンスにおける応用の根拠と注意点
  歯科衛生士の「総合力」が試されるメインテナンス
  COLUMN
   メインテナンス時の再発への対応~侵襲性の低い処置を
   超音波デブライドメントの効果を左右する環境因子「喫煙」と禁煙支援
   糖尿病と歯周病の双方向の関係と医科歯科連携の重要性
Chapter 3 知っておきたいエアアブレージョン
 エアアブレージョンの基礎知識と効果的な応用方法
  エアアブレージョンとは
  使用の目的と効果
  歯肉縁上への応用~PMTCとの違い
  歯肉縁下への応用~歯周ポケット内へのアプローチ
  使用のタイミングと目的
  どんな症例に有用か?
  パウダーとノズルの選択
  エアアブレージョンの適応と禁忌
  エアアブレージョン使用のポイント~象牙質知覚過敏症を防ぐために
  COLUMN
   皮下気腫への対応
   メインテナンスでのエアアブレージョンの応用

 おわりに
 執筆者一覧
 参考文献