やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社



 「なぜ歯冠修復物を装着すると歯肉が退縮してしまうのか」「なぜ歯肉が炎症を起こすのか,なぜ発赤を生ずるのか」…….必要があって行った歯冠修復処置のはずではあるが,その問題は,歯周組織の喪失,ひいては歯そのものの喪失と関連する大きな問題として指摘されることは少なくない.歯冠修復処置の問題は歯冠修復処置にとどまらず,口腔内全体に大きな問題を生じるおそれがあることを認識しなければならない.それがゆえに,本書の姉妹書である『補綴臨床MOOK臨床を変える支台歯形成1.生物学的形成の理論と実際』においては,本書に先立ち,フィニッシュラインの位置と形態を歯周組織との関連で整理したつもりである.また,巻頭の“Visual Graph”では,あえて1ページ大に1歯の支台歯のフィニッシュライン付近を拡大して,それらの関係を視覚的に示した.圧排糸を挿入した状態と,取り除いて歯肉が回復した状態とが比較できるように.
 歯周組織と支台歯フィニッシュラインの位置および形態との関係,すなわち冒頭の問題を回避するための原理原則とその術式は,補綴専門医と歯周治療専門医との共同作業により,主にアメリカにおいてこの10年くらいの間に体系づけられ,臨床的にはほぼ完成をみたといってよいであろう.著者らの臨床を振り返ってみても,最近4~5年の歯冠修復症例においては,装着後に歯周組織に問題を生ずる例はほとんどみられなくなってきている.この問題が問題ではなくなってくると,支台歯形成にかかわるストレスは著しく減少する.すなわち,支台歯形成本来の目的である歯冠修復物を装着,保持するための空隙量だけ歯質を削除すればよいということになる.
 そこで本書では,既刊MOOK『1.生物学的形成の理論と実際』に引き続き,実際に歯質を削除する,支台歯形成を行ううえでの指針を具体的に示すことを目的とした.しかし,目次構成上は,まず,天然歯の歯冠形態,歯根形態,歯髄腔形態,そして歯周組織の形態およびそれらの関係がどのようになっているのか把握しておくことが必要と考え,それを理解していただく資料として,歯冠修復処置歴のない歯列を有する30歳代の女性の口腔内写真やX線写真を,あえて編集して呈示してある.この資料を,健康な歯列における諸器官相互の形態的な関係の理解に役立てていただきたいと思う.なお,各歯のサイズを明示してあるが,これは藤田恒太郎先生によるものであり,支台歯形成を行ううえでの基準となる数字として覚えておくとよいと思う.
 支台歯の基本的な形態はそれほど理解が難しいものではない.軸面形態に関しては天然歯の形態を参考に3面形成とし,また咬合面に関しては,機能咬頭・非機能咬頭の区別と咬合圧の負担,装着された歯冠修復物による咬頭干渉や早期接触の防止といったことを考慮する.また,重度な歯周疾患の治療により臨床歯冠長が長くなり,しかも歯根分岐部が露出したような臼歯では,フルーティング形成といったことも行うべきであろうが,そのような個別のことについては,本書ではあえてふれてはいない.あくまでも応用問題を解くための基本となる内容に徹している.
 『補綴臨床MOOK 臨床を変える支台歯形成』は,『1.生物学的形成の理論と実際』『2.形成・形態ガイド』の2冊をもって内容が完結をするものである.既刊の『1.生物学的形成の理論と実際』についても併せて手に取っていただくことを願う.
 2001年 元旦
 茂野啓示・今井俊広・土屋賢司・山崎長郎
 序

PART 1 臨床の視点からみた歯冠・歯根・歯肉・歯髄腔の形態的関係 Part 1. Morphological Relations of Crown,Root,Gingiva and Pulp Cavity from Clinical Views

 歯列単位でみた歯冠・歯根・歯肉・歯髄腔の形態的関係……土屋賢司  Morphological Relations of Crown,Root,Gingiva and Pulp Cavity from Views of Dental Arch
  上顎歯列
  下顎歯列
  上下顎咬合状態

 1歯単位でみた歯冠・歯根・歯肉・歯髄腔の形態的関係……土屋賢司  Morphological Relations of Crown,Root,Gingiva and Pulp Cavity from Views of Single Tooth
  上顎中切歯
  上顎側切歯
  上顎犬歯
  上顎第一小臼歯
  上顎第二小臼歯
  上顎第一大臼歯
  上顎第二大臼歯
  下顎中切歯
  下顎側切歯
  下顎犬歯
  下顎第一小臼歯
  下顎第二小臼歯
  下顎第一大臼歯
  下顎第二大臼歯

PART 2 標準的な支台歯形態 Part 2. Standard Preparation Morphology

  上顎中切歯……山崎長郎
  上顎側切歯……今井俊広
  上顎犬歯……土屋賢司
  上顎第一小臼歯……茂野啓示
  上顎第二小臼歯……茂野啓示
  上顎第一大臼歯……茂野啓示
  上顎第二大臼歯……茂野啓示
  下顎中切歯……今井俊広
  下顎側切歯……今井俊広
  下顎犬歯……茂野啓示
  下顎第一小臼歯……今井俊広
  下顎第二小臼歯……茂野啓示
  下顎第一大臼歯……茂野啓示
  下顎第二大臼歯……茂野啓示

PART 3 標準的な支台歯形成のステップ Part 3. Standard Preparation Steps

  上顎中切歯……山崎長郎
  上顎側切歯……今井俊広
  上顎犬歯……土屋賢司
  上顎第一小臼歯……茂野啓示
  上顎第二小臼歯……茂野啓示
  上顎第一大臼歯……茂野啓示
  上顎第二大臼歯……茂野啓示
  下顎中切歯……今井俊広
  下顎側切歯……今井俊広
  下顎犬歯……茂野啓示
  下顎第一小臼歯……今井俊広
  下顎第二小臼歯……茂野啓示
  下顎第一大臼歯……茂野啓示
  下顎第二大臼歯……茂野啓示

 主な器材一覧……山崎長郎