序
歯冠修復処置のために,歯冠修復物を装着する空隙量だけ歯質を削除する――支台歯形成とは,操作としては,このように簡単に言い表すことができる.場合によっては,卒業したばかりの歯科医師でも臨床経験数十年の歯科医師とそれほど遜色もなくできる手技と言えるかもしれない.ただし,得手・不得手あるいは器用・不器用はどの世界にもあることで,支台歯形成が不得手な場合は練習を積めば,それなりにうまくなるものである.少なくとも練習,努力の成果はきちんと模型上に表れる.
しかし著者らがこのMOOKを通して訴えたいことは,そのようなことの延長線上にある,器用に支台歯形成をするための方法や時間を短縮するための方法でもないし,器材の紹介でもない.ましてや,多少の臨床経験の成果をひけらかすものでもない.著者らが述べるべきと考えていることは,やむをえないこととはいえ,あまりにも安易に容認されてきた感のある支台歯形成に伴う歯と歯周組織,つまり生体に対する侵襲をできる限り最少とし,しかもそれを,操作時のみならず時間経過をも要素として考慮することができるようになってきた,その現状を整理して伝えたいということである.つまり,歯冠修復処置を行うことによる便宜抜髄,そこにダウエルコアを装着することによる歯根破折,経時的に見られる歯肉の退縮,そして二次齲蝕や骨縁下齲蝕の発症,……,etc.といった,歯冠修復処置そのものの是非をも左右しかねない臨床的な諸問題を,支台歯形成すなわち支台歯形態という側面から整理することである.支台歯形成,支台歯形態といっても,生体の保全という観点からは,非常に広い関連領域を有し,しかも臨床的には,それらを網羅して支台歯形態を決定しなければならない.その段階を経て,初めて支台歯形成という操作を行うことができる.
診査,診断,治療計画を経て,そして治療,さらに評価――という臨床のステップは,特に現在のようなレベルの歯周治療が普及する過程において一般的となったと言えよう.そして現在は,齲蝕に関しても同様な臨床順序を踏むことが当たり前と認識されるようになってきている.つまり歯冠修復処置を齲蝕治療の一環として考えたならば,支台歯形態の決定に関しても,必要な診査,診断をし,それを決定することが当然であることは理解していただけることと思う.支台歯形態は,単に歯冠を眺めていても決定されるものではない,勝手に手が動いて付与されるものでもない.歯冠部歯質,歯根,対合歯,隣在歯,歯肉,歯槽骨などの諸要素を診査,診断して決定されるものである.
本MOOKでは,著者らが収集した,このような支台歯形成を行ううえで必要な情報を整理し,また臨床における要点についても余すところなく網羅したつもりである.しかしながら,関連する内容ではあるものの歯周組織などの記述に関しては,多くの読者には,一見すると支台歯形態とは直接に関係がないと思われるかもしれない.このような内容に関しては,シェーマなどを有機的に用いて極力理解しやすいような構成をしたつもりである.また巻頭の“VISUAL GRAPH”にて,あえて拡大写真を用いた.
最後に,このような内容のMOOKをまとめるうえでの基本を,親密な交流を通して育成していただいたDr.J.C.Kois,Dr.F.Spear,Dr.J.Sorensenをはじめとする内外の先達に対して謝意を表する.また,記念すべき『補綴臨床』MOOK第一弾として,編集を通してご支援をいただいた『補綴臨床』編集部に感謝の意を表する.
2000年5月 山崎長郎・茂野啓示
歯冠修復処置のために,歯冠修復物を装着する空隙量だけ歯質を削除する――支台歯形成とは,操作としては,このように簡単に言い表すことができる.場合によっては,卒業したばかりの歯科医師でも臨床経験数十年の歯科医師とそれほど遜色もなくできる手技と言えるかもしれない.ただし,得手・不得手あるいは器用・不器用はどの世界にもあることで,支台歯形成が不得手な場合は練習を積めば,それなりにうまくなるものである.少なくとも練習,努力の成果はきちんと模型上に表れる.
しかし著者らがこのMOOKを通して訴えたいことは,そのようなことの延長線上にある,器用に支台歯形成をするための方法や時間を短縮するための方法でもないし,器材の紹介でもない.ましてや,多少の臨床経験の成果をひけらかすものでもない.著者らが述べるべきと考えていることは,やむをえないこととはいえ,あまりにも安易に容認されてきた感のある支台歯形成に伴う歯と歯周組織,つまり生体に対する侵襲をできる限り最少とし,しかもそれを,操作時のみならず時間経過をも要素として考慮することができるようになってきた,その現状を整理して伝えたいということである.つまり,歯冠修復処置を行うことによる便宜抜髄,そこにダウエルコアを装着することによる歯根破折,経時的に見られる歯肉の退縮,そして二次齲蝕や骨縁下齲蝕の発症,……,etc.といった,歯冠修復処置そのものの是非をも左右しかねない臨床的な諸問題を,支台歯形成すなわち支台歯形態という側面から整理することである.支台歯形成,支台歯形態といっても,生体の保全という観点からは,非常に広い関連領域を有し,しかも臨床的には,それらを網羅して支台歯形態を決定しなければならない.その段階を経て,初めて支台歯形成という操作を行うことができる.
診査,診断,治療計画を経て,そして治療,さらに評価――という臨床のステップは,特に現在のようなレベルの歯周治療が普及する過程において一般的となったと言えよう.そして現在は,齲蝕に関しても同様な臨床順序を踏むことが当たり前と認識されるようになってきている.つまり歯冠修復処置を齲蝕治療の一環として考えたならば,支台歯形態の決定に関しても,必要な診査,診断をし,それを決定することが当然であることは理解していただけることと思う.支台歯形態は,単に歯冠を眺めていても決定されるものではない,勝手に手が動いて付与されるものでもない.歯冠部歯質,歯根,対合歯,隣在歯,歯肉,歯槽骨などの諸要素を診査,診断して決定されるものである.
本MOOKでは,著者らが収集した,このような支台歯形成を行ううえで必要な情報を整理し,また臨床における要点についても余すところなく網羅したつもりである.しかしながら,関連する内容ではあるものの歯周組織などの記述に関しては,多くの読者には,一見すると支台歯形態とは直接に関係がないと思われるかもしれない.このような内容に関しては,シェーマなどを有機的に用いて極力理解しやすいような構成をしたつもりである.また巻頭の“VISUAL GRAPH”にて,あえて拡大写真を用いた.
最後に,このような内容のMOOKをまとめるうえでの基本を,親密な交流を通して育成していただいたDr.J.C.Kois,Dr.F.Spear,Dr.J.Sorensenをはじめとする内外の先達に対して謝意を表する.また,記念すべき『補綴臨床』MOOK第一弾として,編集を通してご支援をいただいた『補綴臨床』編集部に感謝の意を表する.
2000年5月 山崎長郎・茂野啓示
序
VISUAL GRAPH 山崎長郎
PART 1 支台歯形態の決定に影響を与える生物学的要素 茂野啓示
1 歯周組織と支台歯形態との関係
2 歯冠修復物と支台歯形態との関係
3 齲蝕の範囲と支台歯形態との関係
4 歯の位置と支台歯形態との関係
PART 2 生物学的要素を考慮した支台歯形成のための前処置 茂野啓示
1 歯周組織の保全のための前処置
2 歯質および歯髄の保全のための前処置
3 歯肉縁下・骨縁下齲蝕のための前処置
4 歯の位置異常のための前処置
PART 3 生物学的な支台歯形成のための臨床上の要点 茂野啓示
1 前処置として支台歯周辺の歯槽骨欠損ならびに転位・傾斜の改善を行った症例
2 前処置として支台歯近心傾斜の改善を行った症例
3 前処置として骨縁下齲蝕罹患歯の挺出処置を行った症例
PART 4 生物学的な支台歯形成 山崎長郎
1 生物学的な支台歯形成において考慮すべき要素
2 生物学的な支台歯形成の操作上の要点
PART 5 生物学的なダウエルコアの設計 山崎長郎
1 生物学的なダウエルコア設計のための要件
2 生物学的なダウエルコア設計例
PART 6 生物学的な支台歯形成のためのマイクロスコープの導入 山崎長郎
1 マイクロスコープによる支台歯形成の臨床的効果
2 マイクロスコープによる支台歯形成のステップならびに要点
参考文献
VISUAL GRAPH 山崎長郎
PART 1 支台歯形態の決定に影響を与える生物学的要素 茂野啓示
1 歯周組織と支台歯形態との関係
2 歯冠修復物と支台歯形態との関係
3 齲蝕の範囲と支台歯形態との関係
4 歯の位置と支台歯形態との関係
PART 2 生物学的要素を考慮した支台歯形成のための前処置 茂野啓示
1 歯周組織の保全のための前処置
2 歯質および歯髄の保全のための前処置
3 歯肉縁下・骨縁下齲蝕のための前処置
4 歯の位置異常のための前処置
PART 3 生物学的な支台歯形成のための臨床上の要点 茂野啓示
1 前処置として支台歯周辺の歯槽骨欠損ならびに転位・傾斜の改善を行った症例
2 前処置として支台歯近心傾斜の改善を行った症例
3 前処置として骨縁下齲蝕罹患歯の挺出処置を行った症例
PART 4 生物学的な支台歯形成 山崎長郎
1 生物学的な支台歯形成において考慮すべき要素
2 生物学的な支台歯形成の操作上の要点
PART 5 生物学的なダウエルコアの設計 山崎長郎
1 生物学的なダウエルコア設計のための要件
2 生物学的なダウエルコア設計例
PART 6 生物学的な支台歯形成のためのマイクロスコープの導入 山崎長郎
1 マイクロスコープによる支台歯形成の臨床的効果
2 マイクロスコープによる支台歯形成のステップならびに要点
参考文献