やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 ブラキシズムは,多くの歯科疾患・障害のリスクファクターとして注目され続ける,歯科領域での重要な診療・研究対象です.
 これまで国内外の数多くの研究や臨床での取り組みにより,その実態解明が進んできました.しかし,いまだに根拠となるデータが存在しない,あるいは相反する結果の論文が混在するなどから,結論の出ていない事柄が多く残されていることも事実です.そして,そのような状況の大きな要因の一つが,ブラキシズムの正確な評価が欠如していた,あるいは論文間で評価法が異なっていたなど,ブラキシズムの評価法に関わる問題でした.この問題は,もちろん研究面だけでなく,日々の臨床でも同じです.治療計画を立案する,あるいは治療効果を判定する,いずれの場合でも,その根本は,ブラキシズムの状況の正しい診断・評価だからです.
 そのようななか,自宅などの日常生活環境で,無拘束でかつ正確に検査できるウェアラブル筋電計を用いた睡眠時歯科筋電図検査が,2020年に保険収載されたのは画期的な出来事でした.それにより,ブラキシズムの実体である咀嚼筋活動を可視化することができ,それに基づいて診断,評価し,個々の患者のブラキシズムの状態に合わせた治療,管理を日常の診療で行える体制が日本では整ったのです.また,このような検査法の登場は,研究を進めるうえでも客観的,定量的な評価を容易にし,研究の発展にも大きなアドバンテージをもたらすものとなりました.
 本書では,まず前半で執筆者自身の研究を含めたこれまでの国内外の数多くのブラキシズムに関わる研究結果から,ブラキシズムの分類,メカニズム,生体への作用など,ブラキシズムの実態に関する情報を整理し,解説しました.そして後半では,ウェアラブル筋電計以外の方法も含め,ブラキシズムの診断・評価法と,診断・評価に基づいた治療法について,臨床例も交えて解説しました.執筆者それぞれが携わってきた得意分野を担当し,本書一冊に非常に充実した内容でブラキシズムをまとめることができたと感じています.出版にご尽力いただきました医歯薬出版株式会社,前田慶一氏,鷲野正人氏に心から感謝申し上げます.また,歯科におけるブラキシズムの重要性に注目し,本書の企画を提案してくださった前田氏の慧眼にはあらためて敬意を表します.
 ブラキシズムはさまざまな側面をもち,個々の患者により発現状況,生体への作用などは異なります.正しい情報でも,それを一律にすべてのブラキシズムにあてはめてしまうと何らかの支障が生じる場合も少なくありません.今,ブラキシズムへの取り組みで必要なのは,多くの医療従事者,研究者がブラキシズムの多様性を踏まえた正確な情報を共有し,臨床においては個々の患者のブラキシズムの特性に合わせた診療計画を立て,対応することです.本書が,多くの皆様のブラキシズムの多様性への理解度を深め,日々の臨床のスキルアップに役立つとともに,今後のブラキシズムのメカニズム解明や治療・管理法の研究,開発に寄与することを願っています.
 2025年11月
 編著者 山口泰彦
 序
Chapter 1 ブラキシズムとは何か?
 1 多様な観点によるブラキシズムの捉え方
 2 覚醒時ブラキシズム
 3 ブラキシズム時の顎運動
Chapter 2 ブラキシズムの発現メカニズム
 1 ブラキシズム発生の生理学的メカニズム
 2 ブラキシズムのリスクファクター
 3 睡眠時ブラキシズムと睡眠時無呼吸
Chapter 3 ブラキシズムの為害性
 1 ブラキシズムが生体へ及ぼす作用
 2 咬耗とブラキシズム
 3 顎関節症と睡眠時ブラキシズム
 4 インプラント治療とブラキシズム
Chapter 4 ブラキシズムの診察/検査と診断/評価
 1 総論
 2 ウェアラブル筋電計1―開発の経緯・保険収載・新規知見
 3 ウェアラブル筋電計2―睡眠ポリグラフ検査との比較
 4 ウェアラブル筋電計3―使用法のポイント
Chapter 5 ブラキシズムの治療・管理法
 1 総論
 2 スプリント(アプライアンス)
 3 補綴治療や咬合調整による咬合管理
 4 ウェアラブル筋電計検査結果を治療方針にどう生かすか―診断・評価から治療へ
Chapter 6 症例紹介
 Cases1 検査 ウェアラブル筋電計の一般臨床応用例
 Case2 補綴対応 咬耗歯列に対して緩いガイドと咬頭展開角の補綴装置で対応した症例
 Case3 歯周病対応 咬耗もみられたが歯槽骨の吸収のほうがより重篤だった睡眠時ブラキシズム症例
 Cases4 覚醒時ブラキシズム 睡眠時ではなく日中覚醒時に顕著なブラキシズムを有していた例
 Case5 二次性ブラキシズム てんかん発作時の異常咀嚼筋活動により突発的に発現した咬合変化
 Case6 OSAとの併発 重度閉塞性睡眠時無呼吸症と重度睡眠時ブラキシズムの併発が認められた症例

 執筆者一覧
 索引