やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 南学正臣
 東京大学大学院医学系研究科腎臓内科学
 稲城玲子
 同慢性腎臓病(CKD)病態生理学
 「革新する腎臓病学―臨床と研究の最前線」は,腎臓病の診断・治療から最先端の研究動向までを見渡し,急速に変貌しつつある腎臓病学の現在地と行方を示すことを目指した一冊です.高齢化の進行,生活習慣の多様化,さらには気候変動や環境汚染といった要因により,腎臓病は世界規模で増加し,その克服は国際的な課題となっています.他方で,新規腎保護薬の登場や病態解明の飛躍的進歩により,腎臓病診療は従来の延長線上を超えて,新たな段階へと踏み出しつつあります.長らく血圧や血糖,蛋白尿の管理を中心としてきた治療体系に,病態に基づいた分子標的薬や先端技術が次々と加わり,基礎研究と臨床,さらに社会的背景までも視野に入れた根本的な変革が進行しつつある現在は,まさに“腎臓病学のルネサンス”とよびうる変革期にあるといえるでしょう.
 本特集では,腎臓病の基礎となる解剖・生理から,糖尿病性腎臓病や糸球体疾患,急性腎障害,遺伝性腎疾患など,多彩な病態の理解と治療のアップデート,新規バイオマーカーやイメージング,オミクス解析やビッグデータ解析,AIを活用した診断技術の進展までを,多角的に取り上げました.さらに,創薬標的分子の同定や再生医療,人工腎臓など,将来の診療の姿を大きく変えうるフロンティア領域に加え,患者のQOL(生活の質)や終末期医療,医療経済,倫理的課題といった社会的側面にも焦点を当てています.臨床と研究,病棟とラボ,ベッドサイドとベンチサイドの相互に行き交うプロセスのなかから,“革新する腎臓病学”の全体像を浮かび上がらせることを意図しました.
 本特集は,腎臓病の診療や研究,教育に携わる医療・研究関係者のみならず,腎臓病学の最新動向に関心を持つ幅広い読者を念頭に置いて編集されています.ここに収めた知識と視点が,日常診療の質の向上と創造的な研究の推進,さらには教育・学習の場における活発な議論の喚起に貢献し,“腎臓病学のルネサンス時代”を支える一助となれば幸いです.
 はじめに(南学正臣・稲城玲子)
緒論・総論
 腎臓病学の歩みと今後の方向性(柏原直樹)
 国際的視点からみた腎臓病対策の現状(鈴木祐介)
疫学と社会背景
 世界と日本における腎臓病の疫学動向(住田圭一)
 高齢化社会と腎疾患のリスク(鶴屋和彦)
 気候変動・環境要因と腎臓病(古市賢吾)
解剖・生理・基礎知識
 腎臓の構造と発生学的特徴(大石篤郎・長瀬美樹)
 腎血流・糸球体濾過の制御機構(西山 成)
 尿細管の機能と水・電解質バランス(和田健彦)
病因と病態解明の最前線
 微小変化型ネフローゼ症候群(MCNS)と巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)の理解の革新(三浦健一郎・他)
 糖尿病関連腎臓病の分子機序─代謝産物(久米真司)
 糖尿病関連腎臓病の分子機構─細胞死(三島英換)
 高血圧性腎障害の血管病態─機序と治療戦略(長田太助)
 薬剤やサプリメントによる腎障害(猪阪善隆)
 遺伝性腎疾患とゲノム医療(蘇原映誠)
 病態生理学的機序による糸球体疾患分類(坪井直毅)
診断と評価
 CKD診療を拓くガイドライン─実践的活用(小杉智規・丸山彰一)
 腎機能の評価─クレアチニンとシスタチンC(湊 将典・脇野 修)
 腎障害をいかにみつけるか─各種バイオマーカー(吉本憲史・林 香)
 腎臓病研究のBigdataリソース─J-CKD-DB project,J-Kidney Biobank(長洲 一・他)
 AI診療支援─画像,病理,診断と治療支援(倉田 遊・三村維真理)
主な疾患と治療
 急性腎障害(AKI)の分類と管理(祖父江 理)
 慢性腎臓病(CKD)の重症度分類に応じた治療戦略(岡田浩一)
 ネフローゼ症候群をきたす糸球体疾患の治療と新薬開発(吉村仁宏・淺沼克彦)
 Pulmonary renal syndromeの病態と治療(鈴木聡一郎・高野朋子)
 IgA腎症診療のパラダイムシフト(鈴木 仁)
 多発性嚢胞腎をめぐる治療と新薬(西尾妙織)
 腎性貧血の病態と治療(石岡広崇・田中哲洋)
 慢性腎臓病に伴う骨・ミネラル異常(CKD-MBD)の病態と治療(駒場大峰)
基礎研究のフロンティア
 腎臓病学を変える革新的オミクス技術─シングルセル・空間オミクス解析の最前線(武藤義治)
 腎臓再生の実現に向けた研究開発の進展と課題(福永昇平・他)
 腎疾患における創薬ターゲット分子の同定とスクリーニング(山村雄太・岩田恭宜)
進化する治療と技術革新
 腎臓病治療薬の臨床試験の未来(西 裕志)
 次世代薬の展望─SGLT2阻害薬,GLP-1受容体作動薬(今里美有紀・他)
 次世代薬の展望─ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MR拮抗薬)とアルドステロン合成酵素阻害薬(ASi)(柴田 茂)
 抗炎症・抗線維化薬の開発動向と臨床応用(辻 憲二・他)
 腎移植の最前線─免疫制御・ドナー戦略・異種移植の進歩(荒井宏之・村上尚加)
 人工腎臓の展望─現行治療と携帯型・装着型人工腎臓・バイオ人工腎臓システム(友 雅司)
 遠隔医療と腎疾患管理(菅原有佳・平川陽亮)
特殊な集団における腎疾患
 小児の腎疾患と成長・発達への影響(島袋 渡・中西浩一)
 高齢者における腎機能低下と治療の工夫─最新ガイドラインに基づく実践的サマリー(豊田一樹・田村功一)
 オンコネフロロジー領域の革新(山本伸也・柳田素子)
社会的側面と今後の課題
 保存的腎臓療法(CKM)─患者QOLと腎不全医療(中川直樹)
 わが国の腎臓病対策における地域連携・患者支援の実際(旭 浩一)
終章
 腎臓病学の未来:研究と臨床の橋渡しに向けて─自律神経と腎臓病(下山皓太郎・井上 剛)

 次号の特集予告