はじめに
小室一成
国際医療福祉大学・東京大学大学院医学系研究科先端循環器医科学講座
心不全は,最終共通病態として多くの循環器疾患の終末像を形成する一方,その背景には多様な病因と病態メカニズムが存在する.高齢化社会の進行に伴い,心不全患者数は増加の一途をたどり,“心不全パンデミック”とも称される時代を迎えている.従来の治療体系の進歩により,急性期治療や薬物療法は大きく進歩したが,依然として再入院率や長期予後の改善には限界があり,新たな視点からのアプローチが求められている.
近年,ゲノム科学・オミクス解析の発展は,心不全の“なりやすさ“や“薬剤反応性の個体差”を明らかにしつつある.単一遺伝子疾患から多因子疾患まで,遺伝学的背景を包括的に理解することは,個別化医療(precision medicine)への道を切り拓く.また,心臓を単独臓器としてではなく,腎臓,脳,骨格筋,脂肪,骨髄,腸内細菌叢などとの“多臓器ネットワーク”として捉える研究が進み,全身性疾患としての心不全像が浮かび上がってきた.これらの多臓器連関は,病態理解だけでなく,新たな治療標的の探索にも直結している.
さらにAI技術の進展は,膨大な臨床データ,画像・生体情報を統合的に解析し,発症予測,診断,治療選択,予後予測を支援する時代を到来させた.マルチモーダルAIやデジタルツイン技術は医療現場における意思決定を変革しつつあり,ゲノム情報や多臓器データとの統合解析によって,真の意味でのデータ駆動型医療が実現しようとしている.
本特集では,ゲノム医療,多臓器連関,AIという3つの軸を中心に,“心不全診療の未来戦略”を多角的に論じる.基礎研究の最前線から社会実装に至るまで,最新の科学的知見と臨床応用の展望を通して,心不全の未来予測という新しい視座を提示したい.本特集が,次世代の循環器医療を担う研究者・臨床医にとって,新たな発想と連携の契機となることを期待する.
小室一成
国際医療福祉大学・東京大学大学院医学系研究科先端循環器医科学講座
心不全は,最終共通病態として多くの循環器疾患の終末像を形成する一方,その背景には多様な病因と病態メカニズムが存在する.高齢化社会の進行に伴い,心不全患者数は増加の一途をたどり,“心不全パンデミック”とも称される時代を迎えている.従来の治療体系の進歩により,急性期治療や薬物療法は大きく進歩したが,依然として再入院率や長期予後の改善には限界があり,新たな視点からのアプローチが求められている.
近年,ゲノム科学・オミクス解析の発展は,心不全の“なりやすさ“や“薬剤反応性の個体差”を明らかにしつつある.単一遺伝子疾患から多因子疾患まで,遺伝学的背景を包括的に理解することは,個別化医療(precision medicine)への道を切り拓く.また,心臓を単独臓器としてではなく,腎臓,脳,骨格筋,脂肪,骨髄,腸内細菌叢などとの“多臓器ネットワーク”として捉える研究が進み,全身性疾患としての心不全像が浮かび上がってきた.これらの多臓器連関は,病態理解だけでなく,新たな治療標的の探索にも直結している.
さらにAI技術の進展は,膨大な臨床データ,画像・生体情報を統合的に解析し,発症予測,診断,治療選択,予後予測を支援する時代を到来させた.マルチモーダルAIやデジタルツイン技術は医療現場における意思決定を変革しつつあり,ゲノム情報や多臓器データとの統合解析によって,真の意味でのデータ駆動型医療が実現しようとしている.
本特集では,ゲノム医療,多臓器連関,AIという3つの軸を中心に,“心不全診療の未来戦略”を多角的に論じる.基礎研究の最前線から社会実装に至るまで,最新の科学的知見と臨床応用の展望を通して,心不全の未来予測という新しい視座を提示したい.本特集が,次世代の循環器医療を担う研究者・臨床医にとって,新たな発想と連携の契機となることを期待する.
はじめに(小室一成)
急速に進歩し続けるゲノム・オミクス研究のcutting edge
循環器研究を変えるプラットフォーム戦略─日本循環器研究コンソーシアムの挑戦(野村征太郎)
心不全の“なりやすさ”をゲノムから読む─GWASが切り拓く個別化予防医療(伊藤 薫)
拡張型心筋症の本質に迫る─ゲノム解析が描く新たな疾患像(朝野仁裕)
肥大型心筋症の多様性に挑むゲノム解析─HCM・HOCM・d-HCMの分岐点(杉浦健太・久保 亨)
新しいゲノム異常が導く心不全─ゲノムの構造異常とは何か?(井上峻輔)
ゲノム解析が切り拓く心房細動の病態解明とリスク予測(宮澤一雄)
先天性心疾患における遺伝学的解析の進展─次世代シークエンスの有用性とその次の一歩(山本英範)
遺伝学的視点から迫る肺動脈性肺高血圧症─発症機序の解明と治療革新(永井礼子)
心不全の謎を解くシングルセル解析─最新の知見と展望(加藤愛巳)
心不全発症原因としてのDNA損傷─DNA損傷の程度が治療反応性を規定する(戴 哲皓)
心房細動発症のメカニズムに迫る─シングルセル解析の最新知見(沢見康輔)
大動脈弁狭窄症発症のメカニズム─シングルセル解析は病態に迫れるか(江本拓央・他)
心臓サルコイドーシスの病態を空間的に解き明かす─空間解析が切り拓く新たな理解(片桐美香子)
Omicsで描く肥大型心筋症の分子地図(秋田敬太郎・島田悠一)
プロテオーム解析が拓く左室補助人工心臓離脱予測の新時代(堂本裕加子)
腸内細菌と心不全のクロストーク─新たな治療標的となるのか(山下智也・他)
循環器ゲノム医療とどう向き合うか?─ELSIからみる未来医療の責任(水野 篤・長神風二)
多臓器連関という視点から捉える心不全
心血管疾患における体細胞モザイクとクローン性造血(佐野宗一)
自然免疫記憶が引き起こす心血管病(中山幸輝)
精神的ストレスによる循環器疾患の発症機序の理解に向けて(中村和弘)
心拍応答をつかさどる脳内機構(吉本愛梨・池谷裕二)
神経-免疫連関を介した腎保護と血圧制御─心腎連関病態の新たな治療標的(梅根隆介・井上 剛)
心臓周囲脂肪組織と心不全をつなぐ分子ネットワーク(橋本昌樹・上田和孝)
欧米と異なる日本人のHFpEF─新たな病態解明への挑戦(小室 仁)
AIを活かした未来の心不全診療
マルチモーダルAIが切り拓く心不全診療の未来─診断精度向上・予後予測・個別化医療の新地平(小寺 聡)
AIとmHealthによる新しい心不全医療の可能性(野村章洋)
デジタルツイン技術が切り拓く心不全の個別化医療(藤生克仁)
音声解析を用いた在宅で心不全評価が可能な技術“Voice-BNP”の開発と社会実装(田村雄一)
細胞を生成する─生成AIが切り拓く次世代のオミクス解析と心臓病研究(神馬崇宏)
医療AIにおけるELSIと心不全診療の未来(藤田卓仙)
心不全の診断・治療のトピックス State-of-the-art developments and future prospects
多施設臨床研究が導く心不全診療の新たな地平(砂山 勉・末永祐哉)
冠微小循環障害の視点から探る心不全のメカニズム(武井康悦)
心エコーAIが拓く心不全診療の未来─実装から現場課題解決まで(酒本 暁・鍵山暢之)
進化するCT技術が拓く心不全診断の新時代(船橋伸禎・他)
既存治療薬の心不全・致死性不整脈治療へのドラッグリポジショニング(内海仁志・他)
心不全における遠隔心リハと個別化の心リハ(網谷英介)
補助人工心臓患者における遠隔モニタリングを用いた心不全管理(原 聖吾・桐山瑶子)
iPS細胞を用いた心不全・心筋症の病態メカニズム解明と薬物スクリーニング(伊藤正道)
心臓リプログラミング治療の最前線─新たな再生医療の可能性(梅井智彦・貞廣威太郎)
遺伝子・ゲノム編集治療による心不全克服への挑戦─心筋症・先天性心疾患の未来(候 聡志)
次号の特集予告
サイドメモ
Modifier gene(修飾遺伝子)
ポリジェニックリスクスコア(PRS)
バリアント
ポリジェニックリスクスコア(PRS)の算出
動脈管依存循環(ductus arteriosus-dependent circulation)
ATAC-seq
用語解説(クローン性造血,好中球細胞外トラップ)
マイクロバイオームは疾患発症に関係するのか,治療標的になるのか
用語解説(視床腹内側核,前帯状皮質,迷走神経核,光遺伝学的操作)
HFpEFとは
リアノジン受容体(RyR)
急速に進歩し続けるゲノム・オミクス研究のcutting edge
循環器研究を変えるプラットフォーム戦略─日本循環器研究コンソーシアムの挑戦(野村征太郎)
心不全の“なりやすさ”をゲノムから読む─GWASが切り拓く個別化予防医療(伊藤 薫)
拡張型心筋症の本質に迫る─ゲノム解析が描く新たな疾患像(朝野仁裕)
肥大型心筋症の多様性に挑むゲノム解析─HCM・HOCM・d-HCMの分岐点(杉浦健太・久保 亨)
新しいゲノム異常が導く心不全─ゲノムの構造異常とは何か?(井上峻輔)
ゲノム解析が切り拓く心房細動の病態解明とリスク予測(宮澤一雄)
先天性心疾患における遺伝学的解析の進展─次世代シークエンスの有用性とその次の一歩(山本英範)
遺伝学的視点から迫る肺動脈性肺高血圧症─発症機序の解明と治療革新(永井礼子)
心不全の謎を解くシングルセル解析─最新の知見と展望(加藤愛巳)
心不全発症原因としてのDNA損傷─DNA損傷の程度が治療反応性を規定する(戴 哲皓)
心房細動発症のメカニズムに迫る─シングルセル解析の最新知見(沢見康輔)
大動脈弁狭窄症発症のメカニズム─シングルセル解析は病態に迫れるか(江本拓央・他)
心臓サルコイドーシスの病態を空間的に解き明かす─空間解析が切り拓く新たな理解(片桐美香子)
Omicsで描く肥大型心筋症の分子地図(秋田敬太郎・島田悠一)
プロテオーム解析が拓く左室補助人工心臓離脱予測の新時代(堂本裕加子)
腸内細菌と心不全のクロストーク─新たな治療標的となるのか(山下智也・他)
循環器ゲノム医療とどう向き合うか?─ELSIからみる未来医療の責任(水野 篤・長神風二)
多臓器連関という視点から捉える心不全
心血管疾患における体細胞モザイクとクローン性造血(佐野宗一)
自然免疫記憶が引き起こす心血管病(中山幸輝)
精神的ストレスによる循環器疾患の発症機序の理解に向けて(中村和弘)
心拍応答をつかさどる脳内機構(吉本愛梨・池谷裕二)
神経-免疫連関を介した腎保護と血圧制御─心腎連関病態の新たな治療標的(梅根隆介・井上 剛)
心臓周囲脂肪組織と心不全をつなぐ分子ネットワーク(橋本昌樹・上田和孝)
欧米と異なる日本人のHFpEF─新たな病態解明への挑戦(小室 仁)
AIを活かした未来の心不全診療
マルチモーダルAIが切り拓く心不全診療の未来─診断精度向上・予後予測・個別化医療の新地平(小寺 聡)
AIとmHealthによる新しい心不全医療の可能性(野村章洋)
デジタルツイン技術が切り拓く心不全の個別化医療(藤生克仁)
音声解析を用いた在宅で心不全評価が可能な技術“Voice-BNP”の開発と社会実装(田村雄一)
細胞を生成する─生成AIが切り拓く次世代のオミクス解析と心臓病研究(神馬崇宏)
医療AIにおけるELSIと心不全診療の未来(藤田卓仙)
心不全の診断・治療のトピックス State-of-the-art developments and future prospects
多施設臨床研究が導く心不全診療の新たな地平(砂山 勉・末永祐哉)
冠微小循環障害の視点から探る心不全のメカニズム(武井康悦)
心エコーAIが拓く心不全診療の未来─実装から現場課題解決まで(酒本 暁・鍵山暢之)
進化するCT技術が拓く心不全診断の新時代(船橋伸禎・他)
既存治療薬の心不全・致死性不整脈治療へのドラッグリポジショニング(内海仁志・他)
心不全における遠隔心リハと個別化の心リハ(網谷英介)
補助人工心臓患者における遠隔モニタリングを用いた心不全管理(原 聖吾・桐山瑶子)
iPS細胞を用いた心不全・心筋症の病態メカニズム解明と薬物スクリーニング(伊藤正道)
心臓リプログラミング治療の最前線─新たな再生医療の可能性(梅井智彦・貞廣威太郎)
遺伝子・ゲノム編集治療による心不全克服への挑戦─心筋症・先天性心疾患の未来(候 聡志)
次号の特集予告
サイドメモ
Modifier gene(修飾遺伝子)
ポリジェニックリスクスコア(PRS)
バリアント
ポリジェニックリスクスコア(PRS)の算出
動脈管依存循環(ductus arteriosus-dependent circulation)
ATAC-seq
用語解説(クローン性造血,好中球細胞外トラップ)
マイクロバイオームは疾患発症に関係するのか,治療標的になるのか
用語解説(視床腹内側核,前帯状皮質,迷走神経核,光遺伝学的操作)
HFpEFとは
リアノジン受容体(RyR)















