監訳者の序文
本書は,脳性麻痺に対する最新の評価法や介入法を症例報告のなかで具体的に展開している画期的な実践書である.その特徴をあえて端的にいうと「明快さ」「奥深さ」「新しさ」の3つが挙げられる.それらは,「カナダ作業遂行プロセスモデル」を軸にして介入が展開される明快さ,「Developmental Medicine & Child Neurology」など著名な論文を数多く引用している奥深さ,「MACS」「変法CI療法」等の最新の評価と治療を紹介している新しさである.さらに脳性麻痺に関する正確な情報や臨床での介入のポイントを,「GMFCSの概略」「重要なクリニカルメッセージ」などのボックスでわかりやすく提示しているところも特徴であろう.
本書の構成は大きく2つに分かれている.第1部には,本書の軸となる介入プロセスの説明,脳性麻痺の人々の家族への理解などの重要な情報について書かれた章が並べられている.第2-4部は有用な情報がちりばめられた症例報告となっている.症例では乳児-45歳を取り上げて,成書では扱われることが少なかった幅広い年齢層をカバーしている.読者は興味を引く章から読んでいただければと思う.理学療法士,作業療法士,医師,看護師などの医療従事者はもちろんのこと,クリニカルリーズニングを採用しているため,臨床的な学習をする医療系の学生にも好適であろう.
運動発達理論において,神経成熟理論からシステム論への変遷がみられ,脳性麻痺への介入に対する疑問が投げかけられてから久しい.しかし,わが国において具体的な示唆を与える大きなパラダイムシフトに応じた新たな介入の報告は残念ながらほとんどなかった.本書は著名な論文を用いて,適切な評価,明確な目標,根拠のある介入を整然と提示している.そして,従来の個人に対する介入には限界があり,より広い視点に立った包括的支援のあり方を問い直している.本書を読み終えたとき読者は,従来の脳性麻痺に関する成書と一線を画する新たな世界を知り,複雑な問題を抱える脳性麻痺の人々を前にしても確信をもった介入ができるようになっているだろう.
監訳にあたって,語句の統一を図り,できるだけ日本語としての読みやすさをこころがけたが,なじみの少ない用語は誤解を避けるためにあえて原語のままにしている場合もある.なお,誤訳や不適切な語句があれば広くご教示いただければ幸いである.
最後に,本書出版に労をいとわず尽力くださった医歯薬出版の編集部担当者およびご協力いただいた関係者の方々に深甚なる謝意を表す.
2011年2月
監訳者代表 上杉雅之
序文
本書は,脳性麻痺の子どもと成人に治療を提供する理学療法士と作業療法士に向けた実践ガイドであり,同時にこれらの発達領域を担当するセラピストへの有用な情報源となるものである.本書は,理学療法や作業療法を学ぶ学生,脳性麻痺の人々およびその家族や介助者も対象にしており,さらに臨床医,看護師,言語聴覚士,義肢装具士,栄養士などの脳性麻痺の人々の要求に応える他の医療従事者にも興味深い内容と思われる.
過去40年間,神経障害学の領域でかなり重要な多くの発展がなされ,その大部分が本書に含まれている.われわれは,子どもの運動を「正常」と「異常」に分ける固定概念を踏み越え,個別の才能,能力,遂行や,その能力を促進もしくは阻害する因子について考える準備ができたように思う.この,資質に応じたアプローチ(strength-based approach)は,その脳性麻痺という特別な集団のなかにおけるクライアントの特徴を探し求め,ともに働く上で,それぞれの子どもや家族が個性ある存在であることが考慮され保証されるべきであるという挑戦的,解放的なアプローチである.単に「典型的な症例」の状況に定型的なアプローチを当てはめたり,欠点に焦点を当てたものではない.
編者は,本文中でわれわれの領域の最近のいくつかの考え方を描き出している.本書では作業遂行プロセスモデル(Occupational Performance Process Model)の適応,WHOの国際生活機能分類(ICF)の概念と用語の強調,子どもと家族にサービスを提供する家族中心的アプローチの原理の適応についての首尾一貫した言及を試みている.編者らは共著者に,本書の中心をなす症例描写の提供や考察に共通の雛形を使うように勧めており,この構造的,概念的一貫性が,本書にしっかりとした構成を与えている.いくつかの章を読んだ後に,読者は次に書かれていることを予測し,推奨される考え方を容易に理解し,著者と同様に考え始めることができるであろう.
本書は4部構成となっている.第1部の第1~4章は本文全体で伝えているクリニカルリーズニングアプローチの背景となる情報を提供している.これらの章における脳性麻痺についての議論は,家族に焦点を当てたものや治療の全体像を含んでおり,残りの部分の準備を効果的に行っている.
第2部を構成する第5~9章は就学以前を扱っており,この時期の発達や両親が直面する課題についてのたくさんのテーマと結びついている.各章は,症例描写が上述した概念に息吹を与え,症例以外にも有用となるアプローチを設定できるように注意深く組み立てられている.
第3部の第10~13章では,大人になることに関連して増加する複雑な問題を含め,就学期を通して子どもと青年における重要な論点について探究している.(しばしば小児疾患とみなされる)第4部の第14~16章は脳性麻痺に関する書籍では重要となる成人期の問題について扱っている.
本書は,脳性麻痺の“マネジメント”に関する考え方の流派や治療すべてについて決定的な説明をしているわけではない.むしろ,すべての範囲の障害(すなわち,すべてのGMFCSレベル)にわたる論点を扱う問題指向型アプローチ(problem based approach)を提示するためにうまく構成されている.症例描写されている人々の年齢は6カ月から45歳にわたる.彼らが直面する問題の種類は,事実上どの年代の人に対する実践においても,専門家が脳性麻痺におけるどの運動障害に遭遇するかという対象範囲の取り扱いにより変化する.結果として,われわれがかかわる子どもたちや青年,およびその家族のために,読者はしっかりした問題指向型アプローチを理解することになるであろう.この視点において,本書は,直接的ではなく定型的な解答になじまない広い範囲の複雑な問題に対する実践的なアプローチを非常にうまく例示している.
私が経験の浅い小児科医として発達障害についての修練を始めたとき,セラピストや心理学者,その他の発達障害の評価と管理に寄与する人々について何も知らなかった.このことは,悲しいことにまだ散見されるが,われわれ多くの臨床医は,治療にかかわる医療従事者が,かかわる子どもたちや青年に何ができるのかという点についてほとんど知らないことを示している.私の初期の修練時期において,本書のなかで示されている内容やアプローチが明確に役立った.
読者には,同僚と本書を共有し議論して,本書のなかにあるアイデアが読者自身の設定に適応することができるかどうかを考えてもらいたい.もし,そうなったとしたら,著者がこの領域を,少しでも前に進めるという彼らの目標を達成したといえるであろう.
Peter Rosenbaum
Hamilton,Canada
本書は,脳性麻痺に対する最新の評価法や介入法を症例報告のなかで具体的に展開している画期的な実践書である.その特徴をあえて端的にいうと「明快さ」「奥深さ」「新しさ」の3つが挙げられる.それらは,「カナダ作業遂行プロセスモデル」を軸にして介入が展開される明快さ,「Developmental Medicine & Child Neurology」など著名な論文を数多く引用している奥深さ,「MACS」「変法CI療法」等の最新の評価と治療を紹介している新しさである.さらに脳性麻痺に関する正確な情報や臨床での介入のポイントを,「GMFCSの概略」「重要なクリニカルメッセージ」などのボックスでわかりやすく提示しているところも特徴であろう.
本書の構成は大きく2つに分かれている.第1部には,本書の軸となる介入プロセスの説明,脳性麻痺の人々の家族への理解などの重要な情報について書かれた章が並べられている.第2-4部は有用な情報がちりばめられた症例報告となっている.症例では乳児-45歳を取り上げて,成書では扱われることが少なかった幅広い年齢層をカバーしている.読者は興味を引く章から読んでいただければと思う.理学療法士,作業療法士,医師,看護師などの医療従事者はもちろんのこと,クリニカルリーズニングを採用しているため,臨床的な学習をする医療系の学生にも好適であろう.
運動発達理論において,神経成熟理論からシステム論への変遷がみられ,脳性麻痺への介入に対する疑問が投げかけられてから久しい.しかし,わが国において具体的な示唆を与える大きなパラダイムシフトに応じた新たな介入の報告は残念ながらほとんどなかった.本書は著名な論文を用いて,適切な評価,明確な目標,根拠のある介入を整然と提示している.そして,従来の個人に対する介入には限界があり,より広い視点に立った包括的支援のあり方を問い直している.本書を読み終えたとき読者は,従来の脳性麻痺に関する成書と一線を画する新たな世界を知り,複雑な問題を抱える脳性麻痺の人々を前にしても確信をもった介入ができるようになっているだろう.
監訳にあたって,語句の統一を図り,できるだけ日本語としての読みやすさをこころがけたが,なじみの少ない用語は誤解を避けるためにあえて原語のままにしている場合もある.なお,誤訳や不適切な語句があれば広くご教示いただければ幸いである.
最後に,本書出版に労をいとわず尽力くださった医歯薬出版の編集部担当者およびご協力いただいた関係者の方々に深甚なる謝意を表す.
2011年2月
監訳者代表 上杉雅之
序文
本書は,脳性麻痺の子どもと成人に治療を提供する理学療法士と作業療法士に向けた実践ガイドであり,同時にこれらの発達領域を担当するセラピストへの有用な情報源となるものである.本書は,理学療法や作業療法を学ぶ学生,脳性麻痺の人々およびその家族や介助者も対象にしており,さらに臨床医,看護師,言語聴覚士,義肢装具士,栄養士などの脳性麻痺の人々の要求に応える他の医療従事者にも興味深い内容と思われる.
過去40年間,神経障害学の領域でかなり重要な多くの発展がなされ,その大部分が本書に含まれている.われわれは,子どもの運動を「正常」と「異常」に分ける固定概念を踏み越え,個別の才能,能力,遂行や,その能力を促進もしくは阻害する因子について考える準備ができたように思う.この,資質に応じたアプローチ(strength-based approach)は,その脳性麻痺という特別な集団のなかにおけるクライアントの特徴を探し求め,ともに働く上で,それぞれの子どもや家族が個性ある存在であることが考慮され保証されるべきであるという挑戦的,解放的なアプローチである.単に「典型的な症例」の状況に定型的なアプローチを当てはめたり,欠点に焦点を当てたものではない.
編者は,本文中でわれわれの領域の最近のいくつかの考え方を描き出している.本書では作業遂行プロセスモデル(Occupational Performance Process Model)の適応,WHOの国際生活機能分類(ICF)の概念と用語の強調,子どもと家族にサービスを提供する家族中心的アプローチの原理の適応についての首尾一貫した言及を試みている.編者らは共著者に,本書の中心をなす症例描写の提供や考察に共通の雛形を使うように勧めており,この構造的,概念的一貫性が,本書にしっかりとした構成を与えている.いくつかの章を読んだ後に,読者は次に書かれていることを予測し,推奨される考え方を容易に理解し,著者と同様に考え始めることができるであろう.
本書は4部構成となっている.第1部の第1~4章は本文全体で伝えているクリニカルリーズニングアプローチの背景となる情報を提供している.これらの章における脳性麻痺についての議論は,家族に焦点を当てたものや治療の全体像を含んでおり,残りの部分の準備を効果的に行っている.
第2部を構成する第5~9章は就学以前を扱っており,この時期の発達や両親が直面する課題についてのたくさんのテーマと結びついている.各章は,症例描写が上述した概念に息吹を与え,症例以外にも有用となるアプローチを設定できるように注意深く組み立てられている.
第3部の第10~13章では,大人になることに関連して増加する複雑な問題を含め,就学期を通して子どもと青年における重要な論点について探究している.(しばしば小児疾患とみなされる)第4部の第14~16章は脳性麻痺に関する書籍では重要となる成人期の問題について扱っている.
本書は,脳性麻痺の“マネジメント”に関する考え方の流派や治療すべてについて決定的な説明をしているわけではない.むしろ,すべての範囲の障害(すなわち,すべてのGMFCSレベル)にわたる論点を扱う問題指向型アプローチ(problem based approach)を提示するためにうまく構成されている.症例描写されている人々の年齢は6カ月から45歳にわたる.彼らが直面する問題の種類は,事実上どの年代の人に対する実践においても,専門家が脳性麻痺におけるどの運動障害に遭遇するかという対象範囲の取り扱いにより変化する.結果として,われわれがかかわる子どもたちや青年,およびその家族のために,読者はしっかりした問題指向型アプローチを理解することになるであろう.この視点において,本書は,直接的ではなく定型的な解答になじまない広い範囲の複雑な問題に対する実践的なアプローチを非常にうまく例示している.
私が経験の浅い小児科医として発達障害についての修練を始めたとき,セラピストや心理学者,その他の発達障害の評価と管理に寄与する人々について何も知らなかった.このことは,悲しいことにまだ散見されるが,われわれ多くの臨床医は,治療にかかわる医療従事者が,かかわる子どもたちや青年に何ができるのかという点についてほとんど知らないことを示している.私の初期の修練時期において,本書のなかで示されている内容やアプローチが明確に役立った.
読者には,同僚と本書を共有し議論して,本書のなかにあるアイデアが読者自身の設定に適応することができるかどうかを考えてもらいたい.もし,そうなったとしたら,著者がこの領域を,少しでも前に進めるという彼らの目標を達成したといえるであろう.
Peter Rosenbaum
Hamilton,Canada
監訳者の序文
執筆者
序文
第1部 背景:脳性麻痺の人々に対する治療計画の重要点
第1章 クリニカルリーズニングアプローチについての導入
第2章 脳性麻痺とはなにか?
第3章 家族の全体像への理解:脳性麻痺の子どもの子育て
第4章 治療の概説
第2部 就学以前
0歳のころ
第5章 複雑なニーズのある幼児
2歳のころ
第6章 早期段階
第7章 幼児への変法麻痺側上肢集中訓練
就学への準備
第8章 活動遂行への目標指向的トレーニング
第9章 下肢に対するA型ボツリヌス毒素の注射療法の役割
第3部 就学期
はじめよう
第10章 複数箇所同時手術後の理学療法
第11章 上肢手術後の作業療法
中学校への移行期
第12章 学校基盤型ニーズの解決と中学校のための技術的サポート
自立
第13章 青年期の筋力トレーニング
第4部 成人期
旅立ち
第14章 成人期への移行期
地域交流
第15章 重度重複障害の青年
健康維持
第16章 成人期
付録 脳性麻痺の人を対象とした評価法
索引
執筆者
序文
第1部 背景:脳性麻痺の人々に対する治療計画の重要点
第1章 クリニカルリーズニングアプローチについての導入
第2章 脳性麻痺とはなにか?
第3章 家族の全体像への理解:脳性麻痺の子どもの子育て
第4章 治療の概説
第2部 就学以前
0歳のころ
第5章 複雑なニーズのある幼児
2歳のころ
第6章 早期段階
第7章 幼児への変法麻痺側上肢集中訓練
就学への準備
第8章 活動遂行への目標指向的トレーニング
第9章 下肢に対するA型ボツリヌス毒素の注射療法の役割
第3部 就学期
はじめよう
第10章 複数箇所同時手術後の理学療法
第11章 上肢手術後の作業療法
中学校への移行期
第12章 学校基盤型ニーズの解決と中学校のための技術的サポート
自立
第13章 青年期の筋力トレーニング
第4部 成人期
旅立ち
第14章 成人期への移行期
地域交流
第15章 重度重複障害の青年
健康維持
第16章 成人期
付録 脳性麻痺の人を対象とした評価法
索引








