序文
くすりは,現代社会に生きる人にとって避けて通ることのできないものである.そして,医療の中で薬物*1の占める役割も非常に大きい.「くすり」といえば,すぐに病気の治療を連想するが,薬物は,必ずしも病気を治すためだけにあるのではない.むしろ,今日では,薬物は,生体の生理的反応のメカニズムやその制御機構の解明のために用いられ,そのほうがある意味でより重要である.なぜなら,新しいメカニズムが明らかになると,それをターゲットにした新しい薬物が開発されるからである.しかし,薬物は,なにかスッキリしないベールに包まれているような気がする人が多いのではなかろうか.
医学,歯学や,薬学,獣医学を専攻する学生諸君にとってもそうであろう.特に,医・歯学部の学生諸君には,薬理学は理解しにくい,薬物名*1と化学構造式*2がたくさん出てくる,覚えにくいと,あまり評判のよい科目ではないようである.おそらく病気をよく知らないことも,その一因であろう.また,薬学部の学生諸君にとっては,生物系科目として興味深く,国家試験でも薬理学からの出題が多い重要な科目であるが,薬物の作用点である生体の機能との関連がわかりにくいと,これまた,難しいと感じているようである.それは,上述のような薬理学の二面性を反映している.すなわち,これと対応して,薬理学の教育方法にも2通りがある.一つは病気の治療に重点をおいた説明であり,もう一つは薬物を中心にその作用機序を解説していく方法である.実際の薬理学の講義は,この両者を合い混ぜて行われている.いずれにしても,学生諸君にとって最初は覚えることばかりで,薬理学を一通り理解してからでないと全体像がつかめないきらいがある.また,薬理学の講義が,背景となる解剖学,生化学,生理学,各臨床医学の説明に終始してしまうと,薬理学のアイデンティティーは何かということになる.どうすれば薬理学を理解しやすく,かつ興味深いものにすることができるだろうか.
本書は,主に医学部,歯学部の学生諸君のサブテキストとなるような視点で記述した.臨床ではすべての診療科で薬物を使用するので,薬物とは切っても切れない縁があるし,薬物は見方を変えれば諸君が医師・歯科医師になったときの商品*3(適切な表現ではないが)でもあるから,それについて広範な知識をもつことは,プロフェッショナルの責務である.もし,薬学部,獣医学部の学生諸君や,医師,歯科医師,薬剤師の方々の知識の整理に,さらにはコメディカルの方や,薬物に興味をおもちの一般の方々にもお読みいただけるなら,望外の喜びである.
本書では,筆者らが薬物についてこれまで培ってきた考えをまとめた.ポイントは,次の2つである.第一に,薬物は究極的には,生体を構成する種々の分子,中でも主にたんぱく質(III章)に作用し,その結果,生体固有の生理的反応に影響している(IV章)という共通点で理解できるということである.このことを例示することが本書の目的で,すべての薬物を網羅するつもりはない.しかし,なるべく多くの薬物にどこかで触れるように心がけた.第二に強調したかったのは,自明のことであるが,副作用は薬物そのものの作用であるということである(V章).誤解を恐れず極言すれば,副作用のない薬物はない.しかし,このことは,しばしば無視され,薬物にかける期待が大きすぎることがある.そこで副作用を起こす,強めるさまざまな要因をまとめた.
それらを踏まえ,それまでの薬物治療を一新したようなエポックメーキングな薬物の開発を,背景,経過,今後への展開を含めてエピソードとした.それ自体が興味あるのみならず,薬物の開発について多くのことをわれわれに教えてくれるからである.また,本文の流れとは少々外れる関連事項をコラムあるいは脚注として数多く加えた.読者は,エピソード,コラム,脚注にとらわれず,本文のみを読んで,まず,全体を理解してほしい.脚注も短いコラムと考えていただくとよい.エピソード,コラムは,それだけ読んでもわかるように配慮した.
本書のII・III章とIV章では,一部でかなりの重複がみられるが,ある程度,重なっていたほうがわかりやすいのではと考えている.さらに,II・III章で個別に記載したものを,IV章で全体の中で位置づけるというつもりもある.換言すれば,II・III章は作用点からみた薬理学で,IV章は治療面からみた薬理学である.従来の教科書はいずれか一方の見方で記述され,他方の見方は,読者側の自主努力による再編集が期待されていた.つまり,学習とはこの重複をみずから行うことによって成り立っていたともいえる.しかし,昨今ではこのような自主努力を期待することが難しくなり,ここにあえて,この重複を甘受したものをつくりあげた.さらにいわせてもらえれば,執筆する側としても教科書でないがゆえに,全体を網羅する必要がないゆえに,それぞれの章ではその観点に徹することができたのではなかろうか? このような著者の考え方を念頭において,本書を読んでいただけると幸いである.
ただ,薬物の理解のためには整理された知識をもつことが大切であり,また,一つの統一的視点のもとに個々の薬物を位置づけることができれば,役に立つと考えられる.繰り返しになるが,上述のように本書では,薬物は生体成分,主にたんぱく質に作用すること,そして生理的な反応に影響することの2点を強調し,これを統一して考え,それに基づいた薬理学を提言したい*4.この点に関して,教授の定年間近い渡邉の反省と,教授に着任したばかりの上崎の抱負が一致したので,十分な議論のうえに一つの提案をすることは意義あることと考え,出版に踏み切った.屋上に屋することのないことを願っている.もとより,筆者らの力量不足は否めないが,上記の視点で書かれた本はあまりないように思えるので,将来,より整理し洗練できれば,あるいはどなたかがしてくだされば,と考え,本書を上梓することとした.したがって,記述の内容は,先人の業績に負うところがほとんどで,参考にした主な文献を記載したが,耳から聞いたことも記したので,これらについては個々に謝辞を述べられなかったことをご了解いただきたい.本書を通読して,多くの貴重なご指摘を頂いた柳沢輝行教授に深甚の謝意を表したい.
ただし,筆者らの知識不足,思い込みなどによる間違いがあると思うので,読者諸賢にご指摘いただければ幸いである.なお,未筆になったが,編集の過程で大変お世話になった医歯薬出版(株)に感謝申し上げたい.
*1 もし,一つの疾患に一つの薬物しか効かないとしたら,学生諸君は覚えることが少なくて試験には楽であろうが,患者さんには不幸なことである.すなわち,その薬物にアレルギー反応を示すとしたら,その患者さんには使えないことになる.
*2 本書では,化学構造式をあまり示さなかった.これは,構造式が重要でないということでなく,単に,どの薬理学の教科書にも記載されているため,できるかぎり省略したにすぎない.
*3 将来を考えると,良い悪いは別にして,日本においても医薬分業が進むはずである.そうなると,医者にとってくすりは「商品」ではなく道具になる.薬剤師にとっては商品であるが.
*4 日本薬理学雑誌のコレスポンデンス〔日薬理誌,114,316(1999)〕に,このことを書き,多くの先生にディベートして頂いたことも,執筆の刺激となった.
あとがき
渡邉と上崎の2人が,なぜこの本を共著で書くに至ったかを,記しておきたい.まず,2人の経歴は次の通りである.渡邉は1963年に大阪大学医学部を卒業し,1年間のインターンを経て,1968年に同大学院(生化学専攻)を終了した.したがって,臨床経験はまったくない.2年間の第一生化学教室(山野俊雄教授,和田博助教授)助手の後,1970~1974年にアメリカ(カリフォルニア大学バークレー,NIH)へ留学し,帰国後,同第二薬理学教室(和田博教授)に移り*1,1978年,助教授を経て,1985年に東北大学医学部第一薬理学教室の教授として仙台に赴任し,現在に至っている.
教授になってから薬理学の講義をしなくてはならなかったが,阪大時代は講義の分担が非常に少なかった(東北大では阪大の2倍くらいの講義時間があった*2)ので,最初の半年間は,薬理学の勉強ばかりで,Goodman&GilmanのTextbookをほとんど全部読んでノートを作った.ただし,講義の後はいつも自分で満足と感じたことがほとんどなく,なにか不満が残った.それは,1つの視点からみて系統立って薬理学を講義できなかったからだと,何年も経ってから気がついた.しかし,実際の講義に反映させる時間的余裕がなかったので,そこを中心に本書の執筆を試みた.とはいっても,最初は勤務時間中には執筆しないことにしていたので,主としてまとまった時間のとれる休日と出張中のホテル(年間30~50泊,特に,ラハティー,グラスゴー,リヨン,マイアミビーチ,ローマ近郊ネミ)か,新幹線の中だけであった.不思議なことに国際線は別として,国内線の飛行機の中では,このような仕事はできないものであった.1997年にとりかかってすぐ気がついたが,これは容易ではなかった.薬理学の範囲は広く,自分一人で,カバーできるのはごく一部にすぎないからである.最初の1年間は,遅々として進まなかった.
一方,上崎は,1976年に阪大医学部を卒業し,2年間の内科研修医を経て,同大学院生として第二薬理学教室へ入ったが,半年後に助手となった.1983年からアメリカのスタンフォード大学へ留学,1986年帰国と共に,鳥取大学医学部臨床薬理学教室(伊藤忠雄教授)の助教授として赴任した*3.1998年から再びムラド教授の研究室(テキサス大学ヒューストン)へ留学したが,滞在中にムラド教授がノーベル賞を授賞するという希有の経験をした.1998年に大阪大学歯学部歯科薬理学教室教授に選出され,帰国した.
さて,中途半端な原稿をかかえて困惑していた渡邉は,1999年の春,上崎に,素稿へ目を通して忌憚なき意見を述べるよう依頼したところ,薬物は生体分子に作用する,薬物は生理的反応に効くという2つのポイントでまとめることに賛成するとの返答であった.折しも新任の上崎は,阪大歯学部における「歯科薬物学」講義の最初の講義録を作成中で,まったく同じことを考えており,歯学部の薬理学ということで,その2点を強調したかったとのことであった.そこで,臨床経験があり,臨床薬理にも造詣の深い上崎と共同執筆ということになったのである.渡邉の素稿に徹底的に手を加え,ほぼ2倍となった.したがって,本書は今はやりのdouble top authorsといってよい.彼から送られてくるE-mailをみながら,感心したり,また,一部異議を唱えながら楽しく共同作業できたことを感謝する.最後に,講義を受けた,受けている学生として有意義な注文をつけてくれた小沼芳信,青木淳,近藤敬一,西山修平君,多くの図をイラストしてくれた日高章子修士,パソコンで面倒をかけた桜井映子博士にもお礼をいいたい.また,質問に心よく応じて適切なコメントを頂いた東北大学の同僚,水柿道直教授,篠田 寿教授,阿部高明講師と札幌医大・堀尾嘉幸教授に感謝する.
(渡邉記す)
*1 大阪大学医学部の薬理学教室は,当時,第一薬理が吉田博教授,故松田友宏助教授,第二薬理が和田博教授,岡源郎助教授で,研究も講義も生化学的色彩が強かった.
*2 東北大学医学部の薬理学講義は,非常に充実していた.平則夫教授と歴代の助教授,遠藤政夫,飯島俊彦,佐藤慶祐,柳沢輝行助教授(以上第二薬理学教室),故松原一郎助教授(第一薬理学教室)は,生理学に基づき作用機構に非常に詳しい講義をされていた.構造式を詳しく説明したりする渡辺の講義は,学生にとって珍しかったようである.
*3 したがって,2人は渡辺の転任まで5年間,同じ教室に所属していたが,研究テーマが異なっていたため,共同研究はほとんどなかった.
既に,渡邉先生が執筆の経緯を書いておられるので,ことさら「あとがき」を加える必要も無いと思ったが,渡邉先生は遠慮深い方なので,その部分を修正しておきたい.私と渡邉先生の経歴をみていただければ,ちょうど一回り,一世代違うことから,この本の執筆の経緯が少し違うことが理解していただけるだろう.私にこの話があったのは,大阪大学・歯学部の歯科薬物学講座教授に就任して,膨大な薬理学・歯科薬物学の講義のカリキュラムを作成しなければならない時期であった.ともすれば,学生教育を二の次に考えかねない状況を見越して,まず,薬理学の本質を理解するためにこの本を手伝いなさいという深遠なる教示の一つと理解して,そうすることにした.したがって,ほとんど完成していたものに私の意見を書かせてもらったというのが本当のところで,共著にしてもらったのは正直申し訳ないと思っている.
実際,薬自体はどんどん変わっていく可能性があり,それを憶える必要はない,薬理学とは薬の作用の仕方やその必要性を理解することが重要である,という講義は,詰め込み教育で生き残ってきた医学部や歯学部の学生には面食らうものらしい.しかし,これまでのように医師や歯科医師が独断で治療をする時代ではなくなってきている.個々の患者にあわせた説明ができなければ,人である医師が患者に応対する必要が無い.そのような患者に理解してもらう説明には,この本に書かれているような,なぜ薬で治療できるのかを最低限理解していなければならないと考える.具体的に投薬する際の薬に関する細部に渡る注意(投与量,禁忌,副作用,薬物動態など)は処方する際に,医薬品説明書に目を通して確認・「理解」するという,当り前のことを忘れなければ問題ないのではないか? 少し違った構造の新薬の作用を微に入り細に入り記憶するよりも,もっと大切な仕事が医師にはあると考える.
さらに,ここで説明した機序などは,現時点での想像をふまえた独断,つまり「うそ」が含まれている.現在のままのスピードで次々に新しい生理調節機構が解明されていけば,より論理的に説明されるものや,まったくくつがえるものも出てくるのに違いない.これらを自ら修正しつつ現場の医療に生かしていけるような考え方をこの本から読み取ってもらうことを期待して「あとがき」にしたい.(上崎記す)
さて,最後にできあがったものを読み返してみると,2人の恩師,和田博先生がよくいわれていたことに沿っているような気が強くする.したがって,本書を和田先生に捧げたい.
(2001年6月,渡邉,上崎)
くすりは,現代社会に生きる人にとって避けて通ることのできないものである.そして,医療の中で薬物*1の占める役割も非常に大きい.「くすり」といえば,すぐに病気の治療を連想するが,薬物は,必ずしも病気を治すためだけにあるのではない.むしろ,今日では,薬物は,生体の生理的反応のメカニズムやその制御機構の解明のために用いられ,そのほうがある意味でより重要である.なぜなら,新しいメカニズムが明らかになると,それをターゲットにした新しい薬物が開発されるからである.しかし,薬物は,なにかスッキリしないベールに包まれているような気がする人が多いのではなかろうか.
医学,歯学や,薬学,獣医学を専攻する学生諸君にとってもそうであろう.特に,医・歯学部の学生諸君には,薬理学は理解しにくい,薬物名*1と化学構造式*2がたくさん出てくる,覚えにくいと,あまり評判のよい科目ではないようである.おそらく病気をよく知らないことも,その一因であろう.また,薬学部の学生諸君にとっては,生物系科目として興味深く,国家試験でも薬理学からの出題が多い重要な科目であるが,薬物の作用点である生体の機能との関連がわかりにくいと,これまた,難しいと感じているようである.それは,上述のような薬理学の二面性を反映している.すなわち,これと対応して,薬理学の教育方法にも2通りがある.一つは病気の治療に重点をおいた説明であり,もう一つは薬物を中心にその作用機序を解説していく方法である.実際の薬理学の講義は,この両者を合い混ぜて行われている.いずれにしても,学生諸君にとって最初は覚えることばかりで,薬理学を一通り理解してからでないと全体像がつかめないきらいがある.また,薬理学の講義が,背景となる解剖学,生化学,生理学,各臨床医学の説明に終始してしまうと,薬理学のアイデンティティーは何かということになる.どうすれば薬理学を理解しやすく,かつ興味深いものにすることができるだろうか.
本書は,主に医学部,歯学部の学生諸君のサブテキストとなるような視点で記述した.臨床ではすべての診療科で薬物を使用するので,薬物とは切っても切れない縁があるし,薬物は見方を変えれば諸君が医師・歯科医師になったときの商品*3(適切な表現ではないが)でもあるから,それについて広範な知識をもつことは,プロフェッショナルの責務である.もし,薬学部,獣医学部の学生諸君や,医師,歯科医師,薬剤師の方々の知識の整理に,さらにはコメディカルの方や,薬物に興味をおもちの一般の方々にもお読みいただけるなら,望外の喜びである.
本書では,筆者らが薬物についてこれまで培ってきた考えをまとめた.ポイントは,次の2つである.第一に,薬物は究極的には,生体を構成する種々の分子,中でも主にたんぱく質(III章)に作用し,その結果,生体固有の生理的反応に影響している(IV章)という共通点で理解できるということである.このことを例示することが本書の目的で,すべての薬物を網羅するつもりはない.しかし,なるべく多くの薬物にどこかで触れるように心がけた.第二に強調したかったのは,自明のことであるが,副作用は薬物そのものの作用であるということである(V章).誤解を恐れず極言すれば,副作用のない薬物はない.しかし,このことは,しばしば無視され,薬物にかける期待が大きすぎることがある.そこで副作用を起こす,強めるさまざまな要因をまとめた.
それらを踏まえ,それまでの薬物治療を一新したようなエポックメーキングな薬物の開発を,背景,経過,今後への展開を含めてエピソードとした.それ自体が興味あるのみならず,薬物の開発について多くのことをわれわれに教えてくれるからである.また,本文の流れとは少々外れる関連事項をコラムあるいは脚注として数多く加えた.読者は,エピソード,コラム,脚注にとらわれず,本文のみを読んで,まず,全体を理解してほしい.脚注も短いコラムと考えていただくとよい.エピソード,コラムは,それだけ読んでもわかるように配慮した.
本書のII・III章とIV章では,一部でかなりの重複がみられるが,ある程度,重なっていたほうがわかりやすいのではと考えている.さらに,II・III章で個別に記載したものを,IV章で全体の中で位置づけるというつもりもある.換言すれば,II・III章は作用点からみた薬理学で,IV章は治療面からみた薬理学である.従来の教科書はいずれか一方の見方で記述され,他方の見方は,読者側の自主努力による再編集が期待されていた.つまり,学習とはこの重複をみずから行うことによって成り立っていたともいえる.しかし,昨今ではこのような自主努力を期待することが難しくなり,ここにあえて,この重複を甘受したものをつくりあげた.さらにいわせてもらえれば,執筆する側としても教科書でないがゆえに,全体を網羅する必要がないゆえに,それぞれの章ではその観点に徹することができたのではなかろうか? このような著者の考え方を念頭において,本書を読んでいただけると幸いである.
ただ,薬物の理解のためには整理された知識をもつことが大切であり,また,一つの統一的視点のもとに個々の薬物を位置づけることができれば,役に立つと考えられる.繰り返しになるが,上述のように本書では,薬物は生体成分,主にたんぱく質に作用すること,そして生理的な反応に影響することの2点を強調し,これを統一して考え,それに基づいた薬理学を提言したい*4.この点に関して,教授の定年間近い渡邉の反省と,教授に着任したばかりの上崎の抱負が一致したので,十分な議論のうえに一つの提案をすることは意義あることと考え,出版に踏み切った.屋上に屋することのないことを願っている.もとより,筆者らの力量不足は否めないが,上記の視点で書かれた本はあまりないように思えるので,将来,より整理し洗練できれば,あるいはどなたかがしてくだされば,と考え,本書を上梓することとした.したがって,記述の内容は,先人の業績に負うところがほとんどで,参考にした主な文献を記載したが,耳から聞いたことも記したので,これらについては個々に謝辞を述べられなかったことをご了解いただきたい.本書を通読して,多くの貴重なご指摘を頂いた柳沢輝行教授に深甚の謝意を表したい.
ただし,筆者らの知識不足,思い込みなどによる間違いがあると思うので,読者諸賢にご指摘いただければ幸いである.なお,未筆になったが,編集の過程で大変お世話になった医歯薬出版(株)に感謝申し上げたい.
*1 もし,一つの疾患に一つの薬物しか効かないとしたら,学生諸君は覚えることが少なくて試験には楽であろうが,患者さんには不幸なことである.すなわち,その薬物にアレルギー反応を示すとしたら,その患者さんには使えないことになる.
*2 本書では,化学構造式をあまり示さなかった.これは,構造式が重要でないということでなく,単に,どの薬理学の教科書にも記載されているため,できるかぎり省略したにすぎない.
*3 将来を考えると,良い悪いは別にして,日本においても医薬分業が進むはずである.そうなると,医者にとってくすりは「商品」ではなく道具になる.薬剤師にとっては商品であるが.
*4 日本薬理学雑誌のコレスポンデンス〔日薬理誌,114,316(1999)〕に,このことを書き,多くの先生にディベートして頂いたことも,執筆の刺激となった.
あとがき
渡邉と上崎の2人が,なぜこの本を共著で書くに至ったかを,記しておきたい.まず,2人の経歴は次の通りである.渡邉は1963年に大阪大学医学部を卒業し,1年間のインターンを経て,1968年に同大学院(生化学専攻)を終了した.したがって,臨床経験はまったくない.2年間の第一生化学教室(山野俊雄教授,和田博助教授)助手の後,1970~1974年にアメリカ(カリフォルニア大学バークレー,NIH)へ留学し,帰国後,同第二薬理学教室(和田博教授)に移り*1,1978年,助教授を経て,1985年に東北大学医学部第一薬理学教室の教授として仙台に赴任し,現在に至っている.
教授になってから薬理学の講義をしなくてはならなかったが,阪大時代は講義の分担が非常に少なかった(東北大では阪大の2倍くらいの講義時間があった*2)ので,最初の半年間は,薬理学の勉強ばかりで,Goodman&GilmanのTextbookをほとんど全部読んでノートを作った.ただし,講義の後はいつも自分で満足と感じたことがほとんどなく,なにか不満が残った.それは,1つの視点からみて系統立って薬理学を講義できなかったからだと,何年も経ってから気がついた.しかし,実際の講義に反映させる時間的余裕がなかったので,そこを中心に本書の執筆を試みた.とはいっても,最初は勤務時間中には執筆しないことにしていたので,主としてまとまった時間のとれる休日と出張中のホテル(年間30~50泊,特に,ラハティー,グラスゴー,リヨン,マイアミビーチ,ローマ近郊ネミ)か,新幹線の中だけであった.不思議なことに国際線は別として,国内線の飛行機の中では,このような仕事はできないものであった.1997年にとりかかってすぐ気がついたが,これは容易ではなかった.薬理学の範囲は広く,自分一人で,カバーできるのはごく一部にすぎないからである.最初の1年間は,遅々として進まなかった.
一方,上崎は,1976年に阪大医学部を卒業し,2年間の内科研修医を経て,同大学院生として第二薬理学教室へ入ったが,半年後に助手となった.1983年からアメリカのスタンフォード大学へ留学,1986年帰国と共に,鳥取大学医学部臨床薬理学教室(伊藤忠雄教授)の助教授として赴任した*3.1998年から再びムラド教授の研究室(テキサス大学ヒューストン)へ留学したが,滞在中にムラド教授がノーベル賞を授賞するという希有の経験をした.1998年に大阪大学歯学部歯科薬理学教室教授に選出され,帰国した.
さて,中途半端な原稿をかかえて困惑していた渡邉は,1999年の春,上崎に,素稿へ目を通して忌憚なき意見を述べるよう依頼したところ,薬物は生体分子に作用する,薬物は生理的反応に効くという2つのポイントでまとめることに賛成するとの返答であった.折しも新任の上崎は,阪大歯学部における「歯科薬物学」講義の最初の講義録を作成中で,まったく同じことを考えており,歯学部の薬理学ということで,その2点を強調したかったとのことであった.そこで,臨床経験があり,臨床薬理にも造詣の深い上崎と共同執筆ということになったのである.渡邉の素稿に徹底的に手を加え,ほぼ2倍となった.したがって,本書は今はやりのdouble top authorsといってよい.彼から送られてくるE-mailをみながら,感心したり,また,一部異議を唱えながら楽しく共同作業できたことを感謝する.最後に,講義を受けた,受けている学生として有意義な注文をつけてくれた小沼芳信,青木淳,近藤敬一,西山修平君,多くの図をイラストしてくれた日高章子修士,パソコンで面倒をかけた桜井映子博士にもお礼をいいたい.また,質問に心よく応じて適切なコメントを頂いた東北大学の同僚,水柿道直教授,篠田 寿教授,阿部高明講師と札幌医大・堀尾嘉幸教授に感謝する.
(渡邉記す)
*1 大阪大学医学部の薬理学教室は,当時,第一薬理が吉田博教授,故松田友宏助教授,第二薬理が和田博教授,岡源郎助教授で,研究も講義も生化学的色彩が強かった.
*2 東北大学医学部の薬理学講義は,非常に充実していた.平則夫教授と歴代の助教授,遠藤政夫,飯島俊彦,佐藤慶祐,柳沢輝行助教授(以上第二薬理学教室),故松原一郎助教授(第一薬理学教室)は,生理学に基づき作用機構に非常に詳しい講義をされていた.構造式を詳しく説明したりする渡辺の講義は,学生にとって珍しかったようである.
*3 したがって,2人は渡辺の転任まで5年間,同じ教室に所属していたが,研究テーマが異なっていたため,共同研究はほとんどなかった.
既に,渡邉先生が執筆の経緯を書いておられるので,ことさら「あとがき」を加える必要も無いと思ったが,渡邉先生は遠慮深い方なので,その部分を修正しておきたい.私と渡邉先生の経歴をみていただければ,ちょうど一回り,一世代違うことから,この本の執筆の経緯が少し違うことが理解していただけるだろう.私にこの話があったのは,大阪大学・歯学部の歯科薬物学講座教授に就任して,膨大な薬理学・歯科薬物学の講義のカリキュラムを作成しなければならない時期であった.ともすれば,学生教育を二の次に考えかねない状況を見越して,まず,薬理学の本質を理解するためにこの本を手伝いなさいという深遠なる教示の一つと理解して,そうすることにした.したがって,ほとんど完成していたものに私の意見を書かせてもらったというのが本当のところで,共著にしてもらったのは正直申し訳ないと思っている.
実際,薬自体はどんどん変わっていく可能性があり,それを憶える必要はない,薬理学とは薬の作用の仕方やその必要性を理解することが重要である,という講義は,詰め込み教育で生き残ってきた医学部や歯学部の学生には面食らうものらしい.しかし,これまでのように医師や歯科医師が独断で治療をする時代ではなくなってきている.個々の患者にあわせた説明ができなければ,人である医師が患者に応対する必要が無い.そのような患者に理解してもらう説明には,この本に書かれているような,なぜ薬で治療できるのかを最低限理解していなければならないと考える.具体的に投薬する際の薬に関する細部に渡る注意(投与量,禁忌,副作用,薬物動態など)は処方する際に,医薬品説明書に目を通して確認・「理解」するという,当り前のことを忘れなければ問題ないのではないか? 少し違った構造の新薬の作用を微に入り細に入り記憶するよりも,もっと大切な仕事が医師にはあると考える.
さらに,ここで説明した機序などは,現時点での想像をふまえた独断,つまり「うそ」が含まれている.現在のままのスピードで次々に新しい生理調節機構が解明されていけば,より論理的に説明されるものや,まったくくつがえるものも出てくるのに違いない.これらを自ら修正しつつ現場の医療に生かしていけるような考え方をこの本から読み取ってもらうことを期待して「あとがき」にしたい.(上崎記す)
さて,最後にできあがったものを読み返してみると,2人の恩師,和田博先生がよくいわれていたことに沿っているような気が強くする.したがって,本書を和田先生に捧げたい.
(2001年6月,渡邉,上崎)
序文
本書で用いた略語・略号一覧
I.はじめに
1.「くすり」とは?
2.薬物の作用の特徴──統一性,多様性
1)薬物の作用の統一性
2)薬物の作用の多様性
3.薬物の種類
1)薬力学的作用薬
2)化学療法薬
3)補充療法薬
II.薬物の作用の統一性:薬物のターゲット(作用点)は分子である
A.特異的作用薬:高分子量の生体構成成分に作用する薬物
1.たんぱく質をターゲットとする薬物
2.脂質をターゲットとする薬物
1)脂質の構造と機能
2)脂質に作用する薬物
3.核酸をターゲットとする薬物
1)核酸の構造と機能
2)核酸に結合する薬物
B.物理化学的非特異的作用薬
1)消毒薬
2)制酸剤
3)下剤
4)経口吸着剤
5)消化酵素製剤
6)浸透圧利尿薬
7)重金属中毒解毒薬(キレート剤)
C.特異的補充療法薬
1)ビタミン
2)電解質
3)糖質・脂質・アミノ酸
4)重金属
5)ホルモンなどの制御因子
III.たんぱく質に作用する薬物:ほとんどの薬物は,たんぱく質をターゲットとしている
A.酵素に作用する薬物
1.酵素の構造と機能
2.生理活性物質の代謝酵素に作用する薬物
1)アミン類の代謝酵素に作用する薬物
2)その他の生理活性物質の代謝酵素に作用する薬物
3)細胞内シグナル伝達系に関係する酵素に作用する薬物
4)血液凝固系に作用する薬物
3.生体成分の代謝酵素に作用する薬物
4.細菌やウィルスの代謝酵素に作用する薬物
1)細菌の細胞壁合成系に作用する薬物
2)細菌の核酸合成系に作用する薬物
3)細菌のたんぱく合成系に作用する薬物
4)ウイルスに作用する薬物
B.受容体に作用する薬物
1.受容体とは
1)受容体の研究
2)リガンド
2.受容体仮説による濃度作用関係
1)濃度作用曲線
2)解析法
3.受容体の種類と構造
1)Gたんぱく質共役型受容体
2)イオンチャンネル内蔵型受容体
3)チロシンキナーゼ型受容体
4)核内受容体
4.受容体に作用する薬物
1)Gたんぱく質共役型受容体に作用する薬物
2)イオンチャンネル内蔵型受容体に作用する薬物
3)チロシンキナーゼ型受容体に作用する薬物
4)核内受容体に作用する薬物
C.イオンチャンネルに作用する薬物
1.イオンチャンネル
2.イオンチャンネルの種類
1)電位依存性Naチャンネル
2)Kチャンネル
3)電位依存性Caチャンネル
4)Cl-チャンネル
3.イオンチャンネルに作用する薬物
1)電位依存性Naチャンネルに作用する薬物
2)Kチャンネルに作用する薬物
3)電位依存性Caチャンネルに作用する薬物
4)電位依存性Clチャンネルに作用する薬物
D.トランスポーターに作用する薬物
1.トランスポーターの種類
1)輸送形態による分類
2)運ばれるものからの分類
2.トランスポーターの構造と機能
1)イオンの輸送系
2)生理活性物質の輸送系
3)生体構成成分の輸送系
4)薬物トランスポーター
3.トランスポーターに作用する薬物
1)イオン輸送系に作用する薬物
2)生理活性物質輸送系に作用する薬物
3)生体構成成分輸送系に作用する薬物
IV.薬物の作用点の多様性:薬物は種々の点に働きかけ同一作用を起こす
1.便秘の治療に用いる薬物〔下剤(瀉下剤),便秘症治療薬〕
2.消化性潰瘍の治療に用いる薬物
1)塩酸分泌抑制薬
2)抗ペプシン薬
3)防御因子強化薬
4)ヘリコバクター除菌剤
3.嘔吐を抑えるために用いられる薬物(制吐薬)
4.血圧を下げるために用いる薬物(高血圧症治療薬,抗高血圧薬)
1)末梢抵抗を低下させる薬物
2)心拍出量,循環血漿量を減少させる薬物
5.尿量を増やすために用いる薬物(利尿薬)
1)近位尿細管に作用するもの
2)ヘンレ係蹄(ループ)に作用するもの(ループ利尿薬)
3)遠位尿細管に作用するもの
4)集合管に作用するもの
5)その他の新しい利尿薬
6.狭心症の治療に用いる薬物(虚血性心疾患治療薬)
7.心不全の治療に用いられる薬物〔強心薬(慢性うっ血性心不全治療薬)〕
1)Naポンプを抑制する薬物
2)細胞内cAMPを増加させる薬物
3)その他
4)血管拡張薬
5)利尿薬
8.不整脈の治療に用いる薬物(抗不整脈薬)
9.血小板機能を抑制するために用いる薬物(血小板凝集阻害薬,抗血小板薬)
10.高脂血症の治療に用いる薬物(抗高脂血症薬)
11.気管支喘息の治療に用いる薬物(抗気管支喘息薬)
1)IgE反応抑制薬
2)メディエーター遊離抑制薬(抗アレルギー薬)
3)メディエーターの受容体拮抗薬
4)気管支拡張薬
5)ステロイド
12.パーキンソン病の治療に用いられる薬物(抗パーキンソン病薬)
1)ドパミン活性を上昇させるもの
2)アセチルコリン活性を低下させるもの
3)ノルアドレナリン活性を上昇させるもの
13.てんかんの治療に用いる薬物(抗てんかん薬,痙れん性疾患治療薬)
1)電位依存性Naチャンネルに作用する薬物
2)Caチャンネルを抑制する薬物
3)GABA系に働く薬物
4)Glu系を抑制する薬物
14.うつ病の治療に用いられる薬物(抗うつ薬)
15.細菌感染症の治療に用いられる薬物(抗細菌薬)
1-1)細胞壁合成系を阻害する薬物(βラクタム系)
1-2)その他,βラクタム系以外の細胞内で細胞壁合成系を阻害する薬物
2)細胞膜に作用する薬物
3)核酸合成系に作用する薬物
4)細菌のたんぱく質合成を阻害する薬物
5)細菌に特異的な代謝を抑制する薬物(葉酸合成阻害薬)
16.ウイルス感染症の治療に用いる薬物(抗ウイルス薬)
1)脱殻(アンコーティング)阻害薬
2)核酸合成を阻害する薬物
3)プロテアーゼ阻害薬
4)ノイラミニダーゼ阻害薬
5)インターフェロン類
17.真菌感染症の治療に用いる薬物(抗真菌薬)
18.癌の治療に用いる薬物(抗腫瘍薬)
1)DNA合成を阻害する薬物
2)たんぱく質をターゲットとする薬物
19.免疫機構を抑制するために用いる薬物(免疫抑制薬)
20.痛み,発熱,炎症を抑えるために用いる薬物(消炎・鎮痛・解熱薬)
1)非麻薬性鎮痛薬(鎮痛・解熱性抗炎症薬)
2)拮抗性(非麻薬性)鎮痛薬
3)麻薬性鎮痛薬
21.痛風の治療に用いられる薬物
1)急性痛風性関節炎の発作治療薬
2)高尿酸血症治療薬
22.糖尿病の治療に用いる薬物(抗糖尿病薬)
23.甲状腺機能を抑えるために用いる薬物(抗甲状腺薬)
24.骨粗鬆症の治療に用いる薬物
25.ショックの治療に用いる薬物
V.副作用:副作用は薬物につきものである
A.副作用
1.副作用とは
2.有害作用
3.副作用に対する考え方
B.歴史的に重篤な副作用の発生例
1.ペニシリン・ショック
2.ストレプトマイシン(SM)難聴
3.キノホルム/スモン病
4.サリドマイド奇形
5.血液製剤によるAIDS(HIV感染症)
C.薬物相互作用
1.薬物動態学的薬物相互作用
1)吸収相における薬物相互作用
2)分布相における薬物相互作用
3)代謝相における薬物相互作用
3-1)薬物代謝に関係する酵素
3-2)薬物代謝における相互作用の例
4)排泄相における薬物相互作用
2.薬力学的薬物相互作用
1)同じ作用部位での相互作用
2)異なる部位での相互作用
D.副作用に影響を与える因子
1.遺伝的背景
2.年齢
1)小児
2)老人
3)妊娠,授乳
3.性差
4.疾患
1)腎障害
2)肝障害
3)心疾患
4)低アルブミン血症
VI.おわりに
VII.参考書
あとがき
索引
コラム
I-01 くすりと薬物
I-02 くすりはリスク
I-03 薬物の作用と副作用
I-04 薬物 ニ薬剤
I-05 創薬
I-06 生理活性物質
I-07 刺激の受容体
I-08 たんぱく質性製剤
I-09 商品名
I-10 漢方薬
II-01 たんぱく質による細胞膜の裏打ち
II-02 滅菌と消毒
II-03 亜鉛欠乏症
III-01 合剤
III-02 サリン
III-03 重症筋無力症
III-04 アスピリン・ジレンマ
III-05 一酸化窒素(NO)
III-06 抗そう病薬(炭酸リチウム)
III-07 血液凝固と線溶
III-08 プロドラッグ
III-09 アレキサンダー・フレミング
III-10 パウル・エールリッヒ
III-11 沼正作
III-12 Ca放出機構
III-13 パッチクランプ法
III-14 キノコ中毒
III-15 エピネフリン逆転現象
III-16 膜安定化作用
III-17 薬物の化学構造:クロルプロマジンとイミプラミン
III-18 メラトニン
III-19 ルイスの三重反応
III-20 PET
III-21 EPA(エイコサペンタエン酸)
III-22 内因性オピオイド
III-23 内因性カンナビノイド
III-24 メチルキサンチン誘導体
III-25 ニコチン
III-26 ヘキサメトニウム・マン
III-27 筋肉増強剤(たんぱく同化ホルモン)
III-28 テトロドトキシン
III-29 局所麻酔薬と電位依存性Naチャンネル
III-30 悪性高熱症
III-31 Na+/H+交換反応阻害薬
III-32 覚醒剤
IV-01 遺伝子治療
IV-02 過敏性腸症候群〔irritable bowl syndrome(IBS)〕
IV-03 ヘリコバクター・ピロリ菌(Helicobacter pylori)
IV-04 脳腸ペプチド
IV-05 宇宙酔い
IV-06 ダンピング症候群
IV-07 健胃剤
IV-08 内分泌器官としての腎臓,心臓,血管
IV-09 心筋梗塞の治療
IV-10 TIA(Transient Cerebral Ischemic Attack)(一過性脳虚血発作)
IV-11 血栓溶解薬
IV-12 生活習慣病
IV-13 薬品の売り上げ高
IV-14 ヒスタミンに対する反応性の種差
IV-15 ヒスタミンの生理作用:遺伝子ノックアウトマウスを用いた研究
IV-16 非鎮静性抗ヒスタミン薬の構造
IV-17 徐放剤(徐放性薬剤,デポー製剤,持続性製剤)
IV-18 ドパミン合成と神経伝達
IV-19 MPTP
IV-20 麦角アルカロイド
IV-21 ベンゾジアゼピン
IV-22 うつ病のモノアミン仮説
IV-23 三環系抗うつ薬の受容体結合
IV-24 高血圧性チーズ反応(hypertensive cheese reaction)
IV-25 抗生物質(殺菌性,静菌性)
IV-26 ペニシリンの発展
IV-27 HIV感染症治療薬
IV-28 インフルエンザウイルスの治療薬:ワクチン開発の困難さ
V-29 風邪の対症療法薬
IV-30 インターフェロン
IV-31 死亡率
IV-32 細胞周期と抗癌剤
IV-33 多剤併用療法
IV-34 QOL(Quality of Life)
IV-35 腫瘍の薬剤耐性機構
IV-36 免疫賦活薬:BRM
IV-37 構造活性相関(グルココルチコイドを例として)
IV-38 6-メルカプトプリン(6-MP)/アロプリノール:核酸代謝阻害剤
IV-39 糖尿病(Diabetes mellitus)
IV-40 破骨細胞
V-01 結核
V-02 ピル(経口避妊薬)
V-03 中毒と依存
V-04 エタノール
V-05 TDM(Therapeutic Drug Monitoring,薬物血中濃度モニタリング)
VI-01 ファルマコゲノミックス(ゲノム薬理学)
エピソード
1.エリスロポエチン:腎性貧血治療薬
2.ハロタン:全身麻酔薬
3.タクロリムス(FK506):免疫抑制薬
4.組織型プラスミノーゲンアクチベーター(tPA):血栓溶解薬
5.プラバスタチン:抗高脂血症薬
6.クロルプロマジン:抗精神病薬
7.ジヒドロピリジン:Ca拮抗薬
8.シメチジン:消化性潰瘍治療薬,H2ブロッカー
9.カプトプリル:アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤
10.ニトログリセリン:抗狭心症薬
11.L-ドーパ(レボドパ):パーキンソン病治療薬
12.抗細菌薬開発の歴史
13.アスピリンとNSAID:消炎・鎮痛・解熱薬
本書で用いた略語・略号一覧
I.はじめに
1.「くすり」とは?
2.薬物の作用の特徴──統一性,多様性
1)薬物の作用の統一性
2)薬物の作用の多様性
3.薬物の種類
1)薬力学的作用薬
2)化学療法薬
3)補充療法薬
II.薬物の作用の統一性:薬物のターゲット(作用点)は分子である
A.特異的作用薬:高分子量の生体構成成分に作用する薬物
1.たんぱく質をターゲットとする薬物
2.脂質をターゲットとする薬物
1)脂質の構造と機能
2)脂質に作用する薬物
3.核酸をターゲットとする薬物
1)核酸の構造と機能
2)核酸に結合する薬物
B.物理化学的非特異的作用薬
1)消毒薬
2)制酸剤
3)下剤
4)経口吸着剤
5)消化酵素製剤
6)浸透圧利尿薬
7)重金属中毒解毒薬(キレート剤)
C.特異的補充療法薬
1)ビタミン
2)電解質
3)糖質・脂質・アミノ酸
4)重金属
5)ホルモンなどの制御因子
III.たんぱく質に作用する薬物:ほとんどの薬物は,たんぱく質をターゲットとしている
A.酵素に作用する薬物
1.酵素の構造と機能
2.生理活性物質の代謝酵素に作用する薬物
1)アミン類の代謝酵素に作用する薬物
2)その他の生理活性物質の代謝酵素に作用する薬物
3)細胞内シグナル伝達系に関係する酵素に作用する薬物
4)血液凝固系に作用する薬物
3.生体成分の代謝酵素に作用する薬物
4.細菌やウィルスの代謝酵素に作用する薬物
1)細菌の細胞壁合成系に作用する薬物
2)細菌の核酸合成系に作用する薬物
3)細菌のたんぱく合成系に作用する薬物
4)ウイルスに作用する薬物
B.受容体に作用する薬物
1.受容体とは
1)受容体の研究
2)リガンド
2.受容体仮説による濃度作用関係
1)濃度作用曲線
2)解析法
3.受容体の種類と構造
1)Gたんぱく質共役型受容体
2)イオンチャンネル内蔵型受容体
3)チロシンキナーゼ型受容体
4)核内受容体
4.受容体に作用する薬物
1)Gたんぱく質共役型受容体に作用する薬物
2)イオンチャンネル内蔵型受容体に作用する薬物
3)チロシンキナーゼ型受容体に作用する薬物
4)核内受容体に作用する薬物
C.イオンチャンネルに作用する薬物
1.イオンチャンネル
2.イオンチャンネルの種類
1)電位依存性Naチャンネル
2)Kチャンネル
3)電位依存性Caチャンネル
4)Cl-チャンネル
3.イオンチャンネルに作用する薬物
1)電位依存性Naチャンネルに作用する薬物
2)Kチャンネルに作用する薬物
3)電位依存性Caチャンネルに作用する薬物
4)電位依存性Clチャンネルに作用する薬物
D.トランスポーターに作用する薬物
1.トランスポーターの種類
1)輸送形態による分類
2)運ばれるものからの分類
2.トランスポーターの構造と機能
1)イオンの輸送系
2)生理活性物質の輸送系
3)生体構成成分の輸送系
4)薬物トランスポーター
3.トランスポーターに作用する薬物
1)イオン輸送系に作用する薬物
2)生理活性物質輸送系に作用する薬物
3)生体構成成分輸送系に作用する薬物
IV.薬物の作用点の多様性:薬物は種々の点に働きかけ同一作用を起こす
1.便秘の治療に用いる薬物〔下剤(瀉下剤),便秘症治療薬〕
2.消化性潰瘍の治療に用いる薬物
1)塩酸分泌抑制薬
2)抗ペプシン薬
3)防御因子強化薬
4)ヘリコバクター除菌剤
3.嘔吐を抑えるために用いられる薬物(制吐薬)
4.血圧を下げるために用いる薬物(高血圧症治療薬,抗高血圧薬)
1)末梢抵抗を低下させる薬物
2)心拍出量,循環血漿量を減少させる薬物
5.尿量を増やすために用いる薬物(利尿薬)
1)近位尿細管に作用するもの
2)ヘンレ係蹄(ループ)に作用するもの(ループ利尿薬)
3)遠位尿細管に作用するもの
4)集合管に作用するもの
5)その他の新しい利尿薬
6.狭心症の治療に用いる薬物(虚血性心疾患治療薬)
7.心不全の治療に用いられる薬物〔強心薬(慢性うっ血性心不全治療薬)〕
1)Naポンプを抑制する薬物
2)細胞内cAMPを増加させる薬物
3)その他
4)血管拡張薬
5)利尿薬
8.不整脈の治療に用いる薬物(抗不整脈薬)
9.血小板機能を抑制するために用いる薬物(血小板凝集阻害薬,抗血小板薬)
10.高脂血症の治療に用いる薬物(抗高脂血症薬)
11.気管支喘息の治療に用いる薬物(抗気管支喘息薬)
1)IgE反応抑制薬
2)メディエーター遊離抑制薬(抗アレルギー薬)
3)メディエーターの受容体拮抗薬
4)気管支拡張薬
5)ステロイド
12.パーキンソン病の治療に用いられる薬物(抗パーキンソン病薬)
1)ドパミン活性を上昇させるもの
2)アセチルコリン活性を低下させるもの
3)ノルアドレナリン活性を上昇させるもの
13.てんかんの治療に用いる薬物(抗てんかん薬,痙れん性疾患治療薬)
1)電位依存性Naチャンネルに作用する薬物
2)Caチャンネルを抑制する薬物
3)GABA系に働く薬物
4)Glu系を抑制する薬物
14.うつ病の治療に用いられる薬物(抗うつ薬)
15.細菌感染症の治療に用いられる薬物(抗細菌薬)
1-1)細胞壁合成系を阻害する薬物(βラクタム系)
1-2)その他,βラクタム系以外の細胞内で細胞壁合成系を阻害する薬物
2)細胞膜に作用する薬物
3)核酸合成系に作用する薬物
4)細菌のたんぱく質合成を阻害する薬物
5)細菌に特異的な代謝を抑制する薬物(葉酸合成阻害薬)
16.ウイルス感染症の治療に用いる薬物(抗ウイルス薬)
1)脱殻(アンコーティング)阻害薬
2)核酸合成を阻害する薬物
3)プロテアーゼ阻害薬
4)ノイラミニダーゼ阻害薬
5)インターフェロン類
17.真菌感染症の治療に用いる薬物(抗真菌薬)
18.癌の治療に用いる薬物(抗腫瘍薬)
1)DNA合成を阻害する薬物
2)たんぱく質をターゲットとする薬物
19.免疫機構を抑制するために用いる薬物(免疫抑制薬)
20.痛み,発熱,炎症を抑えるために用いる薬物(消炎・鎮痛・解熱薬)
1)非麻薬性鎮痛薬(鎮痛・解熱性抗炎症薬)
2)拮抗性(非麻薬性)鎮痛薬
3)麻薬性鎮痛薬
21.痛風の治療に用いられる薬物
1)急性痛風性関節炎の発作治療薬
2)高尿酸血症治療薬
22.糖尿病の治療に用いる薬物(抗糖尿病薬)
23.甲状腺機能を抑えるために用いる薬物(抗甲状腺薬)
24.骨粗鬆症の治療に用いる薬物
25.ショックの治療に用いる薬物
V.副作用:副作用は薬物につきものである
A.副作用
1.副作用とは
2.有害作用
3.副作用に対する考え方
B.歴史的に重篤な副作用の発生例
1.ペニシリン・ショック
2.ストレプトマイシン(SM)難聴
3.キノホルム/スモン病
4.サリドマイド奇形
5.血液製剤によるAIDS(HIV感染症)
C.薬物相互作用
1.薬物動態学的薬物相互作用
1)吸収相における薬物相互作用
2)分布相における薬物相互作用
3)代謝相における薬物相互作用
3-1)薬物代謝に関係する酵素
3-2)薬物代謝における相互作用の例
4)排泄相における薬物相互作用
2.薬力学的薬物相互作用
1)同じ作用部位での相互作用
2)異なる部位での相互作用
D.副作用に影響を与える因子
1.遺伝的背景
2.年齢
1)小児
2)老人
3)妊娠,授乳
3.性差
4.疾患
1)腎障害
2)肝障害
3)心疾患
4)低アルブミン血症
VI.おわりに
VII.参考書
あとがき
索引
コラム
I-01 くすりと薬物
I-02 くすりはリスク
I-03 薬物の作用と副作用
I-04 薬物 ニ薬剤
I-05 創薬
I-06 生理活性物質
I-07 刺激の受容体
I-08 たんぱく質性製剤
I-09 商品名
I-10 漢方薬
II-01 たんぱく質による細胞膜の裏打ち
II-02 滅菌と消毒
II-03 亜鉛欠乏症
III-01 合剤
III-02 サリン
III-03 重症筋無力症
III-04 アスピリン・ジレンマ
III-05 一酸化窒素(NO)
III-06 抗そう病薬(炭酸リチウム)
III-07 血液凝固と線溶
III-08 プロドラッグ
III-09 アレキサンダー・フレミング
III-10 パウル・エールリッヒ
III-11 沼正作
III-12 Ca放出機構
III-13 パッチクランプ法
III-14 キノコ中毒
III-15 エピネフリン逆転現象
III-16 膜安定化作用
III-17 薬物の化学構造:クロルプロマジンとイミプラミン
III-18 メラトニン
III-19 ルイスの三重反応
III-20 PET
III-21 EPA(エイコサペンタエン酸)
III-22 内因性オピオイド
III-23 内因性カンナビノイド
III-24 メチルキサンチン誘導体
III-25 ニコチン
III-26 ヘキサメトニウム・マン
III-27 筋肉増強剤(たんぱく同化ホルモン)
III-28 テトロドトキシン
III-29 局所麻酔薬と電位依存性Naチャンネル
III-30 悪性高熱症
III-31 Na+/H+交換反応阻害薬
III-32 覚醒剤
IV-01 遺伝子治療
IV-02 過敏性腸症候群〔irritable bowl syndrome(IBS)〕
IV-03 ヘリコバクター・ピロリ菌(Helicobacter pylori)
IV-04 脳腸ペプチド
IV-05 宇宙酔い
IV-06 ダンピング症候群
IV-07 健胃剤
IV-08 内分泌器官としての腎臓,心臓,血管
IV-09 心筋梗塞の治療
IV-10 TIA(Transient Cerebral Ischemic Attack)(一過性脳虚血発作)
IV-11 血栓溶解薬
IV-12 生活習慣病
IV-13 薬品の売り上げ高
IV-14 ヒスタミンに対する反応性の種差
IV-15 ヒスタミンの生理作用:遺伝子ノックアウトマウスを用いた研究
IV-16 非鎮静性抗ヒスタミン薬の構造
IV-17 徐放剤(徐放性薬剤,デポー製剤,持続性製剤)
IV-18 ドパミン合成と神経伝達
IV-19 MPTP
IV-20 麦角アルカロイド
IV-21 ベンゾジアゼピン
IV-22 うつ病のモノアミン仮説
IV-23 三環系抗うつ薬の受容体結合
IV-24 高血圧性チーズ反応(hypertensive cheese reaction)
IV-25 抗生物質(殺菌性,静菌性)
IV-26 ペニシリンの発展
IV-27 HIV感染症治療薬
IV-28 インフルエンザウイルスの治療薬:ワクチン開発の困難さ
V-29 風邪の対症療法薬
IV-30 インターフェロン
IV-31 死亡率
IV-32 細胞周期と抗癌剤
IV-33 多剤併用療法
IV-34 QOL(Quality of Life)
IV-35 腫瘍の薬剤耐性機構
IV-36 免疫賦活薬:BRM
IV-37 構造活性相関(グルココルチコイドを例として)
IV-38 6-メルカプトプリン(6-MP)/アロプリノール:核酸代謝阻害剤
IV-39 糖尿病(Diabetes mellitus)
IV-40 破骨細胞
V-01 結核
V-02 ピル(経口避妊薬)
V-03 中毒と依存
V-04 エタノール
V-05 TDM(Therapeutic Drug Monitoring,薬物血中濃度モニタリング)
VI-01 ファルマコゲノミックス(ゲノム薬理学)
エピソード
1.エリスロポエチン:腎性貧血治療薬
2.ハロタン:全身麻酔薬
3.タクロリムス(FK506):免疫抑制薬
4.組織型プラスミノーゲンアクチベーター(tPA):血栓溶解薬
5.プラバスタチン:抗高脂血症薬
6.クロルプロマジン:抗精神病薬
7.ジヒドロピリジン:Ca拮抗薬
8.シメチジン:消化性潰瘍治療薬,H2ブロッカー
9.カプトプリル:アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤
10.ニトログリセリン:抗狭心症薬
11.L-ドーパ(レボドパ):パーキンソン病治療薬
12.抗細菌薬開発の歴史
13.アスピリンとNSAID:消炎・鎮痛・解熱薬
