特集にあたって
神経疾患,筋疾患の多くを占める慢性,進行性疾患については,長らく原因不明の難病とされていたものが少なくない.難病は,発病の機構が明らかでなく,治療方法が確立していない希少な疾病で,長期の療養を必要とするものと定義されているが,これらの疾患に対しては有効な薬物治療はなく対症療法にとどまり,運動療法,装具療法,施設ケア等がその治療の中心であった.1980年代から1990年代にかけてこれらの疾患のリハビリテーション医療は,運動機能面,ADLにとどまらず,呼吸障害に対する非侵襲的人工呼吸療法の導入や摂食嚥下障害へのアプローチの進歩により発展を遂げたが,あくまで原疾患の進行や加齢等に沿ったものであった.
多くの研究活動からそれぞれの疾患の病因が解明されていくとともに疾患経過を修飾する薬剤が開発されていった.その端緒としてパーキンソン病があり1960年代にドパミン不足が病因であることが明らかとなり,その前駆体であるL-dopaが導入されると,運動症状の改善に大きな成果をもたらし,その後は自然経過のままのパーキンソン病をみることがむしろ少数になった.その他の疾患においても,病理,免疫等の分野での研究が進められ,それが薬物治療に結び付き進行抑制につながるようになってきた.
1980年代にはデュシェンヌ型筋ジストロフィーの原因遺伝子であるジストロフィン遺伝子の発見というエポックがあった.1999年に刊行された『筋ジストロフィーはここまでわかった Part2』にはジストロフィンはじめ蛋白等の構造が大きく取り上げられており,その中で「本書の改訂版は『筋ジストロフィーはここまで治った』というタイトルになることを期待する」との記述があったことが印象に残っている.現在はその遺伝子を標的にした治療が既に開始されており,着実な進歩があったと感じられる.筋ジストロフィーの多くの病型,脊髄性筋萎縮症,家族性筋萎縮性側索硬化症等の原因遺伝子が解明されてきている.
このような対症療法しかないとされた疾患が,分子標的治療,遺伝子治療等の薬物療法によりその経過がよい方向に変わってきている.一方で,新しい有効な薬剤であっても認可の問題等で患者に届かないいわゆるドラッグロスという事象も提起されている.また,経過が変わることでリハビリテーション治療上,以前には注目されなかった問題もみられることがある.
本特集では,薬物療法の進歩により治療が大きく変化しつつある疾患を取り上げ,その過去,現在そして今後の展望について解説していただくとともに,リハビリテーション医療への影響についても触れていただいた.読者の皆さんにこのような状況を知っていただき,リハビリテーション診療に役立てていただくとともに,これらの疾患をもつ患者のよりよいADL,QOLにつながることを期待する.
(編集委員会 企画担当:花山耕三)
神経疾患,筋疾患の多くを占める慢性,進行性疾患については,長らく原因不明の難病とされていたものが少なくない.難病は,発病の機構が明らかでなく,治療方法が確立していない希少な疾病で,長期の療養を必要とするものと定義されているが,これらの疾患に対しては有効な薬物治療はなく対症療法にとどまり,運動療法,装具療法,施設ケア等がその治療の中心であった.1980年代から1990年代にかけてこれらの疾患のリハビリテーション医療は,運動機能面,ADLにとどまらず,呼吸障害に対する非侵襲的人工呼吸療法の導入や摂食嚥下障害へのアプローチの進歩により発展を遂げたが,あくまで原疾患の進行や加齢等に沿ったものであった.
多くの研究活動からそれぞれの疾患の病因が解明されていくとともに疾患経過を修飾する薬剤が開発されていった.その端緒としてパーキンソン病があり1960年代にドパミン不足が病因であることが明らかとなり,その前駆体であるL-dopaが導入されると,運動症状の改善に大きな成果をもたらし,その後は自然経過のままのパーキンソン病をみることがむしろ少数になった.その他の疾患においても,病理,免疫等の分野での研究が進められ,それが薬物治療に結び付き進行抑制につながるようになってきた.
1980年代にはデュシェンヌ型筋ジストロフィーの原因遺伝子であるジストロフィン遺伝子の発見というエポックがあった.1999年に刊行された『筋ジストロフィーはここまでわかった Part2』にはジストロフィンはじめ蛋白等の構造が大きく取り上げられており,その中で「本書の改訂版は『筋ジストロフィーはここまで治った』というタイトルになることを期待する」との記述があったことが印象に残っている.現在はその遺伝子を標的にした治療が既に開始されており,着実な進歩があったと感じられる.筋ジストロフィーの多くの病型,脊髄性筋萎縮症,家族性筋萎縮性側索硬化症等の原因遺伝子が解明されてきている.
このような対症療法しかないとされた疾患が,分子標的治療,遺伝子治療等の薬物療法によりその経過がよい方向に変わってきている.一方で,新しい有効な薬剤であっても認可の問題等で患者に届かないいわゆるドラッグロスという事象も提起されている.また,経過が変わることでリハビリテーション治療上,以前には注目されなかった問題もみられることがある.
本特集では,薬物療法の進歩により治療が大きく変化しつつある疾患を取り上げ,その過去,現在そして今後の展望について解説していただくとともに,リハビリテーション医療への影響についても触れていただいた.読者の皆さんにこのような状況を知っていただき,リハビリテーション診療に役立てていただくとともに,これらの疾患をもつ患者のよりよいADL,QOLにつながることを期待する.
(編集委員会 企画担当:花山耕三)
特集 慢性・進行性疾患の最新薬物治療
特集にあたって(花山耕三)
筋ジストロフィー(松村 剛)
脊髄性筋萎縮症(石川悠加)
パーキンソン病(植木美乃)
筋萎縮性側索硬化症(山川 勇)
アルツハイマー病の最新薬物治療:病態理解に基づく治療戦略と今後の展望(和田健二 秋山真樹)
連載
巻頭カラー 多領域から読み解くパラスポーツ支援の最前線
2.車いすバスケットボール選手のメディカルサポート(清水如代 六崎裕高・他)
Muscle Health―多職種連携で拓く包括的介入の最前線
8.筋萎縮を“食べて”防ぐMuscle Health:たんぱく質の量・質・タイミングの最新推奨(米田巧基)
ニューカマー リハ科専門医
(福島立盛)
最新版! 摂食嚥下機能評価―スクリーニングから臨床研究まで
26.膠原病における摂食嚥下機能評価(大橋美穂 青柳陽一郎)
AIと医療DX
7.脳画像解析とAI:臨床脳画像を用いた脳形態の定量化(根本清貴)
神経・筋疾患治療の最前線
8.脊髄性筋萎縮症(齊藤利雄 西尾久英)
リハビリテーション医療に必要な画像診断の基本
2.脳出血(岩﨑由将 風呂谷容平)
呼吸リハビリテーションの最新知見と実践
2.COPD・心不全合併(鈴木英俊 伊藤 修)
リハビリテーション室にある用具・器具
5.姿勢矯正用鏡(五十嵐 守 田邊素子)
支援機器の現在と未来-普及に向けた取り組み
12.認知症の支援機器(見守り・服薬支援等)(西浦裕子 山内閑子)
医療機関における運転指導
7.脳の病気の後の運転再開に際し,基本となる制度と運転再開手順(渡邉 修)
臨床経験
環境調整に焦点を当てた短期的な作業療法アプローチによって自己効力感の向上を認めた終末期肺がん患者の一例(壱岐尾優太 庄山 創・他)
訂正のご案内
バックナンバー
投稿規定
特集にあたって(花山耕三)
筋ジストロフィー(松村 剛)
脊髄性筋萎縮症(石川悠加)
パーキンソン病(植木美乃)
筋萎縮性側索硬化症(山川 勇)
アルツハイマー病の最新薬物治療:病態理解に基づく治療戦略と今後の展望(和田健二 秋山真樹)
連載
巻頭カラー 多領域から読み解くパラスポーツ支援の最前線
2.車いすバスケットボール選手のメディカルサポート(清水如代 六崎裕高・他)
Muscle Health―多職種連携で拓く包括的介入の最前線
8.筋萎縮を“食べて”防ぐMuscle Health:たんぱく質の量・質・タイミングの最新推奨(米田巧基)
ニューカマー リハ科専門医
(福島立盛)
最新版! 摂食嚥下機能評価―スクリーニングから臨床研究まで
26.膠原病における摂食嚥下機能評価(大橋美穂 青柳陽一郎)
AIと医療DX
7.脳画像解析とAI:臨床脳画像を用いた脳形態の定量化(根本清貴)
神経・筋疾患治療の最前線
8.脊髄性筋萎縮症(齊藤利雄 西尾久英)
リハビリテーション医療に必要な画像診断の基本
2.脳出血(岩﨑由将 風呂谷容平)
呼吸リハビリテーションの最新知見と実践
2.COPD・心不全合併(鈴木英俊 伊藤 修)
リハビリテーション室にある用具・器具
5.姿勢矯正用鏡(五十嵐 守 田邊素子)
支援機器の現在と未来-普及に向けた取り組み
12.認知症の支援機器(見守り・服薬支援等)(西浦裕子 山内閑子)
医療機関における運転指導
7.脳の病気の後の運転再開に際し,基本となる制度と運転再開手順(渡邉 修)
臨床経験
環境調整に焦点を当てた短期的な作業療法アプローチによって自己効力感の向上を認めた終末期肺がん患者の一例(壱岐尾優太 庄山 創・他)
訂正のご案内
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