特集にあたって
本特集では,高位頚髄損傷者を対象とした呼吸管理をテーマとして取り上げた.高位頚髄損傷では国際脊髄損傷神経学的分類基準(ISNCSCI)に基づいて神経学的損傷高位と重症度を評価し,C1,2高位の完全麻痺であれば受傷直後から人工呼吸器管理が必要となる.C3,4レベルの完全麻痺や不全麻痺では呼吸不全が遅発的に進行し,多くは受傷後5日以内に呼吸状態が悪化し,人工呼吸器管理が必要となる.代表的なレビューではC5以上の完全損傷では呼吸不全のリスクが高いため,肺胞保護戦略と肺炎防止の観点から集中治療室で早期の段階で人工呼吸器管理を考慮することが推奨されている.
高位頚髄損傷の急性期では多くの場合,集中治療室での全身管理となるが,人工呼吸器管理中からの段階的早期離床は非常に重要である.脊椎の固定性が担保されれば,頚髄損傷特有の交感神経障害に伴う医学的課題へ対応しながら積極的に離床を進める.急性期の呼吸管理においては排痰管理が重要であり,気道分泌物の貯留を防ぎ,適切に除去するために体位ドレナージ,腹帯の使用,徒手的咳嗽介助,機械的咳嗽補助装置(MI-E)等を組み合わせた戦略が必要である.そして人工呼吸器を離脱できるかを適切に評価し,人工呼吸器離脱を検討する.人工呼吸が長期間必要な症例では,気管切開による侵襲的換気補助から非侵襲的換気補助への移行を進めることで在宅管理につなげることができる.
また,2014年に発刊された『神経筋疾患・脊髄損傷の呼吸リハビリテーションガイドライン』の推奨文では,「横隔膜ペーシングはコストが高く,多くの患者で効果的ではないので,行わないように勧められる(C2)」とあり,解説文でも,「自発呼吸が改善したという報告もない」「横隔膜ペーシングより,気管切開チューブを抜去してNPPVに移行する方がよい」とされた.しかし,2019年のAm J Phys Med Rehabil.でも人工呼吸器からの離脱成功例が報告され,それ以降も報告が続いている.わが国ではまだ症例数が少ない横隔膜ペーシングであるが,患者および介護者のQOL向上につながる臨床的意義がある新たな呼吸管理の選択肢の1つである.
本特集では,実際の症例を経験された先生方に,医師と理学療法士それぞれの視点から,各治療法の目的,適応,実践方法,課題と展望等を解説していただくこととした.日常業務で多忙のところお時間をいただいた執筆者の先生方には心より敬意と感謝を申し上げたい.誰もが呼吸管理が必要な高位頚髄損傷者の診療に携わる機会があるわけではないが,まずは本特集で貴重な知見と経験を頚髄損傷者のリハビリテーション診療に携わる職種に知っていただき,将来の患者の治療の選択肢を広げる一助となれば幸いである.
(編集委員会 企画担当:幸田 剣)
本特集では,高位頚髄損傷者を対象とした呼吸管理をテーマとして取り上げた.高位頚髄損傷では国際脊髄損傷神経学的分類基準(ISNCSCI)に基づいて神経学的損傷高位と重症度を評価し,C1,2高位の完全麻痺であれば受傷直後から人工呼吸器管理が必要となる.C3,4レベルの完全麻痺や不全麻痺では呼吸不全が遅発的に進行し,多くは受傷後5日以内に呼吸状態が悪化し,人工呼吸器管理が必要となる.代表的なレビューではC5以上の完全損傷では呼吸不全のリスクが高いため,肺胞保護戦略と肺炎防止の観点から集中治療室で早期の段階で人工呼吸器管理を考慮することが推奨されている.
高位頚髄損傷の急性期では多くの場合,集中治療室での全身管理となるが,人工呼吸器管理中からの段階的早期離床は非常に重要である.脊椎の固定性が担保されれば,頚髄損傷特有の交感神経障害に伴う医学的課題へ対応しながら積極的に離床を進める.急性期の呼吸管理においては排痰管理が重要であり,気道分泌物の貯留を防ぎ,適切に除去するために体位ドレナージ,腹帯の使用,徒手的咳嗽介助,機械的咳嗽補助装置(MI-E)等を組み合わせた戦略が必要である.そして人工呼吸器を離脱できるかを適切に評価し,人工呼吸器離脱を検討する.人工呼吸が長期間必要な症例では,気管切開による侵襲的換気補助から非侵襲的換気補助への移行を進めることで在宅管理につなげることができる.
また,2014年に発刊された『神経筋疾患・脊髄損傷の呼吸リハビリテーションガイドライン』の推奨文では,「横隔膜ペーシングはコストが高く,多くの患者で効果的ではないので,行わないように勧められる(C2)」とあり,解説文でも,「自発呼吸が改善したという報告もない」「横隔膜ペーシングより,気管切開チューブを抜去してNPPVに移行する方がよい」とされた.しかし,2019年のAm J Phys Med Rehabil.でも人工呼吸器からの離脱成功例が報告され,それ以降も報告が続いている.わが国ではまだ症例数が少ない横隔膜ペーシングであるが,患者および介護者のQOL向上につながる臨床的意義がある新たな呼吸管理の選択肢の1つである.
本特集では,実際の症例を経験された先生方に,医師と理学療法士それぞれの視点から,各治療法の目的,適応,実践方法,課題と展望等を解説していただくこととした.日常業務で多忙のところお時間をいただいた執筆者の先生方には心より敬意と感謝を申し上げたい.誰もが呼吸管理が必要な高位頚髄損傷者の診療に携わる機会があるわけではないが,まずは本特集で貴重な知見と経験を頚髄損傷者のリハビリテーション診療に携わる職種に知っていただき,将来の患者の治療の選択肢を広げる一助となれば幸いである.
(編集委員会 企画担当:幸田 剣)
特集 高位頚髄損傷者の呼吸管理
特集にあたって(幸田 剣)
集中治療室からの高位頚髄損傷者の呼吸管理(幸田 剣 坂野元彦)
呼吸障害を伴う高位頚髄損傷に対する横隔膜ペーシングシステムの導入経験(許斐恒彦 大石英人)
横隔膜ペーシング植込み例のリハビリテーション治療(古賀隆一郎 横田和也・他)
高位頚髄損傷者における急性期・亜急性期の呼吸管理(土岐明子)
急性期頚髄損傷における呼吸管理および段階的早期離床プログラム―多職種連携で「呼吸」と「離床」を支える―(川崎真嗣 岩橋孝弥・他)
高位頚髄損傷者のNPPV管理とリハビリテーションアプローチ(高尾弘志)
TOPICS たんぱく質の新常識―高齢者の筋たんぱく質合成の促進に焦点を当てて―
(藤田 聡)
新連載
巻頭カラー 多領域から読み解くパラスポーツ支援の最前線
1.パラスポーツの医・科学支援―医療とスポーツ科学の統合的アプローチ―(後藤賢二)
呼吸リハビリテーションの最新知見と実践
1.COPDにおける呼吸リハビリテーションの最新知見と実践(金崎雅史)
リハビリテーション医療に必要な画像診断の基本
1.脳梗塞(丸山 元 高橋秀寿)
連載
ニューカマー リハ科専門医
(竹本(中村)静里菜)
最新版! 摂食嚥下機能評価―スクリーニングから臨床研究まで
25.小児疾患における摂食嚥下機能評価(和田勇治)
AIと医療DX
6.内視鏡診断とAI(桑原崇通 原 和生・他)
Muscle Health―多職種連携で拓く包括的介入の最前線
9.Muscle Health維持のために注目される栄養素:ロイシン,HBM,中鎖脂肪酸(前田絵茉)
神経・筋疾患治療の最前線
7.筋ジストロフィー(尾方克久)
医療機関における運転指導
6.脳損傷者の社会復帰の視点から自動車運転再開を考える(佐藤万美子 小林康孝)
リハビリテーション室にある用具・器具
4.スタンディングテーブル(藤田貴昭)
支援機器の現在と未来-普及に向けた取り組み
11.環境制御装置を活用した自立生活支援(大場 薫 廣島志保・他)
臨床経験
外部トリガースイッチによる神経筋電気刺激併用の促通反復療法が奏功した脳卒中急性期の重度上肢麻痺の一例(松原貴哉 豊栄 峻・他)
バックナンバー
投稿規定
特集にあたって(幸田 剣)
集中治療室からの高位頚髄損傷者の呼吸管理(幸田 剣 坂野元彦)
呼吸障害を伴う高位頚髄損傷に対する横隔膜ペーシングシステムの導入経験(許斐恒彦 大石英人)
横隔膜ペーシング植込み例のリハビリテーション治療(古賀隆一郎 横田和也・他)
高位頚髄損傷者における急性期・亜急性期の呼吸管理(土岐明子)
急性期頚髄損傷における呼吸管理および段階的早期離床プログラム―多職種連携で「呼吸」と「離床」を支える―(川崎真嗣 岩橋孝弥・他)
高位頚髄損傷者のNPPV管理とリハビリテーションアプローチ(高尾弘志)
TOPICS たんぱく質の新常識―高齢者の筋たんぱく質合成の促進に焦点を当てて―
(藤田 聡)
新連載
巻頭カラー 多領域から読み解くパラスポーツ支援の最前線
1.パラスポーツの医・科学支援―医療とスポーツ科学の統合的アプローチ―(後藤賢二)
呼吸リハビリテーションの最新知見と実践
1.COPDにおける呼吸リハビリテーションの最新知見と実践(金崎雅史)
リハビリテーション医療に必要な画像診断の基本
1.脳梗塞(丸山 元 高橋秀寿)
連載
ニューカマー リハ科専門医
(竹本(中村)静里菜)
最新版! 摂食嚥下機能評価―スクリーニングから臨床研究まで
25.小児疾患における摂食嚥下機能評価(和田勇治)
AIと医療DX
6.内視鏡診断とAI(桑原崇通 原 和生・他)
Muscle Health―多職種連携で拓く包括的介入の最前線
9.Muscle Health維持のために注目される栄養素:ロイシン,HBM,中鎖脂肪酸(前田絵茉)
神経・筋疾患治療の最前線
7.筋ジストロフィー(尾方克久)
医療機関における運転指導
6.脳損傷者の社会復帰の視点から自動車運転再開を考える(佐藤万美子 小林康孝)
リハビリテーション室にある用具・器具
4.スタンディングテーブル(藤田貴昭)
支援機器の現在と未来-普及に向けた取り組み
11.環境制御装置を活用した自立生活支援(大場 薫 廣島志保・他)
臨床経験
外部トリガースイッチによる神経筋電気刺激併用の促通反復療法が奏功した脳卒中急性期の重度上肢麻痺の一例(松原貴哉 豊栄 峻・他)
バックナンバー
投稿規定















