やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

特集にあたって
 補装具費支給制度には,1930年代の戦傷軍人への義肢支給を原型とし,戦後の福祉法制の整備とともに制度化された歴史がある.1947年の児童福祉法,1949年の身体障害者福祉法を経て法的制度として確立され,1950年代には国立義肢製作所の設立により品質管理と技術向上が推進された.1960年代には車椅子や補聴器等,対象品目が拡大され,1981年の国際障害者年を契機に「社会参加支援」という理念が広まり,補装具の役割も再定義された.1993年には技術革新に対応する性能基準が導入され,2006年の障害者自立支援法施行により市町村が実施主体となり,利用者の自己負担は原則1割となった.2013年には難病患者が対象に加わり,2021年には視線入力装置といったICT機器も支給対象となる等,制度は時代とともに着実に進化を遂げてきている.そして今,令和6・7(2024・2025)年度の告示改正は,制度の根幹にかかわる大きな転換点にもなっているようにも思う.補装具の名称変更や種目分類の見直し,完成用部品の大幅整理,価格体系の再構築,ICT機器やオーダーメイド製作への対応等,改正の幅は広く,臨床現場における処方・申請・連携体制の再構築が求められていると考えられる.特例制度の導入は柔軟な運用を可能にする一方で,自治体判断に委ねられる部分も多く,地域間格差の懸念も拭えない.つまり,制度の理解と運用には,より高度な専門性と多職種による協働が不可欠となっていると思われる.
 本特集では,6名の専門家がそれぞれの視点から制度改正の核心に迫っている.
 本特集の企画者である筆者は,制度の歴史と技術革新の流れを俯瞰し,制度設計の理念と実務の接点について語らせていただいた.横井 剛氏は,姿勢保持装置の定義拡張と台数管理の見直しを通じて,生活場面に応じた支給の可能性を示唆している.高岡 徹氏は,車椅子の価格体系の明確化と処方箋の実務的対応について,制度と現場の関係性について述べている.西嶋一智氏は,電動車椅子の定義と特例運用の実際を通じて,若年者の社会参加支援における制度活用の可能性を論じている.中村 隆氏は,義肢の形式変更と試用評価制度の導入に触れつつ,製作現場の課題と倫理的配慮を提起している.そして石原栄治氏は,装具におけるレディメイド基準の新設と完成用部品の理解を通じて,制度運用の実務面を整理している.
 制度改正は単なる事務的変更ではなく,障害当事者の生活における活動や社会参加の可能性に直結するものである.そのためには,制度の正確な理解と情報共有,多職種による連携,そして何よりも現場の声を制度設計に反映させる姿勢が不可欠だと思う.
 本特集が,制度運用にかかわるすべての方々にとって,実務指針の一助となり,関連職種における対話のきっかけとなることを願ってやまない.
 (編集委員会 企画担当:浅見豊子)
特集 詳しい内容を知っていますか? 補装具費支給制度告示改正
 特集にあたって(浅見豊子)
 補装具費支給制度の歴史と変遷―制度設計と技術革新(浅見豊子)
 姿勢保持装置について(横井 剛)
 車椅子について(高岡 徹)
 電動車椅子について(西嶋一智)
 義手・義足について(中村 隆)
 装具について(石原栄治)

TOPICS 腎移植周術期から,移植後維持期のリハビリテーション
 (西村彰紀 日髙寿美・他)

連載
リハなひと
 言語聴覚士/リハビリ当事者 笠井幸子さん

巻頭カラー デジタルフロンティア:次世代技術の展望
 6.ブロックチェーン(笹原英司)

支援機器の現在と未来―普及に向けた取り組み
 4.排泄行為における支援機器の役割と課題―尊厳ある排泄を支える介護テクノロジーの実際―(冨板 充)

ニューカマー リハ科専門医
 (大石 瞳)

最新版! 摂食嚥下機能評価―スクリーニングから臨床研究まで
 18.嚥下CT(稲本陽子)

知っておきたい! がんサポーティブケア
 11.妊孕性(片岡明美)

Muscle Health―多職種連携で拓く包括的介入の最前線
 2.低栄養/栄養障害:GLIM基準の臨床応用(吉村芳弘)

回復期リハビリテーション病院・チームでキャリアアップ―私たちの院内研修
 6.感染対策(予防,院内アウトブレイク時の対応)(山中義崇)

おさえておきたい転倒・転落予防の基本知識と現場での応用
 14.インシデントレポートを転倒・転落の再発予防につなげる(宮越浩一)

“こんなときどうする?” リハビリテーション臨床現場のモヤモヤ解決! 令和版
 リハビリテーション科専門医取得後のキャリアアップ編(3)各種学会(牧田 茂)

リハビリテーション関連学会に行ってみよう!
 6.日本ボツリヌス治療学会(川手信行)

臨床研究
 大腿骨近位部骨折におけるMini Nutritional Assessment-Short Formを用いた術前栄養状態の評価と歩行再獲得の関係:後方視的コホート研究(笠井健司 下地 尚・他)

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 NEWS速報(篠田裕介)
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