やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

introduction
 2008年11月14日の世界糖尿病デーにあわせて,東京タワーをはじめとする全国のさまざまな施設がブルーにライトアップされた(詳細はhttp://www.wddj.jp/より).糖尿病患者は世界中で増加し続け,糖尿病の発症予防・合併症予防はWHOにおいても重要な対疾病戦略となっている.日本においても事情は同様であり,平成19年度国民健康・栄養調査によれば,糖尿病が強く疑われる人が約890万人,糖尿病の可能性を否定できない人が約1320万人と推計されている.
 糖尿病は,残念ながらほとんどの場合「治す」というわけにはいかない病気であり,患者は病気と生涯にわたって付き合っていかなければならない.その長い時間のなかで,糖尿病はきわめて多岐にわたる合併症を引きおこす.糖尿病の合併症といえばまず網膜症が思い当たるが,細小血管症・大血管症のみならず,感染症,悪性腫瘍,歯周病といった方面にまでリスク因子としてはたらくことがわかっている.また認知症や精神疾患など,脳の機能と糖尿病との相互関連についてもさまざまな知見が得られている.ひとつの疾患群が,医学という領域のなかでこれだけ広い範囲に影響を及ぼすというのはなかなか例をみない.
 厚生労働省は糖尿病診療の均てん化を医療政策の目標のひとつに掲げており,今後さまざまな形で糖尿病に携わる医療従事者の啓発活動が行われる予定である.また日本糖尿病学会は「科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン」を作成・改訂し,国内診療レベルの標準化を目指している.しかしながら糖尿病患者の呈する病態は多彩であり,糖尿病に関連する病態の管理についてすべてガイドライン化するというのは容易ではない.現場の医療従事者が個々の患者の問題点を理解し,どう支えていくかをよく考えることが重要である.患者指導には多くの業種の協力が不可欠であり,チーム医療を実践するうえで十分なスキルと情熱をもった医師・コメディカルスタッフの育成が大きな課題である.
 本書の執筆にあたっては,糖尿病診療の最前線で活躍しておられる諸先生方に,疫学的事項や現場での対処法を念頭において各項目を解説していただいた.多忙のなかでご協力いただいた諸先生方に心より感謝申し上げる.本書を通して,糖尿病という疾患の治療に携わることの奥深さを再認識していただき,日々の患者診療・指導に役立てていただければ幸いである.
 国立国際医療センター戸山病院
 糖尿病・代謝症候群診療部
 高橋義彦
 野田光彦
 Introduction(高橋義彦・野田光彦)
1 糖尿病が原因・関与する全身疾患と病態
 糖尿病細小血管症
  糖尿病神経障害(長澤 薫・森 保道)
  糖尿病網膜症(八代成子)
  糖尿病腎症(成田琢磨)
 糖尿病大血管症
  虚血性心疾患(中村圭吾)
  脳卒中(横田千晶・峰松一夫)
  下肢の閉塞性動脈硬化症(本田律子・他)
  糖尿病と認知症(荒木 厚)
  骨粗鬆症(竹内靖博)
  糖尿病と感染症(納 啓一郎・高橋義彦)
  皮膚疾患(吉田洋子)
  糖尿病とがん(辻本哲郎・野田光彦)
 Topic
  CKD(今澤俊之)
2 高血糖をきたしうる全身疾患
 内分泌疾患(本田宗宏)
 膵・肝疾患(岸本美也子)
 神経,筋疾患と糖尿病(河野茂夫)
 HIV感染症―その治療によるもの―(六川由果・高橋義彦)
 Topic
  メタボリックシンドローム(高橋義彦)
3 糖尿病と相互に関連し合う全身疾患
 高血圧(田中隆久・梶尾 裕)
 歯周病(和泉雄一・片桐さやか)
 精神疾患(峯山智佳・三島修一)
 Topic
  妊娠(村岡都美江)