やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

まえがき
 吉村 芳弘,若林 秀隆
 本書の目的は,医原性サルコペニアの概念を明らかにし,さまざまなセッティングや疾患における医原性サルコペニアの予防と対策を提言することです.これまでに類似の書籍や文献がきわめて少ない,挑戦的な企画です.
 サルコペニアは加齢のみが原因の原発性サルコペニアと,活動・栄養・疾患が原因の二次性サルコペニアに分類されます.とくに,医療現場では二次性サルコペニアが「医原性」に発生している可能性が危惧されます.周術期患者や肺炎患者では「安静,禁食」と指示されることがありますが,医学的にみて本当に安静や禁食が必要かどうか検証することが必要であり,不要な安静や禁食の結果,寝たきりや嚥下障害,低栄養になることは避けるべきです.医療現場における低活動,疾患,低栄養による医原性サルコペニアの予防と治療は,急性期から回復期,維持期,在宅のあらゆるセッティングにおいて欠かせないものです.また,サルコペニアの治療はその原因によって異なり,リハビリテーション栄養の考え方が有用です.
 本書の読者対象は中級〜上級者としました.リハビリテーション栄養やサルコペニアに関する初学者向けの書籍はすでに多く存在するためです.また,Part 4.とPart 5.のほとんどは2016 年10 月22,23日に富山市で開催された,第6回日本リハビリテーション栄養研究会学術集会の同名のシンポジウムと公開カンファレンスの演者に依頼しました.同学術集会の質が非常に高く,なんとか形にして多くの方にその内容を伝えたいと考えたためです.
 医療現場における医原性サルコペニアの理解推進と廃絶に,本書が少しでも貢献できたらと願っています.
 2017 年8 月
 まえがき(吉村芳弘・若林秀隆)
Part 1. リハビリテーション栄養UPDATE:総論
 1. リハビリテーション栄養とは(前田圭介)
 2. EBRN―エビデンスに基づいたリハ栄養実践(若林秀隆)
 3. ドラッカーの「マネジメント」とリハ栄養(藤原 大)
 4. サルコペニアの最新の話題と診断基準(吉村芳弘)
 5. サルコペニアの治療:リハ栄養(金久弥生)
 6. フレイル,老嚥とサルコペニアの摂食嚥下障害(森 隆志)
 7. 医原性サルコペニアをつくる医療とは(塩濱奈保子)
 8. NSTとリハ栄養(東 敬一朗)
Part 2. 医原性サルコペニアの廃絶をめざして:セッティング別
 1. 急性期病院での医原性サルコペニア対策(飯田有輝)
 2. 回復期リハ病棟での医原性サルコペニア対策(和田恵美子)
 3. 地域包括ケア病棟での医原性サルコペニア対策(山仁子)
 4. 介護保健施設での医原性サルコペニア対策(藤本篤士)
 5. 外来での医原性サルコペニア対策(社本 博)
 6. 在宅での医原性サルコペニア対策(諸冨伸夫・小林 琢)
Part 3. 医原性サルコペニアの廃絶をめざして:疾患別
 1. 誤嚥性肺炎患者の医原性サルコペニア対策(松尾晴代)
 2. 脳卒中患者の医原性サルコペニア対策(熊谷直子)
 3. 周術期患者の医原性サルコペニア対策―ERAS(R)とESSENSE(宮田 剛)
 4. 肥満(サルコペニア肥満)患者の医原性サルコペニア対策(二井麻里亜)
 5. 認知症患者におけるサルコペニア対策(吉田貞夫)
 6. 慢性腎臓病患者の医原性サルコペニア対策(小波津香織)
 7. 重症下肢虚血(閉塞性動脈硬化症)患者の医原性サルコペニア対策(土田博光)
 8. 糖尿病患者の医原性サルコペニア対策(渡辺香緒里)
 9. 脊髄損傷患者の医原性サルコペニア対策(御子神由紀子)
Part 4. われわれはリハ栄養で何ができるのか?
 1. 管理栄養士はリハ栄養において何ができるのか?―NST48 のいまとこれから(西岡心大)
 2. リハ栄養における言語聴覚士の「これまで」と「これから」(永見慎輔)
 3. リハ栄養でわれわれに何ができるか―看護師が向き合うべき現状と課題(永野彩乃)
 4. われわれはリハ栄養で何ができるか―理学療法士の役割と展望(高橋浩平)
 5. リハ栄養とその先にあるもの―OTのこれまでとこれから(田中 舞)
 6. 薬剤師が活躍するリハ栄養―医原性サルコペニア予防に必要なリハ栄養効果を高めるための薬剤師の支援(中道真理子)
 7. 歯科衛生士が活躍するリハ栄養(白石 愛)
Part 5. 誌上カンファレンス:失敗症例から学ぶリハ栄養
 1. カンファレンスの目的と症例紹介(松井亮太)
 2. Pro and Con[1] 誤嚥性肺炎発症時は
  Pro|早期経口摂取を優先(柳澤優希)
  Con|リスクの低減を優先(鈴木瑞恵)
 3. Pro and Con[2] 急性期栄養は
  Pro|overfeedingを推奨(伊藤 望)
  Con|underfeedingを推奨(小蔵要司)
 4. Pro and Con[3] 急性転化時のリハは
  Pro|積極的リハを推奨(野々山忠芳)
  Con|リハ強度の低減を推奨(井出浩希)
 5. Pro and Con[4] 感染予防策施行時のリハは
  Pro|積極的リハを推奨(佐藤ことみ)
  Con|リハ強度の低減を推奨(茨木あづさ)
 6. カンファレンスへの提言
  ・低栄養患者のrefeeding syndromeリスク(前田圭介)
  ・外来レベルでの栄養スクリーニング(木倉敏彦)
  ・リハの必要性と開始基準(吉村芳弘)
 7. 誌上カンファレンスの統括(松井亮太)