やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 臨床工学技士法誕生から現在までの臨床工学技士教育に欠けているものは何か.今後,「臨床工学」という学問体系を構築していくために必要な基礎知識は何か.「工学的なセンス」を磨くための教育方法はどうしたらよいか.―これらは,臨床工学技士になるための教育課程の中で,これまで真剣に取り組まれてこなかった事項であると認識しておく必要があるだろう.こうした状況をふまえて本書は,次の4つのポイントについて十分に配慮した内容となっている.
 (1)本書の内容が,臨床工学課程に入学した学生が「最初」に学ぶ工学関連の1分野であることを念頭に置き,電気工学・電気磁気学を学ぶうえで,「いかに電気(物理)嫌いにならずに興味をもちながら学習・理解できるか」について留意した.
 (2)本書は電気工学・電磁気学の基礎知識を医療領域で応用することを目指す学問の教科書である.日進月歩で進化する医療機器の原理となる電気的知識に関して理解を深め,「高校物理レベル(基礎)から,将来臨床工学技士として活用できるレベル(医療領域での応用)まで到達すること」ができる内容であることを目指した.
 (3)本書で学ぶ学生が「ゆとり教育」出身であり,身の周りに存在する科学的な現象について,十分に「考え,推論し,疑問を投じ,異見を聞き,また考える」という教育経験を受けてきていない場合も少なくない.そうした多くの学生の教育に携わる教員にとっても,本書が「教授しやすい内容・構成である」ように配慮した.
 (4)最後に,医療現場において他医療従事者より臨床工学技士が優位でなければならない点は,「電気的(物理的)センス」をもっていることだと常々感じている.「電気的センス」とは例えば,「電池」は日常でも医療現場でも様々な製品や機器に使われているポピュラーなエネルギー源であるが「使用前後の電池の質量は変わるのか?」…といったような疑問をもつことである.本書には,読者がたくさんの「電気的センス」という抽出をつくることができるような情報も数多く収載した.それらは将来,読者が患者さんの命を預かる臨床工学技士として,各種医療機器や病院電気設備などの理解や安全管理をする際にも参考になるであろう.
 本書は,従来型の電気工学関連の教科書・参考書とは一線を画した内容・構成を目指し,苦労を重ね執筆していただき,編集を行った.そのため,原理や公式の説明だけにとらわれずに「現象を理解させること」を目的として,電気・物理的現象の基礎について高校物理を学んでいない学生にも理解できる工夫(身の周りや医療機器につながる「Tips」の概説や,視覚的素材を取り入れた解説など)を凝らした.また学生が自分でも理解度を確認できるよう,本文中に簡単な演習問題を織り交ぜ,更にステップアップのために各章末にはexerciseを数問用意した.
 臨床工学技士を目指す学生諸君のみならず教育現場の第一線で活躍されている教員の方々におかれても,「臨床に必要な電気的基礎を理解し,センスをもって臨床で応用できる力を養う」手引きとして本書が,臨床工学技士教育向上のために寄与できるものと信じている.
 2008年11月
 戸畑裕志
 中島章夫
 「臨床工学講座」の刊行にあたって
 序
第1章 電気とは
 1 身のまわりの電気現象と電気の学び方
 2 静電気から学ぶ電気現象
 3 電気の正体は?
 4 医療機器に欠かせない電気の役割
第2章 電流と電圧の関係
 1 電流が流れる現象とは
 2 電荷と電流の関係
 3 電圧・電位の関係とその表し方
  ・章末exercise
第3章 直流回路
 1 電気回路とは
 2 オームの法則
 3 抵抗の接続と電圧降下
 4 電気抵抗と物質の抵抗率
 5 合成抵抗(直列・並列接続)
 6 複雑な回路における解法
  1 キルヒホッフの法則
  2 重ねの理
  3 テブナンの定理
 7 抵抗の測定方法
  1 テスタによる測定
  2 電圧・電流計法
 8 未知抵抗の測定(ブリッジ回路)
 9 電圧・電流の測定
  1 直流電圧の測定
  2 直流電流の測定
 10 電池の接続と内部抵抗
  ・章末exercise
第4章 電流の発熱作用と電力
 1 ジュール熱
 2 電流の発熱作用
 3 電力量
 4 電力
 5 電力量と電力の実際
  ・章末exercise
第5章 交流回路
 1 交流と直流
  交流と直流の違いとは
 2 商用交流電源と[100V単相交流]の表し方
  1 商用交流電源とは
  2 商用交流電源の波形
 3 正弦波交流の表し方
  1 変化の速さ(周期,周波数,角速度)
  2 位相,位相差
  3 電圧・電流の大きさ
  4 波高率と波形率
 4 交流の表示方法(ベクトル表示)
  1 ベクトルを使っての表示法
  2 正弦波のベクトル表示
 5 交流に対する素子の特性(抵抗,コンデンサ,コイル)
  1 抵抗のはたらき
  2 コイルのはたらき
  3 コンデンサのはたらき
 6 交流電流を妨げるもの
  1 交流に対する各リアクタンスの性質
  2 インピーダンスとアドミタンス
 7 直列回路
  1 RL直列回路
  2 RC直列回路
  3 RLC直列回路
 8 並列回路
  1 RL並列回路
  2 RC並列回路
  3 RLC並列回路
 9 共振回路と周波数特性
  1 直列共振回路
  2 並列共振回路
 10 フィルタの特性
  1 RC回路の応用
  2 ハイパスフィルタ
  3 ローパスフィルタ
 11 交流の電力
  1 交流の電力の表し方
  2 電力の式の関係(皮相電力,有効電力,無効電力,力率)
   ・章末exercise
第6章 過渡現象
 1 過渡現象とは
 2 時定数とは
 3 CR直列回路
 4 LR直列回路
 5 微分回路と積分回路
   ・章末exercise
付録
 1 電気に必要な数学の基礎
  A 指数と対数
  B 接頭語
  C 三角関数
  D 虚数の取り扱いと複素数
 2 電気・電子に関する単位(物理量)と図記号
  A 単位と文字
  B 図記号
 3 臨床工学技士 国家試験出題基準(医用電気電子工学)
  ・章末exerciseの解答

 索引

Tips CONTENTS
 第1章 電気とは
  マインドマップとは
  イオン
  静電気の大きさ
  静電誘導とは?
  放電とは?
 第2章 電流と電圧の関係
  電流
  アンペア(A)
  クーロン(C)
  管の中の流れについて
 第3章 直流回路
  回路
  ジュール熱
  電子回路と電気回路の違いは?
  ガルヴァーニ電池
  比例とは
  導体・不導体・半導体
  (豆)電球でオームの法則の実験は御法度!?
  単位長さ,単位断面積の「単位」とは?
  クリスマスツリーの電球
  キルヒホッフの第二法則
  電圧計と電流計
  ブリッジ回路の応用例:血圧トランスデューサ(ストレインゲージ)
  電池について
  オキシライド電池
  定電圧源と定電流源
 第4章 電流の発熱作用と電力
  電気メス
  許容電力
 第5章 交流回路
  電気角
  弧度法
  電気工学で使用されるタンス
  記号法
  デシベル表記
 第6章 過渡現象
  アナログテスタによる
  コンデンサ充放電の確認
  ろ波器
  脳波検査の波形