やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

推薦のことば
 「地域医療」にもっとも近い英語は,プライマリ・ヘルス・ケア(プライマリケア)であろう.また,プライマリケアとは,「患者各人が抱える問題の大部分に対応し,患者と継続的な共同関係を築き,家族や地域という枠組みの中で責任をもって診療する臨床医によって提供される,統合された,容易に享受できる医療サービスである」(米国科学アカデミー医学研究所)と定義されている.
 本書はプライマリケアにおける外来診療に対応したマニュアルということができる.すなわち身体の問題を中心に,地域医療におけるあらゆる相談を受けることができるように編纂されている.さらに外来診療は,実診療に加えるに窓口と連携のマネジメントも重要な機能であるといえる.同一施設内の他部門,他施設,他機関との連携も重要な役割であり,実際に他科連携,病診連携,診診連携,病病連携,救急隊との連携,また歯科医師,薬剤師,管理栄養士,介護関連施設との連携などが外来診療に必要になってきたが,その点も十分に配慮されている.
 新たに臨床腫瘍学が加わったが,これはプライマリケア外来で癌化学療法などを行うためのものではない.今日,一般外来はもとより,救急外来においても癌治療中の患者が合併症などのトラブルで受診することが少なくない.その対応のためには癌治療,特に癌化学療法の知識は必要であり,外来診療のために必須のものとなったといえる.
 著者たちは後進の医師達に役立つようにと,1990年『プライマリケアマニュアル』を出版したが,これはプライマリケアにおける外来診療マニュアルといったほうがふさわしく,その意味で新たに『外来医マニュアル』として2005年に出版し,今回はそれを改定したものである.
 医療の現場において何が最も必要かを身をもって経験し,熟知している著者たちによる本マニュアルは,実践ですぐに役に立つこと間違いない.
 ジョンズ・ホプキンス大学医学部の.設者の一人であり,近代内科学の祖といわれたウィリアム・オスラーは,日常の診療において白衣のポケットに小さなメモを常に携えており,思い浮かんだこと,気がついたこと,記憶すべきことなどを記載していたという.本書を利用するにあたって,オスラーのメモ的な役割も持たせて活用してほしいと願う.
 本書が研修医や若い医師諸君の白衣のポケットにあって,日常の診療と研修に役立つこと願いかつ信じ,推薦の言葉とする.
 2010年4月
 京都大学名誉教授,奈良県立医科大学名誉教授(特別顧問)
 吉田 修

第3版の序
 新しい臨床研修制度が2004年から始まり,プライマリケアが重視された初期研修が行われるようになって10年を経ました.重視されたプライマリケアでは,救命救急処置とcommon diseaseの管理が重視されますが,本書は主に外来でのcommon diseaseの管理に関する,現場でも参照できるよう工夫された実践的なマニュアルです.
 本書の姉妹書である『当直医マニュアル』(毎年改訂版発行)が,主に急性疾患の初診を念頭に置いたマニュアルであり,本書と併せて一般外来と救急外来でのminimum requirementを提案した形になっています.初版出版以来の我が国の臨床現場での変化に即応し,第2版で新設した第1部総論編のクリニカルオンコロジーの項が今回はほぼ倍増しています.総合医(家庭医)が悪性腫瘍の化学療法そのものを担当することは多くありませんが,化学療法が入院から外来医療へ移行してきた現状では,それに伴うtrouble managementが一般外来でも求められる局面が増えているからです.さらにCOPDやパーキンソン症候群,CKDなど,診療ガイドラインが改まった項目は,記載を一新しました.
 どのような外来診療スタイルが,我が国の医療で求められるのか,まだまだ議論が必要な状況です.問題点は山積していますが,その最大の問題点は求められるニーズに比べて医療供給体制が不備であることでしょう.3時間待ち3分間診療と言われて久しいわけですが,医療過疎地ではそもそも供給医療機関がなく,都市部であっても患者さんが殺到し,対応する医師・看護師不足は深刻です.
 『外来医マニュアル』は,一般医療機関での外来担当医がその守備範囲として対応すべき症候・疾患に対し,可能な限りエビデンスに基づいた対処法を情報として提供してゆきます.第3版の執筆・改定にあたっては前版と同様に,各分野で昨今矢継ぎ早に策定・改訂が進められている診療ガイドラインの内容を盛り込みました.また執筆者は一般医療機関で総合医,家庭医,プライマリケア医として活躍する医師たちであり,実践ですぐ役立つ内容と自負しています.常時携帯してご活用いただければ幸甚です.
 ご意見・ご批判をいただき,さらに役立つマニュアルへと育てて行ければと祈念しております.どのような外来診療が望まれるのかに対しては,我が国の医療現場の現実に立脚しながら考え,提案してゆきたいと考えます.最後に,出版に尽力頂いた医歯薬出版株式会社に深く感謝いたします.
 2013年6月
 編者一同

『プライマリケアマニュアル』から『外来医マニュアル』への序
 新しい臨床研修制度が始まり,プライマリケアに対する意識が高まっています.プライマリケアは救急救命処置とcommon diseaseの管理の2本柱からなりますが,これらの能力は当直診療と外来診療を通じて飛躍的に高まるとされています.現在の卒後臨床研修においては,病棟での研修が中心となっていますが,先進的な研修病院では,当直や外来の研修にも力を入れています.私たちは,1988年に当直診療や急性疾患診療に対応した『当直医マニュアル』を,1990年に外来診療や慢性疾患診療に対応した『プライマリケアマニュアル』を出版し,以来改訂を重ねてきました.お陰様で多くの読者の支持を得ることができました.ここに感謝の意を表します.当直診療や外来診療に幅広く対応した医学書が少なかった中で,診療科を超えて幅広さを追求できたことと,白衣のポケットに入るコンパクトなサイズであったことが評価されたようです.
 『プライマリケアマニュアル』は外来診療で役立つようにと書かれたものですが,姉妹編『当直医マニュアル』とセットで使用することを想定していましたので,重複を避けるために,急性疾患のいくつかが項目から外されました.当初は,プライマリケアという言葉が新鮮味をもっていたため,プライマリケアの現場における外来診療のためのマニュアルという意味で,『プライマリケアマニュアル』と名づけたのですが,プライマリケアという言葉が多くの人々に使われるようになった現在,この書名と内容がそぐわないものとなってきた感があります.そこで,急性疾患についても外来診療で頻度の高いものは項目に加えるなど,大幅に増項目,増頁(30%強)するとともに,目的をより明確化するために,『外来医マニュアル』の名称で新たに出版することになりました.
 本書は外来診療において遭遇する頻度の高い疾患,病態に対して,診療科を超えて幅広く対応できるマニュアルを目指しました.構成は総論編,症候編,検査・健診編,疾患編,資料編の5部からなっています.臨床研修制度で求められる経験目標を可及的に網羅しました.また,外来診療において遭遇する機会の多い健診結果異常への対応も可能なように工夫しました.執筆者はプライマリケア,総合診療,家庭医療といったフィールドで働く第一線の医師たちです.実践ですぐに役立つ内容に富んだものに仕上がったのではないかと自負しております.常時携帯してご活用頂ければ幸いです.また,ご意見,ご批判を頂き,さらに役立つマニュアルへと育てていければと思っております.
 最後に,推薦の言葉をお書き頂いた吉田修(奈良医大学長)先生,出版にご尽力くださった医歯薬出版株式会社に深く感謝申し上げます.
 2005年9月
 編者一同
 推薦の言葉(吉田 修)
 第3版の序
 『プライマリケアマニュアル』から『外来医マニュアル』への序
第1部 総論編
  外来初診患者診察の心得
  小児診療の心得
  女性診療の心得
  高齢者診療の心得
  精神科への紹介の仕方
  メディカル・インタビュー
   良好な患者-医師関係/患者教育の導入
   受療行動・受療目的と解釈モデル
  インフォームドコンセント
  慢性疾患の管理
  外食メニューのカロリー
  運動療法と運動処方指導
  禁煙指導
   自由診療における禁煙指導について
   保険適応による禁煙治療について
  医療連携―紹介するとき・されるとき
   紹介するとき
   紹介されるとき
  在宅・往診・訪問診療
  要介護者のマネジメント
  介護保険制度
  社会福祉制度・社会資源
   利用を検討すべき制度
   所得補償 他の資源
  クリニカルオンコロジー
  緩和ケア
第2部 症候編
  発熱・不明熱
  全身倦怠感
  過労・疲労
  肥満
  体重減少,食思不振
   摂取エネルギーの不足
   エネルギー需要増加,消耗性疾患,異化亢進/摂取エネルギーの体外への消失
  浮腫
  リンパ節腫脹
  頭痛
  めまい
  失神
  胸痛
  動悸
  呼吸困難・息切れ
  咳・痰
  味覚障害
  悪心・嘔吐
  腹痛
  便通異常
   下痢 便秘
  黄疸
  出血傾向・紫斑
  腰痛
  関節痛
  しびれ
  排尿障害
  性器出血
  不安(恐怖)
  抑うつ
  不眠
  不定愁訴
  メタボリックシンドローム
第3部 検査・健診編
  検査・健診の見方(含・特定健診)
 I.検体検査
  血算(CBC)
  肝機能
  腎機能
  血糖
  脂質(TG,HDL-Ch,LDL-Ch)
  尿酸
  ペプシノゲン
  高ガンマグロブリン血症
  腫瘍マーカー
  尿検査
  便潜血
  細菌学的検査
  感染症に関する各種迅速診断方法
 II.生理機能検査
  血圧
   診察室・外来血圧測定/家庭血圧測定
   24時間自由行動下血圧測定
  心電図
  呼吸機能検査
   スパイロメトリー フローボリューム曲線
 III.画像検査
  胸部単純Xp
  腹部エコー
  心エコー
  上部消化管検査
第4部 疾患編
 I.循環器疾患
  高血圧症
  不整脈
   停止治療が必要な不整脈
  徐脈性不整脈とペースメーカー適応/予防治療が必要な不整脈
   一般外来で扱う機会が多い不整脈
  虚血性心疾患
   狭心症(AP) 陳旧性心筋梗塞(OMI)
  慢性心不全
  弁膜症
   大動脈弁狭窄症(AS)/大動脈弁閉鎖不全症(AR)
   僧帽弁狭窄症(MS)/僧帽弁閉鎖不全症(MR)
  心筋疾患
   心筋症 心筋炎,心膜炎
  胸・腹部大動脈瘤
  末梢動脈疾患(PAD)
 II.呼吸器疾患
  かぜ症候群・急性気管支炎
   かぜ症候群
   急性気管支炎
  市中肺炎
  胸水・胸膜炎
  肺結核(Tb)
  慢性咳嗽(咳喘息・アトピー咳嗽)
  気管支喘息(BA)
   アスピリン喘息(NSAIDs過敏喘息)
  慢性閉塞性肺疾患(COPD)
  びまん性肺疾患の見方
  気管支拡張症
  呼吸不全
   急性呼吸不全
   慢性呼吸不全
  睡眠時無呼吸症候群(SAS)
   閉塞型 中枢型
  肺癌
 III.消化器疾患
  消化器病におけるガイドライン
  胃食道逆流症(GERD)
  食道癌
  消化性潰瘍
  Helicobacter pylori感染症と胃炎
  機能性ディスペプシア
  胃癌
  胃切除後症候群
   早期ダンピング症候群
   後期ダンピング症候群(低血糖症候群)
   慢性輸入脚症候群
   胃切除後の貧血
  急性胃腸炎
  特発性炎症性腸疾患
   潰瘍性大腸炎 Crohn病
  過敏性腸症候群(IBS)
  腸閉塞(イレウス)
  大腸憩室
  大腸ポリープ
  大腸癌
  痔疾患
   痔核 裂肛
   痔瘻・直腸肛門周囲膿瘍
  人工肛門患者の管理
  急性肝炎
  慢性肝炎
   B型慢性肝炎
   C型慢性肝炎
  アルコール性肝障害
  非アルコール性脂肪肝炎
  薬物性肝障害
  肝硬変
  肝癌・肝腫瘍
  胆石症
  胆嚢ポリープ
  胆嚢癌・胆管癌
  慢性膵炎
  膵癌
 IV.神経・精神疾患
  顔面神経麻痺(Bell麻痺)
  パーキンソン病・パーキンソン症候群
  慢性期脳血管障害患者の管理
  認知症
  高齢者の行動障害
  不眠
  身体表現性障害
  不安状態
   パニック障害
  抑うつ状態
  アルコール依存症
 V.内分泌・代謝疾患
  糖尿病(DM)
   食事療法
   運動療法
   薬物療法(経口薬)
   薬物療法(インスリン注射)
   専門医へ紹介したほうがよいもの
   低血糖
  脂質異常症
  痛風・高尿酸血症
  甲状腺機能亢進症
  甲状腺機能低下症
  甲状腺腫
 VI.膠原病
  関節リウマチ
  膠原病
 VII.腎・泌尿器疾患
  CKD(慢性腎臓病)
  糸球体疾患
  ネフローゼ症候群
   続発性腎疾患
  慢性腎不全
  尿路結石
  神経因性膀胱
  前立腺疾患(前立腺肥大症)
   前立腺肥大症
  泌尿器系の癌(膀胱・前立腺・腎)
   膀胱癌/前立腺癌
   腎細胞癌
  性行為感染症(STD)
   淋菌性尿道炎(淋菌感染症)/クラミジア感染症
   梅毒
   単純ヘルペス感染症
   尖圭コンジローム
   トリコモナス症
 VIII.血液疾患
  貧血
   鉄欠乏性貧血
   溶血性貧血
   自己免疫性溶血性貧血
   巨赤芽球性貧血
  赤血球増多症
  白血球減少症
  白血球増多症
  血小板減少症
  特発性血小板減少性紫斑病
  血小板増多症
  汎血球減少症
  HIV感染症・AIDS(後天性免疫不全症候群)
 IX.小児疾患
  発熱
  咳嗽
  胸痛
  腹痛
  下痢
  嘔吐
  よくある相談(ソフトサイン)
   頭がいびつ(偏頭)/後頸部や側頸部のリンパ節がふれる/乳房がふくらむ
   歩き方がおかしい
  発疹・伝染性疾患
   突発性発疹
   水痘
   流行性耳下腺炎(ムンプス)
   手足口病/溶連菌感染症
   伝染性紅斑
   伝染性単核症/麻疹
   風疹
   その他の伝染性疾患の登園・登校の基準
   川崎病(MCLS)
  かぜ症候群
  反復性耳下腺炎,扁桃肥大,アデノイド
   反復性耳下腺炎/扁桃肥大,アデノイド
  クループ症候群(仮性クループ)
  気管支喘息(BA)
  子どもの心臓病
   心雑音を聴取したとき/先天性心疾患児の日常管理
   心臓検診
  川崎病(MCLS)
  起立性調節障害
  熱性痙攣・てんかん
   熱性痙攣 てんかん
  小児の心身症
   夜尿 チック
   指しゃぶり
  血管性紫斑病(アレルギー性紫斑病)
  特発性血小板減少性紫斑病(ITP)
  学校検尿異常者の扱い
  尿路感染症
  溶連菌感染後急性(糸球体)腎炎
  ネフローゼ症候群
  鼠径ヘルニア
  停留精巣ほか
   おしっこがピンクになる/おりもの(帯下)
  皮膚疾患
   おむつかぶれ/水いぼ(伝染性軟属腫)
   とびひ(伝染性膿痂疹)
  アトピー性皮膚炎
  食物アレルギー
  予防接種
  蟯虫症
 X.女性疾患
  妊娠中・授乳中の注意
   薬剤の使用
   放射線検査
   ワクチン接種
   嗜好品/症状出現時の対処
  異所性妊娠(子宮外妊娠)
  腟炎
   細菌性腟症/カンジダ症
   トリコモナス腟炎/萎縮性腟炎
  子宮頸管炎
  骨盤内炎症性疾患(PID)
  機能性月経困難症
  子宮内膜症
  更年期障害
  子宮筋腫
  子宮頸癌
  子宮体癌
  卵巣癌
  乳癌
 XI.運動器疾患
  頸肩腕痛
  腰痛症
   非特異的腰痛 特異的腰痛
  変形性膝関節症(OA)
  骨粗鬆症
 XII.眼・耳鼻咽喉・皮膚疾患
  眼疾患
  緊急を要する眼疾患(必ず眼科医へ紹介すべき疾患)
  眼科医との連携でプライマリケア医が診療してもよい疾患
   眼科医と連携しながら診療していくべき疾患
  難聴
  耳鳴
  鼻アレルギー
  慢性副鼻腔炎
  急性副鼻腔炎
  蕁麻疹
  湿疹
  日焼け・あせも
  日焼け/あせも
  凍瘡(しもやけ)
  熱傷・化学熱傷
  帯状疱疹
  軟部組織感染症
  白癬・カンジダ症
  褥瘡
  皮膚癌
第5部 資料編
  薬物血中濃度
  抗凝固療法
   ワルファリンカリウム
   新規抗凝固薬
  ステロイド〈経口剤〉
  解熱鎮痛薬(非ステロイド性抗炎症薬;NSAIDs)
   酸性解熱鎮痛薬/非酸性解熱鎮痛薬
  皮膚外用剤の使い方
   基剤による使い分け/ステロイド外用剤の使い方
   保湿剤の使い方
   NSAID系外用剤について
  薬剤の副作用
   副作用一般について/薬疹について
  主な薬剤の相互作用
   抗てんかん薬 ワーファリン/抗菌薬
   インスリン/経口血糖降下薬/ジギタリス製剤/降圧薬 テオフィリン
   制酸剤/H2ブロッカー/勃起不全改善薬
  抗菌薬の選択と投与法
   感染症治療における抗菌薬選択の原則/抗菌薬の作用機序
   殺菌的抗菌薬と静菌的抗菌薬/嫌気性菌に感受性のある抗菌薬/小児における抗菌薬選択の注意点
   妊婦,授乳中の患者における抗菌薬の選択/抗菌薬のアレルギー
   抗菌薬と他の薬剤との相互作用/各種感染症の第1選択薬
  主要な抗菌薬(内服薬)
  届け出が必要な感染症

 事項索引
 薬剤索引