2023年版改訂の序
公衆栄養学は,地域で生活しているさまざまな人々のQOL向上に寄与することを目的とし,人々のより良い健康づくりを栄養面から支援するための理論と実践を追究する学問です.本書は“ヘルスプロモーション“の概念を軸に,主観的な生活の満足度を加味した“ウエルネス”の視点に基づく管理栄養士・栄養士の養成を目指しています.
本書は時代に沿った内容となるよう改訂を重ねてきました.この度の改訂では,2013〜2022年に実施された「健康日本21(第二次)」の最終評価を取り入れています.この10年にわたって推進されてきた国民健康づくり運動において,栄養士・管理栄養士が主要な役割を果たす「栄養・食生活」分野では,食行動の「主食・主菜・副菜の組み合わせ」や「野菜・果物の摂取量」については残念ながら「悪化している」と評価されましたが,その一方で,長年,普及啓発が進められてきた食塩摂取量の減少については「改善傾向にある」と評価されました.
人々のQOLや健康の維持・向上には,環境が大きく影響します.現在の社会情勢をみると,新型コロナウイルス感染症は3年を経過しても収束の気配を見せず,また,ロシア軍によるウクライナへの軍事侵攻が始まり,長期間にわたり激しい攻防が繰り広げられていることによって,人々の心の平安が脅かされています.また,それらによる影響や異常気象,円安などが食材価格の高騰をもたらし,多くの食材を食卓に揃えることを困難にしかねない状況にあります.一方,食塩の低減については,国や食品企業が積極的に取り組む動きがみられ,これからも改善が進んで行くことが期待できます.
このテキストを用いて学ばれる皆様が管理栄養士・栄養士として活躍される時代には,どんな景色が見えているのでしょうか.各時代の変化に対応した栄養活動を行い,地域に暮らす人々の健康と幸せに貢献することが管理栄養士・栄養士の役割です.公衆栄養学を学ぶ方々の教科書として,また実務書として,本書が広く活用されることを期待します.
終わりに,本書の改訂に当たり,ご尽力いただいた医歯薬出版株式会社に感謝申し上げます.そして,世界中の人々が平穏に暮らせる日常を1日も早く取り戻せることを心から願っています.
2023年2月吉日
編者一同
初版の序
「公衆栄養」が栄養士養成施設での教科目として採用されてから22年を経過し,いま大きな転換期を迎えようとしている.
それは少子・高齢化社会と環境問題を目前にして,その目的である健康づくりが住民参加型のヘルスプロモーション,さらにはウエルネスへと転換し,それへの地域ぐるみの新しい対応が求められてきたことである.そしてそのためには地域で働く栄養士や栄養ボランティアの意識改革とそれに即した活動が必要で,その体制をどう構築していくかがこれからの大きな課題である.「方法を生み出す栄養士」への期待と併せて,これからの公衆栄養学にそれが求められる.
本書は現在,栄養士養成施設で公衆栄養学を担当している者と管理栄養士として公衆栄養活動に従事している者らによる共著である.上記のような主旨にそってこれからの「公衆栄養」に大きな期待を込めて,各章を分担執筆している.
脱稿したうえで読み返してみると,初めの意図がどれだけ達成されたかと反省される点もある.また専門の立場からは行き届かない点や不備の点も指摘されると思う.これらの点については読者諸賢ならびに同学の士のご批判とご叱正を待ちたい.なお執筆に当たっては多くの著書・論文等を参考にしたが,なかでも巻末に記した文献には負うところが多い.これらの著者各位に深く謝意を表する.
終わりに,本書の出版にご理解を賜り出版の労をとられた医歯薬出版株式会社に深くお礼を申しあげる.
平成8年1月20日
編者 沖増 哲
公衆栄養学は,地域で生活しているさまざまな人々のQOL向上に寄与することを目的とし,人々のより良い健康づくりを栄養面から支援するための理論と実践を追究する学問です.本書は“ヘルスプロモーション“の概念を軸に,主観的な生活の満足度を加味した“ウエルネス”の視点に基づく管理栄養士・栄養士の養成を目指しています.
本書は時代に沿った内容となるよう改訂を重ねてきました.この度の改訂では,2013〜2022年に実施された「健康日本21(第二次)」の最終評価を取り入れています.この10年にわたって推進されてきた国民健康づくり運動において,栄養士・管理栄養士が主要な役割を果たす「栄養・食生活」分野では,食行動の「主食・主菜・副菜の組み合わせ」や「野菜・果物の摂取量」については残念ながら「悪化している」と評価されましたが,その一方で,長年,普及啓発が進められてきた食塩摂取量の減少については「改善傾向にある」と評価されました.
人々のQOLや健康の維持・向上には,環境が大きく影響します.現在の社会情勢をみると,新型コロナウイルス感染症は3年を経過しても収束の気配を見せず,また,ロシア軍によるウクライナへの軍事侵攻が始まり,長期間にわたり激しい攻防が繰り広げられていることによって,人々の心の平安が脅かされています.また,それらによる影響や異常気象,円安などが食材価格の高騰をもたらし,多くの食材を食卓に揃えることを困難にしかねない状況にあります.一方,食塩の低減については,国や食品企業が積極的に取り組む動きがみられ,これからも改善が進んで行くことが期待できます.
このテキストを用いて学ばれる皆様が管理栄養士・栄養士として活躍される時代には,どんな景色が見えているのでしょうか.各時代の変化に対応した栄養活動を行い,地域に暮らす人々の健康と幸せに貢献することが管理栄養士・栄養士の役割です.公衆栄養学を学ぶ方々の教科書として,また実務書として,本書が広く活用されることを期待します.
終わりに,本書の改訂に当たり,ご尽力いただいた医歯薬出版株式会社に感謝申し上げます.そして,世界中の人々が平穏に暮らせる日常を1日も早く取り戻せることを心から願っています.
2023年2月吉日
編者一同
初版の序
「公衆栄養」が栄養士養成施設での教科目として採用されてから22年を経過し,いま大きな転換期を迎えようとしている.
それは少子・高齢化社会と環境問題を目前にして,その目的である健康づくりが住民参加型のヘルスプロモーション,さらにはウエルネスへと転換し,それへの地域ぐるみの新しい対応が求められてきたことである.そしてそのためには地域で働く栄養士や栄養ボランティアの意識改革とそれに即した活動が必要で,その体制をどう構築していくかがこれからの大きな課題である.「方法を生み出す栄養士」への期待と併せて,これからの公衆栄養学にそれが求められる.
本書は現在,栄養士養成施設で公衆栄養学を担当している者と管理栄養士として公衆栄養活動に従事している者らによる共著である.上記のような主旨にそってこれからの「公衆栄養」に大きな期待を込めて,各章を分担執筆している.
脱稿したうえで読み返してみると,初めの意図がどれだけ達成されたかと反省される点もある.また専門の立場からは行き届かない点や不備の点も指摘されると思う.これらの点については読者諸賢ならびに同学の士のご批判とご叱正を待ちたい.なお執筆に当たっては多くの著書・論文等を参考にしたが,なかでも巻末に記した文献には負うところが多い.これらの著者各位に深く謝意を表する.
終わりに,本書の出版にご理解を賜り出版の労をとられた医歯薬出版株式会社に深くお礼を申しあげる.
平成8年1月20日
編者 沖増 哲
2023年版改訂の序
Chapter 1 公衆栄養の概念
(沖増 哲,加島浩子)
1-1.公衆栄養の概念
1)公衆栄養の意義と目的
2)生態系と食料・栄養
3)保健・医療・福祉・介護・教育システムと公衆栄養
4)コミュニティと公衆栄養活動
1-2.公衆栄養活動
1)公衆栄養活動の歴史
2)少子・高齢社会における健康増進
3)疾病予防のための公衆栄養活動
4)ヘルスプロモーションのための公衆栄養活動
5)エンパワメントと公衆栄養活動
6)住民参加
7)ソーシャル・キャピタルの醸成と活用
8)持続可能性を踏まえた公衆栄養活動
9)ウエルネスのための公衆栄養活動
Chapter 2 健康・栄養問題の現状と課題
2-1.人口構成の変遷(森脇弘子,寄谷博子)
1)人口問題
2)少子化
3)高齢化
2-2.健康状態の変化
1)死因別死亡
2)平均寿命,健康寿命
3)生活習慣病の有病率
2-3.食事の変化
1)エネルギー・栄養素摂取量
2)食品群別摂取量
3)料理・食事パターン
2-4.食生活の変化
1)食行動
2)食知識,食態度,食スキル
2-5.食環境の変化
1)食品生産・流通
2)食情報の提供
3)フードバランスシート(食料需給表)
4)食料自給率
2-6.諸外国の健康・栄養問題の現状と課題(須藤紀子)
1)先進諸国
2)開発途上国
3)地域間格差
Chapter 3 栄養政策
3-1.わが国の公衆栄養活動(加島浩子)
1)健康づくり施策と公衆栄養活動の役割
2)公衆栄養活動と組織・人材育成
3-2.公衆栄養関連法規
1)地域保健法
2)健康増進法
3)食育基本法
4)その他の主な法律
3-3.わが国の管理栄養士・栄養士制度
1)栄養士法
2)管理栄養士・栄養士の社会的役割
3)管理栄養士・栄養士制度の沿革
4)管理栄養士・栄養士養成制度
5)職業倫理
3-4.国民健康・栄養調査
1)調査の目的・沿革
2)調査の内容・方法
3-5.実施に関する指針,ツール
1)食生活指針
2)食事バランスガイド
3)食育ガイド
4)健康づくりのための身体活動基準2013
5)健康づくりのための休養指針
6)健康づくりのための睡眠指針
3-6.国の健康増進基本方針と地方計画
1)国の基本方針策定の目的・内容(佐名木由美子)
2)基本方針の推進と地方健康増進計画
3)食育推進基本計画策定の目的・内容(佐名木由美子,武政睦子)
4)食育の推進と地方食育推進計画
3-7.諸外国の健康・栄養政策(須藤紀子)
1)公衆栄養活動に関係する国際的な栄養行政組織
2)公衆栄養関連計画
3)食事摂取基準
4)食生活指針,フードガイド
5)栄養士養成制度
Chapter 4 栄養疫学
(下方浩史)
4-1.栄養疫学の概要
1)栄養疫学の役割
2)公衆栄養活動への応用
4-2.曝露情報としての食事摂取量
1)食物と栄養素
2)食事摂取量の個人内変動と個人間変動
3)日常的(平均的)な食事摂取量
4-3.食事摂取量の測定方法
1)24時間食事思い出し法
2)食事記録法
3)食物摂取頻度調査法とその妥当性・再現性
4)陰膳法とマーケットバスケット法
5)食生活状況調査
6)食事摂取量を反映する身体測定値・生化学的指標
4-4.食事摂取量の評価方法
1)食事調査と食事摂取基準
2)総エネルギー調整栄養素摂取量
3)データの処理と解析
Chapter 5 公衆栄養マネジメント
5-1.公衆栄養マネジメント
1)地域診断(森脇弘子)
2)公衆栄養マネジメントの考え方・重要性(加島浩子)
3)公衆栄養マネジメントの過程
5-2.公衆栄養アセスメント
1)公衆栄養アセスメントの目的と方法
2)食事摂取基準の地域集団への活用
3)量的調査と質的調査の意義
4)観察法と活用
5)質問調査の方法と活用(質問紙法,インタビュー法)
6)既存資料活用の方法と留意点
7)健康・栄養情報の収集と管理
5-3.公衆栄養プログラムの目標設定
1)公衆栄養アセスメント結果からの状況把握
2)改善課題の抽出
3)課題設定の目的と相互の関連
4)改善課題に基づく改善目標の設定
5)目標設定の優先順位
5-4.公衆栄養プログラムの計画,実施,評価
1)地域社会資源の把握と管理
2)運営面・政策面のアセスメント
3)計画策定
4)住民参加
5)プログラムに関連する関係者・機関の役割
6)評価の意義と方法(森脇弘子)
7)評価の実際
Chapter 6 公衆栄養プログラムの展開
6-1.地域特性に対応したプログラムの展開
1)健康づくり(佐名木由美子)
2)食育
3)在宅療養,介護支援と地域包括ケアシステムの構築(中村陽子)
4)健康・食生活の危機管理と食支援(佐名木由美子)
5)地域栄養ケアのためのネットワークづくり
6-2.食環境整備のためのプログラムの展開
1)食物・食情報へのアクセスと食環境整備
2)食品表示法による表示の活用(中村陽子)
3)特別用途食品等の活用
4)健康な食事の普及啓発
6-3.地域集団の特性別プログラムの展開(佐名木由美子)
1)ライフステージ別
2)生活習慣病ハイリスク集団
付表:日本人の食事摂取基準(2020年版)
資料I:関係法規
資料II:公衆栄養の歴史(加島浩子)
索引
Chapter 1 公衆栄養の概念
(沖増 哲,加島浩子)
1-1.公衆栄養の概念
1)公衆栄養の意義と目的
2)生態系と食料・栄養
3)保健・医療・福祉・介護・教育システムと公衆栄養
4)コミュニティと公衆栄養活動
1-2.公衆栄養活動
1)公衆栄養活動の歴史
2)少子・高齢社会における健康増進
3)疾病予防のための公衆栄養活動
4)ヘルスプロモーションのための公衆栄養活動
5)エンパワメントと公衆栄養活動
6)住民参加
7)ソーシャル・キャピタルの醸成と活用
8)持続可能性を踏まえた公衆栄養活動
9)ウエルネスのための公衆栄養活動
Chapter 2 健康・栄養問題の現状と課題
2-1.人口構成の変遷(森脇弘子,寄谷博子)
1)人口問題
2)少子化
3)高齢化
2-2.健康状態の変化
1)死因別死亡
2)平均寿命,健康寿命
3)生活習慣病の有病率
2-3.食事の変化
1)エネルギー・栄養素摂取量
2)食品群別摂取量
3)料理・食事パターン
2-4.食生活の変化
1)食行動
2)食知識,食態度,食スキル
2-5.食環境の変化
1)食品生産・流通
2)食情報の提供
3)フードバランスシート(食料需給表)
4)食料自給率
2-6.諸外国の健康・栄養問題の現状と課題(須藤紀子)
1)先進諸国
2)開発途上国
3)地域間格差
Chapter 3 栄養政策
3-1.わが国の公衆栄養活動(加島浩子)
1)健康づくり施策と公衆栄養活動の役割
2)公衆栄養活動と組織・人材育成
3-2.公衆栄養関連法規
1)地域保健法
2)健康増進法
3)食育基本法
4)その他の主な法律
3-3.わが国の管理栄養士・栄養士制度
1)栄養士法
2)管理栄養士・栄養士の社会的役割
3)管理栄養士・栄養士制度の沿革
4)管理栄養士・栄養士養成制度
5)職業倫理
3-4.国民健康・栄養調査
1)調査の目的・沿革
2)調査の内容・方法
3-5.実施に関する指針,ツール
1)食生活指針
2)食事バランスガイド
3)食育ガイド
4)健康づくりのための身体活動基準2013
5)健康づくりのための休養指針
6)健康づくりのための睡眠指針
3-6.国の健康増進基本方針と地方計画
1)国の基本方針策定の目的・内容(佐名木由美子)
2)基本方針の推進と地方健康増進計画
3)食育推進基本計画策定の目的・内容(佐名木由美子,武政睦子)
4)食育の推進と地方食育推進計画
3-7.諸外国の健康・栄養政策(須藤紀子)
1)公衆栄養活動に関係する国際的な栄養行政組織
2)公衆栄養関連計画
3)食事摂取基準
4)食生活指針,フードガイド
5)栄養士養成制度
Chapter 4 栄養疫学
(下方浩史)
4-1.栄養疫学の概要
1)栄養疫学の役割
2)公衆栄養活動への応用
4-2.曝露情報としての食事摂取量
1)食物と栄養素
2)食事摂取量の個人内変動と個人間変動
3)日常的(平均的)な食事摂取量
4-3.食事摂取量の測定方法
1)24時間食事思い出し法
2)食事記録法
3)食物摂取頻度調査法とその妥当性・再現性
4)陰膳法とマーケットバスケット法
5)食生活状況調査
6)食事摂取量を反映する身体測定値・生化学的指標
4-4.食事摂取量の評価方法
1)食事調査と食事摂取基準
2)総エネルギー調整栄養素摂取量
3)データの処理と解析
Chapter 5 公衆栄養マネジメント
5-1.公衆栄養マネジメント
1)地域診断(森脇弘子)
2)公衆栄養マネジメントの考え方・重要性(加島浩子)
3)公衆栄養マネジメントの過程
5-2.公衆栄養アセスメント
1)公衆栄養アセスメントの目的と方法
2)食事摂取基準の地域集団への活用
3)量的調査と質的調査の意義
4)観察法と活用
5)質問調査の方法と活用(質問紙法,インタビュー法)
6)既存資料活用の方法と留意点
7)健康・栄養情報の収集と管理
5-3.公衆栄養プログラムの目標設定
1)公衆栄養アセスメント結果からの状況把握
2)改善課題の抽出
3)課題設定の目的と相互の関連
4)改善課題に基づく改善目標の設定
5)目標設定の優先順位
5-4.公衆栄養プログラムの計画,実施,評価
1)地域社会資源の把握と管理
2)運営面・政策面のアセスメント
3)計画策定
4)住民参加
5)プログラムに関連する関係者・機関の役割
6)評価の意義と方法(森脇弘子)
7)評価の実際
Chapter 6 公衆栄養プログラムの展開
6-1.地域特性に対応したプログラムの展開
1)健康づくり(佐名木由美子)
2)食育
3)在宅療養,介護支援と地域包括ケアシステムの構築(中村陽子)
4)健康・食生活の危機管理と食支援(佐名木由美子)
5)地域栄養ケアのためのネットワークづくり
6-2.食環境整備のためのプログラムの展開
1)食物・食情報へのアクセスと食環境整備
2)食品表示法による表示の活用(中村陽子)
3)特別用途食品等の活用
4)健康な食事の普及啓発
6-3.地域集団の特性別プログラムの展開(佐名木由美子)
1)ライフステージ別
2)生活習慣病ハイリスク集団
付表:日本人の食事摂取基準(2020年版)
資料I:関係法規
資料II:公衆栄養の歴史(加島浩子)
索引