改訂の序
本書は,特定健診・特定保健指導の第3期実施運用の見直しに合わせて,初版『行動変容をサポートする保健指導バイタルポイント―情報提供・動機づけ支援・積極的支援―』(2007年)を改訂改題したものです.本事業は,40歳から74歳までを対象とする,法定の生活習慣病予防の国家的プロジェクトであり,各保険者は2008年の導入時から,健診と保健指導の実施率向上に向けて工夫と努力を重ねてきました.約10年を経て健診の受診率が50%と増加した一方,保健指導の実施率は18%と低迷しており,普及定着に課題を残しています.保健指導を受けた者では一定の健康効果が確認されていることから,本事業普及へは大きな期待が寄せられています.しかし現場の正直な感想は,「すでにできることはしてきた」「これ以上何ができるか」というものではないでしょうか.
第3期では,それらの声を汲み取ってか,運用の見直しを行い,面接実施,評価時期などのバリエーションを増やし,現場における柔軟な選択や対応の余地を担保しています.しかし「標準的な健診・保健指導プログラム(平成30年度版)」のボリュームは約380頁と第1期の2倍を超え,保健指導実施者に求められる能力や技術は8項目にわたって専門的かつ高度に詳述されています.これを20分程度の面接時間で行うことは神業に近いといえるでしょう.
行動変容支援はつまるところ「相手ができそうなことを一緒に探し,その気になるように励まして,見守る」ことであり,そのために必要なスキルはさほど多くはありません.そして適切な情報と,きっかけとなる刺激や働きかけがあれば,自ら習慣改善を成し遂げられる人は,専門家が思うよりはるかに多いのです.これは筆者が多くの行動変容介入から学んだ要諦です.そこでは「シンプル&ミニマム」が決め手となります.
本書では,これらの知見と現場担当者との意見交換を生かして,指導者にゆとりをもたらす簡便なツール(質問票やワークシートなど)を活用した「シンプル&ミニマム」な保健指導を提案することとしました.本書の購入者は,保健指導実施にかぎり,ツールのPDFファイルをダウンロードして使用することが可能です.
ツールの掲載にあたっては,事業開始前の出版であった初版からすでに周知されたと思われる箇所は省き,“減量“だけでなく対象者の関心の在処に応じた提案ができるよう,“身体活動”“食事““睡眠”“飲酒““禁煙”などのプログラムも盛り込みました.指導者が本事業の原点に立ち返り,「自分にできそうなこと」を新たに開拓するために,本書を役立てていただければ幸いです.
2019年11月
足達淑子
初版の序
平成20年度からの「標準的な健診・保健指導プログラム」では,メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群;以下MetS)に焦点をあてた健診と保健指導が医療保険者に義務づけられた.そこでのキーワードは行動変容・セルフケア推進である.
MetS対策イコール体重コントロールであるから,これはしごく当然の帰結だろう.減量に行動療法が有効不可欠であることは,すでに20年前に評価が定まっている.そして減量や肥満予防には「食べ過ぎずによく動くこと」が大切.これも今や誰でも知っている常識だろう.ところが,「わかってはいても」なかなか実行できないのがわれわれの実際である.
同じように,行動変容に至らしめる保健指導が必要であることを理解できても,指導者が即実行できるわけではない.それは楽器の演奏と同じように,学習と実践によって得られる技能だからである.そして,何より習得したいという指導者自身の意欲が重要であろう.行動療法は,今や多くの領域でエビデンスのある精神(心理)療法と認められている.にもかかわらず,日本では驚くほど学問も応用も遅れている.それには,上記の困難さ以外にもいくつも理由があるだろうが,この普及の遅れは,公衆衛生上の大きな損失に思われる.
今回の特定保健指導は,「医師,保健師,管理栄養士は肥満の行動療法が実施できる」あるいは「一定の研修によって実施できるようになる」という前提で計画されている.肥満の行動療法は標準化が可能であり,体重コントロールは行動療法の入門としては最適なテーマであろう.意欲と関心をもって取り組めば,初心者であってもそれなりの手ごたえをつかむこともできるだろう.そして,それには,基本的な行動療法のものの見方や考え方の基本や行動原理を学習し,実践によって理解を深めるのが早道で望ましい.
そこで,本書では,現場の指導者向けに「情報提供」「動機づけ支援」「積極的支援」という特定保健指導における階層化された指導区分に沿って,行動療法の立場から押さえておきたい必要不可欠なエッセンスを整理することにした.
実際の「標準的プログラム(確定版)」では方法について細かな取り決めがなされているが,本書は,あくまでもプログラムの目的である「行動変容にいたらしめる指導」に必要な内容は何かという視点にたっている.プログラムの解説は本書の目的ではないが,読者の便宜のために,著者の理解する範囲で概略と要点を再構成して資料に加えた.前著「ライフスタイル療法I─生活習慣改善のための行動療法」,「ライフスタイル療法II─肥満の行動療法」も併せて読んでいただければ,さらに理解が深まるはずである.今回の制度改革が行動療法の正しい普及のきっかけになり,本書がそのために少しでも役立つことを期待する.
2007年8月
足達淑子
本書は,特定健診・特定保健指導の第3期実施運用の見直しに合わせて,初版『行動変容をサポートする保健指導バイタルポイント―情報提供・動機づけ支援・積極的支援―』(2007年)を改訂改題したものです.本事業は,40歳から74歳までを対象とする,法定の生活習慣病予防の国家的プロジェクトであり,各保険者は2008年の導入時から,健診と保健指導の実施率向上に向けて工夫と努力を重ねてきました.約10年を経て健診の受診率が50%と増加した一方,保健指導の実施率は18%と低迷しており,普及定着に課題を残しています.保健指導を受けた者では一定の健康効果が確認されていることから,本事業普及へは大きな期待が寄せられています.しかし現場の正直な感想は,「すでにできることはしてきた」「これ以上何ができるか」というものではないでしょうか.
第3期では,それらの声を汲み取ってか,運用の見直しを行い,面接実施,評価時期などのバリエーションを増やし,現場における柔軟な選択や対応の余地を担保しています.しかし「標準的な健診・保健指導プログラム(平成30年度版)」のボリュームは約380頁と第1期の2倍を超え,保健指導実施者に求められる能力や技術は8項目にわたって専門的かつ高度に詳述されています.これを20分程度の面接時間で行うことは神業に近いといえるでしょう.
行動変容支援はつまるところ「相手ができそうなことを一緒に探し,その気になるように励まして,見守る」ことであり,そのために必要なスキルはさほど多くはありません.そして適切な情報と,きっかけとなる刺激や働きかけがあれば,自ら習慣改善を成し遂げられる人は,専門家が思うよりはるかに多いのです.これは筆者が多くの行動変容介入から学んだ要諦です.そこでは「シンプル&ミニマム」が決め手となります.
本書では,これらの知見と現場担当者との意見交換を生かして,指導者にゆとりをもたらす簡便なツール(質問票やワークシートなど)を活用した「シンプル&ミニマム」な保健指導を提案することとしました.本書の購入者は,保健指導実施にかぎり,ツールのPDFファイルをダウンロードして使用することが可能です.
ツールの掲載にあたっては,事業開始前の出版であった初版からすでに周知されたと思われる箇所は省き,“減量“だけでなく対象者の関心の在処に応じた提案ができるよう,“身体活動”“食事““睡眠”“飲酒““禁煙”などのプログラムも盛り込みました.指導者が本事業の原点に立ち返り,「自分にできそうなこと」を新たに開拓するために,本書を役立てていただければ幸いです.
2019年11月
足達淑子
初版の序
平成20年度からの「標準的な健診・保健指導プログラム」では,メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群;以下MetS)に焦点をあてた健診と保健指導が医療保険者に義務づけられた.そこでのキーワードは行動変容・セルフケア推進である.
MetS対策イコール体重コントロールであるから,これはしごく当然の帰結だろう.減量に行動療法が有効不可欠であることは,すでに20年前に評価が定まっている.そして減量や肥満予防には「食べ過ぎずによく動くこと」が大切.これも今や誰でも知っている常識だろう.ところが,「わかってはいても」なかなか実行できないのがわれわれの実際である.
同じように,行動変容に至らしめる保健指導が必要であることを理解できても,指導者が即実行できるわけではない.それは楽器の演奏と同じように,学習と実践によって得られる技能だからである.そして,何より習得したいという指導者自身の意欲が重要であろう.行動療法は,今や多くの領域でエビデンスのある精神(心理)療法と認められている.にもかかわらず,日本では驚くほど学問も応用も遅れている.それには,上記の困難さ以外にもいくつも理由があるだろうが,この普及の遅れは,公衆衛生上の大きな損失に思われる.
今回の特定保健指導は,「医師,保健師,管理栄養士は肥満の行動療法が実施できる」あるいは「一定の研修によって実施できるようになる」という前提で計画されている.肥満の行動療法は標準化が可能であり,体重コントロールは行動療法の入門としては最適なテーマであろう.意欲と関心をもって取り組めば,初心者であってもそれなりの手ごたえをつかむこともできるだろう.そして,それには,基本的な行動療法のものの見方や考え方の基本や行動原理を学習し,実践によって理解を深めるのが早道で望ましい.
そこで,本書では,現場の指導者向けに「情報提供」「動機づけ支援」「積極的支援」という特定保健指導における階層化された指導区分に沿って,行動療法の立場から押さえておきたい必要不可欠なエッセンスを整理することにした.
実際の「標準的プログラム(確定版)」では方法について細かな取り決めがなされているが,本書は,あくまでもプログラムの目的である「行動変容にいたらしめる指導」に必要な内容は何かという視点にたっている.プログラムの解説は本書の目的ではないが,読者の便宜のために,著者の理解する範囲で概略と要点を再構成して資料に加えた.前著「ライフスタイル療法I─生活習慣改善のための行動療法」,「ライフスタイル療法II─肥満の行動療法」も併せて読んでいただければ,さらに理解が深まるはずである.今回の制度改革が行動療法の正しい普及のきっかけになり,本書がそのために少しでも役立つことを期待する.
2007年8月
足達淑子
改訂の序
初版の序
質問票,ワークシートのダウンロードについて
Part I─ワークシートを活用した 保健指導・行動変容支援のすすめ
1─ゆとりある保健指導に役立つワークシート
♯「初回面談」の案内文(例)
♯ライフスタイル質問票(1)
♯ライフスタイル質問票(2)
♯ワークシート(1)減量編
♯ワークシート(2)身体活動編
♯ワークシート(3)食事編
♯ワークシート(4)睡眠編
♯飲酒についての質問票
♯ワークシート(5)飲酒編
♯タバコについての質問票
♯ワークシート(6)禁煙編
2─シンプル&ミニマムな保健指導の進め方―3つの提案
3─シンプル&ミニマムな保健指導を支えるMyエビデンス
Part II─ゆとりある 保健指導・行動変容支援の実際
Step1 基本ポイント
1─特定健診・特定保健指導―これまでの成果と今後の課題は
2─特定健診・特定保健指導―第3期の変更点のポイントと狙いは
3─行動変容にいたる指導の要点とは
4─指導者の悩みと陥りやすい思考のわなとは
5─指導を受ける人はどんなふうに思っているか
6─習慣が変わるのはどんなときか
7─行動変容に必要なアセスメントとはどういうことか
8─健康行動が起きるのはどんなときか
9─指導の際,意識しておくべき行動の原理とは
10─自分の指導が相手に与える影響をどう理解するか
11─情報提供,動機付け支援,積極的支援を行動モデルで理解するとどうなるか
Step2 情報提供
1─メタボリックシンドロームで押さえておきたい情報提供のエッセンスは
2─必要な知識をどう絞りこむか
3─興味を持ち,注目してもらうためには
4─わかりやすくするためのポイントは
5─今より多く動くためにできそうなことは
6─減量のための食事指導で欠かせないことは
7─休養・睡眠はどうして大切か
Step3 動機付け支援
1─動機付け支援の要点は
2─短時間で相手の心を開くには
3─相手の準備性をどのようにキャッチするか,そのための質問は
4─実行可能な目標行動をたてるには
5─やる気のない人にどうするか
6─さしあたり困らない,健康のイメージがあいまいな人には
7─面倒だからできそうもない,忙しすぎると考えている人には
8─以前にも努力したけれど,効果がなかったという人には
Step4 積極的支援
1─積極的支援の初回面接で,動機付け支援に加える要素は
2─今後の計画について理解と納得を得るには
3─目標行動を確実に実行させるには
4─目標行動が実施できたかどうかを確認するにはどの時期が適切か
5─導入期としての目安はどの程度か
6─記録が嫌という人にはどうするか
7─達成感を実感させるには
8─がんばりすぎる人にはどうするか
9─たったこれだけと,がっかりする人には
10─くじけそうな場面への対処法は
11─電話やメールのタイミングはどうつかむか
12─その場ではやる気があるというが,実行にいたらない人には
索引
初版の序
質問票,ワークシートのダウンロードについて
Part I─ワークシートを活用した 保健指導・行動変容支援のすすめ
1─ゆとりある保健指導に役立つワークシート
♯「初回面談」の案内文(例)
♯ライフスタイル質問票(1)
♯ライフスタイル質問票(2)
♯ワークシート(1)減量編
♯ワークシート(2)身体活動編
♯ワークシート(3)食事編
♯ワークシート(4)睡眠編
♯飲酒についての質問票
♯ワークシート(5)飲酒編
♯タバコについての質問票
♯ワークシート(6)禁煙編
2─シンプル&ミニマムな保健指導の進め方―3つの提案
3─シンプル&ミニマムな保健指導を支えるMyエビデンス
Part II─ゆとりある 保健指導・行動変容支援の実際
Step1 基本ポイント
1─特定健診・特定保健指導―これまでの成果と今後の課題は
2─特定健診・特定保健指導―第3期の変更点のポイントと狙いは
3─行動変容にいたる指導の要点とは
4─指導者の悩みと陥りやすい思考のわなとは
5─指導を受ける人はどんなふうに思っているか
6─習慣が変わるのはどんなときか
7─行動変容に必要なアセスメントとはどういうことか
8─健康行動が起きるのはどんなときか
9─指導の際,意識しておくべき行動の原理とは
10─自分の指導が相手に与える影響をどう理解するか
11─情報提供,動機付け支援,積極的支援を行動モデルで理解するとどうなるか
Step2 情報提供
1─メタボリックシンドロームで押さえておきたい情報提供のエッセンスは
2─必要な知識をどう絞りこむか
3─興味を持ち,注目してもらうためには
4─わかりやすくするためのポイントは
5─今より多く動くためにできそうなことは
6─減量のための食事指導で欠かせないことは
7─休養・睡眠はどうして大切か
Step3 動機付け支援
1─動機付け支援の要点は
2─短時間で相手の心を開くには
3─相手の準備性をどのようにキャッチするか,そのための質問は
4─実行可能な目標行動をたてるには
5─やる気のない人にどうするか
6─さしあたり困らない,健康のイメージがあいまいな人には
7─面倒だからできそうもない,忙しすぎると考えている人には
8─以前にも努力したけれど,効果がなかったという人には
Step4 積極的支援
1─積極的支援の初回面接で,動機付け支援に加える要素は
2─今後の計画について理解と納得を得るには
3─目標行動を確実に実行させるには
4─目標行動が実施できたかどうかを確認するにはどの時期が適切か
5─導入期としての目安はどの程度か
6─記録が嫌という人にはどうするか
7─達成感を実感させるには
8─がんばりすぎる人にはどうするか
9─たったこれだけと,がっかりする人には
10─くじけそうな場面への対処法は
11─電話やメールのタイミングはどうつかむか
12─その場ではやる気があるというが,実行にいたらない人には
索引