やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

まえがき
 超高齢社会を迎えたわが国は,今後75 歳以上の年齢層しか人口が増えないと予測されている.とんでもない世の中を迎えつつある.これは歴史的にもいまだかつてどこの国も経験したことがない世界である.医療の対象者は明らかに高齢化し,今後社会保障制度をはじめ,医療の在り方自体の変換が求められているところである.また「治す医療」には当てはまらない対象者が増え,「支える医療」「寄り添う医療」への転換も必要であり,医療により完治できず,慢性疾患を抱えながら,また障害を抱えながら生活する対象者もさらに増えてくることが予想される.
 2000 年に介護保険制度が導入され,それ以降要介護者の数は増え続け現在630 万に手が届くに至っている.今後も人口の高齢化はさらに進行し,要介護高齢者はさらに増加することが予測され,このままでは介護保険制度の維持も危惧されているところである.今後,少しでも要介護に至らない方策を考える必要があり,それが達成できなければわが国の医療・介護保険制度自体が崩壊する.人口の高齢化により,疾病によらない要介護状態に至る対象者が増加することはある程度やむをえない.しかし,要介護に至るのを少しでも遅くすることがきわめて重要である.
 要介護に至る原因は,前期高齢者では脳血管障害によるものが多いが,実は後期高齢者,とくに80 歳以上の高齢者の要介護に至る原因は,脳血管障害による割合はむしろ低く,「認知症」「転倒・骨折」「高齢による衰弱(フレイル)」が主な原因となる.このなかで,「転倒・骨折」「フレイル」は本書のテーマであるサルコペニアに密接に関連している.今後このサルコペニアをいかに察知し,素早く介入するかはわが国にとって大変重要なテーマとなる.
 本書初版「栄養・運動で予防するサルコペニア」は2013年の2月に発行されたもので,いままで多くの方々にご愛読いただいたと聞いている.しかし,その間サルコペニアに関しては世界的にも研究進展し,臨床的にもその重要性が浸透するようになった.さらにわが国においては日本サルコペニア・フレイル学会も立ち上がり,その学会を通じて昨年には「サルコペニア診療ガイドライン2017年度版」も発行された.そのこともあり,今回ガイドラインに即した内容に全面改訂することになった.
 本書は武庫川女子大学の雨海照祥教授と共同で企画したものであり,多くの先生方のご協力のもと,オリジナルの原稿を参考に改訂させていただいた.お忙しい時間を割いて本書の執筆にあたっていただいた先生方,また編集の実務を担当いただいた医歯薬出版株式会社の方々に深謝いたします.
 最後に,本書が高齢者医療にかかわる方々のお役にたち,サルコペニアの理解,また治療にいささかなりとも貢献できることを期待している.
 2018年5月 編者を代表して
 葛谷雅文
 まえがき(葛谷雅文)
Part 1 サルコペニアとは
 サルコペニアの定義(葛谷雅文)
 サルコペニアの成因
  1)加齢性サルコペニア(雨海照祥・長谷川万莉)
  2)二次性サルコペニア(杉本 研・楽木宏実)
 サルコペニアとフレイル─臨床上の重要性(荒井秀典)
Part 2 わが国におけるサルコペニアの診断と実態
 日本人の骨格筋指数(DXA)(真田樹義)
 日本人の骨格筋指数(BIA)(谷本芳美)
 日本人における診断(幸 篤武・安藤富士子・下方浩史)
Part 3 サルコペニアの早期発見・治療
 病院─急性期病院(若林秀隆)
 病院─回復期リハビリテーション病棟(吉村芳弘)
 高齢者施設・療養病棟(吉田貞夫)
 在宅(佐竹昭介)
 Topics がん患者におけるカヘキシアとサルコペニア(土師誠二)
 Topics サルコペニアと摂食・嚥下障害(國枝顕二郎・藤島一郎)
Part 4 サルコペニック肥満とその考え方
 代謝・栄養との関連(荒木 厚)
 診断法・頻度とその臨床的意義(伊賀瀬道也)
Part 5 サルコペニアの栄養療法
 たんぱく質・アミノ酸(雨海照祥・武澤明子・松本和美)
 ビタミン(下方浩史・安藤富士子)
 脂肪酸,食品パターン,ミネラル(雨海照祥・都能綾子・宮田紘世)
Part 6 サルコペニアの運動療法
 サルコペニアの運動療法(島田裕之)
Part 7 その他の介入法
 複合介入(金 憲経)
 ホルモン(小川純人)
 グレリン(十枝内厚次・中里雅光)

 索引