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まえがき フレイル 2014
 65歳以上高齢者の割合が全国民のほぼ1/4に到達しているこの国は,少子化と相まってなお高齢化率は上昇し,さらには今後75歳以上の人口しか増えないことが予測されている超高齢社会に突入している.今後この国がどのように持続可能な超高齢社会を構築していくかは,後に続く先進国の注目を浴びるところである.
 2000年に導入された介護保険制度はさまざまな問題は指摘されてはいるものの,高齢社会から超高齢社会にいたる過程で重要な役割を果たしてきたのは間違いない.しかし,想像はされていたものの,要介護高齢者数は導入時の倍以上の数に達し,今後後期高齢者の数はさらに増えることを考えると,今後この制度の維持に関しても危惧されているところである.
 今まで要介護状態の原因とされる身体機能障害の要因は,脳血管障害を中心とした疾病を中心に考えられてきた.しかし,わが国のように平均寿命が男性80歳,女性が87歳に到達するような国では,要介護状態に至る要因は,これらの疾病以外に,とくに後期高齢者,85歳以上の超高齢者では前期高齢者と明らかに相違を認め,「高齢による衰弱」や「転倒・骨折」「認知症」などの要因が増加する.わが国では後期高齢者数の増加という人口構造の変化にともない,明らかに医療対象者や予防医療のターゲットに関してのパラダイムシフトが起こっている.今後は疾病予防だけではなく,疾病以外の要介護にいたる原因である「高齢による衰弱」の予防を重要視する必要がある.
 「高齢による衰弱」は,現在老年医学で一般的に使用されているfrailty(フレイルティ)の定義と類似したものであり,後期高齢者の要介護状態にいたる要因の最重要因子である.今後超高齢社会を持続可能な社会にするには,要介護状態にいたる時期を少しでも遅らせ,健康寿命を延伸させることを考える必要があり,それを実現するには,疾病予防以上にfrailty予防の認識がきわめて重要であることは間違いない.
 本書では,frailtyを種々の面からとらえ,その要因,関連疾患,生活習慣,介護予防との関連などをそれぞれの分野から専門家に解説していただいた.本書がfrailtyの理解につながり,さらには今後の介護予防の啓蒙につながる書籍となることを期待するものである.
 なお,frailtyの日本語訳としては「虚弱」が長らく使用されてきたが,日本老年医学会フレイルワーキンググループ(荒井秀典委員長)では今後「フレイル」という呼称を使用することが決められたこともあり,本書においては英語表記が必要なとき以外はできるだけ「フレイル」を使用していただくように各執筆者にお願いしたことを申し添えておく.
 編者を代表して
 2014年6月 葛谷雅文
 まえがき(葛谷雅文)

Part 1 総論
 フレイルとは-その概念と歴史(葛谷雅文)
 フレイルの定義(雨海照祥・林田美香子)
 フレイルとサルコペニア(荒井秀典)
 フレイルと老年症候群(神ア恒一)
  COLUMNフレイルとサルコペニア,カヘキシアとの関係(雨海照祥・宮本恵里)
Part 2 フレイルと栄養
 フレイルと低栄養(佐竹昭介)
 フレイルとサルコペニック・オベシティ(杉本 研)
 フレイル栄養学:たんぱく質(雨海照祥・一丸智美)
 フレイルとビタミンD(細井孝之)
  COLUMNフレイル予防と管理栄養士の役割(雨海照祥・大西泉澄)
Part 3 フレイルと疾患
 フレイルと認知症(精神心理的側面)(梅垣宏行)
 フレイルとうつ(服部英幸)
 フレイルと心血管疾患(野村和至)
 フレイルと嚥下障害(國枝顕二郎・藤島一郎)
 フレイルと運動器疾患(原田 敦)
 フレイルとCOPD(千田一嘉)
  COLUMNフレイルと薬剤(内田享弘・原口珠実)
 フレイルの性差とホルモン(小川純人)
 身体活動とフレイル(鈴木隆雄・島田裕之)
 フレイルでとくに注目すべき身体機能(山田 実)
Part 4 フレイルと高齢社会・福祉施策
 介護予防とフレイル(鳥羽研二)
 社会的フレイル(西真理子・新開省二)

 索引