やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

巻頭言
 わが国では,中国古語「医食同源」という思想が通常の食生活に深く根付いている.「機能性食品」という言葉は,広辞苑によれば「栄養以外の何らかの生理作用をあらわす機能をもつ食品の総称」であり,もともとわが国で使われはじめたという.それが欧米では「functional food」と訳され,すでに学会等で一般的に使われており,それにともない関連演題,製品もうなぎ昇りに増えている.わが国ではほとんど毎日のように新聞や雑誌広告にみられるように「健康食品」「特別用途食品」「特定保健用食品」「病者用食品」など多くの関連用語が使われ,製品も正に玉石混淆という感じである.しかしながら関連食品のなかには明らかに食品機能性を持ち,医用ないし食生活改善に役立つものもあることは事実であることから「機能性食品医用」を学会の名称とした,『日本機能性食品医用学会』を設立した.
 医用食品の分類ならびに用途を明らかにし,「機能性食品」の医用普及を推進することが,この日本機能性食品医用学会の設立目的のひとつにある.
 本書はその趣旨に基づき,現在商品化されているあるいは開発が進んでいる「機能性食品」を領域別に取り上げ,それらの食品のもつ機能,期待される医用効果などについて記載し,総覧することを意図して企画された.
 本書では,厚生労働省の保健機能食品の枠にとらわれず,「医学的用途のある機能性食品」をできるだけ多く紹介したいと考えている.
 本書が本学会員のみならず機能性食品に関心をお持ちの医師をはじめとした医療関係者,栄養学関係の研究者など,多くの人々のお役に立つことを願っている.
 2012年12月
 小越章平

序文
 「Functional food」は,「機能性食品」の訳語である.機能性食品は,文部省科学研究費補助金により1984-86年度特定研究「食品機能の統計的解析と展開」(主任研究者藤巻正生先生)に端を発し,この研究班が機能性食品という新しい言葉を提唱したことによる.さらに,1993年Nature誌に,班研究の実質的な推進者であった荒井綜一先生の名前とともにfunctional foodの語が使われたことが,その後世界中に機能性食品の用語が拡がるきっかけとなった.
 この用語の使われ方に,「日本は食と医の境界に踏み込む」と記載したのはNature誌であったが,機能性食品の医用となると,このNature誌の記述をさらに二歩も三歩も踏み越えた感がなくもない.ただ,医学と栄養の間に身をおいていると,食品の機能性を基盤にした栄養が,個体の健康維持,病後の回復にいかに重要か示す場面に遭遇することが多い.実際,小児期から成人期に至る感染症が減少したことは,抗生物質の出現のみならず栄養素欠乏の改善の面も多い.新生児・乳児死亡率の減少も,たんに衛生面の改善に加えて,知らず知らずのうちに食品の機能性を加味した栄養面の是正が関与している.
 しかし,すでに発症した疾病に対して食品の機能性が効果を示すと思っている人は少ない.ワラをもつかむつもりで,機能性食品を服用しているがん患者でも,100%信用している人はほとんどいないのが現実である.ただ,医療の現場に密着している医師のなかには,術後や病後の回復の違いに,出されている食事に目を向けている方が少なくないのも事実である.術後の回復が,術後食の違いによって左右されることから生まれたさまざまな補液・栄養製剤のように,食品の機能性は,医用でもまだまだ無限の可能性があると思って生まれたのが本書である.
 機能性食品の医用は,やっとスタート地点についたところで,したがってエビデンスのある食品の機能性は少ないのが現状である.少ないエビデンスをもとに疾患別と栄養素別に分類してまとめてみた.まだまだ不十分な誹りは免れないが,いろいろな面からのご指摘を頂ければ幸甚である.
 本書が機能性食品に関心をお持ちの方,医療分野で機能性食品を含めて栄養面に興味のある方々のお役に立つことを願っている.
 2012年12月
 近藤和雄
 巻頭言(小越章平)……V
 序文 近藤和雄)……VII
Part1 疾患別分類
 1 循環器系―血圧(大久保具明・久代登志男)
 2 消化器系―消化管(安藤 朗・馬場忠雄)
 3 消化器系―肝胆膵(宮川八平・西川陽子)
 4 腎・尿路系疾患(芝崎敏昭)
 5 代謝系―糖尿病(才田恵美,杉原規恵,潮田かおり,板垣萌花,中山志織,福田詩織,宇都宮一典)
 6 代謝系―肥満(須見遼子・前田和久・伊藤壽記)
 7 代謝系―脂質(谷 真理子・近藤和雄)
 8 代謝系―尿酸(谷 真理子・近藤和雄
 9 骨・関節疾患(長岡 功)
 10 歯科疾患(雫石 聰)
 11 補液・経腸栄養(田中芳明)
 12 術後栄養管理(櫻井洋一)
 13 スポーツ(生活習慣病予防の立場から)(高波嘉一)
Part2 栄養素別分類
 1 ペプチド・アミノ酸―たんぱく質,ペプチド,アミノ酸を用いた脂質代謝を改善する特定保健用食品および機能性食品(長岡 利)
 2 脂質異常症の予防・治療に効果のある機能性食品(田耕基)
 3 食物繊維(辻 啓介)
 4 ビタミンAとカロテノイド(小川弘子・四童子好廣)
 5 ビタミンB(大森玲子)
 6 微量元素(湧上 聖)
 7 抗酸化物質(五十嵐喜治)
 8 核酸・ヌクレオプロテイン(小野 香・山本 茂・小越章平)
 9 プロバイオティクス(山城雄一郎)

 索引