やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

監修の序
 国民皆保険制度と人間ドックなどの健診の普及により,1982年以来わが国は世界一の長寿国となっているが,反面,急速に進む高齢社会に直面し,いかに医療福祉の財源を捻出するかが大きな問題となっている.誰もが病気になってから治療するよりも,病気にならない方策が効果的だと考える.つまり,ボヤで消すよりも火事を出さない心掛けが大切であるように,不適切な生活習慣を改めるという一次予防の徹底が最も有効な経済政策となるはずである.
 2008年4月,国を挙げて疾病予防・健康増進を推進する特定健診・特定保健指導がスタートした.健診施設も保険者もまだ慣らし運転の状態で本格的稼働とは言えないが,疾病予防に重点を置いた国の施策であり,生活習慣改善で医療費の膨張を防いで国家財政を安定させようと考えている.折しもアメリカのCDC(Center for Disease Control & Prevention)が,増え続ける肥満が引き金となる生活習慣病が医療費を増大させ,2008年には1,470億ドル(日本円で14兆円以上),総医療費の9.1%を消費していると警告を発した.日本もアメリカほどではないが,肥満が着実に増え続けている.特定健診・特定保健指導は,生活習慣病の第一関門としての肥満の危険性を一般の人たちに認識させて,生活習慣改善による「一次予防」を重視する戦略を採ったのである.
 日本人間ドック学会では,2007年7月より,厚生労働省健康局生活習慣病対策室と保健指導室との連携のもとに,特定保健指導を担当する実践者の養成研修を開始した.すでに13回の研修を重ね,2009年7月7日現在で医師1,536名,保健師1,058名および管理栄養士1,037名の合計3,631名を「人間ドック健診情報管理指導士(通称・人間ドックアドバイザー)」として認定した.日本人間ドック学会では特定健診・特定保健指導対策委員会(委員長・橋英孝東海大学医学部教授)を中心としたチームの努力により毎回素晴らしい講師の協力を得ることができ,極めて充実した研修が行われている.2009年5月からは更新研修としてのブラッシュアップ研修会も始まり,これまでの研修内容をまとめた書籍を出版して欲しいとの要望が多かったことから,本書を医歯薬出版から発行することになった.
 昨年秋に立ち上げられた日本医師会を中心とする8医学団体の特定健診・特定保健指導評価協議会でも,日本人間ドック学会による人間ドック健診施設機能評価のノウハウなどがツールとして取り上げられようとしている.それには施設や検査機器の整備ばかりではなく,受診者本位の理念,医療従事者の研修を重要視することになる.
 本書は橋教授が中心となってまとめた労作であるが,必ずや特定健診・特定保健指導を実践するうえで広く活用され,担当者の座右の書として重用される書のひとつになると信じている.
 2009年7月
 日本人間ドック学会理事長
 奈良昌治

この本の使いかた
 日本人間ドック学会では,国の定める「保健指導のための一定の研修」として人間ドック健診情報管理指導士研修会を2007年度から開催し,2009年7月7日現在で3,631名の医師,保健師,管理栄養士を認定しています.2009年度からは更新研修としてのブラッシュアップ研修会もスタートしました.本書は,同研修会で使用したテキストやスライドのなかから特定健診・特定保健指導の運用に必要な項目をピックアップし,2008年度から実際に運用するなかで見えてきた課題と対策,さらに最新情報を加えてまとめ直したものです.可能な限り図と表にまとめることで特定健診・特定保健指導のことがよくわかるような工夫をしています.
 本書は基礎編,実践編(1・2),応用編(1・2)から成りますが,各編の最初から最後までを通して読むという方法に加えて,目次の図表一覧から必要なものを探して読むというガイドブック的な使いかたをお勧めします.
 基礎編は「特定健康診査・特定保健指導の基礎的事項」で,厚生労働省からの資料を元に構成しています.主に「標準的な健診・保健指導プログラム(確定版)」,「特定健康診査・特定保健指導の円滑な実施に向けた手引き(バージョン1.8)」,「特定健康診査・特定保健指導に関するQ&A集(2009年7月)」の内容をわかりやすくまとめています.実践編1は「特定保健指導の初回面接から最終評価まで」で,特定保健指導の初回面接における支援のポイントと特定保健指導における積極的支援の事例を紹介しています.この部分は他のパートと異なり,最初から最後まで読み通すことをお勧めします.実践編2は「保健指導を円滑に行うための工夫」として,特定健診保健指導フリーソフトの紹介,独自に開発した保健指導シートを用いた特定保健指導,積極的支援における運動支援時の注意,保健指導継続のための工夫,などで構成しています.応用編1は「コンピュータを利用した特定保健指導支援システム」として,特定保健指導の業務を管理するソフトウェアの紹介を通じて,特定保健指導を実施するうえで必要な事項を整理しました.応用編2は「特定健康診査・特定保健指導の課題」として,これまでに明らかになった問題点や課題をまとめました.
 この本を使用する対象としては,実際に特定保健指導を行う実践者,特定保健事業を統括する管理者の両者を想定しています.人間ドック健診情報管理指導士研修会のサブテキストとしての利用はもちろん,特定保健指導を行う現場では必携の書です.追記しやすいように余白を多めに取ってありますので,オリジナルの特定保健指導ハンドブックを作り上げていただければ幸いです.
 2009年7月
 日本人間ドック学会
 特定健診・特定保健指導対策委員会委員長
 橋英孝
 監修の序
 この本の使いかた

I-基礎編:特定健康診査・特定保健指導の基礎的事項
 1 内臓脂肪型肥満に着目した生活習慣病予防のための健診・保健指導
  I-1 内臓脂肪型肥満に着目した生活習慣病予防のための健診・保健指導の基本的な考え方
 2 老人保健法の基本健康診査から高齢者医療確保法の特定健康診査へ
  I-2 市町村による各種健診(検診)
  I-3 がん検診の対象と受診間隔
  I-4 基本健康診査と特定健康診査の項目比較
 3 保険者による健診・保健指導
  I-5 保険者による健診・保健指導の実施
  I-6 特定健康診査及び特定保健指導の実施に関する基準の一部を改正する省令
  I-7 参酌基準と評価指標
  I-8 目標値の参酌標準(特定健康診査等実施計画)
 4 高齢者医療制度との関係
  I-9 高齢者医療制度(長寿医療制度)
 5 特定健康診査から特定保健指導へ
  I-10 特定健康診査から特定保健指導への流れ
 6 特定健康診査
  I-11 特定健康診査の検査項目と判定基準
  I-12 メタボリックシンドロームの診断基準
  I-13 特定健康診査受診結果通知表
  I-14 情報提供の内容
 7 特定保健指導
  I-15 保健指導のプロセスと必要な保健指導技術
  I-16 メタボリックシンドローム診断と特定保健指導階層化
  I-17 特定保健指導の内容
  I-18 積極的支援における支援形態のポイント数
  I-19 特定保健指導の実施者
  I-20 特定保健指導を実施できる者とその範囲
 8 保健指導の評価
  I-21 保健指導の評価についての分類
  I-22 保健指導の評価項目と評価方法
II-実践編1:特定保健指導の初回面接から最終評価まで
 1 特定保健指導の初回面接における支援のポイント
  II-1 保健指導のプロセスに沿った効果的な保健指導技術の展開例
  II-2 減量プランシート
 2 特定保健指導における積極的支援の事例
  II-3 特定健士郎さんの検査結果
  II-4 標準的な質問票への回答
  II-5 行動記録日誌
  II-6 行動記録のまとめ(1カ月後の中間評価時)
  II-7 行動記録のまとめ(6カ月後の最終評価時)
III-実践編2:保健指導を円滑に行うための工夫
 1 特定健診保健指導フリーソフトと記入シート
  III-1 特定健診データファイルソフトのメインメニュー
  III-2 受診者情報記入シート
  III-3 特定健康診査記入シート1
  III-4 特定健康診査記入シート2
  III-5 特定健康診査受診結果通知表
  III-6 特定健康診査受診結果通知表(3年度分)
  III-7 特定健康診査の請求処理管理・標準フォーマット出力画面
  III-8 保健指導データファイルソフトのメインメニュー
  III-9 利用者情報記入シート
  III-10 初回面接記入シート
  III-11 継続的な支援記入シート
  III-12 実績評価記入シート
  III-13 保健指導実績情報登録画面
  III-14 特定保健指導支援計画及び実施報告書
  III-15 特定保健指導の請求処理管理・標準フォーマット出力画面
 2 保健指導シートを用いた特定保健指導
  III-16 保健指導スケジュールシート
  III-17 情報記入シート
  III-18 初回面接支援シート
  III-19 初回面接記入シート
  III-20 支援A記入シート
  III-21 支援A・B記入シート
  III-22 最終評価記入シート
  III-23 保健指導スケジュールシート記入例
  III-24 保健指導スケジュール例
  III-25 初回面接支援シート記入例
  III-26 身体活動・運動支援を安全に行うためのチェックシート
  III-27 身体活動強度と準備体操
  III-28 菓子・嗜好飲料のエネルギー量
  III-29 アルコールのエネルギー量
  III-30 情報記入シート記入例
  III-31 初回面接記入シート記入例
  III-32 a行動記録表(3カ月記録用)
  III-32 b行動記録表(2週間記録用)
  III-33 中間評価の記入例
  III-34 支援Aの記入例
  III-35 支援Bの記入例
  III-36 最終評価記入シート記入例
 3 運動支援時の注意
  III-37 身体活動・運動支援を安全に行うためのフローチャート
  III-38 積極的支援対象者における身体活動・運動支援の対象
  III-39 スポーツ参加・禁止基準
 4 保健指導継続のための工夫
  III-40 特定保健指導で感じる問題点
  III-41 自己決定に必要な行動変容理論
  III-42 知識-行動-健康モデルに必要なプラスアルファ
  III-43 継続に向けてのPDCAサイクル
IV-応用編1:コンピュータを利用した特定保健指導支援システム
 1 特定保健指導業務を支援するシステムが必要な理由
 2 システムの概要
  IV-1 健診システムとの関係
  IV-2 初回面接時のフロー
  IV-3 初回面接画面
  IV-4 継続支援時のフロー
  IV-5 継続支援画面
  IV-6 事務処理
V-応用編2:特定健康診査・特定保健指導の課題
 1 アウトソーシング先としての特定健康診査および特定保健指導機関
  V-1 経営主体別の機関数
 2 特定保健指導実践者のための研修
  V-2 2009年度人間ドック健診情報管理指導士研修プログラム
 3 医療機関での特定保健指導の現状
  V-3 特定保健指導プログラムの例
  V-4 市町村国保の特定健康診査・特定保健指導実施率
 4 特定健康診査の課題
  V-5 特定健康診査対象年齢でのCKD頻度と内訳
  V-6 2007年度人口でのCKD頻度と特定健康診査で発見される割合の試算
  V-7 CKDの診療連携システム案
  V-8 各種法律による健診項目の比較
  V-9 2012年度動機付け支援および積極的支援対象者推計数
 5 特定保健指導の課題
  V-10 メタボリックシンドローム診断別の階層化割合
  V-11 検査項目別の異常割合
  V-12 生活習慣病の発症・重症化予防の流れと保健指導
 6 特定健康診査・特定保健指導の実施に関するアンケート調査
  V-13 保健指導スタッフの人数と研修修了者数
  V-14 特定健康診査の項目に追加すべきだと思う検査項目
  V-15 特定健康診査の基本項目から削除すべきだと思う検査項目
  V-16 特定保健指導の担当者
  V-17 保健指導の実施日および実施時間帯
 7 特定健康診査・特定保健指導に係る自己負担分の医療費控除
  V-18 医療費控除のために満たすべき3学会の診断基準
  V-19 確定申告の医療費控除に必要な領収書
  V-20 特定保健指導の領収書に記載されているべき事項
  V-21 医療費控除を受けられる者

 コラム 特定保健指導の終了者