やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

ガイドライン刊行によせて

 栄養サポートチーム,いわゆるNST(Nutritional Support Team)の必要性がいわれて久しい.20世紀最高の治療手段といわれてきたものに,抗生物質とならんで近年の臨床栄養法がある.1968年の高カロリー輸液法の臨床応用に端を発し,成分栄養法の導入を機に,手術前後,重症患者の管理には不可欠の方法として現在では定着した.しかし,これほどの臨床効果が認識されながら医学部での講義は少なく,関連学会会員のみの努力で一般に普及させてきたといえよう.確かに手技的にはそれほどむずかしいものではなく,臨床医の一般的治療手段として卒後教育の一環として訓練を受ける程度でしかなかったといえる.
 一方,諸外国では米国静脈経腸栄養学会(ASPEN),欧州静脈経腸栄養学会(ESPEN)をはじめ,先進国では学会主導でほとんどの大きな病院ではNSTが結成されていた.わが国のこの領域における研究会は1970年完全静脈栄養研究会の発足,数年遅れて成分栄養研究会の発足と対応は早かった.しかし,システム化は欧米に遅れをとり,日本静脈経腸栄養学会(JSPEN)の1999年の発展的再出発に合わせ,NSTの結成の機運が急に高まった.
 とくに栄養士をはじめとするコ・メディカルからのうねりは大きく,台所栄養士(kitchen dietician)に飽き足らない人達から,医師,看護婦,栄養士,薬剤師がいっしょになって病棟での栄養管理に積極的に参加したいという希望がわきあがった.確かに医師だけによる栄養管理は入院患者が主な対象であり,看護婦も他の業務を抱えての栄養管理には限界がある.
 薬剤師も調剤に追われ,興味はあっても病棟薬剤師としての業務まではなかなか手が回らなかったであろう.
 現在の大きな機運の盛り上がりを,学会としてもこのチャンスを逃したらまた10年は遅れるという認識の下に,全国大中規模病院におけるNST結成の国民運動を展開を主導するにいたった.JSPENでは若手を中心にNSTプロジェクト実行委員会を結成して,その中心的委員であり,実際にNST結成の経験をもつ,わが国のパイオニアである東口高志キャプテンの作成したガイドラインを,ほとんどそのまま採用して,主にコ・メディカルの人達の教育用テキストとしてまとめた.
 最後になったが,大塚製薬株式会社の全面的バックアップがなければ,このプロジェクトは成り立たないであろう.テキスト作成ならびにプロジェクト全国展開でのおしみない協力に深甚なる謝意を表したい.
 日本静脈経腸栄養学会理事長(高知医科大学副学長)
 小越章平

はじめに

 Nutrition Support Team(NST:栄養サポートチーム)は,1970年米国のシカゴで誕生した.当時,代謝・栄養学の専門家といわれる医師,栄養士,薬剤師らがシカゴに集結して,専門的な栄養管理チームの必要性を唱えたのがはじまりであった.これが1980年代には全米に広がり,さらに他の欧米諸国へと急激に伝播していった.このNSTの爆発的な発展の背景には,中心静脈栄養によるカテーテル敗血症などの致死的合併症の予防と,経腸栄養に比べて膨大な医療費が必要とされる中心静脈栄養の乱用を制御する必要が生じたことがあげられる.すなわち,欧米ではNSTという専属チーム(構成メンバー:医師,看護婦,栄養士,薬剤師,事務員など総勢4〜10名)を新たに設立しても,それによって得られるメリットが医療の質のうえでもまた経済的な面でもはっきりと認識されており,現在,米国および英国では半数以上の総合病院にNSTが存在する.また,あらゆる医療行為や治療法はこのNSTという基本的医療体制を基盤として成り立っている.
 NSTの主な役割をまとめると,(1)栄養管理が必要か否かの判定→栄養評価の施行,(2)適切な栄養管理がなされているかのチェック,(3)各症例にもっともふさわしい栄養管理法の指導・提言,(4)栄養管理にともなう合併症の予防・早期発見・治療,(5)栄養管理上の疑問に答える(コンサルテーション),(6)資材・素材のむだを削減,(7)早期退院や社会復帰を助け,QOLを向上,(8)新しい知識の啓発などである.欧米諸国では,ここで示したNSTの有用性は医療を行ううえでの常識となっており,最近では南米やわが国を除くアジアの国々でもその必要性が認められ,NSTは世界中の医療施設で確固たる地位を確立しつつある.
 これに対してわが国では,NSTの存在さえ認知されておらず,また栄養管理に対する認識もきわめて低いといわざるをえない.そこで,日本静脈経腸栄養学会では,栄養療法士認定制度,TNT(Total Nutrition Therapy)プロジェクトに次ぐ,第三の企画としてこのNSTプロジェクトを発足した.このNSTプロジェクトは,全国の医療従事者にNSTの有用性や重要性を啓発するとともに,より多くの医療施設にNSTを学会指導のもと設立・運営することを目的としている.また,このNSTプロジェクト活動の成績をもとに,NST稼動による診療報酬点数加算を厚生労働省へ申請することとしている.
 本ガイドラインは,このNSTプロジェクトの基本となる各医療施設におけるNST設立のための指針である.その内容は,(1)栄養管理の重要性,(2)NST設立に際してのわが国における問題点・対策,(3)勉強会(Metabolic Club)の設立・運営,(4)NST設立の基本システム(専属チームではなく,わが国の医療情勢を考慮して兼任システムであるPotluck Party Method:PPMを採用),(5)NSTの機構図・メンバー構成,(6)NSTの活動内容(栄養回診,Lunchtime Meeting,コンサルテーションの3本柱),(7)NST活動の実際と効果,(8)将来のNST活動の方向性,(9)他のチーム医療との関係,(10)NST活動の心構え・理念などを,鈴鹿中央総合病院と尾鷲総合病院における実際のNSTの立ち上げから運営・活動状況とその効果をそのままモデルとして取り上げた.実際に各施設でNSTを設立するには必ずしもこの2施設と同様のかたちで開設することはむずかしいかもしれないが,病院全体で統一した栄養管理方針を打ち立てることができ,その評価・反省も病院全体に反映されることから,NSTはあくまで院長直属あるいは中央部門として認知された全科型を基本とすることが望ましい.わが国の医療事情を考慮すると,欧米と同様にNSTという“専属チーム“を新たに設置することは困難と考えられ,“Potluck Party Method(PPM)”のような兼任チーム型NSTの設立を学会として推奨することとした.
 また,NST活動を推進していくとその活動範囲は無限に広がっていくことに気づくことと思う.NSTは,医療の基本である栄養管理法を医療施設内外に確立するチームである.適正栄養管理は,(1)感染対策,(2)リスク・マネージメント,(3)クリニカルパス,(4)在宅医療,(5)褥創ケア,(6)病院経営,(7)地域医療などの施設内外活動,においてもその基本となるべきものであり,いずれの分野・企画においてもNSTの活発な働きが要求される.したがって,NST活動は現在だけでなく将来にわたってますますその重要性が増すものと思われる.
 一方,わが国の医療費が30兆円を超え,加えて医療過誤の話題が多くのマスメディアに取り上げられて医療の質の低下や基本的な医療知識・技術の欠如が指摘されている.そのようななか,医療の合理化の推進と無秩序な医療経費の拡大に対する歯止めとして,診療報酬の疾患別定額払い制度(DRG/PPS)の導入が準備されている.医療の質の向上や維持,医療経費削減を進めるためには本制度の導入はやむをえないかもしれないが,現在の医療情勢ではこの導入によって21世紀初頭は波乱の幕開けとなることは必至である.したがって,本制度の導入以前に病院の在り方を根本的に考え直すことが推奨される.すなわち,医療の質を向上しつつ合理化をはかり,かつ医療経費を削減することが21世紀を生き延びる唯一の道である.
 そこで,このDRG/PPS導入にともなう対策のひとつとしてNST設立があげられる.NSTはクリニカルパスでは対応できない症例に対してもその効果を発揮できる重要なツールと考えられる.このガイドラインで示すように,NSTの活動はまさしく医療の質の向上と合理化,さらに医療費の削減をいちどに可能にするものである.したがって,全国の医療施設で一斉にNSTを運営することによって得られるメリットは膨大である.ぜひとも本プロジェクトに参加してひとつでも多くの施設にNSTが設立され,多くの医療人の方がたの知恵と力で,21世紀にふさわしい新しい医療体制が確立されることを心より期待したい.
 日本静脈経腸栄養学会NSTプロジェクト実行委員(尾鷲総合病院外科・NCC)
 東口高志
ガイドライン刊行によせて
はじめに

NSTプロジェクトの目的・目標
NSTプロジェクトの位置づけ
NSTプロジェクトモデル
新世紀型NSTの構築とその効果
新世紀に求められるもの
栄養管理はすべての医療の基本
わが国の栄養管理の現状
たんぱく質・エネルギー低栄養状態の出現状況
栄養管理はなぜ必要?(1)
栄養管理はなぜ必要?(2)
米国の病院内栄養管理改革(1)
米国の病院内栄養管理改革(2)
栄養管理の悩みとNST
NSTとは
NSTの対象症例
NSTの役割
欧米におけるNSTの現状
日本のNST事情
わが国においてNST運営は困難?
最大の敵「関心の欠如」をどうするか!
関心のみではNST運営は困難
わが国におけるNSTのかたち
Potluck Party Method(PPM)(1)
Potluck Party Method(PPM)(2)
PPM-Iを用いた新世紀型NST構築の試み
PPM-Iを用いた新世紀型NST構築の試み-鈴鹿中央総合病院のNST-
NSTの構成メンバー
NSTメンバーの役割(1)
NSTメンバーの役割(2)
NSTメンバーの役割(3)
NSTメンバーの役割(4)
NSTメンバーの役割(5)
NST業務の三本柱
NST Round(回診)(1)
NST Round(回診)(2)
Lunchtime Meeting
NST業務の実際
NSTウィークリースケジュール
NST活動とその成果
NST活動成果(1)
栄養評価の指標
基礎エネルギー消費量と投与カロリー(1)
基礎エネルギー消費量と投与カロリー(2)
NSTカルテ
NST活動成果(2)
輸液ルートの是正と院内統一
CVカテーテル挿入部細菌培養陽性率
カテーテル敗血症発生率の推移
栄養管理法の選択
中カロリー輸液の啓発
NST活動成果(3)
経腸栄養剤投与容器内細菌数の経時的変化
投与容器消毒法別の検出細菌数
中心静脈栄養・経腸栄養の推移
病院食の改善
NST飲茶
NST活動成果(4)
GFO療法(院内感染撲滅の試み)
NST活動成果(5)
NSTの治療目標
NST嚥下・摂食障害チームの設立
NST在宅医療部門の設立
NSTによる在宅栄養管理システム
NST外来の設立
NST外来における入院時栄養管理Triage
新世紀対応型NSTへの脱皮
新世紀のNST
NST活動成果(6)
NSTの病院全体に及ぼす効果
栄養管理上の問題件数の推移
カテーテル敗血症発生率の推移
中心静脈栄養・経腸栄養の推移
平均在院日数の推移
院内表彰
NSTの成果
NSTのすすめ
栄養療法士認定制度
NSTの経済効果(1)
NSTの経済効果(2)
NSTの経済効果(3)
NSTの経済効果(4)
NSTの経済効果(まとめ)
診断群分類別診療報酬包括化
残された2つの道
患者様/地域住民を守りかつ病院が生き残るためには
クリニカルパス+NSTパッケージ
PPM-IIを用いた新世紀型NST構築の試み-尾鷲総合病院NST
新世紀の医療体制
NCC活動成果
NST+CP Complex(NCC)の導入にともなう院内改革図
NSTのSpirit
医療人であれ
NSTメンバーへ
新世紀型NS