やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
 歯科医学の主要な目標は,生涯にわたって食物を咀嚼する機能を保全し,ヒトが健康に生活することに貢献することである.したがって,その咀嚼機能を支える咬合は,歯学のあらゆる分野にわたる共通かつ重要なテーマである.
 それ故,咬合に関する本は数多くある.しかし,依然として咬合はわかりにくい,咬合論は複雑だといった意見が多く聞かれる.
 本書は,「臨床に役立つ咬合学の変遷」と題して,月刊「歯科技工」に2003年1月から12月まで連載した原稿を元に,加筆修正を加えたものである.書籍化にあたっては,多岐にわたる咬合学のさまざまな側面を,初学者でも簡単に理解できることを旨とした.連載では理論的な解説が中心であったため,臨床編を新たに加えた.
 「理論編」として掲げた前半7章においては,時代とともに変遷してきた咬合学を,歯科臨床あるいは歯学研究の発展を交えながら整理し,概観し,創世記の咬合学から現代の咬合学までをわかりやすく解説した.また,咬合と顎関節症との関係やエヴィデンスベースドメディシン(EBM)の考え方からみた咬合についても触れた.
 このように整理して咬合学を概観すると,「わかりにくい」などといわれる咬合学のさまざまな面が体系的に理解できるはずである.また,何かよそ事のように思えていたEBMも,身近な存在に感じるのではないだろうか.
 本書の後半は,「臨床編」として,咬合にまつわる臨床術式のファンダメンタルについて解説した.前半の「理論編」と併せ読んでいただくことで,咬合学の論理的背景と臨床の実際的側面の両面を理解することができることと思う.
 本書が,咬合学を再度,整理してみようと思う臨床医,およびこれから臨床に旅立つ初学者の両者にとって,道標となれば幸いである.
 2005年2月
 古谷野 潔
 (九州大学大学院 歯学研究院 口腔機能修復学講座 咀嚼機能再建学)
●理論編
 第1章 咬合論の創成期から現代までの咬合学の変遷
  1 咬合学の創成期
  2 全部床義歯の咬合学
  3 有歯顎の咬合論(ナソロジーの提唱,発展)
  4 下顎運動計測の時代
  5 咬合と顎関節症に関する考え方の変遷
  6 ナソロジー以後の咬合論
 第2章 下顎運動の研究と咬合器の発展
  1 下顎運動論と咬合器
  2 咬合器の種類と役割
  3 下顎運動計測の進歩と咬合器
  4 フェイスボウの登場
  5 側方顆路調節性咬合器,そして全調節性咬合器の出現
  6 スチュアート咬合器以後の咬合器
  7 咬合器の分類
  8 フェイスボウ
 第3章 全部床義歯の咬合
  1 ギージーの軸学説と咬合小面学説
  2 ハノウH型咬合器
  3 ハノウの咬合の五辺形
  4 リンガライズドオクルージョン――ペイン法
  5 リンガライズドオクルージョン――パウンド法
  6 リンガライズドオクルージョン――その他の考え方
  7 無咬頭人工歯を用いた咬合様式
 第4章 有歯顎の咬合理論の展開
  1 ナソロジーの出現
  2 ナソロジー(Gnathology)とは?
  3 ヒンジアキシス理論
  4 中心位
  5 バランスドオクルージョン
  6 ナソロジーを支える理論の変遷
  7 バランスドオクルージョンから犬歯誘導へ
  8 グループファンクションとその後の変遷
  9 中心位の変遷
 第5章 咬合と顎関節症,EBM
  1 顎関節症とは
  2 顎関節症の概念の変遷
  3 単一病因説から多因子説へ
  4 科学的な研究を探る
  5 EBMとは?
  6 咬合と顎関節症に関する研究
 第6章 咬合と力の問題
  1 ブラキシズムの定義
  2 ブラキシズムの発生頻度
  3 ブラキシズムと顎関節症症状,頭痛
  4 ブラキシズムと咬耗
  5 Dental Compression Syndrome
  6 ブラキシズムの診断
  7 ブラキシズムの治療
  8 ブラキサーに与える咬合
  9 その他の力の問題
 第7章 咬合論の発展
  1 近年の咬合論の変遷
  2 EBMと咬合論の発展
  3 咬合の検査
  4 補綴装置に与えるべき咬合
  5 顎関節症症状がある場合の咬合
  6 インプラントの咬合
●臨床編
 第1章 顎機能の検査
 第2章 咬合の検査
 第3章 診断用模型の作製
 第4章 中心位記録とフェイスボウトランスファー
 第5章 プロビジョナルレストレーション
 第6章 オクルーザルスプリント

Topics
 アイヒナーの分類と宮地の咬合三角
 下顎運動と筋との関係

参考文献
さくいん