やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 道を歩いているときに,風に漂う金木犀の香りから昔住んでいた街が頭に浮かんだり,すれ違った人の香水の匂いから特定の人を思い出したり――このように,香りで何かの記憶が蘇るという経験がある方は多いと思います.実は嗅覚は人間の五感のなかで唯一,大脳辺縁系と直接つながっている感覚であり,先述した“記憶”をはじめ,感情や自律神経,免疫系などのさまざまな機能と深い結びつきがあります.この「香り」を活用する療法が「アロマセラピー」です.
 アロマセラピーが日本に紹介されて30年以上が経ち,現在ではもはや「アロマ」という言葉がつく商品はめずらしいものではなくなりました.また,アロマセラピーは多くの医学研究で着目されており,歯科領域においても,臨床でアロマセラピーが応用されはじめてから10年以上が経過しました.これまでの臨床研究から,アロマセラピーによって歯科治療中の痛みを緩和できること,患者さんへの指導に活かせること,口腔周囲筋の緊張を和らげ,口腔機能の回復・向上に効果があること,そしてそのメカニズムと活用法についてもわかってきています.
 本書では,アロマセラピーが患者さんのQOLを向上させ,口腔はもちろん,心身のケアのサポートとしても効果を発揮することを示すとともに,さまざまな歯科臨床で応用する際の具体的な方法や注意点についてご紹介します.ぜひ現場でご活用いただき,また日々の診療などで疲れやストレスが溜まっている皆さんご自身にもお試しいただけますと幸いです.
 本書の刊行に際して,快く撮影のご同意・ご協力をいただいた皆さま方に心から感謝申し上げます.今後,デンタルアロマセラピーの知識と技術,そして“心”が広まることが,口腔症状に悩まされている方々の手助けになり,また身体面や心理面のバランスを取り戻すきっかけになることを祈念しています.
 2017年8月
 中村真理・柿木保明(日本デンタルアロマセラピー協会)
 はじめに
Chapter 1 アロマセラピーを知ろう
 アロマセラピーとは? 一般的な精油の活用法 アロマセラピーの作用を知ろう
 精油から作られた薬 補完代替医療としてのアロマセラピー
 世界各国のアロマセラピー アロマセラピーの歴史
Chapter 2 精油を知ろう
 精油とは? 代表的な精油の製造法 精油の薬理作用 精油の作用経路
 精油の代表的な毒性 精油の購入時の注意点(精油の評価法) 基材を知ろう
 精油を安全に使用するための注意事項 アロマセラピーに関連する法律の知識
Chapter 3 歯科臨床で使える代表的な精油
 ラベンダー ゼラニウム メリッサ(レモンバーム) プチグレン
 イランイラン ネロリ ジュニパーベリー フランキンセンス(オリバナム)
 カモミール・ジャーマン ジャスミン ローズオットー ローズマリー
 レモン グレープフルーツ オレンジスイート ペパーミント
 精油の香りをかいで,ブレンディングを考えてみよう!
Chapter 4 やってみよう!臨床で使えるデンタルアロマセラピー
 歯科領域におけるアロマセラピーの活用と効果 診療室における実践のポイント
 待合室の試香コーナー 診療室での芳香浴 芳香・消臭・抗菌スプレー
 口腔周囲筋のマッサージクリーム 治療中のアイマスク(吸入シート)
Chapter 5 正しい知識をもって行うために〜デンタルアロマセラピーの実際
 歯科領域におけるアロマセラピーの研究報告 アロマセラピーが活用された歯科症例
 歯科診療室でトラブルを起こさないために〜よくあるQ&A
Chapter 6 自分で試そう!患者さんに伝えよう!
 ストレスケアとアロマセラピーの活用 適切なセルフケア法を知ろう!
 陰陽学説とアロマセラピー 五行学説とは?
 五行学説から精油のオーダーメイド処方をしてみよう!
 セルフケアで使えるアロマクラフト

 Column
  アロマセラピーによる健康被害
  歯科心身症とストレス反応
  認知症に対するアロマセラピーの活用
  漢方薬とアロマセラピー

 付録
  歯科臨床で使いやすい精油の効能一覧表
  精油の香りのイメージング

 参考文献
 さくいん