やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
 超高齢社会の現在,多くの患者さんが,高血圧,狭心症,慢性閉塞性肺疾患,糖尿病などの一般的な疾患ばかりでなく,脳梗塞,肝硬変,腎不全,さらには認知症など,さまざまな疾患や病態を抱えながら歯科を受診されます.どのような患者さんに対しても質の高い医療を安心・安全な環境で提供するためには,診療に携わる医療チームの構成員が全員で患者さんの口と全身の状態についての情報を共有し,適切に役割を分担しながら診療にあたっていくシステムづくりを進めていくことが大切です.歯科衛生士は歯科医師とともに歯科医療の中核をなす職種ですから,歯科衛生士の皆さんが患者さんの全身の状態にも目を向け,歯科医師と情報を共有することは,医療安全の面からもきわめて重要です.
 そのような観点から,2008 年5 月に『デンタルハイジーン』誌の別冊として『もっと知りたい! 病気とくすりハンドブック』を上梓しました.歯科衛生士が,(1)いろいろな情報を駆使して患者さんの全身のことをより詳しく知る,(2)わかった病名から患者さんの常用薬や歯科治療時の注意点を知る,(3)患者さんに歯科衛生士として医療行為を行う際に何に注意しなければいけないかを知る,の3 点をコンセプトとしてまとめたこの別冊は,幸いにして大変な好評を得ることができ,別冊としては異例の7 年間も増刷を繰り返すことになりました.このような経緯から,この度,新版として書籍化する運びとなった次第です.
 書籍化にあたっては,新たに東京歯科大学口腔病態外科学講座の片倉 朗教授を編者にお迎えし,口腔内に現れる全身的な疾患や服用薬の影響,また口腔粘膜疾患について「口絵」にご紹介いただきました.そのほかにも,消化器疾患や臓器移植後の移植片対宿主病(GVHD),サルコペニアなど,最近注目されているいくつかの話題を追加しました.もとより,すべての疾患を網羅することはできませんが,この書籍がきっかけとなって,ほかの専門的な書籍を読むことに対する垣根がすこしでも低くなればよいと考えています.
 本書が,どのような患者さんに対しても質の高い医療を安心・安全な環境で提供できる“ワンランク上の歯科衛生士”になるための参考となれば,編者としてこれに過ぎる喜びはありません.
 2015 年8 月
 東京歯科大学歯科麻酔学講座
 一戸達也
 序文
 口絵:口腔内に現れるくすり・全身疾患の影響
第1章 安心・安全な歯科医療のための病歴聴取
 (1)病歴聴取とは何か?
 (2)病歴聴取の方法とポイント
第2章 バイタルサインからわかる患者さんの身体の状態
 バイタルサインの測り方と読み解き方
第3章 診療情報提供書で知る患者さんのさまざまな情報
 診療情報提供書の読み方を知ろう
 Column 「診療情報提供書と照会状の上手な活用〜歯科衛生士の立場から」
第4章 病気別・くすりと歯科診療上の注意点
 〈循環器疾患〉
  (1)高血圧症 /(2)虚血性心疾患 /(3)心不全 /(4)弁膜症 /
  (5)心筋症 /(6)先天性心疾患 /(7)感染性心内膜炎 /(8)不整脈
 〈呼吸器疾患〉
  (1)気管支喘息 /(2)慢性閉塞性肺疾患(COPD) /(3)間質性肺炎 /
  (4)肺塞栓症 /(5)慢性呼吸不全
 〈代謝・内分泌疾患〉
  (1)糖尿病 /(2)甲状腺機能障害
 〈自己免疫疾患〉
  (1)関節リウマチ /(2)ベーチェット病 /(3)シェーグレン症候群 /
  (4)天疱瘡 /(5)全身性エリテマトーデス
 〈血液疾患〉
  (1)貧血 /(2)白血病 /(3)出血性素因
 〈消化器疾患〉
  (1)消化性潰瘍 /(2)逆流性食道炎
 〈肝疾患〉
  (1)ウイルス性肝炎 /(2)肝硬変
 〈腎疾患〉
  (1)ネフローゼ症侯群 /(2)腎不全
 〈神経・筋疾患〉
  (1)脳梗塞 /(2)脳出血・くも膜下出血 /(3)パーキンソン病 /
  (4)脊髄小脳変性症 /(5)進行性筋ジストロフィー /(6)重症筋無力症
 〈精神疾患〉
  (1)統合失調症 /(2)大うつ病性障害 /(3)神経認知障害(認知症) /
  (4)てんかん
 〈そのほか〉
  (1)HIV感染症 /(2)妊娠 /(3)アレルギー /(4)移植片対宿主病(GVHD)
 Column 「 サルコペニアの基礎的な知識と歯科・歯科衛生士臨床とのかかわり」
 Column 「ターミナル・ケアにおける歯科衛生士の役割」
第5章 これだけは知っておきたい救急蘇生
 (1)心肺蘇生(CPR)とAED
 (2)急変時・窒息時の対応
 (3)全身的偶発症への対応

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