やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

緒言
 開業後,日常臨床で生じる疑問を解くために留学を決意.1986年,補綴専門医を目指して向かった先は米国.しかし,そこで当時フィラデルフィアのペンシルベニア大学で歯学部長をされていたLindhe教授とNyman教授による,いわゆる“スカンジナビアン学派”の歯周治療学(当時話題になりはじめていたGTR法など)の講義により,いまでいう“Evidence based dentistry”の洗礼を受けた.またその直後に,ロチェスターのメイヨクリニックでブローネマルクインプラントの講義を受け,これからは“エビデンスに基づいた歯周治療“と“インプラント”の時代であることを痛感した.その後,古巣のスウェーデン・イエテボリ大学に歯学部長として戻られたLindhe教授の誘いを受け,1988年,歯周組織再生療法とインプラントのメッカである同大学歯学部歯周病科大学院に留学.歯周病医としての専門教育を終了後,同大学院で講義を受け持ちながら抗菌薬の臨床応用の研究を継続し,1993年同大学で学位(Odont Licentiate)を取得した.
 当たり前のこと(エビデンスに基づいた歯科治療)を正確に行うことの難しさ,そしてその大切さを教えこまれた,5年にわたる留学で学んだエビデンスに基づく歯科医療を実践するために,東京・日比谷にスウェーデン・デンタル・センター(SDC,医療法人社団北欧会 弘岡歯科医院)を開設した.それと時期を同じくして弘岡秀明歯周病学コース「科学に基づいた歯周治療の実践,スカンジナビア歯周病学の日常臨床への応用」を開始し,これまでに400人ほどの歯科医師,歯科衛生士とともに勉強してきた.この研修会は,もともと歯科医師を対象に開始したものであったが,長期の,かつ決して安くない研修会にもかかわらず,しばらくすると歯科衛生士も参加するようになった.
 元来,歯周治療は,歯科医師と歯科衛生士(もろん患者も含めてだが)のコラボレーションのうえに成り立つ.多くの歯科医師・歯科衛生士とともに学んでくるなかで,エビデンスを理解,共有する必要性を痛感し,コースで使う教科書をまとめようと考えた.それが,2005年から『デンタルハイジーン』に連載された「Dr.弘岡に訊く 歯科衛生士のための臨床的ペリオ講座」である.そこで,コースのなかで紹介している400余りの論文のなかから最重要と考えられるエビデンスを,SDCにおける臨床例を提示しながら紹介した.そして,この連載の一部をまとめ,2010年に発刊したのが,本書の前編にあたる『Dr.弘岡に訊く臨床的ペリオ講座1』である.
 おもに歯科衛生士が担う非外科処置を中心とした歯周治療について解説し,幸いなことに多くの歯科医師,歯科衛生士の好評を得た.つづく,本書では,特に歯科医師が直接携わる歯周外科処置,歯周組織再生療法,特に歯周病患者におけるインプラント治療,さらに,歯周治療の成功の鍵となる歯科衛生士が担うSupportive Periodontal Therapy(SPT)について,症例を提示しながら治療方法選択のもととなる科学的エビデンスを詳説した.
 Vol.1および2の通読により,現在のスカンジナビア歯周病学の概要を知ることができ,また日常臨床において生じる疑問の回答を各章に求めることも容易にできるように工夫してある.歯科医師,歯科衛生士を含めたコデンタルスタッフの勉強会のテキストとして使えるよう図版を多用した.さらに,Vol.1,2で紹介している長期症例への理解をより深めるために,実際の手技の一部を収録したDVDを付録として添付しているので,ぜひご覧いただきたい.
 歯科治療はあくまで患者主体であるべきで,それと同時に治療方法は科学的エビデンスに基づいて選択されるべきである.医療に従事している歯科医師ならびに歯科衛生士には,科学的な論文や日常臨床から,いま何がわかっていて,何がまだ解明されていないか,継続的に勉強していく姿勢が求められている.本書では,そのゴールドスタンダードというべき臨床的な研究論文を“Evidence”として紹介しているので,興味のある方はぜひ引用した原著にあたって理解を深めてもらいたい.
 今回も弘岡秀明歯周病学コースインストラクターの中原達郎氏,SDC主任歯科衛生士の加藤典氏の力をお借りした.また,医歯薬出版株式会社の編集者,水島健二郎,山崎聡子 両氏の協力なしには本書はできあがらなかったことを記しておく.
 本書が,多くの患者さんの口腔内の健康改善ならびに維持につながることが著者の意とするところである.

 Equinox Resort“Dormy House”
 3567 Main Street Rout 7A,Manchester Village,VT,USAにて
 弘岡秀明
1章 初期治療と歯周外科処置 成功の要件
 1.非外科処置の限界
  感染除去のためのSRP 深い歯周ポケット 根分岐部病変 歯周組織再生療法 抗菌薬療法 SRPの次には
  Evidence 1-1 SRPによって歯周組織は再生するか?
  Evidence 1-2 再発した歯周炎患者への抗菌薬投与の効果は?
 2.歯周外科処置の種類と前提
  歯周外科処置の対象 再評価 歯周外科処置の目的 代表的な歯周外科処置の種類 歯周外科処置の禁忌
  Evidence 1-3 歯周外科処置の成功の要件は?
 3.非外科処置と外科処置の選択基準
  残ってしまった感染 クリティカルプロービングデプス 非外科処置,外科処置の選択基準
  Evidence 1-4 初診時のPPDと術後のクリニカルアタッチメントレベルの関係は?
 4.非外科処置と外科処置の効果
  術式の違いと治療成績 SRPと歯周外科処置の長期評価 単根歯と複根歯における効果の違い
  Evidence 1-5 非外科処置・外科処置の違いによって歯周組織の治癒に差はあるか?
 5.根分岐部病変への外科処置
  根分岐部病変の治療と選択基準 治療術式 歯根切除の成功率 歯根分割をしないという選択 歯根分割とインプラント
  Evidence 1-6 根分岐部病変に歯根切除を行った場合,その予後はどうなるか?
 6.歯周組織再生療法(その1)GTR法
  歯周組織の再生とは 歯周外科処置の限界 GTR法(guided tissue regeneration) GTR法の適応症 GTR法の非適応症
  Evidence 1-7 歯肉縁下にはどのような外科処置が有効か?
 7.歯周組織再生療法(その2)エムドゲイン療法
  エムドゲインとは GTR法とエムドゲイン療法 エムドゲイン療法の適応症
  Evidence 1-8 楔状骨欠損に対するエムドゲイン療法の効果は? Reference 1章
2章 歯周治療に必要な知識
 1.動揺歯・咬合性外傷と歯周病
  歯の動揺 咬合性外傷と歯周炎の関係性 臨床での考え方
  Evidence 2-1 歯の動揺は歯周炎の進行に影響を与えるのか?
 2.歯周病患者と歯科矯正
  歯周病医と矯正歯科医の連携による可能性 歯周治療における歯科矯正の役割 歯の移動と固定源
  Evidence 2-2 歯の傾斜移動が細菌感染したイヌの歯周組織にどのような影響を与えるのか?
 3.全身疾患と歯周病
  ペリオドンタルメディシン 肺疾患 心臓血管疾患 糖尿病 早産・低出生体重児
  Evidence 2-3 糖尿病罹患の有無によって歯周治療後の治癒・維持に違いがみられるか?
 4.歯周病と喫煙
  歯周病のリスクファクター 歯周病と喫煙 喫煙者と非喫煙者の歯周組織の比較 喫煙者への歯周治療 喫煙者へのインプラント治療
  Evidence 2-4 GTR法実施後の治癒に対する喫煙の影響
 5.根面齲蝕と歯周病
  スカンジナビアではなぜ齲歯が少ないのか 歯周病患者の根面齲蝕リスクが高い理由 根面齲蝕の好発部位 根面齲蝕の予防方法 根面齲蝕の治療 罹患リスク部位とリスクファクターの認識を
  Evidence 2-5 歯周治療後の根面齲蝕好発部位とリスクファクター
  Column イエテボリメソッド
 6.歯周補綴
  歯周補綴とは 歯周補綴のエビデンス 歯周補綴に生じた問題 固定性ブリッジの優位性
  Evidence 2-6 重度歯周炎患者における歯周補綴の有効性
 7.角化層の必要性―付着歯肉は必要か
  付着歯肉と歯周治療の予後との関連を考える 歯肉の解剖学的形態 どれだけの付着歯肉幅が必要か 十分な付着歯肉は炎症への抵抗力を示すか 遊離歯肉移植術の必要性
  Evidence 2-7 付着歯肉の感染防御機能 Reference 2章
  ペリオチャートの読み方 歯式表現法 プラーク付着状況の検査
3章 歯周病患者におけるインプラント治療
 1.インプラントは天然歯の代用になるのか
  インプラントを応用した補綴処置 無歯顎患者への応用から部分欠損患者への応用へ 天然歯の歯周組織とインプラントにおける周囲組織の違い
  Evidence 3-1 部分欠損歯列に用いられたインプラントの生存率
 2.歯周病患者へのインプラントの応用
  インプラント治療の前に 歯周病患者の特徴とインプラント治療にあたっての注意 インプラントを応用した場合の予後
  Evidence 3-2 歯周病患者へのインプラントの応用
 3.インプラント周囲炎とは
  インプラント周囲組織とプラーク インプラント周囲炎への認識 実験的に動物に惹起させたインプラント周囲の病変 ヒトにおける臨床研究 良好なプラークコントロールとインプラント周囲炎 インプラント周囲炎の定義
  Evidence 3-3 インプラント治療後の骨の病的喪失
 4.インプラント周囲組織へのプロービング
  天然歯の診査方法から考える インプラント周囲組織の診査方法 インプラント周囲組織へのプロービングにおける問題点 インプラント周囲組織の診査・診断
  Evidence 3-4 インプラント周囲組織のプロービングの有効性
 5.インプラント周囲炎の治療
  インプラント周囲組織における細菌易感染性 インプラント周囲炎の治療方法 動物実験におけるインプラント周囲炎の治療効果 インプラント周囲粘膜炎と歯肉炎の比較 インプラント周囲炎の治療効果
  Evidence 3-5 インプラント周囲炎の治療(動物実験)
  Evidence 3-6 インプラント周囲炎への外科処置
 6.インプラントのサポーティブセラピー(ST)
  インプラント周囲病変の予防の必要性 インプラントのサポーティブセラピー(ST) インプラントのサポーティブセラピーの流れ STの有無による予後の違い STにおける患者さんへの情報提供
  Evidence 3-7 下顎無歯顎患者に対するインプラント治療の長期予後に影響を与える因子 Reference 3章
4章 サポーティブペリオドンタルセラピー(SPT)
 1.SPTの必要性とSPTプログラム
  プラーク除去の重要性 SPTとは SPTの必要性 SPTプログラム SPT時のBoP
  Evidence 4-1 歯周外科処置後のSPTの効果は?
 2.SPTの有効性―長期にわたる研究から
  歯の喪失からみたSPTの効果 SPTと喪失歯 Axelssonの長期研究から SPTにおける効果的なPMTC
  Evidence 4-2 6年間の研究から
  Evidence 4-3 30年間にわたるSPT・メインテナンスの有効性
 3.SPTの効果と再治療
  細菌の再感染への対応 適切なリコール間隔とは 再感染と再治療 再治療を行う基準
  Evidence 4-4 非外科処置後の歯周病菌数の変化
  Evidence 4-5 歯周治療後の適切なリコール間隔は?
  Evidence 4-6 SPTの効果と再治療の必要性
  Evidence 4-7 再治療の基準 Reference 4章
5章 症例から学ぶ―広汎型慢性歯周炎の修正療法からメインテナンスまで
 1.歯周治療の流れ―修正療法からメインテナンス・SPTまで
 2.エビデンスに基づく歯周治療の一例―修正療法からメインテナンス・SPTまで

 Evidence一覧
 索引