やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 「食事が変わると歯肉が変わる」.食事に気をつけたときとそうではないときの歯肉の状態が違うことに気がついた症例報告が始まりでした.その後,1993年に横浜歯科臨床座談会の分科会として食事指導勉強会が発足し,具体的な臨床でのかかわり方を検討していきました.その間2000年6月に横浜歯科臨床座談会の500回記念例会でまとめを行い,翌年,月刊『デンタルハイジーン』に1年にわたりその成果を連載してきました.今回,11年間の集大成としてのまとめを行いました.
 ここ最近10年の「食」にかかわる関心の高まりには目を見張るものがあります.1996年に「生活習慣病」が唱えられ,昨今では「食育」が話題にされることが目につくようになりました.あまりあるほどの食と便利さに囲まれた私たちは,ただ流されるままに生活することが許されなくなってしまったのです.健康に過ごすためには自分で考えて生活を選択しなければならないのです.
 カリエスも歯周病も背後にそのような生活習慣病としての問題が見え隠れしています.最近の研究はバイオフィルムとしての細菌感染がカリエスと歯周病の病因と位置づけています.私たちは目の前の病因に気を取られて管理的なアプローチに目を奪われがちですが,そのようなアプローチで本来の原因を見つめることなく健康をつくりあげても,結局は再発を繰り返すことが多いことも経験してきました.病原性の強いバイオフィルムが形成されてしまうこと,またそれに対する生体の反応のありようは生活習慣が深く絡んでいるのです.手短な効果を求めるのではなく,生活が整ったときのまちがいのない変化を体験するたびに,何が大事なのかについて思いを新たにしてきました.
 本来の健康のあり方を見つめ直す必要があるでしょう.偏らない三度の食事を摂り,十分な咀嚼を行いリズムのある生活をする.それだけでもブラッシングの効果が出やすくなります.ブラッシングの効果を見続けてきて,その効果の大きさに驚かされ,さらに生活習慣も整ってきたときのより一層の効果を研究会活動で確かめてきました.
 栄養指導は生活習慣病を扱う一般医療で行われています.歯科ではそれとはすこし異なる食事指導が入りやすいと考えています.臨床での事例報告を中心にした今回のまとめをとおして,読者の方々に食事指導に興味をもっていただき,それがブラッシング指導の深まりにつながるようにと願っています.
 横浜歯科臨床座談会での多くの討論がこのまとめにつながっています.最後に,会員の皆様に深く感謝いたします.
 2004年9月  横浜歯科臨床座談会代表 丸森英史
 食事指導勉強会世話人 鈴木和子
DENTAL HYGIENE SELECTION 食事が変わる・歯肉が変わる―歯科臨床における食事指導― CONTENTS


 はじめに

1章 食事が変わる・歯肉が変わる
 (1)食事指導勉強会の実践報告から●丸森英史
 (2)生活習慣病と歯周病,カリエスの関連●丸森英史・鈴木ゆみ子
2章 食事指導・はじめの一歩
 (1)自分で体験することの大切さ●磯崎亜希子
 (2)歯科衛生士座談会「踏み出そうはじめの一歩」●磯崎亜希子・加藤有香・相田百合・鈴木育子
3章 食事と口腔内の関係
 (1)食事指導で歯肉が改善した第1号―18年後もよい状態を維持している―●鈴木祐司
 (2)偏食も自力で克服―身体も歯肉も元気で快適―●鈴木和子
 (3)口の中がさっぱりした!●中野亜企子
 (4)「料理はしません」という主婦●今村幸恵
 (5)私のショ糖実験●奈良橋紀子
 (6)食事指導の必要を感じる口腔内とは? ―甘い物とプラークの付着―●山本 静
4章 全身疾患と口腔内の関係
 (1)全身疾患とのかかわり●丸森英史
 (2)50歳のグルメ・糖尿病の入口に●関 律子
 (3)ベーチェット病の患者さん●磯崎亜希子
5章 指導用ツールの活用
 (1)アンケートで食事指導の第一歩●平井由紀子・鈴木和子
 (2)食事記録・仲間といっしょに食事と運動―初診から11年,孫のよい歯が自慢です―●鈴木和子
 (3)気づきをもたらす食事記録と点検表●鈴木和子
 (4)プラークの付き方から食事指導へ発展●磯崎亜希子・鈴木和子
 (5)スティックシュガーを使って甘い物の指導「お砂糖3本分」●鈴木和子
 (6)小学校でお砂糖何本分クイズ●鈴木ゆみ子
 (7)「太ってたって変われるんだ!」―自分の気づきで頑張る仲間たち―●和智冨美子
 (8)よく噛む食生活に向けて●鈴木ゆみ子・鈴木和子
 (9)アンケートや食事記録で子ども時代からの食習慣を振り返る●鈴木和子
 付章 
 (1)食事指導Q&A●鈴木和子
 (2)お菓子アルバム●鈴木和子
 (3)食事指導用ツールの紹介●鈴木和子

 執筆者一覧
 コラム
  自分の口腔内を使って歯肉を読めるようになろう!●関 律子
  自分の母親が食べる甘い物の量を観察してみました●水本裕紀江
  ある患者さんとのかかわりから●鈴木育子
  食事指導勉強会に入ってよかった♪●関 律子
  チョコレートはポリフェノールがいっぱい!●鈴木育子
  糖尿病の患者さんへの歯科からのアプローチ●浜野弘規
  かりんとうは硬い物? ●鈴木育子
  アボカドの意外な食べ方?! ●鈴木育子
  アンケートを書いてもらって楽しかったエピソード●関 律子
  歯周病の患者さんで歯肉に変化が……ズバリ当たり! ●関 律子