やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序論
60年の臨床から結論した総義歯臨床
 著者の一人・阿部晴彦は,1961年に歯科医師となり無歯顎補綴を専攻し,2020年に歯科医師人生60年を迎えた.無歯顎補綴臨床における印象技法,咬合採得技法など,はじめは学校教育で学んだ通法でスタートした.その後,新しく入ってきた知識により技法の改善を行い,いろいろ臨床実践してきた.その間,技法ならびに使用機材の多くの変遷を経験し,約30年前から本書で取り上げた現在の技法になった.従って私の歯科医師人生の半分はこの現在の技法で乗り切って成功してきたといえる.
 総義歯のセミナーは1976年,私が40歳の頃から始まった.当時の技法は一般的通法であったが,本書で紹介する技法を行うようになってから,総義歯完成装着までの道程,装着後の予後,といった点で筆者の診療所での臨床はもとより,セミナーでの患者デモなどの臨床成績も極めて向上した.当然通法でやっていた頃はまだ未熟だったこともいえるけれども.
 過去,現在でも総義歯はfuzzy・曖昧だということをよく聞くが,決してそうではないということを強調したい.確かに人工歯排列の問題にしても多くの主義主張があり,歯槽頂間線法則,キーゾーンと言った力学的に義歯の転覆を避けたいが故の考え方もあれば,いやそうではなくフランジテクニックのようにニュートラルゾーン,デンチャースペースいわゆる筋圧中立位に排列すべきだと言う主張もある.また,印象技法にしても同様に,「機能印象がいい」とか,「選択圧印象がいい」だとか,様々な主張が存在する.
 このたび,本書を出版する意図は,過去実践してきた無歯顎補綴臨床における技法に対し,筆者自らの臨床体験から「このように行えば,間違いなくよい予後の義歯が作れる」という,(1)辿りついた作製技法,(2)より高度な技法として動的加圧印象,(3)歯槽堤の経年的形態変化に対応するリベース技法を取り上げ,(4)さらに特異な症例として第十一章で4症例を追加した.
 何故,このような技法でやるのか,その理由も詳しく述べた.参考文献は,その都度すぐチェックできるよう稿と同じ場所に添付した.本文は阿部晴彦が,作製工程は阿部薫子が担当した.読者諸賢の参考になれば幸甚の至りである.なお,本書の出版を快く引き受けていただいた医歯薬出版株式会社はもとより,編集に活躍していただいた菅野紀彦氏に労をねぎらいたく感謝申し上げたい.
 最後に,本書は執筆中に病に倒れた故・阿部千恵子の霊に捧げたい.
 2021年7月
 阿部晴彦,阿部薫子
 序論
 目次
製作工程
第一章 予備印象と研究模型
第二章 咬合採得
第三章 正中矢状面の記録
第四章 上下顎模型の咬合器付着
第五章 人工歯の選択と排列,試適
第六章 最終印象
第七章 重合操作
第八章 完成義歯の装着
第九章 動的加圧印象
臨床例
第十章 リベース
第十一章 症例報告
 症例1 治療用義歯を作製しないで粘膜調整を経て最終義歯調製を行った総義歯臨床
 症例2 有歯顎で来院,即時義歯を経た上下顎総義歯例
 症例3 対合歯列を改善したシングルデンチャー
 症例4 省力化を目指したシリコンキャストによる総義歯作製

 索引