やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 本書刊行時点において日本は超高齢社会を迎え,高齢者歯科医療と共に緩和ケアが必要な在宅歯科医療も増加傾向となっている.義歯の中でもとりわけ無歯顎症例は歯科疾患のターミナルケア(終末治療)に相当し,老人医療の概念からすれば介護を必要とする段階にあると筆者は考えている.
 昨今では高度に発達したデジタル化と歯科医療技術の進歩により,歯が喪失した無歯顎者の疾病構造も著しく変化してきている.これまでのような咀嚼機能の回復と同時に,審美性や摂食嚥下機能の獲得といった高齢者歯科医療の充実も求められ,義歯の質的需要が高度化している.
 質の高い機能的な総義歯を製作するためには,各製作基準を客観的に捉え,神経筋機能と協調させることが求められる.特に,解剖学・発生学・生理学を踏まえた咬合平面と咬合彎曲の設定,生理学的・力学的に調和する人工歯排列,口腔内に調和した咬合と咬合様式の付与が成功の鍵となる.
 本書では,その際に重要となる「印象採得・咬合採得からの咬合位(垂直的・水平的下顎位)の考察」「仮想咬合平面の設定」「咬合とその様式の決定」の各基準について,わかりやすくまとめることを趣旨として執筆した.特に,総義歯製作に重要な項目を強調したPart1はQRコードにて読み込める動画を取り入れており,「目で見て流れがわかる」構成を心掛けた.“二義的人工臓器”としての義歯が求められている昨今において,医療的側面からの「エビデンス」を含んだ総義歯治療のため,それらを歯科医師・歯科技工士が共有するため,そして歯学を志す学生諸氏にも本書を役立てていただければ望外の喜びである.
 執筆にあたっては,国内外の著名な臨床家の歯科医師・歯科技工士の諸先輩からご指導・ご助言をいただいた多くのことを基礎とし,BPSデンチャーのガイドラインもその多くを筆者の考え方の根拠として取り入れている.また,共に臨床に取り組む歯科医院からは数々の症例を提供していただき,日々ご指導をいただいている.これら多くのことを学ばせていただいた方がたに,この場を借りて深く感謝を申し上げたい.
 2018年10月吉日
 佐藤補綴研究室 佐藤幸司
Gravure
 I級,II級,III級の骨格・顎堤条件に合わせた人工歯排列
Part 1:動画で学ぶ臨床ステップ
 01 個人トレー外形線の描記
 02 デンチャースペースコアの製作
 03 印象体・デンチャースペースコアから見る周囲組織
 04 上顎人工歯の排列基準
 05 下顎人工歯の排列基準
 06 排列テンプレートの設定
 07 前歯部人工歯の排列手順
 08 臼歯部人工歯の排列手順
 ※Part 1の動画はサロンドデンテクノ(https://www.salondedentechno.com/)の協力を得て制作しております.
Part 2:総義歯製作のエビデンス
 01 印象採得,咬合採得の重要性
  Supplement(1)個人トレーの辺縁がずれていると……?
 02 義歯の安定を力学的要素から考察する
 03 発音・運動機能といった生理学的安定に関わる要件
 04 顔貌と対向関係に基づく人工歯選択の基準
 05 前歯部人工歯の排列基準
 06 臼歯部人工歯の排列基準
  Supplement(2)デンチャースペースの採得法と観察
 07 理想的な床縁形態(歯肉形成)
 08 咬合の付与と調整の基準

 参考文献