やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
 有効な欠損補綴治療として患者のQOL向上に寄与している口腔インプラント治療が,真に社会に受け入れられるためには「口腔インプラント学」の構築が不可欠であるとの指摘を受け,『歯界展望』に2012年1月から1年間「インプラントを材料学から見直す」,さらに優れた臨床家とのディスカッションを重ね,2015年1月から2年間「インプラント材料:臨床の疑問に答える」を連載した.
 これらの連載をきっかけに,日々の臨床のなかで疑問を抱いた歯科医師にその疑問を解く手がかりとなる書籍,すなわちインプラントをめぐるトラブルに対し,材料学的な視点からアドバイスを行えるまとまった書籍が必要であると聞いた.歯科臨床と基礎歯学とを関連づけたインプラント材料の書は数少ないことにも端を発している.多くの先生方の協力のおかげで,エビデンスに基づく臨床と基礎を融合した本書を発刊することができたと思っている.
 本書は「マテリアル編」と「クリニカル編」の2分冊で構成され,マテリアル編では「材料の基本的知識」を,クリニカル編では「臨床的考察」に力点をおいて記載した.マテリアル編とクリニカル編に同じタイトル(例:骨補填材)があっても,マテリアル編では基礎的な解説とし,クリニカル編では臨床応用に役立つ記述とした.
 本書はQ&A形式にし,まずQuestionに対するAnswerを簡潔に記述し,詳しい解説はその後に加えることとした.日常忙しい臨床家の先生方は,まずQとAをご覧になり,詳しい内容を知りたい項目については,その後に記載されている解説文を読んでいただければ理解が深まると考える.
 「マテリアル編」では,材料の基本的・普遍的な事項はすでにわかっていることであってもしっかり記述するとともに,インプラント臨床と関連する材料の新しい情報をできるだけ多く紹介することとした.このためには大型の測定機や分析機器の助けが必要であるが,幸いにも多種の機器を所有している強みを活かし,詳細な情報を提供したと考える.また,採用したデータの多くは大学院生が学位を取得するために真剣に取り組んだ研究成果から採用していることから,エビデンスのある記述が可能になった.
 内容は,チタン,ジルコニア,骨補填材など「インプラント材料」に留まらず,生体反応と密接に関連するインプラント「表面」に焦点をあて,「オッセオインテグレーション」や「超親水性表面」の本質に迫った.
 本書は2分冊ではあるが,両者は密接に関係していることから,お互いが参照できるようにして理解を促す工夫をした.また,COLUMN欄やキーワード欄で専門用語の解説を行ったので,索引から容易に調べることができるであろう.
 本書が日常の臨床における疑問に対する回答となり,インプラント臨床術式の材料学的な理解の一助となれば幸いである.
 最後に,本書出版にあたり,執筆の直接ご協力をいただいた加藤英治先生,河原優一郎先生,竹澤保政先生,室木俊美先生,吉野 晃先生に心より感謝申し上げ,写真の使用を快諾してくださった多くの先生に謝意を表します.
 2017年11月
 吉成正雄
Chapter 1 チタンの物理的・機械的性質
 Q1 そもそもチタンとは何ですか?金とはどこが違うのですか?
  COLUMN 1 固体の分類と結合様式
 Q2 純チタンは,チタン100%なのですか?
 Q3 純チタンとチタン合金は,何が違うのですか?
  COLUMN 2 力に関する用語と単位
  COLUMN 3 弾性ひずみと弾性係数
  COLUMN 4 強さと荷重
Chapter 2 チタンの腐食と生体為害性
 Q4 チタンは錆びないと言われていますが,本当ですか?
  COLUMN 5 金属の腐食と変色
 Q5 チタンは腐食しないのですか?
 Q6 チタンがイオン化する条件は何でしょうか?
  COLUMN 6 アルミホイルを噛むと
 Q7 チタンはどのような薬液に弱いのですか?
 Q8 フッ化物をチタンに対して使用するのは,危ないのですか?
  COLUMN 7 中性フッ化物の応用がチタンを腐食し,インプラント周囲炎を増悪する可能性
 Q9 義歯洗浄剤の影響はどうですか?
 Q10 活性酸素種の影響はどうですか?
 Q11 インプラントは腐食により壊れることがありますか?
 Q12 純チタンのほうが,酸化膜による修復は早いのですか?
 Q13 チタン合金から,バナジウムやアルミニウムは溶出しますか?
  COLUMN 8 純チタンとチタン合金の骨形成能は同等
 Q14 純チタンとチタン合金が接触したとき,バナジウムは溶出しますか?
  COLUMN 9 ニッケルチタン合金インプラント
Chapter 3 リン酸カルシウム
 Q15 リン酸カルシウムにはどのような種類があり,特徴は何ですか?
 Q16 アパタイトにはどのような種類があり,特徴は何ですか?
 Q17 ハイドロキシアパタイトの溶解性は,どのような因子に影響されますか?
  COLUMN 10 X線回折と結晶性
  COLUMN 11 溶解度を同一にしたときのハイドロキシアパタイトとβ-TCPの骨形成能の差
  COLUMN 12 なぜ薄膜?-薄膜の意義-.
 Q18 β-TCPは,ハイドロキシアパタイトと骨形成能に差がありますか?..
 Q19 カーボネートアパタイトは,β-TCPと比較して骨形成能はどうでしょうか?
  COLUMN 13 HA-コラーゲン複合体は細胞も作るし,人工的にも作ることができる
  COLUMN 14 魚のウロコはアパタイトとコラーゲンからできている
Chapter 4 ジルコニア
 Q20 ジルコニアとは何ですか?
 Q21 TZPとは何ですか?
 Q22 TZPはどうして強いのですか?
 Q23 TZPは組成や処理法によって強さが異なりますか?
 Q24 TZPは低温劣化を起こすのですか?
 Q25 TZPの耐久性は大丈夫ですか?
 Q26 TZPを細いインプラントに応用しても大丈夫ですか?
Chapter 5 表面
 Q27 インプラントの生体反応を理解するための「表面」や「界面」とは何ですか?
 Q28 インプラント表面は,どのように分類されますか?
 Q29 表面形状を評価するのに使われている「表面粗さ」とは何ですか?
 Q30 インプラントの表面形状は,どのように分類されていますか?
 Q31 表面形状は,細胞接着・増殖・分化に影響しますか?
 Q32 表面性状とは何ですか?
  COLUMN 15 水の濡れ性と表面形状の関係
 Q33 表面エネルギーとは何ですか?
 Q34 表面荷電とは何ですか?
 Q35 どのようなメカニズムでチタン表面にタンパク質が吸着しているのですか?
  COLUMN 16 分子間力,結合力
 Q36 タンパク質にも表面エネルギーや荷電状態の指標はあるのですか?
Chapter 6 表面と生体反応
 1)骨接触部:オッセオインテグレーション
  Q37 オッセオインテグレーションとは何ですか?
  Q38 どの程度の辺縁骨吸収であるなら,成功といえるのでしょうか?
   COLUMN 17 骨接触率
  Q39 オッセオインテグレーションが進むと,骨接触は100%になりますか?
  Q40 オッセオインテグレーションした骨組織とインプラント体表面との間は,どうなっているのですか?
  Q41 チタンがほかの金属よりオッセオインテグレーションしやすいといわれていますが,それはなぜですか?
  Q42 チタンが金よりオッセオインテグレーションしやすいといわれていますが,それはなぜですか?
  Q43 オッセオインテグレーションは,どのような過程を経て達成するのでしょうか?
 2)軟組織接触部:フィブロインテグレーション
  Q44 インプラント周囲軟組織における生物学的封鎖は,なぜ重要なのですか?
  Q45 インプラント周囲の生物学的封鎖性は,天然歯と比べてどうですか?
  Q46 インプラントと上皮の界面は,どうなっていますか?
  Q47 インプラントと上皮下結合組織の界面は,どうなっていますか?
  Q48 表面形状は,軟組織界面の封鎖性にどう影響しますか?
  Q49 コラーゲン線維の密度や走行方向を制御するには,どのような表面形状が有利ですか?
   COLUMN 18 Laser-Lok(R)
  Q50 表面性状は,軟組織の封鎖性に影響しますか?
  Q51 表面濡れ性は,初期接着に影響しますか?
  Q52 生物学的封鎖を亢進するために,ほかにはどのような処理が考えられますか?
 3)口腔内露出部:バイオフィルム
  Q53 細菌が付着しにくい表面はありますか?
  Q54 表面形状は細菌の付着に影響しますか?
  Q55 表面性状は細菌の付着に影響しますか?
   COLUMN 19 唾液タンパク質の吸着特性
  Q56 細菌付着を少なくするには,どのような表面処理が有効ですか?
   COLUMN 20 抗菌性ペプチドの利用
Chapter 7 光活性化,超親水性
 Q57 超親水性インプラントとは,どのようなインプラントを指すのですか?
  COLUMN 21 光触媒
 Q58 チタンの汚染とは何ですか?
 Q59 チタンの汚染はどこから来るのですか?
 Q60 超親水性は光活性化処理のみで得られるのですか?
 Q61 超親水性を付与する表面処理法には,どのような種類がありますか?
 Q62 光活性化処理にはどのような装置が使われていて,それぞれ何が異なりますか?
  COLUMN 22 紫外線
  COLUMN 23 低温プラズマ
 Q63 ブラスト+酸エッチング処理(SLActive)インプラントは,どのようにして作られるのですか?
 Q64 表面形状は超親水性に影響しますか?
 Q65 光活性化処理により,なぜ超親水性になるのですか?
 Q66 どうすれば超親水性は維持されますか?
 Q67 超親水性と表面の炭化水素,水酸基,表面荷電の関係はどうなっていますか?
 Q68 超親水性表面の生体反応はどうですか?
 Q69 超親水性表面へのタンパク質やサイトカインの吸着はどうですか?
 Q70 超親水性表面への骨反応はどうですか?
 Q71 超親水性表面は軟組織接着に影響しますか?
 Q72 光触媒作用による超親水性表面は,細菌付着や抗菌性に影響しますか?
Chapter 8 骨補填材(基礎編)
 Q73 骨増生法には,どのような骨移植材が使われていますか?
 Q74 骨増生を成功させる要素は何ですか?
  COLUMN 24 上顎洞底挙上術(サイナスフロアエレベーション)
 Q75 骨再生用の細胞には,何が利用されますか?
 Q76 生理活性物質には,何がありますか?
  COLUMN 25 成長因子増強基質
 Q77 スキャフォールドの役割は何ですか? 用いられる材料には何がありますか?
  COLUMN 26 水晶振動子マイクロバランス法
  COLUMN 27 X線光電子分光,電子線マイクロアナライザー
  COLUMN 28 インプラントでは冷たさや温かさを感じるか?
  COLUMN 29 チタンネックレスの効果は疑問
  COLUMN 30 火葬するとインプラントはどうなる?
 付表,付図
 文献
 索引
 クリニカル編目次