やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
 今日まで,補綴修復のスタイルは接着歯学を応用したコンポジットレジンへ,さらにオールセラミック修復にみられるメタルフリー修復へと大きくシフトしてきた.これらはとりわけ1980 年代後半から始まる接着技術の進歩と新材料,そして1990 年代後半から始まる歯科CAD/CAM技術の発展によるものである.また,人々の審美的要求も,この流れに拍車をかけることとなった.
 私自身のオールセラミッククラウンとの出会いは,1989 年に米国インディアナ大学補綴科大学院に留学したときであった.大学院での臨床実習が始まる前のトレーニング実習として,ポーセレンジャケットクラウン,Dicorクラウン,ルネサンスクラウンなどの製作が課題として与えられ,ゴールドスタンダードである鋳造による金合金のクラウンとの比較も経験させられた.このようなトレーニングの後,臨床ではポーセレンジャケットクラウンの箔の圧接を応用した陶材焼付冠のカラーレスクラウンや,耐火模型上で製作を行うラミネートベニアクラウン,さらにIn-Ceramクラウンの手作業による製作など,患者への装着と技工にあけくれたものであった.当時すでに大学院生の間では卒業論文のテーマとして,Dicorクラウンの強度,Proceraクラウンのマージン精度,あるいはProceraクラウンのグルーブやボックスの再現性などの研究を行う者もいた.
 現在は歯牙接着研究の日本のトップランナーのお一人となられ,本書の編著者でもある宮崎真至先生が1993 年4 月にインディアナ大学のDental materialの教室に留学された.それが私との出会いであった.その後まもなく,私は大学院の修了とともにインディアナ大学をあとにした.
 帰国後,地元福岡市で再開業し,開業のかたわらインプラント上部構造製作法による精度実験や,Proceraのラミネートベニアコーピングに陶材を築盛して変色歯に用いるためのマスキングやアルミナコーピングの接着の実験など,母校九州歯科大学歯科理工学教室で研究を始めた.ノーベルバイオケアの社長で補綴専門医でもあるNilson先生には,Procera研究のOden先生を紹介していただき,標本の製作援助なども受けた.また,学会場では日本のジルコニアセラミック研究の第一人者であり,本書の編著者でもある伴 清治先生と出会い,指導教授であった小園凱夫先生のお許しを得て伴先生にジルコニア研究の指導を仰いだ.
 2007 年にCEREC3を購入したことで,私の医院ではオールセラミック修復中心へと大きくシフトしていった.CAD/CAMで製作可能なことや不可能なこと,オペレーターの熟練度の必要性,鋳造物マージンとの比較など,いろいろなことを学んだと思う.メタルフリー修復においては接着歯学の理解は大変重要で,接着について書籍を読んで勉強を続けるなか,ファイバーポストの研究で多くの業績をあげられた本書編著者の坪田有史先生にお知り合いになることができた.以上が私と編著者の先生方との出会いと,オールセラミック修復に関わった私の歴史である.
 本書を執筆するきっかけとなったのは,私が20 年近く主宰する補綴研修会でオールセラミック修復を語るときに,適当な教本がないことであった.次々に出てくる新しい情報は整理されることなく,どの材料をどの場面で使用するのが効果的なのか,混乱する状態であった.また,新しいジルコニアセラミック材料の出現も続いており,セラミック材料の世界は日進月歩である.これからオールセラミック修復を始めようとする先生方に,審美だけを強調した写真集ではなく(それもオールセラミックスのマーケット拡大に必要ではあるが),オールセラミック修復長期的成功への一つの指針として本書が貢献できれば幸いである.
 一開業医であり,何のアカデミックなバックグラウンドももたなかった私を,インディアナ大学に推薦してくださった恩師藤本順平先生は,若き時代の私達にいつも檄をとばされた.“ 歯学は科学でなければいけない,勉強するということは文献を読むということです“.振り返ってみるとこの言葉を胸に,実験を始めるにあたっても,また臨床を始めるにあたっても,文献を集め読んできた.そして,大学院時代の恩師でチェアマンであったGoodacre先生の言葉には,感銘し共感を覚えている.“ 先人達が残した補綴のプリンシプル(原理,原則)は決して忘れてはならない.しかし,先人達がそうであったように,チャレンジも必要である” と.
 新材料,新技術が必ずしも臨床の救世主となるわけではなく,歯科医師の技術を上げるものでもない.先人達が研究や臨床の失敗・成功から積み上げてきた補綴修復のプリンシプルを軽視することなく,自分の責任がとれる範囲で新材料,新技術にチャレンジしていきたいと思う毎日である.
 平成26 年10 月
 編著者を代表して
 岡村光信
Introduction 現時点におけるオールセラミック素材の選択
 (岡村光信)
第1章 歴史的変遷
 (岡村光信)
 1 オールセラミック修復の歴史的変遷
 2 現在の製作法
第2章 素材の種類とその特性
 (伴 清治)
 1 セラミックスの特質
 2 オールセラミック修復コア用材料
 3 コア用セラミックスの特性
第3章 失敗しないための臨床応用のポイント
 1 オールセラミック修復を成功させるための臨床的ポイント(坪田有史)
 2 症例にみる注意点(岡村光信)
 3 研磨(伴 清治)
 4 成功と失敗にみる臨床経過と対応策
 (岡村光信)
第4章 成功させるための接着
 1 接着のメカニズム(宮崎真至・辻本暁正・坪田圭司)
 2 セラミックスの種類と前処理(宮崎真至・辻本暁正・坪田圭司)
 3 レジンセメントの種類と選択(宮崎真至・辻本暁正・坪田圭司)
 4 臨床におけるポイント(宮崎真至・辻本暁正)
第5章 インプラント補綴(上部構造)への応用
 (岡村光信)
 1 咬合面材料への適応か?
 2 症例にみるオールセラミックスの応用法

索引