やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに:マイクロエンド─治りにくい症例の原因が目の前に現れる
 歯内療法は一般開業医(General Practitioner:GP)にとってきわめて日常的な治療であるとともに,患者さんの大切な1本の歯を保存するという目的において,歯周療法と同様に最も重要な基礎治療であるといえます.研究論文も数多く,それに基づいた治療方法もほぼ確立しています.しかし,私たちの歯内療法の中には,依然として「症状が消えない」「サイナストラクトが消えない」などの,いわゆる「治りにくい症例」が数多く存在し,多くのGPが日々暗中模索を続けているという現状があります.
 ではなぜ,「治りにくい症例」に悩まされるのでしょうか?その答えはシンプルです.それは,治らない原因を見つけることが難しいからです.症状に繋がる原因を見つけることができれば,それに対する具体的な対処法を考えることができます.しかし,私はマイクロスコープを臨床応用し,そうした原因の多くが肉眼では見えない部分に存在しているということを知り,愕然とさせられました.
 歯内療法は元々見えにくい根管内部での処置であり,「匠の技術」が必要な分野であると感じます.しかしながら,「見えない」ということは,原因やその場所を特定できないため,どんなに高い技術を有していたとしても,ピンポイントで適切な処置を行うことはできません.おそらくはどこかに存在する原因を除去すべく,闇雲にファイリングを続けるということになり,それは過剰切削によるレッジやパーフォレーションなどの発生リスクとともに,将来の歯根破折の可能性を確実に高めてしまうでしょう.
 そうした治りにくい症例に対してマイクロスコープを応用することにより,その原因が特定され,必要最小限の処置によって解決に導かれたという経験を数多くしてきました.これは特に専門的なことではなく,「そこに見える感染源を見ながら除去する」というような,歯科医療におけるいわば基本操作であり,GPとして十分に対応できるスキルであると感じます.そして,その具体的な操作,根管拡大の質を高めるのが,NiTiロータリーファイルなのです.
 さらに,マイクロスコープを応用するもう一つの,そして最大の利点が,患者さんに治療を見せることができるという点です.症状の原因となっている感染源を発見し,それを取り除く処置の一部始終を動画や静止画を見せながら説明できることは,何にも勝る情報提供になります.その映像と説明は患者さんの不安を一気に取り去るとともに,患者-医師の強い信頼関係の構築に繋がることを実感しています.そして何よりも難しい症例の治療戦略と,それによる問題の解決を得ることができるでしょう.
 本書が先生方の日常的な歯内療法を一歩先に勧めるきっかけとなるならば,ひいてはその質を高めることにつながるならば,それは望外の喜びです.
 2014年11月
 阿部 修
 Prologue
第1編 GPのためのマイクロスコープを使用した歯内療法
Basic
 (1)GPのマイクロエンド:基本的な考え方─専門医との連携
 (2)マイクロエンド:どう学ぶか
 (3)最小限必要な機材
Clinical-Basic
 (1)根管口探索の実際
 (2)確実な感染源の除去
Clinical-Advanced:GPがスキルアップして対応すべき難しい症例
 (1)狭窄根管
 (2)直接歯髄覆罩
 (3)破折ファイル除去
 (4)パーフォレーションリペア
 (5)シンプルな外科的歯内療法
第2編 NiTiロータリーファイルを応用したGPの歯内療法
Basic
 (1)NiTiロータリーファイル開発の変遷
 (2)ステンレススチールハンドファイルは本当に安全か?
 (3)GPの臨床に合ったNiTiロータリーファイルとは?
 (4)Single fileシステムとMultiple fileシステムのどちらを使うか?
 (5)Single fileシステムはクラックを引き起こしやすいのか?
Clinical-Basic
 (1)最も重要な操作:グライドパス形成
 (2)クラウンダウン法とFull working length technique
 (3)ファイルの破折予防─ファイルの操作方法
 (4)すべてのNiTiロータリーファイルシステムに通じる基本プロトコール
Clinical-Advanced:NiTiロータリーファイルシステム
 (1)Multiple fileシステム─ ProTaper NEXT
 (2)Single fileシステム─WaveOne

 索引