やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
 補綴歯科診療を行うためには,歯科医師国家試験にまず合格しなければならない.歯冠補綴装置,ブリッジ,部分床義歯,全部床義歯,顎補綴装置など,補綴装置には多くの種類があり,補綴装置によって特徴が異なるため,学生にとっては多岐にわたる知識が必要となる.また,歯科医師国家試験問題は基礎的な問題から応用問題まで多岐にわたり,出題される様式も変化してきた.このため,歯科医師国家試験において歯科補綴学に関する問題の難しさを感じている学生は多いと思われる.多忙な学生にとって必要な知識を効率的に習得する必要があり,そのため,歯科医師国家試験の学習を効果的に行えるような書籍の必要性を痛感してきた.
 平成29年6月に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2018」では「口腔機能管理の推進」がとりあげられ,注目を集めている.口腔機能の向上は栄養改善,そして運動器の機能向上につながる.口腔機能の向上と補綴歯科治療とは密接な関係があることは万人が認めるところであろう.
 補綴歯科治療を成功させるためには診察,検査,診断,治療計画の作成,補綴装置の製作,メインテナンスなどの過程を適切に実施しなければならない.また,補綴装置という観点からみると,前述のように歯冠補綴装置,ブリッジ,部分床義歯,全部床義歯,顎補綴装置など,特徴の異なる多くの補綴装置があり,学生にとっては多岐にわたる知識と診療技術が必要となる.しかし,必要とされる知識と診療技術を習得することは学生にとって容易なことではない.
 そこで,本書は補綴歯科診療に必要な知識を学生が効率よく習得できることと歯科医師国家試験を突破できる実力を身につけることを目標に,歯科補綴学の内容をまとめることした.また,知識の確認のために過去の歯科医師国家試験問題や新たに作成した問題を章末に掲載することにした.
 本書の使用方法としては,まず自分の不得意な項目を学習していただき,その成果を章末の問題で確認していただくことを考えている.また章末の問題を最初に行い,知識レベルの確認を行い,知識が不足している内容を本文で学習するという使い方も可能である.
 学生諸君が本書によって歯科補綴学の知識をまとめられ,歯科医師国家試験や歯科臨床に役立てていただければ幸甚である.最後に,本書の完成の労を惜しまなかった医歯薬出版関係諸氏に深く感謝の意を表す.
 2020年1月
 編者一同
第1章 クラウンブリッジの臨床
 (八田みのり)
 1.クラウン,ブリッジの定義,ブリッジと部分床義歯の違い
 2.各種の補綴装置
  1)部分被覆冠
  2)全部被覆冠
  3)継続歯(ポストクラウン)
 3.診療室で行われる診療ステップ
 4.前装冠の製作ステップ
  1)陶材焼付冠の製作ステップ
  2)レジン前装冠の製作ステップ
  3)ろう付け法
 5.試適時の調整方法と装着
 6.定期的なチェックの必要性とチェック項目
 国試問題にチャレンジ!
第2章 部分床義歯の臨床
 (志賀 博)
 1.部分床義歯の特徴,適応症
  1)部分床義歯の特徴
  2)部分的な歯の欠損による影響
 2.部分床義歯の分類
  1)Kennedyの分類(残存歯と欠損部の位置関係による分類)
  2)咬合支持による分類
  3)Eichnerの分類(咬合支持域による分類)
 3.部分床義歯の構成要素
  1)支台装置(維持装置)
  2)連結子(装置)
  3)義歯床
  4)人工歯
 4.部分床義歯の維持
  1)直接支台(維持)装置
  2)間接支台(維持)装置
  3)支台(維持)装置の所要条件
 5.部分床義歯の支持
  1)歯根膜支持
  2)粘膜支持
  3)歯根膜・粘膜支持
 6.部分床義歯の製作ステップ
  1)概形印象採得(既製トレーによる概形印象採得)
  2)サベイング(仮設計)
  3)前処置
  4)個人トレー
  5)精密印象採得と作業用模型の製作
  6)作業用模型でのサベイング(本設計)
  7)耐火模型
  8)フレームワーク
  9)咬合床
  10)オルタードキャスト法
  11)咬合採得
  12)人工歯排列・歯肉形成
  13)ろう義歯試適
  14)埋没・重合
  15)咬合器再装着・削合・研磨
 7.部分床義歯の装着時の調整方法と指導
  1)適合性,維持・安定の確認
  2)床の適合性
  3)咬合関係
 8.定期的なチェックの必要性とチェック項目
  1)おもなチェック項目
  2)装着から経過とともに現れる問題
 国試問題にチャレンジ!
第3章 全部床義歯の臨床
 (秋山仁志)
 1.全部床義歯とは
 2.全部床義歯の構成要素
  1)義歯床
  2)人工歯
 3.全部床義歯の維持
  1)全部床義歯の維持の主な要素
 4.全部床義歯の支持
 5.全部床義歯の種類
 6.無歯顎の診療手順・全部床義歯の製作ステップ
 7.診察・検査と治療計画・前処置,概形印象採得
 8.精密印象採得
  1)個人トレーの製作
  2)筋圧形成
  3)精密印象採得
  4)作業用模型の製作
  5)咬合床の製作
 9.顎間関係の記録
  1)仮想咬合平面の決定
  2)フェイスボウ(顔弓)記録
  3)標準線の記入
  4)顎間関係の決定
 10.チェックバイト記録
 11.人工歯排列
  1)前歯部人工歯排列
  2)臼歯部人工歯排列
 12.歯肉形成
 13.ろう義歯試適
 14.歯科医師と歯科技工士の役割
 15.ろう義歯の埋没法
  1)歯型採得(テンチの歯型)
  2)フラスク埋没
 16.義歯重合方法
  1)流ろう
  2)レジン重合
 17.削合
  1)咬合器への模型再付着
  2)削合方法
  3)研磨
 18.全部床義歯の装着時の調整方法と指導
  1)義歯装着時の点検事項
  2)義歯装着時の患者指導
  3)定期的なチェックの必要性とチェック項目
  4)装着から経過とともに現れる問題
 国試問題にチャレンジ!
第4章 顎顔面補綴の臨床
 (隅田由香)
 1.顎顔面補綴学とは
 2.顎顔面補綴装置の分類
  1)欠損補綴装置
  2)治療用補助装置
 3.構成要素
  1)栓塞部
  2)義歯床
 4.維持
 5.支持
 6.製作ステップ
 7.製作時の調整方法と指導
 8.定期的なチェックの必要性とチェック項目
 国試問題にチャレンジ!
第5章 口腔インプラント
 (山瀬 勝)
 1.口腔インプラント治療の概要
  1)口腔インプラントとは
  2)構成要素
 2.診察と検査
  1)医療面接
  2)全身および局所の診察
  3)補綴学的検査
  4)適応症・禁忌症
 3.治療計画の立案
 4.インプラント上部構造の種類
  1)固定式上部構造
  2)可撤性上部構造(インプラントオーバーデンチャー:IOD)
  3)上部構造に使用される材料
 5.臨床操作
  1)印象採得
  2)顎間関係の記録
  3)プロビジョナルレストレーション
  4)装着
 6.技工操作
  1)スクリュー固定式上部構造
  2)セメント固定式上部構造
  3)インプラントオーバーデンチャー
 7.メインテナンス
 8.トラブルとその対応
 国試問題にチャレンジ!
第6章 軟口蓋挙上装置(PLP)と舌接触補助床(PAP)
 (須田牧夫)
 1.軟口蓋挙上装置(PLP)
  1)軟口蓋挙上装置とは
  2)適応症と目的
  3)鼻咽腔閉鎖機能
  4)製作ステップ
 2.舌接触補助床(PAP)
  1)舌接触補助床とは
  2)適応症と目的
  3)食塊の移送
  4)舌の器質的欠損を生じる場合の注意点
  5)PAP口蓋部の形成方法
  6)製作ステップ
 国試問題にチャレンジ!
第7章 睡眠時無呼吸症候群
 (河野正己/對木 悟)
 1.口腔装置(oral appliance:OA)
  1)種類
 2.適応症
  1)睡眠時無呼吸症候群の診断
  2)実際の治療
 3.構成要素
  1)上下顎部分
  2)連結部分
 4.維持
 5.支持
 6.製作ステップ
  1)印象採得
  2)模型・サベイング
  3)圧接・調整・仕上げ
 7.装着方法と調整
  1)維持力と着脱方向の確認
  2)下顎位の決定
 8.定期的なチェックの必要性とチェック項目
  1)効果の判定
  2)定期的管理
 国試模擬問題にチャレンジ!
第8章 スポーツマウスガード
 (水橋 史/小出 馨)
 1.スポーツマウスガードの効果
 2.スポーツマウスガードの適応
 3.スポーツマウスガードの種類と材料
 4.スポーツマウスガードの維持
 5.スポーツマウスガードに構成する咬合接触関係
 6.カスタムメイドマウスガードの製作ステップ
  1)カスタムメイドマウスガードの設計の要点
  2)歯科医師と歯科技工士の役割と製作ステップ
 7.スポーツマウスガード装着時の調整方法と指導
 8.定期的なチェックの必要性とチェック項目
 国試問題にチャレンジ!
第9章 印象採得
 (下山和弘)
 1.印象採得の基礎知識
  1)印象採得とは
  2)印象採得の目的による分類
  3)印象材の組み合わせによる分類
  4)印象圧による分類
  5)粘膜の状態による分類
 2.印象材
  1)コンパウンド印象材(インプレッションコンパウンド)
  2)アルジネート印象材
  3)寒天印象材
  4)シリコーンゴム印象材
  5)ポリサルファイドゴム印象材
  6)ポリエーテルゴム印象材
  7)酸化亜鉛ユージノール印象材
  8)石膏印象材(印象用石膏)
  9)アクリル系印象材
  10)ワックス系印象材(印象用ワックス)
 3.印象体の消毒
 4.印象採得時に発生する問題への対応
  1)異常絞扼反射(嘔吐反射)の防止
  2)誤嚥・誤飲の防止
 5.印象用トレー
  1)印象用トレーの条件
  2)印象用トレーの種類
 6.模型
  1)研究用模型
  2)作業用模型
  3)耐火模型
  4)ボクシング
  5)模型材
 7.クラウンブリッジ
  1)印象採得
  2)印象採得の注意点
  3)作業用模型
 8.部分床義歯
  1)印象採得
  2)印象採得の注意点
  3)作業用模型
 9.全部床義歯
  1)印象採得
  2)印象採得の注意点
  3)作業用模型
  4)印象時に注意すべき解剖学的特徴
 10.筋圧形成時の機能運動
 11.義歯の維持・脱離に関与する筋
 12.模型の調整
  1)リリーフ
  2)ブロックアウト
 13.個人トレーの設計・製作
  1)部分床義歯
  2)全部床義歯
 国試問題にチャレンジ!
第10章 咬合採得
 (石田鉄光)
 1.クラウンブリッジにおける咬合採得
  1)少数歯補綴で残存歯により咬合関係が保たれている場合
  2)残存歯により咬合関係が保たれていない,または前歯部のみに咬合接触が存在する場合
 2.部分床義歯における咬合採得
 3.全部床義歯における咬合採得
  1)仮想咬合平面の決定
  2)垂直的顎間関係(咬合高径,上下的顎間関係)の決定
  3)水平的顎間関係(前後的,左右的顎間関係)の決定
 4.咬合器
  1)半調節性咬合器
  2)半調節性咬合器使用法の実際
 国試問題にチャレンジ!
第11章 クラウンブリッジの破損と対応・修理
 (羽村 章)
 1.破損の原因
  1)補綴装置に加わる外力
  2)支台形態・設形の誤り
 2.破損する可能性が大きい材料
 3.金属冠と比較して破損の可能性が大きい補綴装置
 4.修理
 国試問題にチャレンジ!
第12章 可撤性義歯の修理
 (下山和弘)
 1.修理,リライン,リベースの基本
 2.義歯床の破折
  1)部分床義歯の破折の原因
  2)全部床義歯の破折の原因
  3)義歯床の修理方法
 3.人工歯の咬耗・摩耗,破損,脱落
  1)人工歯の咬耗・摩耗
  2)人工歯の破損,脱落
 4.増歯修理(人工歯の追補)
 5.支台装置の破損
 6.支台歯の歯冠崩壊
 7.リライン
  1)リラインの適応症
  2)リライン材
  3)直接法と間接法の特徴
  4)リラインの術式
 8.リベース
  1)リベースの適応症
  2)リベースの術式
 9.床縁延長
 国試問題にチャレンジ!
第13章 デジタルデンティストリー
 (新谷明一)
 1.デジタルデンティストリーとは
 2.デジタルインプレッション(光学印象)
 3.CAD/CAM
  1)CAD/CAMの利点と欠点
  2)CAD/CAMの種類
  3)ラボ用スキャナーによるスキャニング
  4)CADを用いた設計
  5)CAMを用いた加工方法
  6)CAD/CAMで使用される材料
 国試問題にチャレンジ!

 国試問題にチャレンジ! 正答編
 付:印象採得に必要な解剖学的用語(秋山仁志/下山和弘)
 索引