やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
 本書は,2011年に上梓された『歯科医療管理』(日本歯科医療管理学会編集)の改訂版である.前書は,歯科大学・歯学部の高学年,卒業直後の臨床研修医,開業前後の歯科医師を対象とし,歯科医療管理に関する基本的な情報を伝えていた.本書は,その対象を広げ,卒業後数年経過し,これから開業を目指す若い歯科医師や歯科診療所の管理を見直し,継承も視野に入れた歯科医師も対象とした.
 近年の歯科医療を取り巻く環境は,より高度な専門性が求められると同時に社会の動向に合わせた国民目線が求められる時代になってきた.国民は,安全で安心,信頼できる歯科医療の提供を求めている.良質な歯科医療を提供するためには,診療環境を整える必要がある.歯科医療管理は,実際に診療を行う場合,いかにして学問である歯科医学を臨床としての歯科医療に応用するかを考究することを目的としている.歯科医療は,歯科医学の知識と技術をもって病気を治すことが基本であるが,国の制度や法律,国民の習慣および意識,生活環境等に大きく左右される.
 憲法第25条を受け,歯科医師法第1条に「歯科医師は,歯科医療及び保健指導を掌ることによって,公衆衛生の向上及び増進に寄与し,国民の健康な生活を確保するものとする」と歯科医師の任務が謳われている.つまり,歯科医師は,単に歯科疾患の治療をするだけではなく,公衆衛生の向上と国民の健康に寄与しなければならないと規定されている.
 超高齢社会が進行する今日,国民のニーズに応えるためには,地域住民を主体とした各関係機関との連携強化,医科医療機関,行政各関連機関及び地域包括支援センター等との連携を含めた地域完結型医療といわれている地域包括ケアシステムの構築等,新たな歯科医療の提供体制が必要となってきている.また,平成30年度診療報酬改定では「医療安全」と「地域連携」という歯科医療管理の分野がキーワードとなった.
 本書は,これら歯科医療管理に関する総合的な事項を伝えるために,内容を次の5つの編に分け構成した.第I章:序説(歯科医療と歯科医療管理),第II章:歯科医療管理基本的事項(歯科医療・歯科医療の法的性格・歯科診療所の開設),第III章:歯科医療安全(歯科診療所における医療安全・診療所管理と医療監視・歯科医療事故への対応・医療情報管理・医事紛争と処理),第IV章:医療連携及び地域包括ケア(医療制度・医療連携),第V章:かかりつけ歯科医機能の強化(かかりつけ歯科医),これにより従来の診療室にとどまる「診療所完結型歯科医療」から,地域包括ケアシステムで求められている「地域完結型歯科医療」と歯科医師の将来展望にまで触れている.
 本書の制作には,多くの歯科大学・歯学部の教育関係者及び歯科開業医や法律等の各分野の専門家の方々にご協力をいただいた.各執筆者に敬意を表するとともに,本書の出版に労を費やしていただいた医歯薬出版株式会社に感謝を申し上げたい.
 平成30年7月
 一般社団法人 日本歯科医療管理学会
 理事長 白土 清司
I編 序説
 CHAPTER 1 歯科医療と歯科医療管理
  I 歯科医療管理とは
  II 「歯科医療管理」と「歯科医療管理学」
  III 歯科医療と社会
  IV 本書の目的と構成
II編 歯科医療管理基本的事項
 CHAPTER 1 歯科医療
  I 歯科医療と患者の権利
  II 歯科医療と倫理
   1.倫理,道徳,法の違い
   2.医療と倫理
  III 歯科医療とコンプライアンス
   1.コンプライアンスとは何か
   2.社会の変化とコンプライアンス
   3.医療機関とコンプライアンス
   4.医療機関にとってのコンプライアンスの範囲
   5.医療機関のコンプライアンスを促進させるための活動
   COLUMN もう1つのコンプライアンス
  IV DOSとPOS
   1.DOS,POSとは
   2.POSの必要性と問題点
   3.POSの基本的構造
   4.症例
 CHAPTER 2 歯科医療の法的性格
  I 歯科医療の法的意義
   1.歯科医師の社会的役割
   2.日本国憲法第25条,第13条
   3.歯科医師の義務
   4.歯科医業
   COLUMN 医道審議会で歯科医師の行政処分が行われる事例
  II 歯科医療と医療法
   1.医療法の沿革
   2.医療法の目的
   3.医療法の理念
   4.国及び医療関係者の責務
   5.医療法による医療機関の定義
   6.医療機関の開設と管理
   7.医療機関の指導監督
   8.医業等に関する広告制限
   9.広告可能な診療科名
   10.医療法人制度
   11.都道府県医療審議会
   12.安全・安心,良質な医療の提供
   13.2025年に向けた医療提供体制
  III 歯科医療と健康保険関連法
   1.健康保険法
   2.国民健康保険法
   3.高齢者の医療の確保に関する法律
   4.その他の法律
  IV 歯科口腔保健の推進に関する法律(歯科口腔保健法)
   1.概要
   2.法律の目的と基本理念
   3.歯科医療関係者などの責務
   4.公共団体の施策と実施体制
   5.歯科口腔保健を進めるための基本的事項
   6.法制定後の施策と今後
 CHAPTER 3 歯科診療所の開設
  I 歯科診療所の開設プロセス
   1.歯科診療所開設に関する基本的プロセスと特徴
   2.開設における諸届け及び申請
  II 歯科診療所開設時の検査
   1.開設にかかわる保健所の立入検査(確認検査)
   2.消防署などの立入検査
  III 歯科診療所の従業員
   1.歯科診療所の従業員(スタッフ)
   2.募集・採用
   3.労働保険(労働者災害補償保険,雇用保険)
   4.労働契約
   5.就業規則
  IV 歯科診療所の設備
   1.歯科診療所の開設時の設備の特徴と管理
   2.医療安全にかかわる管理
  V 建設と建物管理
   1.歯科診療所の建設
   2.法的手続き,法的具備条件
   COLUMN 歯科診療所を閉鎖するときに必要な手続き
III編 歯科医療安全
 CHAPTER 1 歯科診療所における医療安全
  I 医療法における医療安全
   1.義務化されている項目
   2.安全管理分野ごとの対策
  II 医療機関における医療安全対策
   1.医療事故とは
   2.医療事故の発生要因・ヒューマンエラー
   3.医療事故の事故分析手法
   4.医療事故を防ぐために(含む医療事故調査制度)
  III 感染予防管理
   1.感染対策マニュアルと院内感染管理システム
   2.スタンダードプリコーション
   3.職員(従業員)教育と管理
   4.医療廃棄物
   5.感染対策と経済的負担
  IV 院内医薬品・歯科材料の管理
   1.医薬品安全管理責任者による管理
   2.偶発症及び全身疾患増悪時等の事前対応
   3.海外から購入する医薬品に関して
  V 医療機器の管理
   1.医療機器保守管理責任者による管理
   2.特定化学物質障害予防規則―ホルマリン殺菌器の扱い
  VI 災害時の対応
   1.災害への事前対応
   2.災害時の対応
 CHAPTER 2 診療所管理と医療監視
  I 診療用放射線装置の管理
   1.歯科で用いられる主な診療用放射線装置の医療法上の分類
   2.診療用エックス線装置の防護
   3.放射線測定器
   4.放射線の防御
   5.照射録の記載
   6.放射線の照射
   COLUMN 保健所の立ち入り検査におけるエックス線関連の指摘事項
  II 医療廃棄物の処理・管理
   1.分別
   2.梱包
   3.施設内における移動
   4.施設内における保管
   5.容器の表示
   6.施設内における中間処理
   7.在宅医療における廃棄物の処理
   COLUMN グルタールアルデヒドの取り扱い
  III 院内の掲示
   1.掲示が義務づけられている事項
   2.掲示が推奨されている事項
  IV 保健所の立入検査
   1.立入検査までの流れ
   2.立入検査当日の主なチェック項目
   COLUMN 保健所による立入検査の実態は?
 CHAPTER 3 歯科医療事故への対応
  I 医療危機管理
   1.現代医療の宿命―安全を脅かす状況
   2.歯科医師に求められる管理能力
  II 医療過誤の民事・刑事責任
   1.民事責任
   2.刑事責任
  III 医療過誤の行政責任
  IV 医療過誤の防止
   1.医療過誤の範囲
   2.医療事故から学ぶべきこと
   3.具体的な医療過誤防止策
 CHAPTER 4 医療情報管理
  I 医療情報管理とは
   1.医療情報の定義
   2.医療情報の特徴
   3.医療情報の標準化
   4.医療情報の一次利用と二次利用
   5.医療情報の共有
  II 診療録
   1.診療録とは
   2.記載にあたっての注意点
   3.診療情報の提供
  III 電子診療録
   1.診療情報電子化の概念
   2.診療録の電子化
   3.診療情報電子保存の3基準
   4.電子診療録の例
   5.電子データの二次利用
   6.情報のコントロール権
   7.電子診療録が目指すもの
  IV 医療と個人情報保護法
   1.個人情報の保護に関する法律(個人情報保護法)
   2.医療機関における個人情報の保護
  V 診療情報開示の具体的な流れ
   1.診療記録の開示に関する手続
 CHAPTER 5 医事紛争と処理
  I 医事紛争の原因と防止
   1.医事紛争の概要
   2.医事紛争の原因
   3.医事紛争の流れ
   4.医事紛争の防止(予防)
  II 医事紛争の解決
   1.医事紛争の解決とは
   2.医事紛争解決の視点
   3.誠意ある説明,対応の重要性
   4.示談
   5.判決に至る場合
   6.裁判以外の医事紛争解決のための仕組み,手続
IV編 医療連携及び地域包括ケア
 CHAPTER 1 医療制度
  I 日本の医療制度のあゆみ
   1.近代の医療制度のはじまり(歯科医師法制定まで)
   2.公的な医療保険制度の開始と歯科医療制度
   3.第二次世界大戦後の医療制度と国民皆保険制度
   4.人口の急速な高齢化と経済基調の変化(1980年代以降の流れ)
  II わが国の医療制度の特徴
   1.国民皆保険制度と公的医療保険での保障
   2.フリーアクセス
   3.安価な患者負担
   4.医療制度のこれからの展開
  III 国民皆保険制度の特徴と歴史
  IV 医療保険制度の仕組みと種類
   1.医療保険の種類
   2.保険給付の種類
   3.医療保険制度における診療報酬
  V 介護保険制度
   1.制度概要
   2.保険給付に必要な手続き
   3.保険給付と介護報酬
   4.費用負担の仕組み
   5.口腔関連介護サービス
   6.介護予防の導入と改編
   7.今後の課題
  VI セカンドオピニオン
   1.セカンドオピニオンとは
   2.セカンドオピニオンの利点
   3.セカンドオピニオンの進め方
   4.セカンドオピニオンの前に
  VII 生活保護による医療扶助
   1.生活保護制度
   2.申請保護の原則
   3.医療券等
   4.給付要否意見書
   5.病状調査
 CHAPTER 2 医療連携
  I 地域完結型医療の背景
   1.4人に1人が高齢者という社会
   2.高齢化に伴う変化
   3.国民が高齢社会に求めること
  II チーム医療
   1.チーム医療の背景と歯科
   2.歯科診療所におけるチーム医療
   3.訪問歯科診療でのチーム医療
   4.チーム編成における専門職種
  III 地域包括ケアシステム
   1.地域ケア会議
  IV 医科歯科連携事例
   1.歯科と多職種との連携―臼杵市(大分県)での事例―
   2.在宅高齢者の口腔管理―大森歯科医師会(東京都)での事例―
  V コデンタルスタッフの業務範囲
   1.歯科衛生士の業務範囲
   2.歯科技工士の業務範囲
  VI 就業歯科衛生士・就業歯科技工士数
   1.就業歯科衛生士,就業歯科技工士数の推移
   2.歯科衛生士の問題
   3.歯科技工士の問題
  VII 歯科医療機関数
   1.歯科医療機関数の推移
   2.歯科医療機関の特徴と問題点
  VIII 歯科技工の動向
   1.歯科技工所の現状
   2.海外歯科技工の状況とその問題点及び今後の展望
V編 かかりつけ歯科医機能の強化
 CHAPTER 1 かかりつけ歯科医
  I かかりつけ歯科医とかかりつけ歯科医機能
   1.かかりつけ歯科医とは
   2.かかりつけ歯科医機能とは
  II かかりつけ歯科医の機能の経緯
   1.「かかりつけ歯科医」の経緯
   2.地域包括ケアシステムでの「かかりつけ歯科医」
   3.「かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所」が示したもの
  III 今も求められる「かかりつけ歯科医像」
   1.「かかりつけ歯科医」のあり方について
   2.「かかりつけ歯科医」の意義とその役割
   3.「かかりつけ歯科医」の地域での役割
   4.むすびに〜真の「かかりつけ歯科診療所」に向けて〜

 参考資料