やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 本書は,これまで医歯薬出版が発行してきた『新口腔保健学』と『新予防歯科学』を一体化させ,口腔保健分野における新たな時代を見据えて企画された出版物である.
 歯科医師には,歯科医師法第1条にあるように「歯科医療及び保健指導を掌ることによって,公衆衛生の向上及び増進に寄与し,もって国民の健康な生活を確保するものとする」という明確な任務がある.そして,歯科医療は臨床であり,保健指導には患者さんに対する個別で臨床的な保健指導から,学校保健や地域保健のような集団に対する保健指導もある.これらの臨床的な個別支援と集団に対する支援の両方の支援をもって国民の健康な生活を確保するのが歯科医師である.
 『新口腔保健学』と『新予防歯科学』の前身である『口腔保健学』と『予防歯科学』は,それぞれ1996年,1983年に初版本が刊行され,長い歴史の中で改訂を経て,予防臨床と地域保健活動の基礎から応用までを,学修する者にとってわかりやすく記載されてきた.
 しかし,昨今のわが国の口腔保健を取り巻く環境は教育もパラダイムシフトを余儀なくされている.2016(平成28)年9月の総務省発表によると,高齢者人口は3,461万人,総人口に占める割合は27.3%となり,21%(超高齢社会)になって久しい.特に,女性の高齢者割合が30%を超えている.この先も高齢者人口は増加の一途をたどり,2042(平成54)年の約3,900万人でピークを迎えるが,その後も,75歳以上の人口割合は増加し続けることが予想されている.このような状況の中,団塊の世代(約800万人)が75歳以上となる2025(平成37)年以降は,国民の医療・介護の需要がさらに増加することが見込まれており,いわゆる2025年問題に対して,国は「重度な要介護状態となっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう,住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される地域包括ケアシステムの構築」を実現すべく施策を展開している.
 「むし歯の洪水時代」といわれた1970(昭和45)年代から,わずかに40年が経過しただけであるが,歯科保健医療は福祉を含めて,これまで経験したことのない保健医療福祉の一体改革が必要な時代に突入したといえよう.いまや,口腔基礎医学の知識と予防臨床,そして地域保健医療福祉の知識と実践力を有する歯科医師が必要欠くべからざる存在になっている.
 本書は,このような時代において,国民の健康と豊かな生活,そして満足のいく人生に必要な知識と技術を一体化して,現在から未来の歯科医師に届けるべく,多くの専門家の力を結集して作製した教科書であり実用書である.多くの歯科医師が本書によって,来るべき日本社会の中で歯科医師がいかに重要な任務を背負っているのかを認識して活躍していただくことを心から願うものである.
 2017年2月
 安井利一 宮ア秀夫
 鶴本明久 川口陽子
 山下喜久 廣瀬公治
第1編 口腔保健・予防歯科学総論
 第1章 序論(宮ア秀夫)
  1.口腔保健・予防歯科学とは
   1)口腔保健・予防歯科学の目的と意義
   2)口腔保健・予防歯科学の定義
   3)口腔保健・予防歯科学の興隆および展開
   4)口腔保健・予防歯科学の活用
  2.健康の概念
   1)健康とは
   2)疾病予防の概念
  3.口腔保健の現状と今後
   1)プライマリヘルスケア
   2)ヘルスプロモーション
   3)わが国の健康増進対策
  4.歯科医師の任務と口腔保健
   1)口腔保健と行動科学
   2)口腔保健と生命倫理
 第2章 口腔の組織と発育・機能(於保孝彦)
  1.口腔の組織と発育
   1)口腔の組織
   2)口腔の発育
  2.口腔の機能
   1)摂食嚥下
   2)発声と構音
   3)表情と審美性
   4)味覚
   5)唾液の役割
 第3章 口腔バイオフィルムの形成と病原性(吉田明弘)
  1.ペリクル
   1)ペリクルの構成成分
   2)ペリクルの形成
   3)ペリクルの生理機能
  2.プラーク(歯垢)
   1)歯肉縁上プラーク
   2)歯肉縁下プラーク
   3)プラークの形成機序
   4)プラークの病原性
   5)口腔バイオフィルムとしてのプラーク
  3.歯石
   1)歯肉縁上歯石と歯肉縁下歯石
   2)歯石の組成
   3)歯石の形成機序
   4)歯石の病原性
   5)歯石と齲蝕・歯周病
  4.舌苔
   1)舌苔の組成
   2)舌苔と口臭
  5.その他の沈着物
   1)外因性着色
   2)内因性着色
   3)その他の着色
 第4章 齲蝕
  1.齲蝕の概念
   1)齲蝕の定義(安細敏弘)
   2)齲蝕の進行
   3)齲蝕の病因論
  2.齲蝕の発生要因
   1)齲蝕の発生要因にかかわる変遷
   2)宿主と歯の要因(宿主要因)
   3)微生物の要因(病原要因)
   4)飲食物の要因(環境要因)(岩ア正則)
   5)生活環境の要因(環境要因)
  3.フッ化物の応用(磯ア篤則)
   1)フッ化物とは
   2)フッ化物応用法
   3)フッ化物による齲蝕予防機序
   4)フッ化物の代謝
   5)過量フッ化物の為害作用
 第5章 歯周病(天野敦雄)
  1.歯周病の定義と分類
   1)歯周病の定義
   2)歯周病の特徴
   3)歯周病の分類
  2.歯周病の発生要因
   1)病態と歯周組織の変化
   2)歯周病の発症機序
   3)歯周病に関与するプラーク細菌
   4)歯周組織における免疫反応と炎症反応
   5)歯周病の病態を修飾する因子
   6)全身の健康への影響
 第6章 口臭(宮ア秀夫)
  1.口臭の定義と分類
   1)口臭の定義
   2)口臭の分類
  2.真性口臭の原因
   1)口腔由来の口臭
   2)全身由来の口臭
  3.口臭による障害
   1)対人関係,社会性の障害
   2)歯周組織の障害
 第7章 その他の口腔疾患と予防
  1.歯の酸蝕症(千葉逸朗)
   1)職業性の歯の酸蝕症
   2)食事性の歯の酸蝕症(トゥースウェア)
  2.外傷
   1)口腔外傷の原因
   2)口腔外傷の予防とマウスガード
  3.口腔粘膜疾患・口腔癌
  4.不正咬合(於保孝彦)
   1)不正咬合の種類
   2)不正咬合の評価法
   3)不正咬合の予防
  5.顎関節症(千葉逸朗)
   1)局所因子
   2)精神的・社会因子
 第8章 口腔と全身の健康
  1.ライフスタイルと口腔保健(齋藤俊行)
   1)食生活
   2)喫煙
   3)飲酒
   4)ストレス
  2.全身の疾患・異常と口腔保健(嶋ア義浩)
   1)糖尿病・腎疾患
   2)循環器疾患・心疾患
   3)メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)
   4)呼吸器疾患
   5)骨粗鬆症
   6)癌
   7)早産・低体重児出産
   8)フレイル,ロコモティブシンドローム
 第9章 行動科学と健康教育(鶴本明久)
  1.行動科学
   1)行動科学の成立
   2)口腔保健における行動科学の意義
   3)保健行動のモデル
  2.健康教育
   1)健康教育の定義
   2)健康教育の目的
   3)健康教育の要素
 第10章 口腔保健と疫学
  1.口腔疫学
   1)疫学の定義と目的(山下喜久)
   2)疫学研究方法
   3)データの種類と分類
   4)調査と健康管理のための集団口腔診査(古田美智子)
   5)口腔診査法
   6)EBM
  2.口腔保健の指標(竹下 徹)
   1)齲蝕の指標
   2)歯周病の指標
   3)口腔清掃状態の指標
   4)歯のフッ素症の指標
   5)不正咬合の指標
   6)WHOにおける自己評価の指標
 第11章 国民の口腔保健状況(川原一郎)
  1.口腔保健の統計調査
   1)歯科疾患実態調査
   2)学校保健統計調査
   3)患者調査
   4)国民生活基礎調査
   5)国民健康・栄養調査
第2編 予防歯科臨床
 第1章 齲蝕予防
  1.検査・診断(花田信弘)
   1)リスクの早期発見のための検査・診断
   2)疾病の早期発見のための検査・診断
  2.予防・管理
   1)リスクの早期発見後の予防・管理
   2)疾病の早期発見後の予防・管理
  3.フッ化物の局所応用
   1)フッ化物の齲蝕予防機序
   2)唾液とフッ化物の役割
   3)フッ化物の局所応用法(磯ア篤則)
  4.予防填塞(シーラント)(花田信弘)
   1)小窩裂溝齲蝕のリスクの評価
   2)材料と術式
   3)効果と適応
 第2章 歯周病予防(伊藤博夫)
  1.歯周病の検査・診断
   1)歯周組織の状態についての検査
   2)プラーク・歯石の検査
   3)リスクファクターの検査
   4)問診(医療面接・質問票調査)
   5)血液検査,唾液検査などの検体検査
   6)口臭検査
   7)歯周病の診断
  2.歯周病の予防・管理
   1)リスクの診断
   2)リスクの管理(排除・軽減)
   3)歯周病予防の場面
 第3章 口臭予防(宮ア秀夫)
  1.検査・診断
   1)官能検査
   2)ガスクロマトグラフィ検査
   3)半導体ガスセンサー検査
  2.予防・管理
   1)舌苔の制御
   2)その他の口腔環境の改善
   3)原因となる口腔疾患の治療
   4)医科との連携歯科診療
 第4章 プラークコントロール(森田 学)
  1.プラークコントロールの分類
   1)セルフケア,プロフェッショナルケア,コミュニティケア
   2)機械的プラークコントロールと化学的プラークコントロール
   3)歯肉縁上プラークコントロールと歯肉縁下プラークコントロール
  2.ブラッシング
   1)歯ブラシ
   2)ブラッシング方法
  3.歯間清掃
   1)デンタルフロス
   2)歯間ブラシ
   3)歯間刺激子
   4)口腔洗浄器
  4.プラークコントロールに対する動機づけ
  5.PMTC・PTC
  6.歯磨剤・洗口剤
   1)歯磨剤
   2)洗口液(洗口剤)
   3)義歯洗浄剤
 第5章 禁煙支援・指導(埴岡 隆)
  1.タバコ使用への介入の背景
   1)喫煙・受動喫煙の健康影響
   2)禁煙介入を行う理由
   3)歯科で禁煙介入を行う理由
  2.禁煙支援・指導の実際
   1)WHOの簡易的禁煙支援
   2)喫煙状況の質問(Ask)と禁煙の助言(Advice)
   3)禁煙の準備状況の評価(Assess)
   4)禁煙の準備ができていない患者への動機づけ支援
   5)禁煙を希望する患者への禁煙支援(Assist)
   6)禁煙した患者に対する支援と調整(Arrange)
   7)非喫煙患者に対する受動喫煙を避ける支援
 第6章 食育と食の支援(食生活指導,栄養指導)(川口陽子)
  1.食生活と健康課題
  2.食事摂取基準と食事バランスガイド
  3.間食指導
  4.ライフステージと食の支援
 第7章 高齢者・有病者の口腔ケア(小関健由)
  1.口腔ケアの定義
   1)口腔へのかかわりと口腔のケア
   2)口腔管理と口腔ケア
  2.口腔機能向上支援
   1)口腔の健康とフレイル予防
   2)口腔機能向上プログラム
  3.訪問指導
   1)訪問指導時のチーム医療
   2)在宅訪問指導時の留意点
   3)施設訪問指導時の留意点
  4.摂食嚥下指導
  5.周術期口腔管理
   1)周術期における口腔管理の意義
   2)医科処置に対応した口腔管理の留意点
   3)周術期口腔管理の支援計画の策定
第3編 地域口腔保健
 第1章 地域口腔保健序論
  1.地域保健の概要(安井利一)
   1)地域保健の概念
   2)地域社会と地域での生活
   3)地域保健に関する法律
   4)地域保健に関係する組織
   5)地域保健の関係職種
  2.健康増進法と国民健康づくり(大内章嗣)
   1)地域保健の増進
   2)地域と学校,職場との連携
   3)健康づくり対策の沿革
   4)健康増進法と健康日本21
   5)8020運動と「歯・口腔の健康」
   6)歯科口腔保健の推進に関する法律(歯科口腔保健法)
  3.地域口腔保健活動の進め方
   1)活動の場
   2)地域口腔保健活動を進める際の基本的考え方
   3)地域診断
   4)活動計画の立案と実践
   5)活動の実践と評価
   6)個人情報の保護
  4.地域活動と口腔保健医療
   1)地域口腔保健をめぐる諸問題
   2)地域と歯科医療施設の連携
   3)生涯を通じた口腔保健管理
  5.国際保健と地域保健
 第2章 母子の口腔保健
  1.母子保健の概要(廣瀬公治)
   1)母子保健の意義
   2)母子保健に関する法律
   3)母子保健事業
  2.妊産婦の口腔保健
   1)口腔の特徴
   2)妊産婦に対する口腔保健管理と指導
  3.乳幼児の口腔保健(小松ア 明)
   1)乳幼児口腔保健の現状と目標
   2)歯と口腔の疾病・異常
   3)乳児期の口腔保健指導
   4)1歳6か月児歯科健康診査
   5)3歳児歯科健康診査
   6)4,5歳児の口腔保健
   7)児童虐待と歯科医療
 第3章 学校での口腔保健(三宅達郎)
  1.学校保健の概要
   1)学校保健の意義と領域
   2)学校保健の現状
   3)学校保健関連法規
   4)学校保健関係者
  2.児童生徒の口腔保健教育
   1)歯・口の健康づくり
   2)学校歯科保健の現状
  3.学校歯科医と口腔保健管理
   1)学校歯科医の職務
   2)歯・口腔の健康診断
   3)健康相談,保健指導
   4)その他の保健管理
 第4章 成人の口腔保健(岸 光男)
  1.成人保健の概要
   1)成人保健の特徴
   2)成人保健に関連する法律
   3)成人保健の実態
  2.成人の口腔保健の概要
   1)成人の口腔の特徴
   2)成人の口腔保健状況の特徴
   3)成人の口腔保健事業
 第5章 職域での口腔保健(尾ア哲則)
  1.産業保健の概要
   1)産業保健の現状
   2)産業保健活動
  2.職場における口腔保健
   1)歯科医師による健康診断
   2)健康保持増進対策での口腔保健
   3)職場での口腔保健管理
  3.口腔にみられる職業性疾患
   1)歯の酸蝕症(職業性歯の酸蝕症)
   2)その他の職業性口腔疾患
 第6章 高齢者の口腔保健(山本龍生)
  1.高齢者保健の概要
   1)高齢者保健の特徴
   2)高齢者保健に関する法律
   3)高齢者保健の実態
   4)地域包括ケアシステム
  2.高齢者の口腔保健の概要
   1)高齢者の口腔の特徴
   2)高齢者の口腔保健状況の特徴
   3)高齢者の口腔保健事業
 第7章 障害児・者の口腔保健(弘中祥司)
  1.障害の概念
   1)法と障害のとらえ方
   2)口腔保健の現状と今後
  2.障害者の口腔保健上の特性
   1)歯科治療の困難性
   2)歯科保健指導,管理とその困難性
   3)障害者の特性
第4編 国際口腔保健と災害時口腔保健
 第1章 国際口腔保健(小川祐司)
  1.国際保健
   1)開発途上国における健康問題
   2)わが国における国際保健問題
  2.国際協力
  3.国際保健医療協力機関
   1)世界保健機関(WHO)
   2)政府援助機関
   3)非政府機関(NGO/NPO)
  4.世界の口腔保健状況と口腔保健従事者
   1)口腔保健状況の国際比較
   2)歯科医師数の国際比較
  5.開発途上国における口腔保健医療協力
   1)開発途上国に必要な協力は何か
   2)WHOが提示した開発途上国における基本戦略
  6.国際化に伴うわが国の保健医療問題
  7.世界の口腔保健目標
 第2章 災害時の口腔保健(中久木康一)
  1.災害時の歯科の役割
  2.フェーズごとの歯科保健医療対策
  3.多職種連携とコーディネーターの役割
  4.災害時における地域歯科保健体制の継続

 本書で使用した英語略称
 文献
 索引