『口腔インプラント治療指針2024』発刊にあたって
公益社団法人 日本口腔インプラント学会
理事長 細川隆司
本学会は日本歯科医学会の専門分科会の中で口腔インプラントに関する研究を推進し臨床技術の向上に寄与する最大規模の学会として活動し発展してきました.本学会の医学系学術団体としての主要な事業としては,学術大会の開催,学術雑誌(英文誌・和文誌)の編集・発行,そして会員の専門性認定制度の運用に加えて,本書のような治療指針(診療ガイドライン)の作成があげられます.
いわゆる診療ガイドラインには,コンセンサスベースで作成されるものと,エビデンスベースで作成されるものがあります.本書は,前者,すなわちコンセンサスベースで作成された診療ガイドラインとして12年前の2012(平成24)年に初版が発行されて以来,ほぼ4年ごとに改訂され,内容が刷新されてきました.コンセンサスベースのガイドライン作成においては,各項目の執筆者の記載内容に関して専門家のグループ(エキスパートパネル)により議論が行われ,修正が加えられ,日常診療でのベストプラクティスは何か?というところに主眼を置いてつくられています.当然ながら,当学会としては,エビデンスベースのガイドラインの重要性も十分認識しており,現在タスクフォースによって作成が進められているところですが,口腔インプラント治療のすべてをエビデンスベースのガイドラインでカバーすることは現実的でないことに加え,コンセンサスベースのガイドラインの有用性も認識し,今回も口腔インプラント治療指針の改訂を行うことと致しました.
本書は,前述のようにコンセンサスベースで作られたガイドラインであり,専門家の多数意見が必ずしもエビデンスと一致していない可能性は否定できません.しかし,今回の改訂においては,現時点におけるエビデンスを可能な限り収集,分析し,できるだけエビデンスに基づいた指針,記載内容となるよう,慎重な編集作業が進められました.
今回の改訂にあたって,困難な仕事を的確に進めて頂いた教育・研修担当理事の澤瀬 隆先生,教育・研修委員会の先生方,そして学術担当常務理事の近藤尚知先生に心から御礼申し上げます.
本書が,臨床医にとって日常臨床の道しるべとなり,患者様の口腔機能回復,QoLの維持・向上と国民の健康寿命の延伸にいくらかでも寄与できれば望外の喜びとするところです.
令和6年4月
『口腔インプラント治療指針2024』編集の序
口腔インプラント治療は,欠損補綴の一手法として広く認知され,患者満足度の高さから,多くの歯科医師が日々の診療に取り入れています.公益社団法人日本口腔インプラント学会では,安全・安心な口腔インプラント治療実践の拠り所として,2012年に『口腔インプラント治療指針』を発刊し,4年ごとにその改訂を行ってまいりました.そして本年2024年に4巻目となる『口腔インプラント治療指針 2024』を発刊いたします.
2023年,我が国は全都道府県で人口減少フェーズに入り,高齢化率が29%を超え,介護,医療費とさまざまな社会問題が取り沙汰されています.インプラント治療を希望する患者の急速な高齢化も報告され,今後の高齢者のメインテナンスは大きな課題となっています.また一方で,近年のデジタルデンティストリーの大きな波は,診断から上部構造製作までを通してインプラント治療に大きな影響を与え,インプラント治療はもはやデジタル抜きには語れないといっても過言ではありません.
本改訂では,2020年版で刷新された,診察・検査・診断から,治療方法,メインテナンスに至るまでの,インプラント治療の実情を鑑みた一貫した構成に準じ,さらに重複箇所の整理とともに,情報のアップデートを行いました.特に高齢者に多く合併する基礎疾患の理解に関しては,最新の知見を収載することに努め,また口腔インプラント治療へのデジタル技術の応用に関しては,別立ての章として内容の充実を図りました.
本治療指針が,会員の皆様の日々のインプラント治療の道しるべとなることを心から願い改訂いたしましたが,同時に本学会専門医にとりましては,習得しておかなければいけない知識が網羅されています.折しも2021年歯科専門医機構が認定する専門医のみが広告可能とするとの告示を受け,本学会も長年の悲願であった広告可能な専門医への気運が高まっています.本書がステークホルダーである国民に信頼されるインプラント歯科専門医にとっても拠り所となれば幸いです.
本書の執筆に快く協力いただいた先生方,時宜を得たコラムをご寄稿頂いた医療・社会保険委員会の先生方,そして10回を超える編集会議,委員会で,きめの細かい校正を繰り返して頂いた教育・研修委員会委員各位のご尽力と熱意には,心から感謝の意を表します.
令和6年4月
公益社団法人 日本口腔インプラント学会
教育・研修委員会
委員長 澤瀬 隆
『口腔インプラント治療指針2020』発刊にあたって
公益社団法人 日本口腔インプラント学会
理事長 宮ア 隆
現在,インプラントを利用した歯科治療はわが国のみならず世界中で普及し,人類の健康に貢献しています.
日本口腔インプラント学会は,わが国における口腔インプラント治療に対して責任を有する学会として,口腔インプラント学に関わる研究の推進,学術講演会の開催,学会誌ならびに書籍等の出版,口腔インプラント治療に係る専門職の認定制度ほかの事業を行ってきました.
本学会は川添堯彬理事長時代の2011年10月に公益社団法人格を取得しましたが,当時すでに医療安全に配慮して国民に安心な医療を提供するための治療指針の作成作業に取り掛かかっていました.その作業途中の同年12月に国民生活センターから「歯科インプラント治療に係る問題-身体的トラブルを中心に-」が報道発表されました.そして,消費者(国民)が歯科医師及び歯科医療機関において一定水準以上の治療を受けられるよう,歯科インプラント治療についての基準や治療のプロセス全体を網羅するようなガイドラインの作成を関係学会に対して働きかけるように,日本歯科医師会,歯科関連学会,行政に要望がなされました.
これに応えるべく,川添執行部では教育委員会の渡邉文彦委員長を中心に作業を急ぎ,2012年に『口腔インプラント治療指針』を発刊しました.そして学会員全員に配布するとともに,学会ホームページで公開して広く歯科医療関係者が利用できるようにしました.
その後,渡邉文彦理事長時代には,医療・社会保険委員会の塩田 真委員長のもとで2015年に医療安全に焦点を当てた『口腔インプラント治療とリスクマネジメント』を刊行しました.さらに教育・研修委員会の矢島安朝委員長のもとで『口腔インプラント治療指針』の改訂作業を行い,2016年に『口腔インプラント治療指針2016』を発刊しました.
この指針を活用して,学会が一丸となって医療安全と安心な医療の提供に努めてまいりましたが,残念なことに,2019年3月には,再度国民生活センターから「あなたの歯科インプラントは大丈夫ですか-なくならない歯科インプラントにかかわる相談-」が報道発表されました.その中ではインプラント治療の有効性も評価されていますが,治療指針に沿っていない治療が行われていることから,治療指針のさらなる周知が要望されました.今回の要望先は,日本歯科医師会,日本歯科医学会,日本歯科医学会連合,日本歯科専門医機構,日本口腔インプラント学会,および日本顎顔面インプラント学会でした.本学会はこれらを代表して,「日本口腔インプラント学会では「治療指針」「リスクマネジメント」等を整備し,学術大会,講演会,研修会,セミナー等のあらゆる機会を通じて会員への医療モラルの周知を徹底し,さらに非会員に対してもホームページでの公開により学習可能な体制を一層充実させる」と回答いたしました.
このような状況下で,今回の改訂作業は『口腔インプラント治療とリスクマネジメント』の内容を『口腔インプラント治療指針』に一本化して,現在の口腔インプラント治療の標準的な目安として再編成し,会員ならびに歯科関係者が一層利用しやすい内容の治療指針をめざしました.
近藤尚知委員長以下の教育・研修委員会の先生方,ならびに西郷慶悦委員長以下の医療・社会保険委員会の先生方には両書の内容のすり合わせに多大なご尽力をいただきました.編集作業に携わった多くの先生方,学会事務局,そして医歯薬出版編集部に深甚なる感謝の意を表します.
本書が学会員ならびに歯科医療関係者に広く活用されて国民の健康に貢献できることを願ってやみません.
令和2年6月10日
『口腔インプラント治療指針2020』編集の序
口腔インプラント治療は,現在の欠損補綴に必要不可欠な治療法となり,多く歯科医師が日々の診療に取り入れています.医療の発展が日進月歩であることはもとより,インプラント治療も,歯科医師の技術向上と新規材料の導入によって,大きく進歩してきました.日本口腔インプラント学会では,安全に口腔インプラント治療を行うためには治療指針が必要であることを再認識し,2012年に『口腔インプラント治療指針』を発刊し,4年ごとにその改訂を行ってきました.そして,2015年には『口腔インプラント治療とリスクマネジメント』を発刊し,国民に対して安全・安心なインプラント治療を提供できるよう,努めて参りました.
今回の『口腔インプラント治療指針』と『口腔インプラント治療とリスクマネジメント』の改訂においては,教育・研修委員会と医療・社会保険委員会で合同作業部会を編成し,この2冊の重複部分を統合して合冊にし,歯科医師にとってより使いやすい治療指針とすることを検討しました.加えて,超高齢社会における歯科治療,そして歯科治療へのITの導入等,現代歯科医療のニーズに合わせた内容の充実を図りました.
本改訂では,構成を目次から見直し,診察・検査・診断から,治療方法,メインテナンスに至るまで,現在のインプラント治療の実情を鑑みて,多くの項を書き直しました.「診察・検査と診断」の章においては,研究推進委員会の協力も得て,全身状態から局所へと項目を整理し,機能系の検査方法についても紹介しています.また,新しい治療法が開発されるたびに,未承認・適応外といった制限が出てくることから,現在の倫理規定等と照らし合わせて,その注意事項を書き加えています.さらには,用語集,実習書との整合性も確認して,できる限り用語の統一も図り,会員にとっての良書となることを目標に改訂を進めました.
改訂期間中に,新型コロナウイルスの感染拡大による緊急事態宣言が発せられ,すべての委員会が延期,対面会議自粛という,想像もしなかった非常事態となりました.そのような状況下,本改訂作業部会は編集会議をオンライン・ミーティングの形態に移行して,編集作業を継続してきました.そして,委員の任期内に『口腔インプラント治療指針2020』を発刊できたことは感慨深いものとなりました.これもひとえに,両委員会の先生方による,言葉では言い尽くせない熱意と尽力のおかげであったことと,心より感謝の意を表します.
令和2年6月10日
公益社団法人 日本口腔インプラント学会
教育・研修委員会
委員長 近藤尚知
医療・社会保険委員会
委員長 西郷慶悦
『口腔インプラント治療指針2016』発刊にあたって
公益社団法人 日本口腔インプラント学会
理事長 渡邉文彦
口腔を健康に保つことは全身の健康維持に重要である.口腔インプラント治療は歯を失った際に質の高い口腔機能を回復する有力な手段となる.しかし一方で,インプラント体埋入などの外科治療や骨・軟組織のマネジメントなどを伴うことから,全身状態の把握と適切な診断および治療技術が必須となる.また埋入されたインプラント体の支台に上部構造を装着し,機能的,審美的な回復を図り,さらに長期間これを維持するためのメインテナンスに対する包括的治療技術が求められる.インプラント治療後の経過が10年,20年,さらにそれ以上長期になると,インプラント自体に問題がなくても,患者さんの全身状態が損なわれることもあり,要介護状態になるなど口腔ケアの問題も生じる.このように口腔インプラント治療は,通常の歯科治療以上に全身状態の評価が重要であり,そのための生体解剖,材料,免疫,組織,病理などの基礎知識,さらに口腔外科,補綴,歯周,放射線,麻酔等のさまざまな歯科臨床の知識や治療技術が求められる.
厚生労働省は平成17(2005)年6月に今後の医療安全対策についての報告書をまとめ,平成19年には医療安全を確保するための措置等を示している.これを踏まえ,日本口腔インプラント学会は平成24年に『口腔インプラント治療指針』を発刊,口腔インプラント学会会員全員へ配布するとともに,会員以外のインプラント治療に携わる医療従事者,また患者さんや国民の方々に必要な知識を提供するため,学会のホームページに同じ内容を掲載し,現在までに多くのアクセスがある.
初版発行から4年が経過し,この間新しい情報や研究論文,エックス線画像による診断を元にインプラント埋入手術を行うなど,新しい技術が導入されてきた.そのため矢島安朝教育・研修委員長,松浦正朗作業部会長のもとで改訂,編集作業を行い,この度2016年版を上梓することとなった.委員会の方々,執筆に携わった方々に,厚く御礼を申し上げる.
治療指針は英語ではガイドラインと訳されるが,我々の意図するところは臨床の現場で実際に活用できる治療に対しての指針である.日常の臨床現場ではさまざまな患者さんの状況が予測される.規則のようにがんじがらめに縛るものであっては有効に活用できず,またガイドライン自体が独り歩きすることにもなりかねない.このような点を重視し,臨床の現場で使え,患者さんや国民の方々にも理解され,受け入れられる治療指針を目指した.
口腔インプラント治療を行う医療従事者の方々には,是非,手元において日常のインプラント治療に役立てて頂き,国民の皆様には口腔インプラントはどのような治療法であるかを理解するためにも本学会の市民向けホームページの掲載内容と合わせて閲覧して頂きたい.
平成28年3月25日
『口腔インプラント治療指針2016』編集の序
『口腔インプラント治療指針2012』は平成24年6月10日に刊行され,以来,その名のとおり公益社団法人日本口腔インプラント学会の治療指針として専門医ケースプレゼンテーション試験,および専門医,指導医試験の規範として用いられてきた.しかし,その後の口腔インプラント学の臨床研究や関連する基礎研究の進展は著しく,さらにはCT機器やCAD/CAM技術の普及により,インプラント治療は大きく変貌している.そのため,『口腔インプラント治療指針』もその内容の一部が現状と合わない部分が出現し,さらには新たに取り入れなければならない項目も現れ,今期の日本口腔インプラント学会教育・研修委員会では最初の委員会において『口腔インプラント治療指針』の改訂が提案され,『口腔インプラント治療指針2016』の刊行に至った.
今回の改訂では画像診断についてはより広く記述し,解剖の項目を追加し,さらに付録として追記した.全身の診察における全身疾患では糖尿病や高血圧など診断基準が一部変更となり,その内容が更新された.BRONJについては概念の変更が提案されているが,まだ日本におけるポジションペーパーが更新されていないので,概念の変更を記述するに留めた.またインプラント補綴法の項についても項目を増やし,内容を詳細にし,重複した記述は統一した.結果として本改訂により本書は約100頁となり,第1版の約70頁からその内容は大きく増大した.
今回の改訂は現教育・研修委員会作業部会の委員が分担し,さらに作業部会では分担できない項目に関してはご専門の先生方にお願いしました.また改訂作業部会開催の折には渡邉文彦本学会理事長,および矢島安朝教育・研修委員会委員長には毎回参加していただき,多くのアドバイスを得ました.一方,第1版で執筆を担当していただいた先生には無断で修正を加えさせていただいた部分もあります.改訂作業は委員会の2年間の任期中に完了するという制限があったためご容赦いただきたいと思います.
今回の改訂により『口腔インプラント治療指針2012』の不足した部分を補い,古くなった内容を更新し,現状の治療指針としてさらに適正な書としたつもりではありますが,会員の皆様には御一読の上,よろしくご高評を賜りたいと思っております.会員の皆様には本書をお手元に置き,日常のインプラント臨床に役立てていただければ幸いです.
現在の口腔インプラント学の進歩は急速であり,また数年後には本書もその時の現状に合わなくなる部分も発生するものと思われます.教育・研修委員会での審議では4年後には再度,本書の改訂が必要となると考えております.
本書の改訂作業,および新たに追加された項目を担当していただいた先生方に深甚なる感謝の意を表します.
平成28年3月25日
公益社団法人 日本口腔インプラント学会
教育・研修委員会
委員長 矢島安朝
改訂作業部会
部会長 松浦正朗
副部会長 松下恭之
小倉 晋
金田 隆
城戸寛史
文責:松浦正朗
『口腔インプラント治療指針』発刊にあたって
公益社団法人 日本口腔インプラント学会
理事長 川添堯彬
平成16(2004)年に内閣府から出された,“日本21世紀ビジョン”において,国民生活の最大の願いとして,「安全・安心」が取り上げられた.これは国民生活全般を視野に入れた運動であり,食品の安全,水の安全,大気の安全,交通の安全,医療の安全を網羅するものであった.なかでも「医療の安全」は,厚生労働省が国民に対して良質の医療を提供する体制を確保する必要から,厚生労働大臣の緊急のアピールとなった.そして平成17年6月に「報告書:今後の医療安全対策について」がまとめられた.その後,平成18年6月に医療法等の一部改正が行われ,翌年平成19年4月に改正医療法が施行されて,以下の体制等の政策が進展することになった.1〕医療の安全を確保するための措置,2〕院内感染防止について,3〕医薬品の安全管理体制,4〕医療機器の保守点検,安全使用に関する体制の4つである.
医療におけるこれらの動きは,一般医科領域において高度先進医療技術の臨床導入・普及に伴い,あるいはインフォームド・コンセントやPOSなど患者の人格を重視する治療方針の進展にも連動して急速に広がった.特に医療供給者に求められる“医療安全“と,患者側の立場を配慮しての治療に関連した“安心感の提供”が医療供給者や従事者に対して厳しく求められるようになってきた.歯科治療においても,特に“口腔インプラント治療”は,外科的侵襲を伴う手術のリスクや咬合問題での永続性が求められる上でのリスク,また治療費が高額に及ぶ場合など,安全や安心を損なう場合が多くなる.その上医療倫理の問題が絡む場合も少なくない.平成19年には日本歯科医師会は「歯科診療所における医療安全を確保するために」の冊子を作成し,配布した.また,厚生労働省においては日本歯科医学会や日本歯科医師会を通じて,関連学会・協会へ各専門領域の治療に関する「治療指針」や「ガイドライン(GL)」を作成することが要望されていた.
本学会は,すでに平成19年から医療安全重視の立場から「倫理規程」,「倫理審査・懲戒規則」を始め種々の規程・法規整備や,専門医および関連資格制度確立,「口腔インプラント教育基準」作成,口腔インプラント治療に関する教育講座,臨床技術向上講習会,BLS講習会などの制度・活動を,学会年度事業計画に加え実現・実施してきた.さらに口腔インプラント治療の医療安全・安心,専門医と信頼性,ガイドライン(GL)をキーワードとするメインテーマを,平成19年(第37回)の学術大会から平成24年(第42回)まで連続6カ年間取り上げて学会内外にアピールしてきた.
このような経緯の中で,平成23年10月に公益社団法人化の認可が下りた時に厚生労働省においては,引き続き口腔インプラントに関する治療指針またはガイドラインの完成を要望していることを知ったので,早速,本学会の教育委員会(渡邉文彦委員長)で進めてもらっていた作成作業を可及的に平成24年6月の任期中に完成させるようお願いした.渡邉文彦委員長以下執筆者全員の精力的かつ献身的なご努力とご苦労に深甚なる感謝の意を捧げます.
この『口腔インプラント治療指針』は,口腔インプラント治療を行う歯科医師を始めとするすべての歯科医療従事者に理解していただき,患者さんへの診察,検査,評価,診断,治療計画,説明やインフォームド・コンセントなどに活用していただけるもの,そして医療安全と患者さん目線での安心感の提供に役立つものと確信します.
平成24年6月10日
編集の序
口腔インプラント治療は,固定性補綴の実現,残存歯への少ない侵襲,また質の高い審美的・機能的回復が可能なことから,欠損修復の有力な治療法として日常臨床で多くの歯科医師に用いられている.しかし,長期間の良好な予後が報告される一方で,治療の失敗や医療トラブルがマスコミでも報じられている.先般,国民生活センターから日本歯科医学会,日本口腔インプラント学会,日本補綴歯科学会,日本口腔外科学会,日本歯周病学会へ口腔インプラント治療に関する要望書が出され,またNHKでも大きく口腔インプラント治療が取り上げられた.国民も,またマスコミも口腔インプラント治療が素晴らしい治療であることは認識しているものの,医療従事者側の治療技術や知識の不足,医療モラルの不足,患者へのインフォームドコンセントの不足が指摘され,その対応と改善が求められている.
過去10年を振り返ると,治療技術の確立と患者のニーズの高まりから,口腔インプラント治療に取り組む歯科医師が急増してきた.現在,公益社団法人日本口腔インプラント学会の会員数も12,500人となっている.口腔インプラント治療は述べるまでもなく,歯科医師であれば誰もが行うことができる治療であるが,全身的な診断能力や口腔外科治療に関する知識や技術,補綴,歯周,歯科放射線の知識や治療技術はもちろんのこと,解剖,生体材料,組織,病理に関しての広範囲の知識が求められる.残念ながらこれらを十分に修得せず,治療が行われていることも日常臨床では見られる.
日本口腔インプラント学会では,5年前より専門医制度の確立を目指し,専門医取得のための条件として認定の研修施設,大学系と臨床系の施設で5年間の研修を必須とし,知識,技術の向上を図っている.また,専門医取得後も日進月歩する口腔インプラント治療や関連する治療について,本学会教育委員会が中心となり学会の掲げた「安全・安心の口腔インプラント治療」を目指すべく専門医臨床技術向上講習会を開催している.
本学会の使命は,国民に口腔インプラント治療を通じて幸福を提供するため,学会会員,また広く歯科医師への指導,教育,情報提供を行い,国民への適切かつ信頼できる安全・安心の口腔インプラント治療を行うよう手助けをすることである.その一環として本学会の教育委員会では,歯科医師が口腔インプラント治療を行う場合の1つの基本的な指標を明らかとする目的から,本書『口腔インプラント治療指針』を上梓した.ここに掲げたのは,本学会が今日一般的となっていると認めた方法・技術であるが,それ以外の方法を否定するものではないことはご理解いただきたい.また,日々新しいエビデンスや臨床成績,基礎研究結果が明らかとなり,新材料が開発されてくると,本書の内容を変更しなければならなくなることをご理解いただきたい.本書は教育委員会のメンバーで分担しまとめたものであるが,医療安全の項は伊東隆利常務理事に担当いただいた.
最後に,本書が学会会員の皆様に頻用していただけることを切に希望致します.
平成24年6月10日
公益社団法人 日本口腔インプラント学会
教育委員会
委員長 渡邉文彦
副委員長 松浦正朗
委員 春日井昇平
矢島安朝
江藤隆徳
加藤仁夫
永原國央
松下恭之
廣瀬由紀人
前田芳信
廣安一彦
公益社団法人 日本口腔インプラント学会
理事長 細川隆司
本学会は日本歯科医学会の専門分科会の中で口腔インプラントに関する研究を推進し臨床技術の向上に寄与する最大規模の学会として活動し発展してきました.本学会の医学系学術団体としての主要な事業としては,学術大会の開催,学術雑誌(英文誌・和文誌)の編集・発行,そして会員の専門性認定制度の運用に加えて,本書のような治療指針(診療ガイドライン)の作成があげられます.
いわゆる診療ガイドラインには,コンセンサスベースで作成されるものと,エビデンスベースで作成されるものがあります.本書は,前者,すなわちコンセンサスベースで作成された診療ガイドラインとして12年前の2012(平成24)年に初版が発行されて以来,ほぼ4年ごとに改訂され,内容が刷新されてきました.コンセンサスベースのガイドライン作成においては,各項目の執筆者の記載内容に関して専門家のグループ(エキスパートパネル)により議論が行われ,修正が加えられ,日常診療でのベストプラクティスは何か?というところに主眼を置いてつくられています.当然ながら,当学会としては,エビデンスベースのガイドラインの重要性も十分認識しており,現在タスクフォースによって作成が進められているところですが,口腔インプラント治療のすべてをエビデンスベースのガイドラインでカバーすることは現実的でないことに加え,コンセンサスベースのガイドラインの有用性も認識し,今回も口腔インプラント治療指針の改訂を行うことと致しました.
本書は,前述のようにコンセンサスベースで作られたガイドラインであり,専門家の多数意見が必ずしもエビデンスと一致していない可能性は否定できません.しかし,今回の改訂においては,現時点におけるエビデンスを可能な限り収集,分析し,できるだけエビデンスに基づいた指針,記載内容となるよう,慎重な編集作業が進められました.
今回の改訂にあたって,困難な仕事を的確に進めて頂いた教育・研修担当理事の澤瀬 隆先生,教育・研修委員会の先生方,そして学術担当常務理事の近藤尚知先生に心から御礼申し上げます.
本書が,臨床医にとって日常臨床の道しるべとなり,患者様の口腔機能回復,QoLの維持・向上と国民の健康寿命の延伸にいくらかでも寄与できれば望外の喜びとするところです.
令和6年4月
『口腔インプラント治療指針2024』編集の序
口腔インプラント治療は,欠損補綴の一手法として広く認知され,患者満足度の高さから,多くの歯科医師が日々の診療に取り入れています.公益社団法人日本口腔インプラント学会では,安全・安心な口腔インプラント治療実践の拠り所として,2012年に『口腔インプラント治療指針』を発刊し,4年ごとにその改訂を行ってまいりました.そして本年2024年に4巻目となる『口腔インプラント治療指針 2024』を発刊いたします.
2023年,我が国は全都道府県で人口減少フェーズに入り,高齢化率が29%を超え,介護,医療費とさまざまな社会問題が取り沙汰されています.インプラント治療を希望する患者の急速な高齢化も報告され,今後の高齢者のメインテナンスは大きな課題となっています.また一方で,近年のデジタルデンティストリーの大きな波は,診断から上部構造製作までを通してインプラント治療に大きな影響を与え,インプラント治療はもはやデジタル抜きには語れないといっても過言ではありません.
本改訂では,2020年版で刷新された,診察・検査・診断から,治療方法,メインテナンスに至るまでの,インプラント治療の実情を鑑みた一貫した構成に準じ,さらに重複箇所の整理とともに,情報のアップデートを行いました.特に高齢者に多く合併する基礎疾患の理解に関しては,最新の知見を収載することに努め,また口腔インプラント治療へのデジタル技術の応用に関しては,別立ての章として内容の充実を図りました.
本治療指針が,会員の皆様の日々のインプラント治療の道しるべとなることを心から願い改訂いたしましたが,同時に本学会専門医にとりましては,習得しておかなければいけない知識が網羅されています.折しも2021年歯科専門医機構が認定する専門医のみが広告可能とするとの告示を受け,本学会も長年の悲願であった広告可能な専門医への気運が高まっています.本書がステークホルダーである国民に信頼されるインプラント歯科専門医にとっても拠り所となれば幸いです.
本書の執筆に快く協力いただいた先生方,時宜を得たコラムをご寄稿頂いた医療・社会保険委員会の先生方,そして10回を超える編集会議,委員会で,きめの細かい校正を繰り返して頂いた教育・研修委員会委員各位のご尽力と熱意には,心から感謝の意を表します.
令和6年4月
公益社団法人 日本口腔インプラント学会
教育・研修委員会
委員長 澤瀬 隆
『口腔インプラント治療指針2020』発刊にあたって
公益社団法人 日本口腔インプラント学会
理事長 宮ア 隆
現在,インプラントを利用した歯科治療はわが国のみならず世界中で普及し,人類の健康に貢献しています.
日本口腔インプラント学会は,わが国における口腔インプラント治療に対して責任を有する学会として,口腔インプラント学に関わる研究の推進,学術講演会の開催,学会誌ならびに書籍等の出版,口腔インプラント治療に係る専門職の認定制度ほかの事業を行ってきました.
本学会は川添堯彬理事長時代の2011年10月に公益社団法人格を取得しましたが,当時すでに医療安全に配慮して国民に安心な医療を提供するための治療指針の作成作業に取り掛かかっていました.その作業途中の同年12月に国民生活センターから「歯科インプラント治療に係る問題-身体的トラブルを中心に-」が報道発表されました.そして,消費者(国民)が歯科医師及び歯科医療機関において一定水準以上の治療を受けられるよう,歯科インプラント治療についての基準や治療のプロセス全体を網羅するようなガイドラインの作成を関係学会に対して働きかけるように,日本歯科医師会,歯科関連学会,行政に要望がなされました.
これに応えるべく,川添執行部では教育委員会の渡邉文彦委員長を中心に作業を急ぎ,2012年に『口腔インプラント治療指針』を発刊しました.そして学会員全員に配布するとともに,学会ホームページで公開して広く歯科医療関係者が利用できるようにしました.
その後,渡邉文彦理事長時代には,医療・社会保険委員会の塩田 真委員長のもとで2015年に医療安全に焦点を当てた『口腔インプラント治療とリスクマネジメント』を刊行しました.さらに教育・研修委員会の矢島安朝委員長のもとで『口腔インプラント治療指針』の改訂作業を行い,2016年に『口腔インプラント治療指針2016』を発刊しました.
この指針を活用して,学会が一丸となって医療安全と安心な医療の提供に努めてまいりましたが,残念なことに,2019年3月には,再度国民生活センターから「あなたの歯科インプラントは大丈夫ですか-なくならない歯科インプラントにかかわる相談-」が報道発表されました.その中ではインプラント治療の有効性も評価されていますが,治療指針に沿っていない治療が行われていることから,治療指針のさらなる周知が要望されました.今回の要望先は,日本歯科医師会,日本歯科医学会,日本歯科医学会連合,日本歯科専門医機構,日本口腔インプラント学会,および日本顎顔面インプラント学会でした.本学会はこれらを代表して,「日本口腔インプラント学会では「治療指針」「リスクマネジメント」等を整備し,学術大会,講演会,研修会,セミナー等のあらゆる機会を通じて会員への医療モラルの周知を徹底し,さらに非会員に対してもホームページでの公開により学習可能な体制を一層充実させる」と回答いたしました.
このような状況下で,今回の改訂作業は『口腔インプラント治療とリスクマネジメント』の内容を『口腔インプラント治療指針』に一本化して,現在の口腔インプラント治療の標準的な目安として再編成し,会員ならびに歯科関係者が一層利用しやすい内容の治療指針をめざしました.
近藤尚知委員長以下の教育・研修委員会の先生方,ならびに西郷慶悦委員長以下の医療・社会保険委員会の先生方には両書の内容のすり合わせに多大なご尽力をいただきました.編集作業に携わった多くの先生方,学会事務局,そして医歯薬出版編集部に深甚なる感謝の意を表します.
本書が学会員ならびに歯科医療関係者に広く活用されて国民の健康に貢献できることを願ってやみません.
令和2年6月10日
『口腔インプラント治療指針2020』編集の序
口腔インプラント治療は,現在の欠損補綴に必要不可欠な治療法となり,多く歯科医師が日々の診療に取り入れています.医療の発展が日進月歩であることはもとより,インプラント治療も,歯科医師の技術向上と新規材料の導入によって,大きく進歩してきました.日本口腔インプラント学会では,安全に口腔インプラント治療を行うためには治療指針が必要であることを再認識し,2012年に『口腔インプラント治療指針』を発刊し,4年ごとにその改訂を行ってきました.そして,2015年には『口腔インプラント治療とリスクマネジメント』を発刊し,国民に対して安全・安心なインプラント治療を提供できるよう,努めて参りました.
今回の『口腔インプラント治療指針』と『口腔インプラント治療とリスクマネジメント』の改訂においては,教育・研修委員会と医療・社会保険委員会で合同作業部会を編成し,この2冊の重複部分を統合して合冊にし,歯科医師にとってより使いやすい治療指針とすることを検討しました.加えて,超高齢社会における歯科治療,そして歯科治療へのITの導入等,現代歯科医療のニーズに合わせた内容の充実を図りました.
本改訂では,構成を目次から見直し,診察・検査・診断から,治療方法,メインテナンスに至るまで,現在のインプラント治療の実情を鑑みて,多くの項を書き直しました.「診察・検査と診断」の章においては,研究推進委員会の協力も得て,全身状態から局所へと項目を整理し,機能系の検査方法についても紹介しています.また,新しい治療法が開発されるたびに,未承認・適応外といった制限が出てくることから,現在の倫理規定等と照らし合わせて,その注意事項を書き加えています.さらには,用語集,実習書との整合性も確認して,できる限り用語の統一も図り,会員にとっての良書となることを目標に改訂を進めました.
改訂期間中に,新型コロナウイルスの感染拡大による緊急事態宣言が発せられ,すべての委員会が延期,対面会議自粛という,想像もしなかった非常事態となりました.そのような状況下,本改訂作業部会は編集会議をオンライン・ミーティングの形態に移行して,編集作業を継続してきました.そして,委員の任期内に『口腔インプラント治療指針2020』を発刊できたことは感慨深いものとなりました.これもひとえに,両委員会の先生方による,言葉では言い尽くせない熱意と尽力のおかげであったことと,心より感謝の意を表します.
令和2年6月10日
公益社団法人 日本口腔インプラント学会
教育・研修委員会
委員長 近藤尚知
医療・社会保険委員会
委員長 西郷慶悦
『口腔インプラント治療指針2016』発刊にあたって
公益社団法人 日本口腔インプラント学会
理事長 渡邉文彦
口腔を健康に保つことは全身の健康維持に重要である.口腔インプラント治療は歯を失った際に質の高い口腔機能を回復する有力な手段となる.しかし一方で,インプラント体埋入などの外科治療や骨・軟組織のマネジメントなどを伴うことから,全身状態の把握と適切な診断および治療技術が必須となる.また埋入されたインプラント体の支台に上部構造を装着し,機能的,審美的な回復を図り,さらに長期間これを維持するためのメインテナンスに対する包括的治療技術が求められる.インプラント治療後の経過が10年,20年,さらにそれ以上長期になると,インプラント自体に問題がなくても,患者さんの全身状態が損なわれることもあり,要介護状態になるなど口腔ケアの問題も生じる.このように口腔インプラント治療は,通常の歯科治療以上に全身状態の評価が重要であり,そのための生体解剖,材料,免疫,組織,病理などの基礎知識,さらに口腔外科,補綴,歯周,放射線,麻酔等のさまざまな歯科臨床の知識や治療技術が求められる.
厚生労働省は平成17(2005)年6月に今後の医療安全対策についての報告書をまとめ,平成19年には医療安全を確保するための措置等を示している.これを踏まえ,日本口腔インプラント学会は平成24年に『口腔インプラント治療指針』を発刊,口腔インプラント学会会員全員へ配布するとともに,会員以外のインプラント治療に携わる医療従事者,また患者さんや国民の方々に必要な知識を提供するため,学会のホームページに同じ内容を掲載し,現在までに多くのアクセスがある.
初版発行から4年が経過し,この間新しい情報や研究論文,エックス線画像による診断を元にインプラント埋入手術を行うなど,新しい技術が導入されてきた.そのため矢島安朝教育・研修委員長,松浦正朗作業部会長のもとで改訂,編集作業を行い,この度2016年版を上梓することとなった.委員会の方々,執筆に携わった方々に,厚く御礼を申し上げる.
治療指針は英語ではガイドラインと訳されるが,我々の意図するところは臨床の現場で実際に活用できる治療に対しての指針である.日常の臨床現場ではさまざまな患者さんの状況が予測される.規則のようにがんじがらめに縛るものであっては有効に活用できず,またガイドライン自体が独り歩きすることにもなりかねない.このような点を重視し,臨床の現場で使え,患者さんや国民の方々にも理解され,受け入れられる治療指針を目指した.
口腔インプラント治療を行う医療従事者の方々には,是非,手元において日常のインプラント治療に役立てて頂き,国民の皆様には口腔インプラントはどのような治療法であるかを理解するためにも本学会の市民向けホームページの掲載内容と合わせて閲覧して頂きたい.
平成28年3月25日
『口腔インプラント治療指針2016』編集の序
『口腔インプラント治療指針2012』は平成24年6月10日に刊行され,以来,その名のとおり公益社団法人日本口腔インプラント学会の治療指針として専門医ケースプレゼンテーション試験,および専門医,指導医試験の規範として用いられてきた.しかし,その後の口腔インプラント学の臨床研究や関連する基礎研究の進展は著しく,さらにはCT機器やCAD/CAM技術の普及により,インプラント治療は大きく変貌している.そのため,『口腔インプラント治療指針』もその内容の一部が現状と合わない部分が出現し,さらには新たに取り入れなければならない項目も現れ,今期の日本口腔インプラント学会教育・研修委員会では最初の委員会において『口腔インプラント治療指針』の改訂が提案され,『口腔インプラント治療指針2016』の刊行に至った.
今回の改訂では画像診断についてはより広く記述し,解剖の項目を追加し,さらに付録として追記した.全身の診察における全身疾患では糖尿病や高血圧など診断基準が一部変更となり,その内容が更新された.BRONJについては概念の変更が提案されているが,まだ日本におけるポジションペーパーが更新されていないので,概念の変更を記述するに留めた.またインプラント補綴法の項についても項目を増やし,内容を詳細にし,重複した記述は統一した.結果として本改訂により本書は約100頁となり,第1版の約70頁からその内容は大きく増大した.
今回の改訂は現教育・研修委員会作業部会の委員が分担し,さらに作業部会では分担できない項目に関してはご専門の先生方にお願いしました.また改訂作業部会開催の折には渡邉文彦本学会理事長,および矢島安朝教育・研修委員会委員長には毎回参加していただき,多くのアドバイスを得ました.一方,第1版で執筆を担当していただいた先生には無断で修正を加えさせていただいた部分もあります.改訂作業は委員会の2年間の任期中に完了するという制限があったためご容赦いただきたいと思います.
今回の改訂により『口腔インプラント治療指針2012』の不足した部分を補い,古くなった内容を更新し,現状の治療指針としてさらに適正な書としたつもりではありますが,会員の皆様には御一読の上,よろしくご高評を賜りたいと思っております.会員の皆様には本書をお手元に置き,日常のインプラント臨床に役立てていただければ幸いです.
現在の口腔インプラント学の進歩は急速であり,また数年後には本書もその時の現状に合わなくなる部分も発生するものと思われます.教育・研修委員会での審議では4年後には再度,本書の改訂が必要となると考えております.
本書の改訂作業,および新たに追加された項目を担当していただいた先生方に深甚なる感謝の意を表します.
平成28年3月25日
公益社団法人 日本口腔インプラント学会
教育・研修委員会
委員長 矢島安朝
改訂作業部会
部会長 松浦正朗
副部会長 松下恭之
小倉 晋
金田 隆
城戸寛史
文責:松浦正朗
『口腔インプラント治療指針』発刊にあたって
公益社団法人 日本口腔インプラント学会
理事長 川添堯彬
平成16(2004)年に内閣府から出された,“日本21世紀ビジョン”において,国民生活の最大の願いとして,「安全・安心」が取り上げられた.これは国民生活全般を視野に入れた運動であり,食品の安全,水の安全,大気の安全,交通の安全,医療の安全を網羅するものであった.なかでも「医療の安全」は,厚生労働省が国民に対して良質の医療を提供する体制を確保する必要から,厚生労働大臣の緊急のアピールとなった.そして平成17年6月に「報告書:今後の医療安全対策について」がまとめられた.その後,平成18年6月に医療法等の一部改正が行われ,翌年平成19年4月に改正医療法が施行されて,以下の体制等の政策が進展することになった.1〕医療の安全を確保するための措置,2〕院内感染防止について,3〕医薬品の安全管理体制,4〕医療機器の保守点検,安全使用に関する体制の4つである.
医療におけるこれらの動きは,一般医科領域において高度先進医療技術の臨床導入・普及に伴い,あるいはインフォームド・コンセントやPOSなど患者の人格を重視する治療方針の進展にも連動して急速に広がった.特に医療供給者に求められる“医療安全“と,患者側の立場を配慮しての治療に関連した“安心感の提供”が医療供給者や従事者に対して厳しく求められるようになってきた.歯科治療においても,特に“口腔インプラント治療”は,外科的侵襲を伴う手術のリスクや咬合問題での永続性が求められる上でのリスク,また治療費が高額に及ぶ場合など,安全や安心を損なう場合が多くなる.その上医療倫理の問題が絡む場合も少なくない.平成19年には日本歯科医師会は「歯科診療所における医療安全を確保するために」の冊子を作成し,配布した.また,厚生労働省においては日本歯科医学会や日本歯科医師会を通じて,関連学会・協会へ各専門領域の治療に関する「治療指針」や「ガイドライン(GL)」を作成することが要望されていた.
本学会は,すでに平成19年から医療安全重視の立場から「倫理規程」,「倫理審査・懲戒規則」を始め種々の規程・法規整備や,専門医および関連資格制度確立,「口腔インプラント教育基準」作成,口腔インプラント治療に関する教育講座,臨床技術向上講習会,BLS講習会などの制度・活動を,学会年度事業計画に加え実現・実施してきた.さらに口腔インプラント治療の医療安全・安心,専門医と信頼性,ガイドライン(GL)をキーワードとするメインテーマを,平成19年(第37回)の学術大会から平成24年(第42回)まで連続6カ年間取り上げて学会内外にアピールしてきた.
このような経緯の中で,平成23年10月に公益社団法人化の認可が下りた時に厚生労働省においては,引き続き口腔インプラントに関する治療指針またはガイドラインの完成を要望していることを知ったので,早速,本学会の教育委員会(渡邉文彦委員長)で進めてもらっていた作成作業を可及的に平成24年6月の任期中に完成させるようお願いした.渡邉文彦委員長以下執筆者全員の精力的かつ献身的なご努力とご苦労に深甚なる感謝の意を捧げます.
この『口腔インプラント治療指針』は,口腔インプラント治療を行う歯科医師を始めとするすべての歯科医療従事者に理解していただき,患者さんへの診察,検査,評価,診断,治療計画,説明やインフォームド・コンセントなどに活用していただけるもの,そして医療安全と患者さん目線での安心感の提供に役立つものと確信します.
平成24年6月10日
編集の序
口腔インプラント治療は,固定性補綴の実現,残存歯への少ない侵襲,また質の高い審美的・機能的回復が可能なことから,欠損修復の有力な治療法として日常臨床で多くの歯科医師に用いられている.しかし,長期間の良好な予後が報告される一方で,治療の失敗や医療トラブルがマスコミでも報じられている.先般,国民生活センターから日本歯科医学会,日本口腔インプラント学会,日本補綴歯科学会,日本口腔外科学会,日本歯周病学会へ口腔インプラント治療に関する要望書が出され,またNHKでも大きく口腔インプラント治療が取り上げられた.国民も,またマスコミも口腔インプラント治療が素晴らしい治療であることは認識しているものの,医療従事者側の治療技術や知識の不足,医療モラルの不足,患者へのインフォームドコンセントの不足が指摘され,その対応と改善が求められている.
過去10年を振り返ると,治療技術の確立と患者のニーズの高まりから,口腔インプラント治療に取り組む歯科医師が急増してきた.現在,公益社団法人日本口腔インプラント学会の会員数も12,500人となっている.口腔インプラント治療は述べるまでもなく,歯科医師であれば誰もが行うことができる治療であるが,全身的な診断能力や口腔外科治療に関する知識や技術,補綴,歯周,歯科放射線の知識や治療技術はもちろんのこと,解剖,生体材料,組織,病理に関しての広範囲の知識が求められる.残念ながらこれらを十分に修得せず,治療が行われていることも日常臨床では見られる.
日本口腔インプラント学会では,5年前より専門医制度の確立を目指し,専門医取得のための条件として認定の研修施設,大学系と臨床系の施設で5年間の研修を必須とし,知識,技術の向上を図っている.また,専門医取得後も日進月歩する口腔インプラント治療や関連する治療について,本学会教育委員会が中心となり学会の掲げた「安全・安心の口腔インプラント治療」を目指すべく専門医臨床技術向上講習会を開催している.
本学会の使命は,国民に口腔インプラント治療を通じて幸福を提供するため,学会会員,また広く歯科医師への指導,教育,情報提供を行い,国民への適切かつ信頼できる安全・安心の口腔インプラント治療を行うよう手助けをすることである.その一環として本学会の教育委員会では,歯科医師が口腔インプラント治療を行う場合の1つの基本的な指標を明らかとする目的から,本書『口腔インプラント治療指針』を上梓した.ここに掲げたのは,本学会が今日一般的となっていると認めた方法・技術であるが,それ以外の方法を否定するものではないことはご理解いただきたい.また,日々新しいエビデンスや臨床成績,基礎研究結果が明らかとなり,新材料が開発されてくると,本書の内容を変更しなければならなくなることをご理解いただきたい.本書は教育委員会のメンバーで分担しまとめたものであるが,医療安全の項は伊東隆利常務理事に担当いただいた.
最後に,本書が学会会員の皆様に頻用していただけることを切に希望致します.
平成24年6月10日
公益社団法人 日本口腔インプラント学会
教育委員会
委員長 渡邉文彦
副委員長 松浦正朗
委員 春日井昇平
矢島安朝
江藤隆徳
加藤仁夫
永原國央
松下恭之
廣瀬由紀人
前田芳信
廣安一彦
1章 口腔インプラント治療とは
1.インプラント治療に関連する分野
2章 口腔インプラント治療にかかわる基礎歯科医学
1.インプラントに用いられる生体材料
2.インプラント治療における解剖学的リスク
3章 倫理規範
1.医療倫理
2.研究倫理
4章 医療安全
1.医療安全の必要性と対応
2.医療安全体制の作り方
3.インプラント治療における安全・安心のための遵守事項
5章 口腔インプラントの治療手順
1.インプラント治療が通常の歯科治療と異なる点
2.チームアプローチ
6章 診察・検査と診断
1.医療面接
2.インプラント治療の診察・検査と診断
3.インプラント治療に対する総合診断
7章 口腔インプラントの画像診断
1.インプラント治療に必要なエックス線検査の種類と特徴
2.インプラント治療に必要なCTの特徴
3.インプラント治療における画像診断の注意点
8章 治療計画
1.プロブレムリスト
2.治療計画において考慮すべき点
3.補綴主導型インプラント治療(restorative oriented implant treatment)の治療計画
4.インプラント体の選択
5.インプラント治療開始前の歯科治療
9章 インフォームド・コンセント
10章 麻酔と全身管理
1.麻酔法の種類と適応
2.麻酔上のリスクの評価
11章 インプラント体埋入手術と周術期管理
1.術前準備
2.麻酔
3.インプラント体埋入手術
4.二次手術
5.インプラント体埋入手術,二次手術に対する術後疼痛管理
12章 インプラント体の埋入時期・荷重時期
1.埋入時期
2.荷重時期
3.免荷期間を短縮する荷重プロトコールの選択
13章 骨組織,軟組織のマネジメント
1.骨組織のマネジメント
2.軟組織のマネジメント
14章 インプラント補綴法
1.印象採得法・咬合採得法
2.暫間上部構造
3.アバットメントの選択
4.最終上部構造(固定性)
5.上部構造の材質
6.インプラントオーバーデンチャー
7.インプラントリムーバブルパーシャルデンチャー(implant removable partial denture:IRPD)
15章 口腔インプラント治療におけるデジタル技術の応用
1.デジタル技術を応用したインプラント治療のワークフロー
2.3D画像による治療計画の立案
3.サージカルガイドプレートを用いた埋入手術およびコンピュータ支援によるナビゲーション手術
4.光学印象を用いた上部構造製作のための印象採得
5.CAD/CAMを用いた上部構造の製作
16章 広範囲顎骨支持型装置と広範囲顎骨支持型補綴
1.広範囲顎骨支持型装置と広範囲顎骨支持型補綴の定義
2.適用条件
3.骨移植,再建術式
4.広範囲顎骨支持型補綴
17章 インプラントのメインテナンス
1.インプラント周囲組織のメインテナンス
2.インプラント上部構造のメインテナンス
18章 口腔インプラント治療に関連して発生する事象と対応
1.インプラント治療の成功の基準
2.インプラント手術に関連して発生する事象と対応
3.インプラント補綴に関連して発生する事象と対応
4.治療後に発生する事象と対応
19章 口腔インプラント治療と医療問題
1.医事紛争発生時の対応
2.医療広告
20章 感染対策
1.院内感染対策
2.新型コロナウイルス感染予防対策
3.器具の消毒,滅菌
4.術野の消毒,術中の清潔操作,清潔域の管理
5.予防抗菌薬投与
21章 参考文献
付1 口腔インプラント治療に影響を有する主要な全身疾患に対する基礎知識
1.心不全
2.感染性心内膜炎の予防
3.脳血管障害
4.抗血栓療法
5.ステロイド治療
6.骨粗鬆症治療薬
7.薬剤関連顎骨壊死(薬剤関連顎骨壊死の病態と管理:顎骨壊死検討委員会ポジションペーパー2023)
8.うつ病・抑うつ状態
付2 口腔インプラント治療に必要な画像診断の基礎知識
1.インプラントの画像診断に用いる口内法の種類
2.パノラマエックス線検査の利点と欠点
3.CTの歴史と原理
4.コンピュータ・シミュレーション(コンピュータ支援ナビゲーション)の基礎と臨床応用
付3 口腔インプラント治療とMRI検査
1.MRI(magnetic resonance imaging)検査の原理と適応
2.インプラントに関するMRI検査時の注意事項
付4 技工物のトレーサビリティと国外委託の留意点
1.使用材料などについて
2.製作過程の透明化について
3.患者への情報提供と同意の取得について
付5 医療安全のための情報収集
1.医療機器(インプラント体,アバットメント,アバットメントスクリューなども含む)と医薬品に関する安全性情報
2.インプラント治療の安全性を担保するためのガイドラインなどの情報
3.歯科医療全般に関係する安全性に係るマニュアルおよび指針
4.インプラント受診者からの相談情報
5.インプラント治療に係る不具合の報告
付6 文例集
1.インプラントカード
2.チェックリスト
索引
コラム
医療現場におけるリスクマネジメント(リスク管理)
たばこの被害
補綴物は正確には補綴装置です
オーラルフレイル
1.インプラント治療に関連する分野
2章 口腔インプラント治療にかかわる基礎歯科医学
1.インプラントに用いられる生体材料
2.インプラント治療における解剖学的リスク
3章 倫理規範
1.医療倫理
2.研究倫理
4章 医療安全
1.医療安全の必要性と対応
2.医療安全体制の作り方
3.インプラント治療における安全・安心のための遵守事項
5章 口腔インプラントの治療手順
1.インプラント治療が通常の歯科治療と異なる点
2.チームアプローチ
6章 診察・検査と診断
1.医療面接
2.インプラント治療の診察・検査と診断
3.インプラント治療に対する総合診断
7章 口腔インプラントの画像診断
1.インプラント治療に必要なエックス線検査の種類と特徴
2.インプラント治療に必要なCTの特徴
3.インプラント治療における画像診断の注意点
8章 治療計画
1.プロブレムリスト
2.治療計画において考慮すべき点
3.補綴主導型インプラント治療(restorative oriented implant treatment)の治療計画
4.インプラント体の選択
5.インプラント治療開始前の歯科治療
9章 インフォームド・コンセント
10章 麻酔と全身管理
1.麻酔法の種類と適応
2.麻酔上のリスクの評価
11章 インプラント体埋入手術と周術期管理
1.術前準備
2.麻酔
3.インプラント体埋入手術
4.二次手術
5.インプラント体埋入手術,二次手術に対する術後疼痛管理
12章 インプラント体の埋入時期・荷重時期
1.埋入時期
2.荷重時期
3.免荷期間を短縮する荷重プロトコールの選択
13章 骨組織,軟組織のマネジメント
1.骨組織のマネジメント
2.軟組織のマネジメント
14章 インプラント補綴法
1.印象採得法・咬合採得法
2.暫間上部構造
3.アバットメントの選択
4.最終上部構造(固定性)
5.上部構造の材質
6.インプラントオーバーデンチャー
7.インプラントリムーバブルパーシャルデンチャー(implant removable partial denture:IRPD)
15章 口腔インプラント治療におけるデジタル技術の応用
1.デジタル技術を応用したインプラント治療のワークフロー
2.3D画像による治療計画の立案
3.サージカルガイドプレートを用いた埋入手術およびコンピュータ支援によるナビゲーション手術
4.光学印象を用いた上部構造製作のための印象採得
5.CAD/CAMを用いた上部構造の製作
16章 広範囲顎骨支持型装置と広範囲顎骨支持型補綴
1.広範囲顎骨支持型装置と広範囲顎骨支持型補綴の定義
2.適用条件
3.骨移植,再建術式
4.広範囲顎骨支持型補綴
17章 インプラントのメインテナンス
1.インプラント周囲組織のメインテナンス
2.インプラント上部構造のメインテナンス
18章 口腔インプラント治療に関連して発生する事象と対応
1.インプラント治療の成功の基準
2.インプラント手術に関連して発生する事象と対応
3.インプラント補綴に関連して発生する事象と対応
4.治療後に発生する事象と対応
19章 口腔インプラント治療と医療問題
1.医事紛争発生時の対応
2.医療広告
20章 感染対策
1.院内感染対策
2.新型コロナウイルス感染予防対策
3.器具の消毒,滅菌
4.術野の消毒,術中の清潔操作,清潔域の管理
5.予防抗菌薬投与
21章 参考文献
付1 口腔インプラント治療に影響を有する主要な全身疾患に対する基礎知識
1.心不全
2.感染性心内膜炎の予防
3.脳血管障害
4.抗血栓療法
5.ステロイド治療
6.骨粗鬆症治療薬
7.薬剤関連顎骨壊死(薬剤関連顎骨壊死の病態と管理:顎骨壊死検討委員会ポジションペーパー2023)
8.うつ病・抑うつ状態
付2 口腔インプラント治療に必要な画像診断の基礎知識
1.インプラントの画像診断に用いる口内法の種類
2.パノラマエックス線検査の利点と欠点
3.CTの歴史と原理
4.コンピュータ・シミュレーション(コンピュータ支援ナビゲーション)の基礎と臨床応用
付3 口腔インプラント治療とMRI検査
1.MRI(magnetic resonance imaging)検査の原理と適応
2.インプラントに関するMRI検査時の注意事項
付4 技工物のトレーサビリティと国外委託の留意点
1.使用材料などについて
2.製作過程の透明化について
3.患者への情報提供と同意の取得について
付5 医療安全のための情報収集
1.医療機器(インプラント体,アバットメント,アバットメントスクリューなども含む)と医薬品に関する安全性情報
2.インプラント治療の安全性を担保するためのガイドラインなどの情報
3.歯科医療全般に関係する安全性に係るマニュアルおよび指針
4.インプラント受診者からの相談情報
5.インプラント治療に係る不具合の報告
付6 文例集
1.インプラントカード
2.チェックリスト
索引
コラム
医療現場におけるリスクマネジメント(リスク管理)
たばこの被害
補綴物は正確には補綴装置です
オーラルフレイル