やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

発刊に寄せて
 日本歯周病学会は1957年に設立され,現在,日本歯科医学会の所属学会46学会の中で2番目に多い会員総数12,500名を擁する専門分科会です(2023年10月1日現在).本会は学術を基盤として歯周病から国民を守り,口腔・全身の健康支援を使命とする学術団体としての役割を担い続けています.
 そしてこれまで,教育・啓発活動,歯周治療の充実,発展のために,さまざまな指針・ガイドラインを発刊し,全会員へ配布するとともに,一般の方々に対しても,本学会のホームページからのオープンアクセスを可能としています.
 本書の前版となる『歯周病患者における再生治療のガイドライン2012』は,当時の吉江弘正理事長のもと,和泉雄一ワーキング委員長,中川種昭副委員長ほか10名のワーキングメンバー,2名の協力者,2名の外部評価者により,2013年12月に上梓されました.そして約10年の時を経て,今回,五味一博ワーキング委員長のもと,第2版の上梓に至りました.
 その間の歯周組織再生療法の大きな変化は,村上伸也先生率いる大阪大学歯学部のグループが中心となり,日本の歯科大学・歯学部や医療機関,さらに多くの日本歯周病学会のメンバーの協力の下,塩基性線維芽細胞増殖因子(FGF-2)を応用したmade in Japanの歯周組織再生剤,リグロス(R)が開発され,科研製薬株式会社により市場に導入され,保険診療での使用が可能になったことでしょう.今版のガイドラインでは全世界で蓄積されてきたいくつかの歯周組織再生療法に関する臨床データに加えて,本邦発のFGF-2の臨床データについても盛り込まれています.
 本ガイドラインが学会の会員の皆様はもとより,歯科学生,臨床研修歯科医,多くの歯科・医科の分野の先生方,さらには行政関係の方々にも役立つことを心より期待しています.
 結びに,ガイドラインとりまとめの重責を担って頂いた五味一博委員長,ご多忙中にもかかわらず玉稿を御執筆頂き,また度重なる校正や編集にご協力いただいたワーキンググループの先生方,外部評価の労を担って頂きました湯浅秀道先生,南郷里奈先生に対し,心より感謝申し上げます.さらに本書の刊行は,医歯薬出版株式会社の多大なご理解とご助力があってこそ実現できたもので,こうして版を重ねることができました.記して本学会理事長として感謝の意を表します.
 2023年11月
 特定非営利活動法人 日本歯周病学会 理事長
 沼部幸博


序論
 このたび,「歯周病患者における再生治療のガイドライン2012」(上梓は2013年)が発刊されて約10年を経て,「歯周病患者における再生療法のガイドライン2023」を刊行することになった.本書では,2016年に歯周組織再生剤であるFGF-2が臨床応用されるようになったことからその内容を新たに加え,より臨床に即したガイドラインとするための改訂を行った.本ガイドラインの目的は歯科医師ならびに医療従事者に対し「歯周組織再生療法に関する指標の提供」とそれによる「国民への安心・安全な医療の提供」を行うことである.
 「歯周病患者における再生療法のガイドライン2023」は,基本的に「歯周病患者における再生治療のガイドライン2012」を踏襲しているが,上述したようにFGF-2製剤が保険収載されて,すでに数年が経過しエビデンスが蓄積されてきたことからFGF-2に対する項目を追加した.また,使用する材料・薬剤は現時点において厚生労働省により認可され,一般的に臨床応用が可能なものに限定し,それ以外は除外した.GTR法では国内流通のない非吸収性膜については評価から除外している.本改訂にあたってはワーキンググループを立ち上げ,さらに外部評価委員を組織した.ガイドラインの作成にあたっては,「Minds診療ガイドライン2020」のGRADEアプローチに従ってスコープ作成と臨床質問(CQ)を設定し,システマティックレビュー形式でエビデンスの収集・総体評価を行った.十分なエビデンスが得られたCQでは可能な限りメタアナリシスを実施し,さらに患者の価値観や日本における歯科医療の実情などを踏まえて総合的に推奨を決めていった.
 CQ作成では臨床に応用しやすいよう,歯周組織再生療法の主な対象である骨縁下欠損と根分岐部病変に絞り,各治療法との比較,骨移植材の併用の有無,および喫煙の影響について評価した.改訂とはいえ,すべての内容について新たに検討,再評価が加えられ,エビデンスレベルの高い,まったく新しいガイドラインに仕上がっているものと考える.
 本ガイドラインは第1部「日本の歯周組織再生療法」,第2部「歯周組織再生療法の評価項目」,第3部「歯周病患者における再生療法のガイドライン」,および第4部「クリニカル・クエスチョン」の4部構成となっている.ガイドラインでは,とかくCQのみに目が向きがちであるが,歯周組織再生療法を行ううえで第1部および第2部の内容を十分に理解しておくことは重要であることから,是非,全体にお目通し頂ければと思う.本ガイドラインが我が国における歯周治療の向上に,そして日常臨床に少しでも貢献することを期待する.
 最後にガイドライン作成にあたりGRADEに関する基礎知識から応用についてまで的確な指導を頂いた内藤 徹先生,梅ア陽二朗先生,ならびにガイドライン作成までの進行,集計,取り纏めを頂いた沼部幸博先生,倉治竜太郎先生に感謝するとともに,お忙しい中,多大なご協力を賜りました委員の先生方に心より感謝申し上げたい.
 日本歯周病学会医療委員会
 委員長 五味一博
 発刊に寄せて
 執筆者一覧(ワーキンググループ委員)/利益相反に関して
 序論
第1部 日本の歯周組織再生療法
第2部 歯周組織再生療法の評価項目
第3部 歯周病患者における再生療法のガイドライン
 1 本ガイドラインの基本理念と作成方法
 2 GRADEアプローチを用いた本ガイドライン作成の流れ
 3 本ガイドラインの使い方
第4部 クリニカル・クエスチョン
 CQ 1 骨縁下欠損に対するGTR法は,フラップ手術よりも推奨されますか?
 CQ 2 骨縁下欠損に対するEMDを用いた歯周組織再生療法は,フラップ手術よりも推奨されますか?
 CQ 3 骨縁下欠損に対するFGF-2を用いた歯周組織再生療法は,フラップ手術よりも推奨されますか?
 CQ 4 根分岐部病変に対する歯周組織再生療法(GTR法,EMD,FGF-2)は,フラップ手術よりも推奨されますか?
 CQ 5 骨縁下欠損または根分岐部病変に対するEMDを用いた歯周組織再生療法は,GTR法よりも推奨されますか?
 CQ 6 骨縁下欠損または根分岐部病変に対するFGF-2を用いた歯周組織再生療法は,EMDを用いる場合よりも推奨されますか?
 CQ 7 骨縁下欠損または根分岐部病変に対して,GTR法に骨移植材を併用することは,併用しない場合よりも推奨されますか?
 CQ 8 骨縁下欠損または根分岐部病変に対して,EMDを用いた歯周組織再生療法に骨移植材を併用することは,併用しない場合よりも推奨されますか?
 CQ 9 骨縁下欠損または根分岐部病変に対する歯周組織再生療法は,非喫煙者と比べて喫煙者に推奨されますか?

 クリニカル・クエスチョン(CQ)と推奨文の一覧表